中秋の名月。
私は、いつもよりずっと大きく、ずっと輝いて見えるそれを、目的もなく眺めていた。
傍らには酒瓶と盃。団子は作るのが面倒だから置いていない。
秋風の通る神社の縁側は、少し肌寒さを感じさせるほどだった。
「あぁ」
盃を傾け、息を漏らす。月を眺めていると、つい考え事に思いを馳せてしまう。
こんな月には、永夜の夜を思い出す。明けない夜に、竹林を飛び回った記憶。二人で異変を解決した事が心に残っている。胡散臭く、ひねくれてるアイツと組んだのは嫌な記憶。
……そういえば、最近アイツの姿を見かけない。この前までは鬱陶しいぐらいに構ってきたのに。と思った矢先――
「いい月ね」
――真横から突然声がした。見ると、長い金髪をなびかせた八雲紫がそこにいた。相変わらず神出鬼没だ。
「月に向かって物憂げな表情をする少女。絵にならないかしら?」
「馬鹿にしに来ただけなら、帰っていいわよ」
「まさか。お月見に来ただけですわ」
飄々と答える紫。どうにも胡散臭いのがコイツの持ち味である。
「何を法螺ふいてんのよ。今度は何を企もうってのよ」
「ひどい言われようね。ただお話に来ただけなのに……」
よよよ、と泣き真似をする紫。嗚呼鬱陶しい。思わず口にしてしまった。
「鬱陶しいわよ。早く用件を言いなさい」
「あら。お月見に来たのは嘘だけど、霊夢と話したかったのは本当よ」
ケロッとした表情で返しつつ、紫は私の隣に腰掛けた。図々しい。
「それでどうなの? 最近、あまり会っていなかったけれど」
「どうもこうもないわよ。退屈が過ぎて死にそうになってるわ」
「それは重畳。何も起こらないのは良いことよ」
当たり障りのない笑顔を浮かべ、紫は盃を傾ける。……って。
「それ私のお酒!」
「少しぐらい良いじゃないの」
月見酒は風情があるわねー、などとほざきつつ私の酒をかっくらう紫。私は盃をひったくると、ため息混じりに聞いた。
「はぁ……。ほんとに何しに来たのよアンタ……」
「いやぁ、ここ最近、ちょっと野暮用で手が離せなかったのよ。その仕事が片付いて、久しぶりに霊夢の顔を見たくなったの。そしたら、美味しいお酒を嗜んでる姿が目に入ったものだから、つい」
つまり暇だったってことか。
「暇ではないわ。私にはすることが山積みよ」
「帰ればいいじゃない……」
「本当に帰って欲しいなら大人しく帰るけれど。その前に少しおしゃべりでもどうかしら?」
「……勝手にどうぞ。私は聞き役に徹するわ」
「じゃあ勝手に話すわね」
なし崩し的に許可してしまった。実のところ、紫と話すのは嫌ではないのだ。
紫は月を見上げると、滔々と語りだした。
「月が大きいわね。こんな夜には、永夜異変を思い出すわ」
「普段は霊夢が一人で解決しちゃうから。一緒に飛び回ったのはいい思い出」
「魔理沙との腕試しも楽しかったわ。あの娘、あんなに強かったのねぇ」
「月の姫は元気かしら。最近会ってないけど」
とめどなく語る紫だが、黙々と聞いているだけの私に不服そうな顔を向けてきた。
「もう。霊夢も何か話してよ。面白くないわ」
「そうねぇ……あ、」
ひとつ思い出した。さっき考えていたこと。
「私も、アンタと同じこと考えてたわ。永夜の夜のこと」
「まぁ」
口に手を当てて、驚く仕草をする紫。
「一緒のことを考えてただなんて。仲睦まじい恋人のようね」
突然、そんなことを言われて。
顔が赤くなった。
「そっ、そんなことないわよ」
照れを隠すように語調を強める。顔が赤いのが伝わらないように、自分の足を見つめた。
でも、そんな照れ隠しは、月明かりによって照らされてしまって。
「どうしたの霊夢。顔が真っ赤よ」
くすくすと笑う紫。その言葉に、また顔が熱くなるのを感じる。
「耳まで赤くしちゃって。可愛い」
