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於マヨヒガ深部、亥の刻。
「ん、来たか。」
八雲藍はマヨヒガを抜けた先の八雲の敷地で一人瞑想をしていた。
毎日行っている鍛錬の一環である。
マヨヒガを抜けた先には広大な敷地があり、山菜を取るには困らない大きさの野山から平地まで、一通り敷地内だけで生活の糧となるものは手に入る。
野生の動物も放たれており、それらも完璧に管理されている。
無論、幻想郷とは隔絶されており、八雲の住処はもはや別の惑星にあるといってもあながち誤りではない。
通用経路は、突破のほぼ不可能なマヨヒガを踏破するか、紫の能力と、それを付与された藍だけである。
静かに目を閉じ、心を落ち着けていた藍は自身の衣装を覆う夥しい数の結界札の一つが反応したことに伴い、口を開く。
藍の姿は、八雲紫より託された、おそろいの導師服と、特徴的な形をした専用の帽子。
鋭敏な耳を保護するよう覆われた帽子と、そこに貯付された大量の札。
一つ一つが役割を持ち、ただの飾りではない。
その一つがマヨヒガの扉を開かれた信号が送られてくる。
(予想よりも少し早かったか。)
とはいえ、準備は万端であった。
直接向かわずともわかる。
来訪者は月の民の関係者、目的は地上と月を結ぶ航路への干渉の中断、破棄の要求。
扉の開いていた時間から見て、数はおそらく一人。
八意永琳本人だろう。
こちらは少し予想外だった。
ウサギの一匹でも連れてくるものだと想定していたが。
(一人、ね。まあいい。手間が省ける。)
敬意を払われているのか、それともナメられているのか。
敵陣本拠地に向かって一人で来るとは。
主人の言によれば、月人の誘い込みも今回の目的ということらしい。
生体情報をこちらが握ることができれば万々歳、といったところか。
容易ではないことは重々承知している。
マヨヒガに意図的に侵入できるだけの空間管理能力、結界術。
薬物は全く効かず、頭脳は天才、年齢に比例した経験と知恵。
おそらく身体強化術の類もある程度は使えるのだろう。
一人で向かってくるのに相応の理由はあるということだ。
藍はそれと直接対峙しなければならない。
だが、こちらは想定しうるだけの策を張り巡らせてきている。
用意の整ったこちらのテリトリーで、こちらの有利なペースで、一方的に情報を握った状態で。
狩る。
空間管理はこちらの十八番。
マヨヒガの中で相手が一人なら、十分に機能するだろう。
(行くか。)
マヨヒガはその特殊性から、閉じ込めたものをこちらから覗くことはできない。
本人と対峙するには管理者が乗り込むしかない。
藍は結跏趺坐に組んでいた足を戻し、立ち上がる。
おや、いつの間にか青白い冷たく燃え盛る狐火がまたいくつか浮いている。
自身は平常心のつもりでいたのだが、どうやら昂揚しているようだ。
久しぶりの状態だ。
たまにはこういうのも悪くはない。
軽く手を上下に振り狐火を消し、手のひらをまっすぐに伸ばすと、その掌の先の空間に藍の身長ほどはあろうかという巨大な紋様が多重に浮き上がる。
三重を超え、四重になったところで、八雲紫の行使している隙間がその紋様の先に出現した。
隙間の中は相変わらず何も見えない。
その中に藍はいつものことと、慣れた様子で入っていく。
マヨヒガの姿は、マヨヒガに最初に入った人が監視対象者となり、その監視対象者の内面によって形を変える。
藍自身がマヨヒガの監視対象者となった状態であれば、藍は見慣れている。
しかし闖入者を対象とした場合は、その対象者の内的世界が反映され、マヨヒガに描き出されることとなる。
他人の内心の一端を覗き見るのはいろいろなことがわかって興味深い。
今回の対象者は八意永琳。
どのような世界になっているのか、藍自身も楽しみである。
いつもの導師服姿で、両手を両袖に入れた姿でマヨヒガに降り立った藍。
(ふむ、これが八意永琳の世界か。)
あたりの様子を窺うように、二度三度あたりを見渡す。
変化する世界を注意深く眺めながら、藍の頭脳が高速で演算処理を始める。
その後顎に片手を当て、少し考え込むような姿勢を取る。
(パターン@Uc%Nk=_g2、2g!EaZS%/6、86$d*3o1_8、_t?&.W+*F-、a3$ddboL*1のどれかだな。)
その後ゆっくりと3歩足を進め、もう一度左右を見渡す。
変容する風景をそれぞれゆっくりと確認しながら再度少し考え、
