月別アーカイブ / 2016年03月

九份の提灯は、二人を繋ぐ糸を赤く染め、僕らを再び出会わせた。

僕は、この運命すぎる再会に身体中の鳥肌を総動員させて骨の髄まで震わせたもんだが、
彼女はこのマンモス級の運命にも無自覚で、
「美味しいスイーツ、アルヨ」と僕の手を引いた。
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彼女が連れてきてくれたのは、賢崎路の急な階段の途中にあった『阿柑姨芋円(アカンイウエンテン)』という関西弁(アカン言うてんねん!)みたいな名前のお店。
地元では名の知れた甘味屋さんらしく、
彼女は、「九份に来たならば、ココに寄らないとクソよ。そんな奴は、くたばればイイヨ」と言った。

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▲【住所】NO.5,Shuqi Rd Ruifang Distorict,New Taipei City, 台湾224

この店の看板メニュー『芋圓(ユーユェン)』は、かき氷の上にタロイモの団子を載せたスイーツで、日本の『ぜんざい』のようなイメージ。

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一口食べてみると、なるほど彼女の言うとおり。
九份に来ておきながら、ココに寄らない奴はクソで、くたばった方がイイのである。

かき氷の上にドッサリと載った小粒の芋団子(マンゴーのように見える黄色いやつも、芋。たぶん、サツマイモ)はモッチモチでプルンプルン。
噛めば跳ね返ってくるこの弾力は、もはやエンターテイメント。
全体的に甘さは控えめで、小豆とイモ本来の自然な甘さが際立っている。
トッピングで練乳もつけられるが、練乳ナシでも十分甘い。
かき氷の上にのせる具(イモや豆など)は、「あたたか~い」と「つめた~い」のどちらかを選ぶことができる。個人的には「あたたか~い」の方が好き。
量が結構あるので、友達やカップルと行かれる際は二人で1個でも十分だと思う。

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店の奥には、九份の海側の景色を見下ろすことができる飲食スペースがある(昼間も見たかった!)。
中には、メニューを注文せず、ここからの景色を見るためだけに、この飲食スペースに来ていた人もいた。
トイレもあるので、九份で膀胱が破裂しそうになったら、ここに駆け込んでみるといいかも。

芋圓を食べながら、彼女が「ニシノは日本で何の仕事をシテル?」と訊いてきたので、
僕は「コメディアンだよ」と言った。
今、考えると、それがいけなかったのだ。
直後、彼女が言った言葉に耳を疑った。


「え~、コメディアンしてるの? 今度、フィアンセと日本に行った時に、ニシノのLIVE行きたいヨ」


――婚約していたんだ。


どうして気がつかなかったんだろう。

彼女の左手の薬指には婚約指輪が輝いていた。
正直に白状すると、
僕は「もしかしたら彼女は僕に好意を持っているのでは?」と思っていた。
全然、違うじゃないか。

彼女には婚約者がいて、
僕と彼女は、
「たまたま九份で再会した」
ただ、それだけの関係だった。

一人で舞い上がって何してんだよ。


まるでバカみたいじゃないか。


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彼女は九份の夜景を見下ろしながら、フィアンセとの未来を語っていた。
霧がかかり、提灯の赤色が滲みだして、九份は、また一段と幻想的な雰囲気に包まれていた。

まるで夢の中にいるようで、
夢だったらいいのに、と思った。

ただ、涙は出なかった。
僕の幸せは、彼女が幸せであることで、
彼女の幸せは、フィアンセと一緒にいることだ。
僕は「お幸せに」と言うと、彼女はニッコリと笑った。
これでいい。これでいいんだ。

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帰りも彼女と一緒だった。

台北行きのタクシーは長蛇の列で、バスの時間も読めない。
そんな時に、『相乗りワゴン』の客引きのオジサンが声をかけてきて、
彼女が「面白そうだし、乗っちゃおうヨ」と言ったのだ。
他の観光客との相乗り(7~8人)で、台北までは、日本円にして一人2000円ほどだったと思う。
日本人観光客もいて、90年代J-POPのイントロクイズ合戦で盛り上がった。
彼女が「ワカラナイヨー!」と叫ぶたびに、皆が笑った。
それが彼女との最後の思い出だ。



一人になった僕は夜市に行った。
地下鉄の「松山」という駅のすぐそばにあった饒河街(じょうががい)夜市。

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夜10時を過ぎていたが、大変な賑わい。
聞けば、深夜1時頃まで、この調子だという。