「こ、これは、お酒が回ってるだけよ! 変なこと言わないで! 誰がアンタのことなんかっ……!」
「っ」
全てを悟っているかのような紫の物言いに、子供のような嘘がこぼれ出た。
紫は、怒ったような私の言い回しに一瞬ひるんだが、すぐに冷静な表情を作った。
「そう……それなら私、そろそろ帰るわね」
おもむろに立ち上がってそんなことを言い出す紫。自分の口から、あっ、と小さく声が漏れた。その
「あまり遅くまで外にいては駄目よ。体が冷えてしまうから」
淡々と帰ろうとする紫に向けて、思わず言葉を発してしまう。
「待って」
「……?」
気づけば私は、紫の裾を掴んで引き止めていた。怪訝そうな顔する紫に、私は何も言えず。
「もう少しだけ、居て欲しいの」
頭が回らず、つい本音が出てしまった。しまった、と思ったときにはもう遅い。
紫は少し驚いたような顔をしたが、すぐにふっと微笑んだ。見透かしたような視線が私の心を撫で回すようで、ひどく落ち着かない。
紫はもう一度そこに腰掛け、無言で月を見上げた。
「…………」
何も喋らない紫は、私が何か言うのを待っているような気がして。
返す言葉が見つからない私は、同じように月を見上げた。
惚けたように月を眺めている私と紫。眩く輝いている月は、変わらずそこに浮いていた。すると、一つの言葉が頭をよぎった。ぽつり、と口に出す。
「月が、綺麗ね」
「……あら」
紫がこちらを向く。
「夏目漱石?」
「誰よ、それ」
「なんでもないわ。ふふっ」
薄く笑う。紫の笑顔が見れたことで、強ばってた体が落ち着くのがわかる。
なんで私は、こんなに紫を意識してしまっているんだろう。心がふわふわと浮くような気分だ。月に当てられたのかもしれない。いや、きっとそうだ。
一人で考えて、納得して。自分が可笑しい。
「ねぇ、紫」
こんなに、月が綺麗な夜なら。
「なーに?」
私も、
「今日、泊まっていかない?」
少しくらい当てられてもいいかもしれない。
「……喜んで」
紫は私の顔を見つめて、ふっと微笑んだ。
―――――――――――――――
すっかり冷えた体を風呂で温める。寝巻きに着替え、寝室に向かうと、先に風呂を上がった紫が待っていた。布団をすでに敷いてある辺り、手際の良さを感じる。その気配りはいらなかったが。
「ねぇ……流石に、同衾するのはちょっと……」
「良いじゃない。霊夢が寂しくて眠れないかなって思っただけよ」
「さ、寂しいわけないじゃない! アンタと同じ布団とか、何されるかわかったもんじゃないし……」
「あらあら~? じゃあ私は部屋移しましょうか~?」
「ぐっ……」
嫌なところを突いてくる。仕方なく紫の言を受け入れた。
「ったく。……いいわよ」
「霊夢は可愛いわねぇ」
「やかましい!!」
騒ぎ立てる紫をシカトしつつ、布団に潜り込む。すかさず紫も潜り込んできた。嫌がる気力も失せたので、黙って目を閉じる。
「ねぇ霊夢。無視しないで頂戴、霊夢」
「…………」
「無視する娘は悪戯しちゃうわよー?」
言うやいなや、私の脇腹あたりをなぞるように触ってきた。くすぐったい感覚が走るが、無視を貫いた。いま反応したら紫の思う壺である。それは避けたかった。
無言を通す私に紫は不服そうな顔をしたが、すぐにくすぐりを再開した。
脇腹。腰周り。腹。あちこちをまさぐってくる紫。苛立ちが募り、そろそろ注意しようかと思ったその時。
「……ぁっ……」
気の抜けるような声が鼓膜を震わせた。その声が自分の声だと気づくのに数瞬かかった。
なぜこんな声を発したのか。それは、紫が身体のある部分に触れてきたからだった。
「霊夢は腋が弱いのねぇ」
紫によって告げられたその部位は、私の唯一の急所そのものだった。
面白いものを見つけた、と言わんばかりの紫の声色に、悪寒が背を走った。
紫は、重点的に私の脇をくすぐり始めた。それはもう楽しそうに。