(パターン2g!EaZS%/6で確定。)
ものの数十秒で構造を理解し、マヨヒガを勝手知ったる庭のように歩を進める藍。
マヨヒガを歩く藍の姿は、外から見れば数歩直進したかと思えば突然振り返って数歩戻り、その後右に進行方向を変え、
しばらく歩いたと思ったらまた方向を変える。
全く統一性のない進み方をしているようにしか見えない。
しかし、これがマヨヒガの正しい進み方。
藍本人から見れば、さらに奇天烈な光景が広がっており、壁を歩き、何もない空間を足場にし、階段を上る。
何が起こっているか常人では到底理解ができない世界。
ただ藍は何の迷いもなく歩を進めている。
なんといってもマヨヒガは、藍が紫から管理を全任されている前線設備。
時には敵性排除の場として。
時には未熟な自身の式の訓練施設として。
時には一人きりの時間を過ごせる隔離世界として。
隅から隅まで、すべての構造について完璧に把握している。
こうして15分ほどマヨヒガを彷徨うと、ある一点で突然しゃがみこんだ藍は床に右手を添え、軽く押した。
すると光景が一瞬にして明転し、外の世界の病院の無菌室、あるいは手術室のような空間に切り替わった。
あたりは白く、明るく、床はタイルが敷き詰められ、中央には大きな手術台のようなものが設置されている。
無影灯、モニター、その他電子機器まで揃っている。
幻想郷には存在しえない施設がずらりと並ぶ。
そこに立っているのは藍のみ。
(まだここまでは来ていないか。)
すでに永琳がたどり着いているケースも可能性の一つとしては考えていたが、その線は無いようだ。
いくら月の頭脳とはいえ、藍が数千年にわたって構築してきた防衛線、そうやすやすとは踏み越えられまい。
(さて、八意は今何処か。全世界は知らんと欲す、とね。)
幻想郷の誰もが理解できないであろう小粋なジョークを頭に並べつつ、この謎の部屋でも藍はしゃがみこみ、右手を床につけ、再度青い紋様を展開する。
念のため、永琳がここにたどり着いた場合にはすぐに探知できるよう、この部屋には簡単な結界を張っているのだ。
マヨヒガの構造をここから書き換えることはできないため、永琳のここへの侵入を拒むことはできない。
だが探知程度の簡単な結界であれば、この不思議な空間の中にも設置することができるようだ。
その簡易結界の上に添えるようにして、ある札を慎重に設置する。
数日前、紫から手渡された札と少し似ている。
しかし、あの時の札とは様子が少し違い、漏れ出る悪意の塊のような禍々しさはこちらにはない。
別物ではあるようだが。
無関係でもなさそうだ。
設置を終えた藍は、先ほどマヨヒガから入ってきた場所とは反対の場所にある、手術室の扉に手をかけた。
部屋には扉は一つしかない。
この部屋だけはどうやら通常の空間と同じく、扉を通じて出入りすることができるようだ。
もっとも、藍が今進んできた、マヨヒガ深部側に通ずる側の入り口は、扉ではなくただの壁なのだが。
扉の向こう側は、相も変わらず不思議なマヨヒガの世界。
永琳の精神世界を反映しているのか、日本家屋調の仕立て品、構造物が多い。
また薬の調合器具、薬草をすり潰すすり鉢など、根っからの薬師であることが伺える。
藍としてはあまり面白いものではない。
もう少し下世話なアイテムでも見つかれば、他人の秘密を知った気分にもなれるものなのだが、その類のものは一向に見当たらない。
せいぜいが時々散らばっている派手な衣類ぐらいか。
マヨヒガの上層へとつながる道に入ると、藍は拱手のポーズを崩さず歩くようになった。
本来は最敬礼の儀礼の証。
しかしここは実戦の場。
そして藍は結界術、妖術、体術それぞれを万遍なく使う。
結界を組む際の印を外から見られたくない。
両袖には当然のように、霊力、妖力、魔力、物理力を察知されないよう遮断のための術式が施されている。
言うまでもなく、投げもの、小刀の類はさながら四次元ポケットの如くに半無限に湧き出てくる。
実際今現在も常に両手を紋様が飾っているのだが、服の外からそれを確認、探知することはできない。
八意側は話し合いを申し出てくることも考えられるが、残念ながらここは八雲のテリトリーマヨヒガ、幻想郷の治外法権。
唯一のルールは八雲紫。
今日はその八雲紫から命を受けている。
残念なことに八意が八雲の出方を読み違えた場合には、月の民には相応の被害が出ることとなる。
そして八雲への被害は絶対にありえない。あってはならない。