夜市は『臭豆腐』の匂いで充満していた。
名前に『臭』が入っているのはダテじゃない。とにかく臭いのだ。
しかし、この『臭豆腐』こそが台北夜市名物というじゃないか。

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喜劇王チャールズ・チャップリンがこんな言葉を残している。
「人生は、クローズアップで見ると悲劇、ロングショットで見ると喜劇」
つまり、その時、その瞬間ツライことも、後になって振り返った時に笑える、ということだ。
たしかに、旅はツライ経験の方が、笑える思い出として残る。
となると、「NO 臭豆腐、NO 夜市」である。
ここで引き下がるわけにはいかない。

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ニオイはさておき、味はイケた。
むしろ、食べれば食べるほどクセになってくる。
いや、これはウマイぞ。

『臭豆腐』に対する警戒心は、すっかり取れて、今日一日のことを思い返しながら、
コンビニで買った台湾ビールを口に流し込んだ次の瞬間、

涙がポロポロと溢れてきた。

泣きながら、臭豆腐を食べ続けた。
一人になって、分かった。


「お幸せに」なんて嘘っぱちだ。

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恥を隠すために、無理矢理作り出した感情だ。
僕は彼女のことが、こんなにも好きで、ずっと自分の隣にいて欲しいと思っていた。
フィアンセから奪いたい、とも思っていた。
でも、言えなかった。言えるわけがなかった。
フィアンセのことを語る彼女の横顔が、あまりにも綺麗だったから。

だけど、気持ちだけでも伝えるべきだった。
あの九份の甘味屋で、気持ちだけでも伝えていれば、
今、こうして涙することもなかっただろう。
夜市のド真ん中で泣きながら臭豆腐を食べるなんて、あまりにもみっともないじゃないか。

そう考えると、いてもたってもいられなくなって、
今さら、しかも、こんな場所から、
この声が彼女に届くはずもないのに、
それでも彼女に届くように、
僕は覚えたての中国語で、

「チン ゲイ ウォーファー ピャオ!(ずっと、あなたのことが好きでした!!)」

と涙声で叫んだ。


その言葉が、「領収証ください」という意味だと知ったのは二日後の話だ。








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台湾北部(台北とか、その辺)で電車やらバスを乗り回すなら、台北版PASMOの『EASY CARD』を買われることをオススメする。
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地下鉄も国鉄もバスも使えるし、地下鉄なんて2割引きときた。
多めにチャージしておいても問題ない。というのも、使いきらなければ残金は全額返金できちゃうのだ。

EASY CARDは駅の券売機で普通に売っているので、台北を堪能するのならば絶対に買った方がいい!
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さて、
本日の目的地『九份(キュウフン)』へと向かう。
九份へ行くには、台北駅から出ている電車に乗らねばならないので、一旦、台北駅へ。

西門駅から、台北駅までは歩いていける距離だったが、
せっかくEASY CARDを買ったし、乗りものに慣れておきたかったので、
地下鉄で向かうことにした。

地下鉄のホームで列車を待っていると、
「日本の方ですカ?」
と声をかけられた。
見ると、20代半ば頃の女性。
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襟元がザックリとひらいた服から伸びた細い首筋に、小さな小さなお顔がチョコンと載っている。
「ワタシ、今、日本の勉強シテルよ」
笑うとピアノの鍵盤のように美しく並んだ白い歯が現れ、そこからキューティー・ハーモニー・スマッシュが次から次へと放射され、あたり一面が春になった。

「旅行なのですカ?」

彼女は一緒に電車に乗り込み、何のてらいなく、僕の隣に座った。
それが男心をどれほど揺さぶるかが分かっていないのだ。

彼女の名前は「リン・ウェン・チン」といった。
台湾で放送されている『ロンドンハーツ』をキッカケに、日本に興味を持ったらしく、日本旅行を計画しているそうだ。ロンドンハーツは台湾でも大変な人気らしい。

列車は比較的すいていたんだけれど、彼女は僕の右側にビッタリとくっついている。
話が盛り上がると、彼女は無意識に僕の膝に手をおいたりするもんだから、
僕は、僕のツクシンボウが伸びないように、努めて冷静に「伸びるなよ。今は、伸びるんじゃないぞ」と何度も注意をうながした。
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僕のツクシンボウは、どちらかというと右曲がりで、
このまま伸びてしまうと西高東低の冬型の気圧配置となり、彼女がいる方に向かってしまう。

そのハレンチ事故だけは避けなければならないので、僕は梶原の顔を想像したりしながら、気持ちを誤魔化すことにした。
脳裏に浮かべた梶原の顔面が僕のツクシンボウをヘナヘナにしてくれたおかげで、なんとか最悪の事態は回避することができた。
キングコングというコンビを本当に組んで良かった。