「ちょっやめっ」
「やめないわよ! 今まで無視した分、たっぷり可愛がってあげるわ!」
布団の上で子供のように騒ぐ私達。こんな所、誰かに見られでもしたら、私は外を出歩けなくなってしまう。
「っ……ふぅっ……!」
熱がこもっていく紫の手つきに、思わず汗が滲むほどの抵抗をしてしまっていた。
「紫っ……いい加減に……! ふあっ!」
声を隠せなくなり、素っ頓狂な声をあげてしまった。瞬間、紫の手が不意に止まった。
「……霊夢」
「な、なによ……」
ポツリと名前を呼ぶ紫に、思わず体がこわばる。紫は少し様子がおかしかった。息を荒げ、目の焦点は虚ろである。
「今の霊夢……すっごく可愛い」
「はぁ?」
突然何を言いだすのだ、こいつは。困惑する私をよそに、しゃべり続ける紫。
「はだけた寝巻きから覗く、汗ばんだ身体……潤んだ瞳……私もう、我慢、できないかも」
「ちょ、ちょっと紫? 何言って――」
「――ねぇ、霊夢?」
遮るように口にする紫に、私は言葉が詰まった。紫はいきなり私に身を近づけると、耳元で囁くように続きを言った。
「――もっと恥ずかしいこと、してみない?」
息を荒げた紫の剣幕についつい圧されてしまい、私は否定の言葉を紡げなかった。
―――――――――――――――
意外と大きいのね、なんて。紫は愉しそうな表情で呟いた。
寝巻きもさらしも剥がされ、紫の眼前に曝された私の胸。残ったのは下着一枚と羞恥心ぐらいである。人に見せたことのない所を凝視されている私は、お互いに向き合って座っているにも関わらず、紫の顔をまともに見られなかった。
「顔をそらさないで頂戴。せっかくの美人が台無しじゃない」
頑なに顔を背け続ける私に、紫は「仕方ないわね」と漏らした。そして――
「!? ひゃっ、や、ぁっ」
いきなり私の首筋を舌で舐め回した。舌のざらざらとした感触が、今まで味わったことない感覚を脳に刻んだ。
しばらく私の首を味わうように舐めていた紫が、ようやく顔を離した。行儀悪く舌なめずりをする。
「あ、アンタねぇ!! ――むぐっ!?」
文句を言おうと口を開けた瞬間、舌をねじ込まれる。突然の出来事に驚く暇もなく、私の口腔内を撫で回していく紫の舌。頭に浮かべた文句の言葉は、口の中を跳ね回る水音と成り代わった。
「っふ、ぐ……んん! んむぅ!」
口の端から唾液が溢れる。頭の中が快楽に溺れ、考える脳が奪われる。
紫は、私の舌に自分のそれを絡ませ、唾液を搾り取るようにうねった。
「ぷはっ」
紫が不意に口を離す。お互いの口から唾液の糸が伝うと、やがて重みで切れた。
紫は、私から掻き出した唾液を、音を立てて咀嚼すると、嚥下した。
「霊夢の、おいしい」
「なに、言ってんの、よ……」
まともに話すことができない。頭が熱に浮かされたようだ。
紫は唇の端から垂れる唾液を拭おうともせず、また私に顔を近づけてきた。さっきのように強引にされるのが嫌で思わず身構えてしまった。だが、紫がしたのは、母が子供にするような優しい口づけだった。
「驚かせてごめんなさい。気持ちが先走ってしまって……霊夢のことを考えてあげられなかった」
「――っ」
卑怯だ。ここまで強引にしておいて……急に優しくするだなんて。
「別に、私は気にしてないわよ。すこしびっくりしたけど」
案の定、文句を言うきっかけを失ってしまった。紫は目を細めると、私をふわりと押し倒した。
「じゃあ……触るわね」
「……ん」
誰にも触れられたことのない双丘に、白く細長い指が這った。最初は撫でるような動きだったが、徐々に手触りを確かめるように揉む動きになっていく。
最初こそむずがゆいような感覚だったが、紫の手つきによって、それは快感へと変わりゆく。
「霊夢のここ……すごく勃ってる」
私の胸の突起を指さし、言い放つ。また顔が熱くなるのを感じた。