上層部に入って数分。
藍の読みが正しければ、そろそろ八意永琳と遭遇するはずだ。
恐らく何段階かはこちらの構築した仕掛けを突破しているはずだ。
果たしてその通りになった。
近くに生命反応がある。
まだ微弱な、いわば野生の勘によるものであるが、ほぼ間違いない。
あちらは探知しているだろうか。
両袖に隠された術式を待機状態にする。
正面からやりあうつもりはない。
相手が力を発揮する前に嵌める。
そのためにマヨヒガを組みなおしている。
再び青白い狐火が藍の周りを漂い始める。
足元のその火の一端に触れたマヨヒガの薬草が、一瞬で炭化する。
藍はそちらには目もくれず、面倒くさそうに炭化した薬草だったモノに全ての狐火を集中させると、蒸発してしまった。
冷たく燃え盛る火を一つにまとめた藍は、ぶっきらぼうにそれを鷲掴みにし、握りこむ。
あっという間に青白い狐火は元通り藍の妖力へと戻っていく。
(やれやれ。
私はこんなに感情のコントロールが下手だったかね。)
抑えきれない力と衝動。
月の民は嫌いだ。
あの日以来。
月の頭脳はすぐそこにいる。
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於マヨヒガ上層。刻限???。
相変わらず時間の感覚がない。
永琳がマヨヒガに迷い込んで随分と経つ。
いくつか法則性は理解できたが、少し進めばまた法則が変わるのか、どうやら元の場所に戻されているようだ。
少し進んでは戻され、もう一度確認しながら改めてもう少し進む。
この作業を延々と繰り返している。
いわば敵地に単身で来ている身としては、常に警戒心も薄めるわけにもいかない。
常時緊張状態の中、さらにマヨヒガの術式の解明のために思考をフル回転させている。
さすがに衰弱してきている。
(…少し甘く見ていたわね。半分は進んでいるのかしら。)
携帯固形食を往診鞄から取り出し、かじる。
不老不死の身とはいえ、知力と体力のコンディションを維持しておくためには栄養があったほうが良い。
排泄のことを考えると少し躊躇われるが、幸運にもマヨヒガの想起物の中にトイレに相当するものがあったので、済ませておいた。
誰もいないとはいえ、トイレ以外の場所で排泄行為をするのはかなりの抵抗がある。
(この状態で海千山千とやりあえるのかしら。)
さすがの永琳も少し弱気になっている。
正解と思しきルートを考え出し、右に左に、前後に左右に、歩を進めてゆく。
目につくものといえばさほど変わらず、これまでにどこかで見たことある景色の一部ばかり。
始めの方こそ興味深く、また懐かしみながら見ていたものもあったが、今ではただの情報処理の鍵でしかない。
そして再び現れる同じ景色。
大きな寺の大広間のような広い場所、横目には三面鏡のような部屋が鏡写しに続いている。そしてゴチャゴチャとした椅子、机、家具。
そこに無造作に転がっているのは姫の使っている布団か。
これまでの計算では、この光景が出ているということは「あたり」だ。
順調に進んできている。
マヨヒガでは、目線の先を変えれば、視界の外の風景は変化してしまう。
つまり左右に目をやれば目に見える光景が変化してしまうため、視野を正面に固定し続けた状態で歩かなければならない。
だが。
思わず反射的に今見たものを確認するために右を向いてしまう。
永琳の見ている世界が変わる。
世界が鮮明になり、時間の流れが少し遅くなる。
マヨヒガの効果ではない。永琳が戦闘態勢に入ったのだ。
脳内物質が分泌され、その他の五感も研ぎ澄まされていく。
目の端に映ったのは、間違いなくこの空間にあるはずのない結界札。
大広間の柱に乱雑に張り付き、さらにわずかながら霊力を発している。
この手のものを自分が扱うことはない。
故に想起されえない物体。
永琳が霊力を込めなければすべてレプリカになっているはずの物。
故に自分以外の誰かが設置したもの。
永琳以外に誰かいる。
誰が?
決まっている。
八雲紫か、八雲藍か、あるいはその両方か。
既に戦闘準備は始まっている。
両手をほとんど動かさずに、必要最小限の動きだけで服の中に仕込んである劇物を合成し、散布可能な状態にまでもっていく。
荒事があればこれで主導権を握る。
視線の先には三面鏡と化した無限の広間が続いている。
そこに八雲がいる。
相手は気づいているのか?
待ち伏せされているのか?
気づかれていないのならこちらから接触するべきか?
