「虚偽の強姦」多発の真相…「女は嘘つき」はなぜ“定説”となったのか

女は生理のときに嘘をつく?
田中 ひかる プロフィール

「虚偽の強姦」多発の真相

1920年代になると、大正デモクラシーや猟奇犯罪の多発を背景に、犯罪学者たちが活躍するようになる。彼らはロンブローゾの主張を多用し、「女は嘘つき」説を繰り返し唱えた。なかでも特に"女は強姦されてもいないのに、されたと嘘をつく"ということを強調した。

探偵小説家として江戸川乱歩と並び称され、犯罪学者としても活躍した小酒井不木(ふぼく)は、著書『近代犯罪研究』(1925年)において、「ロンブローゾは月経中の女子は怒り易く又噓をつき易い事を認めた」として、「強姦されもしないに(ママ)強姦されたと訴えることは、よく新聞などに書かれる事実であるが、かような誣告(引用者注・事実をいつわって告げること)の目的は既に述べたように復讐のためである場合が多いが、誣告をなさしめる直接の動機は、月経中の変態心理であることが少なくない」と述べている。

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小酒井と同時代に活躍した高田義一郎も、「何事に限らず、女性は一般に平気で噓をつき得る性質があって、その噓の為に不合理な点が出来て、じきに辻褄の合わない結果を来すのも、そう深く意に介しない癖がある。而して此の癖が又、強姦々々と騒ぎ立てる時にも、矢張り出て来る様である」(『変態性慾と犯罪 犯罪と人生』)と述べている。

実際に、当時の新聞はたびたび「虚偽の強姦」事件について報道しているが、「強姦」被害に遭って訴え出ても、証拠(「処女膜の損傷」「精液の付着や性病への感染」「暴行の痕跡」など)がないために「強姦」とは認められず、「虚偽」として退けられることが多かったというのが真相である。

 

「女は嘘つき」説は、性別役割分業が徹底された近代国家形成期に、女性特有の生理現象である月経と関連づけて語られ、長い間、性犯罪を隠蔽するために都合よく使われてきた。

今も昔も、特に月経時に嘘をつきやすくなるという女性は、おそらくほとんど存在しないだろう。もちろん、月経と嘘に因果関係があるという科学的根拠も存在しない。それにもかかわらず、「女は嘘つき」説が飛び出す背景には、日本社会が抱えるさまざまな問題が隠れているといえよう。