紫はおもむろに突起を口に含んだ。そして、飴を扱うように舌で嬲り始める。経験したことない刺激に、体が痺れるようだ。
「んっ、あ、っふ……っ!」
舌先でつつく。甘噛みをする。大きく音を立て、吸い上げる。様々な刺激が頭を伝う。絶えず変化する快楽に、身をよじらせる。
紫は楽しそうに私の胸を弄んでいたが、ふと気づいたように動きを止め、声をかけてきた。
「もう濡れてるじゃない、霊夢」
「や、そこはっ」
「私で感じてくれてるのね、嬉しいわ」
からかうような言い方に、小さく「馬鹿」としか返せない。
紫の言うとおり、私の下半身……平たく言えば局部は、先程からの行為によって大変なことになってしまっていた。下着は自身の愛液によってぐしょぐしょになっていた。
紫は濡れそぼった局部に指を伸ばすと、わざと水音を立てるかのように弄りだした。指が与える快感と、自分の体が発する水音に、言葉を失う。
続けて、下着を慣れた手つきで脱がされる。僅かに残っていた衣服は全て剥がされ、生まれたままの姿にされる私。
紫は興味深そうに私の局部を見つめたが、またさっきのように舌を這わせた。大きく舐め取るように動かす。
「ふぁ、ああああっ」
気の抜けるような声が空気を震わせる。今まで以上に強烈な感覚が身を震わせる。
「ちょっと、しょっぱい」
「何言ってんのよ、馬鹿っ……!」
どうでもいい感想を述べる紫。さっきから同じようなことしか言えていない自分も恥ずかしい気がする。
そんな私の心象など知るはずもなく、紫は膣内に舌をさし挿れてきた。
「ぁ、ぁぁあっ」
中に挿入った舌は、膣内を舐め回すように蠢く。ぞくぞくする。自分の一番大事なところが掻き回されるのを感じ、声を抑えることができない。
「や、あっ! っふ、ぅああ!」
目の前に火花が散ったような錯覚を起こす。ちかちかと光る視界は、自分の限界が近いことを示していた。絶頂の直前に芽生えた感情は、少しの恐怖だった。
「い、やぁっ……! ああっ……!!」
程なく絶頂を迎えようとしたその時――紫が動きを止めた。
紫は顔をあげると、私の顔を見つめた。
そして無言で顔を近づけると、さっきのように優しい口づけをした。
「大丈夫」
「怖がらないで。大丈夫だから」
自分でも気づかないうちに、随分と顔が強張っていたらしい。諭すような口調の紫に、込めていた力が抜けていくのを感じた。
紫はもう一度微笑むと、私の局部に指を二本あてがった。そのまま少しづつ挿入していく。愛液と紫の唾液で滑りが良くなっていた私のそこは、難なく紫の指を受け入れた。
「はぁあっ」
「それじゃ、ゆっくり動かすわね……」
舌とはまた違う快感があった。的確に気持ちいい場所を突いてくる。直前までイった私は、その刺激だけでも危うかったが、踏みとどまる。
「あ、はっ……ふぁ、ああ」
荒くなる私の呼吸に合わせたかのように、だんだんと動きが速くなっていく。
「やぁあっ、ひゃあんっ!」
さっきまでの高揚が、再び押し寄せてくる。意識が薄れそうになる。もう限界だった。
「あああっ! ふわああっ!!」
身体が仰け反る。頭が真っ白になって――
「~~~~~~ッ!!」
――私は、果てた。
―――――――――――――――
何事もなく、朝は訪れる。
私はいつもと変わらずに、神社の縁側で暇をしていた。
と、横から話しかけてくる人物が一人。紫が、スキマから顔を覗かせてこちらを見ていた。
「ごきげんよう、霊夢」
「帰れ」
「調子はどう?」
「教える義理はないわね」
あぁ、変わったといえば、こいつがやけに話しかけてくる程度か。
鬱陶しいが、内心喜んでいる自分がいるのも、確かなことではある。
「冷たいわね。私のことを嫌いになったのかしら」
軽い調子の紫に、軽く笑って言い返した。
「馬鹿。アンタなんか、大嫌いよ」