変化の乏しい世界でようやく見つけた小さな変化。
それに縋ろうとしているのだろうか。
正常な判断を下せているのだろうか。
数々の問いが頭を駆け巡る中、出した答えは正しくないルートを進むこと。
それはつまり、目の前の三面鏡の世界に入ること。
永琳がここに来た目的はマヨヒガの突破ではない。
八雲に接触し、月と地上の航路への干渉をやめさせること。
であれば、そこにいるであろう八雲と接触するのが正答であるはず。
意を決し、静かに部屋に入っていく永琳。
部屋の中は外から見た通りの、合わせ鏡の世界。
三面鏡の中の世界を自由に歩き回っているという、少し不思議な感覚を覚える。
ただ何があるかわからない。
まわりの風景を変化させないためにも、固定させている視点を動かすことはできない。
少し進むと、無数の自分が同じ仕草で歩いているのが目に映り始めた。
こちらが止まればあちらも止まる。
なるほど、鏡だ。
鏡の世界を歩くというのも不思議な感覚ではあるが。
そしてその中をさらに20歩。
いた。
見覚えのある導師服。
永夜異変の時に直接対面したことがある、あのいでたちのままだ。
その導師服の妖獣が、鏡で増幅しあって何百といる。
鏡の世界の八雲藍はこちらに気づいているのかいないのか、こちらを見ていない。
永琳と同じように視点を一定にさせたまま、まっすぐ進んでいる。
鏡の虚像ではない、生身の藍を特定すると、そちらに近づいていく永琳。
「八雲藍、であってたかしら。お久しぶりね。」
躊躇なく声をかける。
藍の方もようやくこちらに気づいたように視点をこちらに振った。
永琳の姿を確認するや否や、口を開いた。
「侵入者はおまえだったのか。何用でマヨヒガに入った。
ここは八雲の敷地だ。訪問の報せは受け取っていない。
即座に立ち去れ。」
挨拶など頭から無視し、突然のお前呼ばわり。
明らかな敵対心を抱いている険しい口ぶり。
他所の領域に侵入した不審者を問い詰めるような姿勢の藍であった。
(…白々しい。)
藍の発する言葉の内容は、一見もっともだが、整合性がない。
覗き魔、八雲紫がいるそばで、藍が永琳の動向を把握していないはずがない。
そして永琳が訪ねてきた理由がわからないはずがない。
航路に細工をしている張本人なのだから。
この部屋に誘導するかのように設置してあった札といい、あの言葉は猿芝居のデタラメとみていい。
だとしたら、目的は時間稼ぎか、不意打ちか。
「単刀直入にこちらの用件を言うわね。月と地上を結ぶ量子航路。
あれに手を出さないで。干渉した後を元通りにして、今後そちらから何も手を触れないで頂戴。」
「ん?月?
ああ、あれか。
紫様から、あの航路は外からの干渉に対する障壁が穴だらけで脆弱すぎるからプロテクトを強化しておいた、とお聞きしている。」
以外にも素直な対応だ。
「外からの干渉?」
「幻想郷と外部との通路を設けるのなら、もっと緻密なシステムを構築するようにしてほしいと、散々嘆いておられたぞ。
こちらとしては、幻想郷の管理者として、あの航路の警備を強化したまでだ。従来の機能と差異はなく、そちらの設定した通りに作動する。
だから元通りにはしない方が幻想郷のためだ。要求はのめない。」
この狐…。
問いには答えず、一方的な拒絶宣告。
それだけでなく欠陥品を作り上げた永遠亭の代わりに、八雲が更新しただけだと言わんばかりの言い様。
随分と攻撃的な態度だ。
さらに、確かにあれを構築したのは永遠亭だが、今の状態ではこちらからは内容を正確に理解できない。
なぜなら、紫によって未知の結界術式で膨大な改変がなされ、その上で改変個所を保護されてこちらからの改変を受け付けない箇所がある。
つまり明らかに何かを仕込んでいる。
その張本人の言い分なのだから、看過できない。
「改変した箇所の中に、未知の術式で書いてある部分があるでしょう。あの記述の意味内容は何?」
若干の苛立ちを覚えつつ、詰問するような口調で藍を問い詰める。
「残念ながら、この件は紫様がご自身で全ての術式を更新された。なので私は航路の情報については不関知だ。」
いうに事欠いて、私は知りません、ときた。
お役所仕事か。
いらだちが募る永琳。
「とにかく、紫様の命で侵入者は排除せよ、ということになっている。荒事にはしたくない。
お引き取り願おう。」
「なら外で話しましょう。ここから退くこと自体には、こちらとしては異論はないわ。
とにかくあの記述の内容を詳しく説明してもらうか、削除して欲しいの。
あの航路には手を加えないでほしいの。」
苛立ちながらも、こちら側が譲歩し、とにかく目的を遂げたい。
八雲藍のあの高圧的な態度と、一切警戒態勢を解かないことからも、友好的、といった雰囲気はまるでない。
荒事にしたくないのはこちらも同じだが、こちらにとってもあの航路は姫を地上に隠すための重要な要塞でもある。
譲歩できない部分はできないのだ。
「繰り返すが、紫様にお尋ねしなければ術式の詳細については不関知だ。お引き取り願おう。」
「だったらその紫様を出しなさい。当人だったらいくらでも説明できるでしょう?」
「紫様はお休み中だ。」
「ならたたき起こして連れてきなさい。」
「私にその権限はない。あるのは紫様の休息を邪魔するものを排除する権限だけだ。」
(何なのよこの狐。
獣には自分でものを考える知能がないのかしら。)
いい加減うんざりしてきた永琳。
いらつきやら呆れやら、様々な感情が渦巻く。
この狐と会話する気も失せてきた。
「じゃあ紫はいつ起きるのよ。」
「通例この季節では1週間ほどだ。紫様にお会いしたいのなら、来週そちらに私が言伝をもって伺おう。」
「あんたを介していたら話が進まないのよ。結界の記述を見せるからあんたが説明しなさい。」
半ば喧嘩腰になってきている永琳。
慇懃無礼な振る舞いがいちいち神経に障る。
昨夜から碌に寝ず、神経をすり減らして来た身に、このやり取りは不快極まりない。
以前あったときは、こんな奴だったかしら。
「なるほど。それならば私にでも可能だ。
それであれば双方の要求が叶うかもしれない。」
(あら?あっさり?)