そんな調子だったもんで、西門駅から台北駅まで、彼女と何を喋ったか記憶にない。
台北駅に着くと、彼女は「台湾、楽しんでクダサイね」と笑顔で言って、
遠くの方に消えていった。
もちろん連絡先など交換できていない。
あとに残ったのは梶原の顔面だけだ。
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台北から『瑞芳(ルイファン)』までは電車で40分ほど(200円ぐらい)。
そこからバスに乗り換えて、20分ほど(65円)で九份に着く。
瑞芳(ルイファン)のバス亭は、駅を出て左に200メートルほど行った場所にある。
隣にある警察署があるのが目印だ。
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バスの出発時刻まで、少し時間があったので、駅前の道を真っ直ぐ3~4分ほど歩いたとことにある『瑞芳美食街』に突撃してみることにした。

それほど、お腹がすいていたわけではないので、美食街正面から入って、すぐ左側にある『林記福州胡椒餅』という店の看板メニュー、「胡椒餅」を一つだけ買った。

これが大当たり!!
もうメチャクチャ美味しいすぎるのだ!
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皮は二層になっていて外はパリパリ、中はもっちり。
その中に、肉汁だくだくの、熱々の肉の餡がギッチリと入っている。
その餡は、ほんのりとした甘さと胡椒のスパイシー加減の絶妙っぷりよ。
2つが合わさることで輝きを増す、理想のコンビネーション。
プロレスで喩えるなら、超強いレスラーと超強いレスラーがタッグを組んで、スッゲー感じになる感じ。
プロレスは詳しくないので、よく分からない。
とにかくホームラン級に美味いってこと!!
台湾に行かれた際は必ず「胡椒餅」を食べるように!

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▲【場所】台湾新北NO32 Minsheng Street,Ruifang Direct


瑞芳(ルイファン)からバスに揺られること、20分。
ついに、本日の目的地『九份(キュウフン)』に到着。
バス亭を下りて、少し坂道を登ったところが九份の観光スポットの入り口『基山街』がある。

陽は山の向こうへ沈み、バトンを受け取ったように、九份の提灯に灯がともる。
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狭い路地の両脇に隙間なく並んだ千の提灯が、街を赤く染め、まるで物語の中に迷い込んだような感覚に陥る。
日本人観光客も少なくなかった。
日本人がこの景色に心惹かれ、ノスタルジックな気持ちになってしまうのは、
日本統治時代に建てられた古い建物が残っているのも理由の一つにあるだろう。
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なんだろう、泣きそうになる。
一度も来たことがない街なのに、知っているのだ。
日本人のDNAに九份が埋め込まれているに違いない。
この街を舞台にアニメーションの映画を作ったら面白くなりそうだと僕は独特なことを思った。

あてもなく歩いていると、階段の下から「あれ、ニシノさん!!」という声が聞こえた。
目を疑った。
そこに、彼女がいたのだ。
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こんな再会を誰が予想できただろうか?
これは奇跡…いいや違う。
九份の提灯が、僕と彼女を繋ぐ糸を赤く染めたせいだ。
ぜんぶ、九份のせいだ。

突然の再開に、ふいを喰らった僕のツクシンボウは西高東低の冬型の気圧配置となり、
僕は慌てて股間を押さえて「メリークリスマス」と呟いたのだった。







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ANAのシステムダウンとやらで羽田空港は大混雑。
しかし、国際線には影響がなく、無事に飛んだ。

羽田空港の国際ターミナルができてから、台北市内中心部にある松山空港との便が増えたので、台湾(台北)に行くならば、成田からではなく、羽田から向かうことをオススメする。
羽田空港8時50分発の日本航空97便に乗り、台北(松山)空港までは3時間40分だ。
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機内では、前の席に座っていたオッサンみたいなオバハンが、リクライニングをギリギリまで倒してきて狭かった。
「まぁ、寝るのだろう」と思って、ちなみに前の席を覗いてみたら、
オバハンはリクライニングにもたれずに、前の机を出して、うつ伏せになって寝ていた。

なんと空間を無駄遣いするババアだこと。
リクライニングを倒すのなら、もたれろ。
うつ伏せになるのなら、リクライニングを戻せ。

そんなこんなで、アジア旅行最初の地『台湾』に到着である。
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松山空港から台北の中心部までは地下鉄(『MRT』というらしい)で向かった。
おのぼり気分で写真をパシャパシャ撮っていたら、電車に乗り遅れたが、
台北行きの電車は約5分間隔で走っているので乗り遅れても問題なかった。