おしまい
私は、いつもよりずっと大きく、ずっと輝いて見えるそれを、目的もなく眺めていた。
傍らには酒瓶と盃。団子は作るのが面倒だから置いていない。
秋風の通る神社の縁側は、少し肌寒さを感じさせるほどだった。
「あぁ」
盃を傾け、息を漏らす。月を眺めていると、つい考え事に思いを馳せてしまう。
こんな月には、永夜の夜を思い出す。明けない夜に、竹林を飛び回った記憶。二人で異変を解決した事が心に残っている。胡散臭く、ひねくれてるアイツと組んだのは嫌な記憶。
……そういえば、最近アイツの姿を見かけない。この前までは鬱陶しいぐらいに構ってきたのに。と思った矢先――
「いい月ね」
――真横から突然声がした。見ると、長い金髪をなびかせた八雲紫がそこにいた。相変わらず神出鬼没だ。
「月に向かって物憂げな表情をする少女。絵にならないかしら?」
「馬鹿にしに来ただけなら、帰っていいわよ」
「まさか。お月見に来ただけですわ」
飄々と答える紫。どうにも胡散臭いのがコイツの持ち味である。
「何を法螺ふいてんのよ。今度は何を企もうってのよ」
「ひどい言われようね。ただお話に来ただけなのに……」
よよよ、と泣き真似をする紫。嗚呼鬱陶しい。思わず口にしてしまった。
「鬱陶しいわよ。早く用件を言いなさい」
「あら。お月見に来たのは嘘だけど、霊夢と話したかったのは本当よ」
ケロッとした表情で返しつつ、紫は私の隣に腰掛けた。図々しい。
「それでどうなの? 最近、あまり会っていなかったけれど」
「どうもこうもないわよ。退屈が過ぎて死にそうになってるわ」
「それは重畳。何も起こらないのは良いことよ」
当たり障りのない笑顔を浮かべ、紫は盃を傾ける。……って。
「それ私のお酒!」
「少しぐらい良いじゃないの」
月見酒は風情があるわねー、などとほざきつつ私の酒をかっくらう紫。私は盃をひったくると、ため息混じりに聞いた。
「はぁ……。ほんとに何しに来たのよアンタ……」
「いやぁ、ここ最近、ちょっと野暮用で手が離せなかったのよ。その仕事が片付いて、久しぶりに霊夢の顔を見たくなったの。そしたら、美味しいお酒を嗜んでる姿が目に入ったものだから、つい」
つまり暇だったってことか。
「暇ではないわ。私にはすることが山積みよ」
「帰ればいいじゃない……」
「本当に帰って欲しいなら大人しく帰るけれど。その前に少しおしゃべりでもどうかしら?」
「……勝手にどうぞ。私は聞き役に徹するわ」
「じゃあ勝手に話すわね」
なし崩し的に許可してしまった。実のところ、紫と話すのは嫌ではないのだ。
紫は月を見上げると、滔々と語りだした。
「月が大きいわね。こんな夜には、永夜異変を思い出すわ」
「普段は霊夢が一人で解決しちゃうから。一緒に飛び回ったのはいい思い出」
「魔理沙との腕試しも楽しかったわ。あの娘、あんなに強かったのねぇ」
「月の姫は元気かしら。最近会ってないけど」
とめどなく語る紫だが、黙々と聞いているだけの私に不服そうな顔を向けてきた。
「もう。霊夢も何か話してよ。面白くないわ」
「そうねぇ……あ、」
ひとつ思い出した。さっき考えていたこと。
「私も、アンタと同じこと考えてたわ。永夜の夜のこと」
「まぁ」
口に手を当てて、驚く仕草をする紫。
「一緒のことを考えてただなんて。仲睦まじい恋人のようね」
突然、そんなことを言われて。
顔が赤くなった。
「そっ、そんなことないわよ」
照れを隠すように語調を強める。顔が赤いのが伝わらないように、自分の足を見つめた。
でも、そんな照れ隠しは、月明かりによって照らされてしまって。
「どうしたの霊夢。顔が真っ赤よ」
くすくすと笑う紫。その言葉に、また顔が熱くなるのを感じる。
「耳まで赤くしちゃって。可愛い」
「こ、これは、お酒が回ってるだけよ! 変なこと言わないで! 誰がアンタのことなんかっ……!」