「だが待て、紫様の指令に背くものがないか少し確認させてくれ。」
「はぁ。」
(何なのこの狐。)
藍は拱手に組んでいた両手をほどき、手を顎に当て、考える姿勢を見せる。
まあ良い。話し合いで解決できそうだ。
1週間で事態が進展するのなら、それはそれで良いと思うべきだろう。
十数秒ほどで藍は検索を終えたのか、目をこちらに向け、口を開いた。
「お待たせした。来週私が永遠亭に訪問する件について、約束しよう。
ただ、一つ条件があt…」
(熱っ…!?)
瞬間、永琳は往診鞄を持っていた右手に焼け付くような感覚を感じた。
その一瞬後、鈍い音とともに鞄が吹き飛ぶ。
打撃を受けた。
恐らく右手を後ろから。
蹴り飛ばされた。
右手はもう駄目だ、破壊された。
すべてを理解した永琳は、懐で準備していた劇物を散布すべく、無事な左手を懐の小瓶にとっさに伸ばす。
同時にすさまじい衝撃と激痛が右手に伝わり、ほぼ時を同じくして肩から背中にかけて途轍もない重量がのしかかる。
予想の範囲外の重量に、瞬時に態勢を崩された永琳は、人間の原初の防衛本能を発動させてしまう。
倒れる体を支えようと、瓶に触れる前に手を前に伸ばしてしまった。
そのほんの一瞬の間に劇物を入れている懐を、何者かに触られた感触が肌に残る。
(しまっっ…!!)
永琳も並の人間ではない。
相当程度の身体操作術を習得している。
即座に腕と足と体の連動を切り離し、顔面から地面に倒れこみながらも、再度懐の小瓶に残った左手で触れることに成功した。
そしてわずかな圧力をかけた。
小瓶は割れない。
そんなはずはない。
微力でも割れるように設計してあるはずのガラスなのに。
同時に腕以外は、背中からかかる重圧を裁くために重心の位置を変える。
右足を抜き、態勢をわざと崩し、重力と相手の力を利用して、相手を地に落とす。
はずが。
これだけの力を加えておきながら相手も体を入れ替えた。
相手の力を使ったはずが、それを逆に利用されている。
いよいよ態勢を崩した永琳は、今度は左足を抜き、右足を移動させ、入れる。
倒れてしまえば後はない。
何とか右足が間に合い踏みとどまったが、今度は左手に激痛が走る。
踏みとどまることに意識を割かれた刹那、手の甲のある一点を強く圧迫された。
それだけでも頭の中に白い閃光が走るほどの鋭い痛みを感じる。
初撃で破壊された右手は?