空港から30分程度で『西門』という駅に着いた。
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西門は、日本でいうと、渋谷センター街のような感じ。
ちなみに渋谷センター街は2011年に『バスケットボールストリート』に改名したのだが、あれから5年を費やして1ミリも浸透していない。
改名するにあたっての行政側のコメントは以下の通り。

「渋谷の『若者・ファッション・音楽・文化・国際性』という持ち味を全て表現するのは、『バスケットボール』だと判断しました」

誰が何と言おうと、
『若者・ファッション・音楽・文化・国際性』という持ち味を全て表現するのは、
『バスケットボール』なのである。
クレームは受け付けない。
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3月なのに、日中の気温は20度以上。
そうなのだ、台湾は沖縄・那覇よりも600㎞も南にあるのだった。
ちなみに台湾の緯度はハワイと“ほぼ同じ”なので、南国と呼んでも何ら問題はない。

それにしても、台湾はそもそも「国」なのだろうか?
それとも、中国の一部なのだろうか?
この辺りの認識がフワフワしているのは僕だけではないハズだ。

運が良いことに、隣で信号待ちをしていたオジサンが『歴史のことなら何でも訊いてください』とプリントされているTシャツを着ておられたので、訊いてみた。

「台湾って独立国なんですか? それとも、中国の一部なんですか?」
「そこ、やっぱり気になるよね」
「はい。教えてください」
「中国も台湾も、もともと一つの国だったんだけど、二つの政党がバチクソに喧嘩して、今の中国と、今の台湾の領土に、それぞれ移り住んじゃったの」

日本でいうところの、自民党と民主党が、それぞれ西日本と東日本に移り住む感じだろうか。
オジサンは話を続けた。

「そんでもって、その両方の党が『俺たちが正しい政府!』と言い張って、互いに大統領的な奴を立てて、政府を持っちゃってね」
「……マズイですね」
「そんな中、日本が1972年に今の中国と国交を結んで、そのときに日本政府が『中華人民共和国政府が中国のただ一つの政府である』ということを認めて、『台湾が中国の領土の一部だということを、理解し、尊重する』と言っちゃったんだよ」

なるほど。

「台湾さんの言い分も分かるんだけど、中国先輩とマブダチになっちゃったから、中国先輩の言い分には『わかるぅ~』と言うしかない」
というのが日本ってわけだ。

台湾が国なのか中国の一部なのかが、やけに認識がフワフワしていると思ったら、実際にフワフワしているのだった。

「ウチは独立国!(by台湾)」
「台湾は中国っしょ!(by中国)」
「中国先輩もああ言ってますし…(by日本)」
である。

オジサンはまだまだゴキゲンに喋っていたが、大体のことは把握できたので、「台湾って本当にイイですよね」と言って、その場を離れた。

お腹が空いたので、やけにイイ匂いを巻き散らかしていた『阿宗麺線(アゾンメェンシェン)』という店に飛び込んでみた。
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店のメニューは「麺線」一本勝負で、「麺線(小)」か「麺線(大)」という選択肢しかなかった。
値段は、『小』が50NT$(約200円)で、『大』が65NT$(約250円)。
スチロールの器に盛られていて、立ち食いスタイルだったので、きっとB級グルメ的な扱いなのだろう。
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麺線とは、
具は「豚モツのみ!」という男前すぎる麺料理で、
麺は茶色く、細く、ソーメン的。
麺が茶色い理由は「醤油で煮るから」だそうだ。
ちなみに麺にはコシもヘッタクレもなかった。

その麺に、鰹の出汁が効いたトロトロのスープ(見た目は、ご飯にかける「なめたけ」みたい)がエロい感じで絡んできて、これが絶品。
ニンニクと、個人的にはあまり得意ではないパクチーが入っていたが、どっこいコイツが全体のバランスをコントロールしていた。
文句なしに旨かった。

店を出ると、街中で一人、オジサンがこらえるように笑っていた。
思い出し笑いなのだろうか、それとも暑さにやられたのだろうか、とにかく一人で笑っている。

あのオジサンは、なんで一人で笑っているのだろう?と思った。

「あのオジサン、なんで一人で笑ってるんだろう…プププ、ちょっと…ププ……気持ちが悪いんですけど…プププププ」

気がつくと、僕も一人で笑っていた。
惨事である。

きっとオジサンの前にも一人で笑っている人がいて、僕の後ろにも、僕を見て一人で笑っている人が発生しているのだろう。
この『一人笑い』はどこから始まって、どこへ行くのか?
いつか台湾に行かれた際には、この連鎖を止めていただきたい。

それにしても天気が良い。
今日はこれから、『千と千尋の神隠し』の舞台となった街、九份(キュウフン)に行く。
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