「っ」
全てを悟っているかのような紫の物言いに、子供のような嘘がこぼれ出た。
紫は、怒ったような私の言い回しに一瞬ひるんだが、すぐに冷静な表情を作った。
「そう……それなら私、そろそろ帰るわね」
おもむろに立ち上がってそんなことを言い出す紫。自分の口から、あっ、と小さく声が漏れた。その
「あまり遅くまで外にいては駄目よ。体が冷えてしまうから」
淡々と帰ろうとする紫に向けて、思わず言葉を発してしまう。
「待って」
「……?」
気づけば私は、紫の裾を掴んで引き止めていた。怪訝そうな顔する紫に、私は何も言えず。
「もう少しだけ、居て欲しいの」
頭が回らず、つい本音が出てしまった。しまった、と思ったときにはもう遅い。
紫は少し驚いたような顔をしたが、すぐにふっと微笑んだ。見透かしたような視線が私の心を撫で回すようで、ひどく落ち着かない。
紫はもう一度そこに腰掛け、無言で月を見上げた。
「…………」
何も喋らない紫は、私が何か言うのを待っているような気がして。
返す言葉が見つからない私は、同じように月を見上げた。
惚けたように月を眺めている私と紫。眩く輝いている月は、変わらずそこに浮いていた。すると、一つの言葉が頭をよぎった。ぽつり、と口に出す。
「月が、綺麗ね」
「……あら」
紫がこちらを向く。
「夏目漱石?」
「誰よ、それ」
「なんでもないわ。ふふっ」
薄く笑う。紫の笑顔が見れたことで、強ばってた体が落ち着くのがわかる。
なんで私は、こんなに紫を意識してしまっているんだろう。心がふわふわと浮くような気分だ。月に当てられたのかもしれない。いや、きっとそうだ。
一人で考えて、納得して。自分が可笑しい。
「ねぇ、紫」
こんなに、月が綺麗な夜なら。
「なーに?」
私も、
「今日、泊まっていかない?」
少しくらい当てられてもいいかもしれない。
「……喜んで」
紫は私の顔を見つめて、ふっと微笑んだ。
―――――――――――――――
すっかり冷えた体を風呂で温める。寝巻きに着替え、寝室に向かうと、先に風呂を上がった紫が待っていた。布団をすでに敷いてある辺り、手際の良さを感じる。その気配りはいらなかったが。
「ねぇ……流石に、同衾するのはちょっと……」
「良いじゃない。霊夢が寂しくて眠れないかなって思っただけよ」
「さ、寂しいわけないじゃない! アンタと同じ布団とか、何されるかわかったもんじゃないし……」
「あらあら~? じゃあ私は部屋移しましょうか~?」
「ぐっ……」
嫌なところを突いてくる。仕方なく紫の言を受け入れた。
「ったく。……いいわよ」
「霊夢は可愛いわねぇ」
「やかましい!!」
騒ぎ立てる紫をシカトしつつ、布団に潜り込む。すかさず紫も潜り込んできた。嫌がる気力も失せたので、黙って目を閉じる。
「ねぇ霊夢。無視しないで頂戴、霊夢」
「…………」
「無視する娘は悪戯しちゃうわよー?」
言うやいなや、私の脇腹あたりをなぞるように触ってきた。くすぐったい感覚が走るが、無視を貫いた。いま反応したら紫の思う壺である。それは避けたかった。
無言を通す私に紫は不服そうな顔をしたが、すぐにくすぐりを再開した。
脇腹。腰周り。腹。あちこちをまさぐってくる紫。苛立ちが募り、そろそろ注意しようかと思ったその時。
「……ぁっ……」
気の抜けるような声が鼓膜を震わせた。その声が自分の声だと気づくのに数瞬かかった。
なぜこんな声を発したのか。それは、紫が身体のある部分に触れてきたからだった。
「霊夢は腋が弱いのねぇ」
紫によって告げられたその部位は、私の唯一の急所そのものだった。
面白いものを見つけた、と言わんばかりの紫の声色に、悪寒が背を走った。
紫は、重点的に私の脇をくすぐり始めた。それはもう楽しそうに。
