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没落予定の貴族だけど、暇だったから魔法を極めてみた 作者:三木なずな
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141.オート街灯

 王宮の食堂の中で、ブルーノは真剣な顔そのもので、テーブルの上に並べられた丼を物色していた。


 丼の中には、全てスープに入った麺。

 その麺の匂いや味を、ブルーノは真剣に品評している。


 それが一通り終わるのを待ってから、俺は声をかけた。


「どうだ?」

「そうですね、この中ですぐにでも商品化出来るのは6番と11番、それに35番ですね」

「三つか」

「他は似たり寄ったりで、一部は奇をてらい過ぎたりと、日常食としては疑問を感じずにはいられません」

「ふむふむ」

「これだけ用意して頂いて誠に申し訳ないのですが――」

「ああ、気にしないでくれ兄さん。これは取引だ、ダメなものはダメって言ってもらった方がありがたい」

「そうおっしゃって頂けると助かります」


 ブルーノはそう言って、深々と頭を下げた。


 国家としてまわりに承認されてからというもの、少しずつ各国の商人から売り込みがやってきた。

 教会も認めた「ちゃんとした国」、そこに商機があるとみた商人が一気になだれ込んできたのだ。


 そうなると、商品も入ってくる。

 そこはさすがめざとく、動きが素早い商人達。

 魔物達にあわせた商品を次々と持ってきた。


 それはいいんだけど、そうなると問題が一つ。

 このままだと輸入額だけが膨らんで、大幅な貿易赤字になってしまうということ。


 魔晶石は引き続き取引に使っているが、価値を維持するために、また手に取るのが王族や高位な貴族たちだけに、結局は大した収入にはならない。


 そうなるとこっちも輸出出来るものをふやさないと――ってなったときに思い出したのが、即席麺と白炭の事だ。


 この国――約束の地に関わる前から作ってたものだけど、ハミルトン家の5男という立場からおおっぴらに売り買いできなかった。


 だけど、今はまったく問題がない。

 俺が責任者なんだから。


 そこでまずはこの二つを盛大に生産して、ブルーノ経由で我が国の特産品にすることにした。


「いやしかし、お見それ致しました。お湯をいれるだけで食べられる、保存も利くというこの即席麺の話は聞いておりましたが、これほどの種類があったとは」

「仕組みは俺が作ったんだけど、このバリエーションはエルフ達が頑張ってるんだ」

「エルフが、ですか」

「ああ、彼女達は手先が器用で、その上料理とか結構好きみたいでね。即席麺を特産品にするって言ったら、エルフ総出で色々開発してるよ」

「なるほど、それは楽しみですな。この先ももっとラインナップが増えるとみてよろしいでしょうか」

「ああ、今日みたいに売り物になるかどうかのチェックをしてもらうけど、彼女達が乗りに乗ってやってるんだ、まだまだ出てくると思う」

「承知致しました。ではこちらも新商品が次々と出るという前提で売らせて頂きます」

「たのんだ」

「いえ。それよりもこちらから一つお頼みしたいことが」

「なんだ? 改まって」


 ブルーノがこんな風に「頼みごと」という前置きをして何かを言ってくるのは珍しいな。


「陛下からお預かりしたもう一つの品――白い炭の事ですが」

「あれがどうした?」

「商品名をつけさせて頂きたく。商品名をつけてブランド化した方がより価値が上がると思いますので」

「ああ、太陽炭みたいにか」

「さようでございます」


 ブルーノはもう一度、深々と頭を下げた。


「そういう事なら全然オーケーだ。どんなのがいい?」

「一つ、ご提案が」

「考えてきてたのか」


 ああ、と俺は納得した。

 これの名前か、ブルーノの頼みごとの本命は。


 ここまで改まってくるってことは、相当な(、、、)ものなのかな。


「竜石――と名付けさせて頂ければ」

「竜石って……竜の石ってこと?」

「はい」


 ブルーノはまっすぐ俺を見つめた。


「陛下のお国――リアム=ラードーン。このラードーンというのが神竜、あるいは魔竜のことであると、民達の間で広がりつつあります」

「ふむ」

「であれば、竜、という言葉を使った方がよいかと存じます」

「なるほどね……どう思う? ラードーン」


 竜という言葉を使うのならラードーンの意見も、と聞いてみたのだが。


『好きにしろ、我にはどうでもいいことだ』


 彼女は興味なさそうに適当な返事をした。

 まっ、そういうことなら。


「オッケーだ」

「ありがとうございます」


 深々とお礼を言うブルーノ。

 俺達はそのまま、商談を続けた。


 そうしているうちに日が暮れて、外がくらくなってきた――瞬間。


 闇に反発するかのように、外が明るくなった。


「これは……」

「どうした? ああ、それか」


 ブルーノが窓の外をみて驚いてるのをみて同じようにのぞき込むと、「街灯」がついているのが見えた。


 街中の至る所に点灯している街灯。

 それが街を明るく照らし出した。


「兄さんが前来た時は、まだ家の中の明かりしかなかったっけ」

「はい……これはどなたが?」

「誰でもない、自動でやってる」

「じ、自動?」

「ああ。夜になったら勝手に発動する魔法を作ってみた」

「し、しかし。魔法というのは術者と魔力がなければ発動しないはず……」

「魔力は魔晶石を使ってる」

「え?」


 さらに驚くブルーノ。


「この街のみんなが魔法を使ったあとの残滓、魔晶石。それを使って、夜になったら勝手に明るくする魔法を作った。どうせ魔晶石なんて、あんなにあっても売れないだろ?」

「……さ、さすがでございます」

「ん?」

「これほど高度な魔法もさることながら、魔晶石を惜しげもなくそのようにおつかいになるとは……やはり陛下は稀にみる賢王でございます」


 ブルーノはそういい、感服した様子で頭を下げた。


 そんなに必要ないから、余った分を活用しただけなのに。

 そんなに大それたことかな。

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