すでに再生がはじまってはいるが、まだ完全には動かない。
思考をめぐらす余裕もないままに1秒にも満たない中で瞬間瞬間で思考を飛ばされ、無防備な状態で体に何度も触れられている。
最後に背中の重圧が消えたかと思うと、今度はすさまじい衝撃が後頭部に直撃する。
命を絶とうとしているか、あるいは相手の後遺症など全く考慮しない、殺意に満ち溢れた脚部からの一撃。
永琳の全世界が一瞬暗転し、停止する。
そのさなか、後ろの襲撃者から術式の詠唱文句が聞こえてきた。
対抗呪文を唱える暇など許さない、完璧なタイミング。
(…やられた。)
「…ってだな、紫様の命によってお前を拘束した後でだ。」
眼前の八雲藍は、よどみなく最後の交渉口上を述べたところで、獰猛な笑みを浮かべた。
もう手遅れだ。
無防備な状態で掴まれた右手と左手は、青白い魔力冠によって覆われている。
拘束呪文のための術式は結界で保護され、並大抵の手段では魔力と結界術の双方を同時に消失させることはできない。
そして最後の術式詠唱によって魔力の効果が生じ、両手は空間に固定された。
永琳は、蹴りだされた態勢のまま両手を固定されてしまっているため、極めて不安定な態勢を余儀なくされている。
未だ正常な思考もままならない。
不老不死でなければ、永琳でなければ、1秒にも満たない時間の中で数度絶命しているほどの鋭い襲撃を受けた。
その襲撃の中、正対していては到底達成できなかったであろう拘束術を両手に施され、こちらの必殺の薬物も結界により厳重に保護されてしまっている。
投げ出された鞄からは、本来は武器として使う予定だった矢尻、薬品が数本こぼれ出している。
衣服に忍ばせていた矢尻も最後まで触れる暇すらなかった。
唯一自由に動く頭部を上げ、眼前の藍を睨みつける。
無様な姿で藍を睨みつける永琳とは対照的に、藍の方は汗の一つもかいていない。
「何のつもり?後先考えられないほどの畜生ではないと思っていたのだけれど。」
「案ずるな。後先すべて考慮したうえでの行動だ。」
せめてもの抵抗と、口を動かしてみるが、形勢が動くはずもない。
身体強化術を入念に施して来たのに、全く対応できなかった。
必殺のはずの劇物も、あらかじめ仕込んでいた場所と効能を知られていたようで、今現在も強固な結界で保護されている。
思えば、あの回りくどい交渉ごっこも予定調和か。
揺さぶり、気が緩んだところを背後から全力の一撃。
さらにこの部屋は三面鏡が如く、永琳も藍も数百人は目視できる。
その全ての虚像を警戒するまでには意識を割けない。
そして何よりも、マヨヒガでは正面から視線を切ることを禁じるよう意識づけられていた。
ようやく背後の襲撃者が永琳の視界内に収まった。
言うまでもなく八雲藍である。
「そっちは式神だよ。」
いうや否や、眼前のおしゃべりだった藍は札に変化し、空しく地に舞い落ちる。
普段ならこんな馬鹿馬鹿しい仕掛けに気づかないはずはない。
「あらゆるところでお前は削られていたんだよ。道具も。心も。身体も。潜在意識も。」
ふてぶてしい拱手の態勢に戻った藍は、すでに脅威は去ったといわんばかりにご高説をのたまう。
永琳の表情を見ながら、永琳の頭の中で渦巻いているであろう疑念、後悔について答え合わせをする。
一言でいえば、永琳は嵌められたのだ。
(次に会ったときは全面戦争ね。
必ず殺して裂いて、九尾の毛皮を作ってやる。)
隠しきれない殺意を振りまきながら藍を睨みつける。
もっとも次があるかどうかは現時点では相当に怪しい。
ただ、永琳を拘束した目的は何か。
この様子だと殺されることはなさそうだ。
もっとも、不老不死の民は殺せないからこのような回りくどい手を打ったのだろう。
漫然と立ち、永琳を見下ろしている藍は、しばしその光景を堪能していた。
月人が首をたれ、不安定に拘束された姿勢で恨めしそうにこちらを見上げ、睨んでいる。
まるで無力な赤子のようではないか。
今ならコレを如何様にでもできる。
その絶対的優位な立場を藍は無表情ながらもじっくりと味わっていた。
「さて、お前には酷だが、ここからが本番だよ。」
藍からの不気味な宣告とともに、両袖の中の藍の手がわずかに振れる。
すると、永琳の不安定だった態勢の戒めが動き、上方に動き、永琳は両手首を高く掲げさせられる。
足はつま先立ちで、地面を踏みしめる力も奪われた格好。
そこから両手首の青白い拘束が、こちらの意志などお構いなしに強制的に水平移動を始める。
それに引きずられ、さながら下手なマリオネットのように、力なく足を前に出す。
一方の藍は囚われの囚人を監視する看守のように、永琳の真後ろから付いてきている。
拘束が空間ごと移動しているため、マヨヒガの中だろうと、最早後ろを振り返ろうとも関係ない。
藍の様子を少しでも視認しようと首をよじってみるが、両腕を高く掲げているこの態勢では十分に首が回らず、はっきりと見ることはできない。
悪態の一つでもぶつけてやりたい気分だが、あまり小物のような振る舞いでこれ以上後ろの狐を喜ばせたくはない。
先ほどの攻撃で受けた傷はすでに再生が終わり、身体機能自体は正常に戻っている。
しかし、手を完全に封じられ、地面を強く踏みしめることができない今の状態では、どんなに藻掻いてみても、ただ一定の速度で進む両手の紋様に引きずられることしかできない。
試しに自由なままの脚を思いっきり振りかぶって、後ろの狐めがけて蹴りだしてみるも、ほとんど手ごたえのない感触が伝わってくるだけだった。
後ろの狐はこの程度の抵抗は意に介する必要もないと言わんばかりに、何の反応もなく、それがまた永琳に屈辱感を与えた。
そのままマヨヒガをなすがままに進み、例の手術室のような場所にまで連れていかれる永琳。
手術室への扉を開くと、それまでのでたらめな光景とはうって変わり、整然とした明るい通常空間に戻されたような感覚に陥る。
ただ永琳にとって普段と異なるのは、これまでに見たことのない奇妙なものがいくつも並んでいることである。
用途のわからない、四角い無機質なものが多数。
あれは探照灯だろうか。やけに小さい。
中央にあるのは洋式ベッドか。
「…何をするつもり?」
これまでとは異なる緊張感を漂わせながら、低いトーンで後ろの藍に聞く。
嫌な未来しか思い浮かばない。
「月の民の生体情報収集だ。」
後ろからの冷徹な宣告に、思わず生唾を飲み込む。
生体情報収集?