「ちょっやめっ」
「やめないわよ! 今まで無視した分、たっぷり可愛がってあげるわ!」
布団の上で子供のように騒ぐ私達。こんな所、誰かに見られでもしたら、私は外を出歩けなくなってしまう。
「っ……ふぅっ……!」
熱がこもっていく紫の手つきに、思わず汗が滲むほどの抵抗をしてしまっていた。
「紫っ……いい加減に……! ふあっ!」
声を隠せなくなり、素っ頓狂な声をあげてしまった。瞬間、紫の手が不意に止まった。
「……霊夢」
「な、なによ……」
ポツリと名前を呼ぶ紫に、思わず体がこわばる。紫は少し様子がおかしかった。息を荒げ、目の焦点は虚ろである。
「今の霊夢……すっごく可愛い」
「はぁ?」
突然何を言いだすのだ、こいつは。困惑する私をよそに、しゃべり続ける紫。
「はだけた寝巻きから覗く、汗ばんだ身体……潤んだ瞳……私もう、我慢、できないかも」
「ちょ、ちょっと紫? 何言って――」
「――ねぇ、霊夢?」
遮るように口にする紫に、私は言葉が詰まった。紫はいきなり私に身を近づけると、耳元で囁くように続きを言った。
「――もっと恥ずかしいこと、してみない?」
息を荒げた紫の剣幕についつい圧されてしまい、私は否定の言葉を紡げなかった。
―――――――――――――――
意外と大きいのね、なんて。紫は愉しそうな表情で呟いた。
寝巻きもさらしも剥がされ、紫の眼前に曝された私の胸。残ったのは下着一枚と羞恥心ぐらいである。人に見せたことのない所を凝視されている私は、お互いに向き合って座っているにも関わらず、紫の顔をまともに見られなかった。
「顔をそらさないで頂戴。せっかくの美人が台無しじゃない」
頑なに顔を背け続ける私に、紫は「仕方ないわね」と漏らした。そして――
「!? ひゃっ、や、ぁっ」
いきなり私の首筋を舌で舐め回した。舌のざらざらとした感触が、今まで味わったことない感覚を脳に刻んだ。
しばらく私の首を味わうように舐めていた紫が、ようやく顔を離した。行儀悪く舌なめずりをする。
「あ、アンタねぇ!! ――むぐっ!?」
文句を言おうと口を開けた瞬間、舌をねじ込まれる。突然の出来事に驚く暇もなく、私の口腔内を撫で回していく紫の舌。頭に浮かべた文句の言葉は、口の中を跳ね回る水音と成り代わった。
「っふ、ぐ……んん! んむぅ!」
口の端から唾液が溢れる。頭の中が快楽に溺れ、考える脳が奪われる。
紫は、私の舌に自分のそれを絡ませ、唾液を搾り取るようにうねった。
「ぷはっ」
紫が不意に口を離す。お互いの口から唾液の糸が伝うと、やがて重みで切れた。
紫は、私から掻き出した唾液を、音を立てて咀嚼すると、嚥下した。
「霊夢の、おいしい」
「なに、言ってんの、よ……」
まともに話すことができない。頭が熱に浮かされたようだ。
紫は唇の端から垂れる唾液を拭おうともせず、また私に顔を近づけてきた。さっきのように強引にされるのが嫌で思わず身構えてしまった。だが、紫がしたのは、母が子供にするような優しい口づけだった。
「驚かせてごめんなさい。気持ちが先走ってしまって……霊夢のことを考えてあげられなかった」
「――っ」
卑怯だ。ここまで強引にしておいて……急に優しくするだなんて。
「別に、私は気にしてないわよ。すこしびっくりしたけど」
案の定、文句を言うきっかけを失ってしまった。紫は目を細めると、私をふわりと押し倒した。
「じゃあ……触るわね」
「……ん」
誰にも触れられたことのない双丘に、白く細長い指が這った。最初は撫でるような動きだったが、徐々に手触りを確かめるように揉む動きになっていく。
最初こそむずがゆいような感覚だったが、紫の手つきによって、それは快感へと変わりゆく。
「霊夢のここ……すごく勃ってる」
私の胸の突起を指さし、言い放つ。また顔が熱くなるのを感じた。
