「孫のよう…みんな詐欺師やった」 ジャパンライフ損賠訴訟
2020年10月29日 05時00分 (10月29日 09時58分更新)
全国初 被害者証言へ 金沢地裁
磁気健康器具の預託商法を展開したジャパンライフ(東京)の巨額詐欺事件を巡り、金沢地裁で係争中の損害賠償請求訴訟で、原告が自ら被害実態を訴えることが、弁護団への取材で分かった。同種の集団訴訟は名古屋や福井など九地裁で提起されているが、当事者の尋問は全国で初めて。
原告は、石川県内在住で六十〜八十代の女性七人。弁護団は高齢に配慮し、負担のないよう見極めた上で、尋問の人数を決める。コロナ禍で期日は流動的だが早ければ年内にも予定される次回の口頭弁論で複数の被害者が証言台に立つ。
原告七人は計約八千八百万円の支払いを求めているが、弁護団の安藤俊文弁護士は「原告に名を連ねたのは、ほんの一部。家族にも被害を隠し通している人もいる」と指摘。一人で一億円超の被害も確認されており、県内の被害者は百人以上、被害総額は十億円規模に及ぶ可能性を示唆した。
警視庁などの合同捜査本部は、全国四十四都道府県の高齢者ら延べ一万人が総額約二千百億円をだまし取られたとみている。
石川県内女性 1年で4000万円 家族にも言えず
孫のような若者を信じ、老後の蓄えをすべて投じた。被害に遭った石川県内の七十代女性が本紙の取材に応じ、約一年で総額四千万円近くを出資したことを打ち明けた。「完璧にだまされた。病院に通うお金さえない」。この事実、家族にも言い出せずにいる。
一人暮らし。しわを刻んだ手は震えていた。ため息をつき、購入した磁気治療の品々を並べた。肩凝り改善のベストは二百万円。腰痛に効く太いベルトは四百万円。血行が良くなるネックレスは二千万円だ。靴下やブレスレットも。入浴剤や化粧水は、どれも一個六千〜一万二千円だった。
二〇一六年九月。知人に誘われたエステがきっかけ。若い従業員がオイルをたっぷりと落とし、背中や脇腹をなでてくれた。足の指も丁寧に。「すべて無料。最後にあったかいタオルできれいに拭いてくれた」
その後、一人の若い男性従業員が担当になる。人懐っこくて「心の中にスーッと入ってきた」。自宅で昼食を囲んだことも。「焼き肉を出したら、ご飯をおかわりした。孫のように思った」
いつしか、出資の話になる。細かい粒のような磁石を織り込んだ商品の数々。別の顧客に貸せば百万円につき、一カ月五千円の配当が入るという。困り顔で頭を下げてくる。「断れんかった。かわいそうで」。老後の資金をつぎ込んだ。
信じて疑わなかった。ジャパンライフ会長が安倍晋三首相(当時)から「桜を見る会」に招待されたことは、何度も聞かされた。「政界ともつながっとる。すごい会社や」と感心した。
「銀行も農協も信用できない。財産を預けて」。そう促され、出資を続けた。指定された口座に十回余り、大金を振り込んだ。その明細書を記者に示した時、目が潤んだ。「みんな詐欺師やった。取り返しのつかんことしてしまった」(前口憲幸)
【メモ】ジャパンライフ=購入した商品を別の顧客に貸し出すことで高配当が得られると勧誘する預託商法を展開。石川県では野々市市押野に拠点を構えた。顧客は生命保険を解約するなどして資金を捻出。2017年12月に事実上破綻。全国で集団訴訟が起きた。金沢地裁への提訴は18年9月。過去最大級の詐欺事件に発展し、元幹部ら14人の逮捕者が出ている。
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