まさか不老不死を利用した人体実験…?
「安心しろ、生きたまま刻んだりはしないさ。
妖怪とてそこまで残虐ではないさ。」
心中を的確に読み取り、先回りした答えをはじき出される。
しかしその言葉も半分は本当、半分は嘘だろう。
体の自由を奪って、生きたまま拘束している輩がまともな接待をしてくれるとは到底思えない。
「ただまあ。
…月人は嫌いでね。
生き恥をかいて貰おうと思ってね。」
言うや否や、永琳の両手の拘束が移動し、手術台の二角に固定される。
(この…!クソ狐ッ…!!)
地に足がついたその一瞬、永琳は好機とばかりに、全力で八雲藍の側頭部めがけて足をぶちつける。
ここがおそらく最後の抵抗の期となるだろう。
五体が満足に動くわけではないが、できる限りの事はしておかなければ。
自身の保身のためにも、ここで藍をやらなければ。
鈍い手ごたえとともに、宙を舞う藍の帽子。
この打撃のみでどうにかなるとも思ってはいないが、せめて一矢。
突然の衝撃により、藍の首の角度を変えることに成功し、傲岸な面を右に向かせることができた。
しかし、これほどの攻撃を貰っても、藍は視線を永琳からは切っていなかった。
冷徹な目を永琳に向けたまま、その後の追撃が可能な態勢かどうかを見極めている。
両腕の拘束は外れていない。
今や永琳は手術台に磔だ。
その情報だけを確認すると、平然と永琳に背を向け無防備に床にしゃがみ込み、飛ばされた帽子を手に取る藍。
背面を向けたまま、丁寧に藍のトレードマークともいえる札だらけの帽子を深くかぶりなおす。
紫様から賜った、大切なもの。
月人はそれを足蹴にした。
こいつらはどうしてここまで八雲を虚仮にできるのか。
胸に去来する、どす黒い狂気をなだめながら、いまだ平静を保っている藍。
「構わないさ。」
虚ろな瞳をまっすぐと永琳に向けながら独り言ちる。
全ては無かったことになるのだから。
八雲の記憶を除いて。
無言のまま藍は拱手の姿勢のまま、まっすぐ永琳のそばまで歩み寄る。
その静かな動作を緊張した面持ちで、見つめ続ける永琳。
あまりの藍の無反応ぶりに、恐怖すら覚える。
この妖獣は何を考えているのか見当がつかない。
激昂するわけでもなし。反撃するのでもなし。警戒するのでもなし。
身動きを封じられた永琳の足元まで移動した藍は、両手を両袖から抜き取り、無造作に身動きの十分に取れない永琳の左足首を両手でつかむ。
おもむろに力を込め…。
そして…。
〇○○〇ッ!
日常生活ではまず聞くことのない、形容しがたい異音とともに、何の躊躇もなく破砕。
その激烈な痛みに、永琳は眼前が白くなり、さらに痛みを緩和するために急速分泌される脳内物質の副作用として、吐き気と強い脱力感を味わうこととなった。
(コイツッ!コイツ…ッ!!)
無論抵抗の余地などない。
悪態をつく余裕すら与えてもらえない。
痛み以外の感覚が遮断され、思考もさえぎられる。
吹き出る脂汗を拭うこともできず、その甚烈な痛みに苦悶の表情を浮かべる。
時間がたてばたつほど心臓の鼓動は強くなり、それに伴い左足からの信号は強さを増す。
その様子を表情一つ変えず、冷徹に見下ろす藍。
そして両手と同じように、何の抵抗もない左脚にも青白い足かせを取り付けた。
残るは右足。
再び藍は、ゆったりとした動作で両腕を両袖に隠す。
あらゆる両手の動き、術の兆候を隠す、攻撃のための動作。
永琳を見下ろす冷たい視線も、態勢も能面のような凍り付いた表情にも、何もかもに変化がない。
ただ淡々と、事務処理を行うように、次の作業の準備を始めている。
そして次に行われるであろうことも明らかだ。
永琳はこの妖狐にかつてない恐怖を感じ始めた。
(…嘘でしょ。)
両袖の中で、術式を組み終わったのか。
両手が両袖から抜かれ。
またアレが来る。
今度は右足。
「待って!待って!