紫はおもむろに突起を口に含んだ。そして、飴を扱うように舌で嬲り始める。経験したことない刺激に、体が痺れるようだ。
「んっ、あ、っふ……っ!」
舌先でつつく。甘噛みをする。大きく音を立て、吸い上げる。様々な刺激が頭を伝う。絶えず変化する快楽に、身をよじらせる。
紫は楽しそうに私の胸を弄んでいたが、ふと気づいたように動きを止め、声をかけてきた。
「もう濡れてるじゃない、霊夢」
「や、そこはっ」
「私で感じてくれてるのね、嬉しいわ」
からかうような言い方に、小さく「馬鹿」としか返せない。
紫の言うとおり、私の下半身……平たく言えば局部は、先程からの行為によって大変なことになってしまっていた。下着は自身の愛液によってぐしょぐしょになっていた。
紫は濡れそぼった局部に指を伸ばすと、わざと水音を立てるかのように弄りだした。指が与える快感と、自分の体が発する水音に、言葉を失う。
続けて、下着を慣れた手つきで脱がされる。僅かに残っていた衣服は全て剥がされ、生まれたままの姿にされる私。
紫は興味深そうに私の局部を見つめたが、またさっきのように舌を這わせた。大きく舐め取るように動かす。
「ふぁ、ああああっ」
気の抜けるような声が空気を震わせる。今まで以上に強烈な感覚が身を震わせる。
「ちょっと、しょっぱい」
「何言ってんのよ、馬鹿っ……!」
どうでもいい感想を述べる紫。さっきから同じようなことしか言えていない自分も恥ずかしい気がする。
そんな私の心象など知るはずもなく、紫は膣内に舌をさし挿れてきた。
「ぁ、ぁぁあっ」
中に挿入った舌は、膣内を舐め回すように蠢く。ぞくぞくする。自分の一番大事なところが掻き回されるのを感じ、声を抑えることができない。
「や、あっ! っふ、ぅああ!」
目の前に火花が散ったような錯覚を起こす。ちかちかと光る視界は、自分の限界が近いことを示していた。絶頂の直前に芽生えた感情は、少しの恐怖だった。
「い、やぁっ……! ああっ……!!」
程なく絶頂を迎えようとしたその時――紫が動きを止めた。
紫は顔をあげると、私の顔を見つめた。
そして無言で顔を近づけると、さっきのように優しい口づけをした。
「大丈夫」
「怖がらないで。大丈夫だから」
自分でも気づかないうちに、随分と顔が強張っていたらしい。諭すような口調の紫に、込めていた力が抜けていくのを感じた。
紫はもう一度微笑むと、私の局部に指を二本あてがった。そのまま少しづつ挿入していく。愛液と紫の唾液で滑りが良くなっていた私のそこは、難なく紫の指を受け入れた。
「はぁあっ」
「それじゃ、ゆっくり動かすわね……」
舌とはまた違う快感があった。的確に気持ちいい場所を突いてくる。直前までイった私は、その刺激だけでも危うかったが、踏みとどまる。
「あ、はっ……ふぁ、ああ」
荒くなる私の呼吸に合わせたかのように、だんだんと動きが速くなっていく。
「やぁあっ、ひゃあんっ!」
さっきまでの高揚が、再び押し寄せてくる。意識が薄れそうになる。もう限界だった。
「あああっ! ふわああっ!!」
身体が仰け反る。頭が真っ白になって――
「~~~~~~ッ!!」
――私は、果てた。
―――――――――――――――
何事もなく、朝は訪れる。
私はいつもと変わらずに、神社の縁側で暇をしていた。
と、横から話しかけてくる人物が一人。紫が、スキマから顔を覗かせてこちらを見ていた。
「ごきげんよう、霊夢」
「帰れ」
「調子はどう?」
「教える義理はないわね」
あぁ、変わったといえば、こいつがやけに話しかけてくる程度か。
鬱陶しいが、内心喜んでいる自分がいるのも、確かなことではある。
「冷たいわね。私のことを嫌いになったのかしら」
軽い調子の紫に、軽く笑って言い返した。
「馬鹿。アンタなんか、大嫌いよ」
おしまい