もう抵抗はしないから。もう…」
「それで?」
永琳の右足に両手が添えられる。
「待って!それは駄目、」
「すぐに再生するのだろう?」
徐々に力を込められていく。
「違うの、それでも痛いのよ!」
「そうか、それはお気の毒にな。」
(嘘よ、嘘!)
次の瞬間に訪れるであろう、苛烈な苦痛に備えて、覚悟を決める。
歯を食いしばり、目を強く瞑り、全身に力を込める。
………ッ!!
しかしソレは来ない。
代わりに右足には術式が施された感触が起こる。
恐る恐る薄目を開け、自身の右足を確認しても、既に藍は右足からは手を放し、用事は済んだといわんばかりに背を向け見慣れない機器を触っている。
ただ右足首には両手、左足と同じく青白い紋様で飾られ、既に永琳の意志では自由に動かせなくなっていた。
藍の攻撃は、あくまでも術式を抵抗されないために、永琳の意識を散らし、対抗術式に集中できないようにするための行為だったのだろうか。
合理的といえば合理的だが。
理由はともかく、あの激烈な痛みを再度味わう心配はもう無さそうだ。
左足の再生も既に始まっている。
(何のつもりなのよ。)
声に出して、藍に問いただしたかった永琳ではあったが、今は下手に刺激しない方が良さそうだ。
これから何が行われるかも具体的にはよくわかっていないのだから。
現状では、永琳の四肢は手術台に完全に固定されてしまっている状態である。
両手を高く掲げ、両足をまっすぐと伸ばされ、それぞれが台の四隅に向かって伸ばされている。
抵抗しようにも、手足は強固な結界術と魔術で完全に自由を奪われ、藍の思うがままに空間上の座標に固定されてしまっている。
つまり藍がその気になれば人体の耐久力の限界を超える力で手足を別方向に動かすことも容易なのである。
しばらく従順にしておいた方が、その後の対策を考える時間を稼げるというものだろう。
ふと先ほど藍が発していた言葉が永琳の頭をよぎる。
「生き恥」。
考えられる今後の展開はそれほど多くはない。
が。
永琳は自分にとって都合の良い展開を肯定するための材料を並べ始める。
まさか、藍ほど永く生きている妖怪が、自分を凌辱し、辱めるはずはないだろう。
だって、これまでも合理的な行動しかとってこなかったのだもの。
自分の生体データが欲しいのならば、それこそ紫の能力を使えば、空間に干渉をして簡単に調べることができるはず。
そう、だから今から紫が現れて自分の身体をスキャンして終わるはず。
それが一番効率的なのだから。
一縷の希望に縋るために、なんとかそれなりに説得力のある理由を探す。
もしかしたら交渉材料となるかもしれない。
想像しうる最悪の状況になった時に…。
「脚の再生は完了したようだな。」
藍の一言で、思考の渦から現実へと引き戻される永琳。
台に張り付けられた今の状態ではよく確認できないが、藍は複数の器具をトレイに乗せた運搬台車を脇に設置しながら戻ってきた。
「もう想像はついていると思うが。
これからお前を犯す。」
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於マヨヒガ内部。刻限???。
永琳に対して凌辱開始の宣告がなされた。
ようやくここまでこぎつけた。
いけ好かない月人を辱め、弄び、屈伏させる。
主が月面から撤退したあの時からの怨恨。
紫様は何とも思われていないようだが、私は忘れたことはない。
しかし今から月の最高頭脳を意のままにできるのだ。
楽しみではないと言えば嘘になる。
藍の見下ろしている先には、四肢を四隅に拘束された永琳。
冷静を装っているように見えるが、心中は穏やかではあるまい。
いつもの薬師の装束に身を包み、おしとやかに清ましている。
さて、どんな反応をしてくれるか。
永琳は藍の言葉を待っていたかのように口を開いた。
四肢は動かないため、言葉を使って何とかする他ない。
「待って!
貴女の目的は情報なのでしょう?できる限り協力するわ。
そっちの方がいろいろと伝えられることも多くなるはずよ。
何も力ずくでやる必要はないと思うの。
少しでも多くの情報を得られた方が貴女の任務にとっても益になるはずよ、そうでしょう?
だから…」
「黙れ月人。」
威圧的に一言だけ告げ、そのまま永琳の顔に手が届く距離にまでに横から近づく。
この期に及んでもべらべらと口うるさい。
逃げ惑うウサギのようにおびえていれば多少は可愛げがあるものを。
狩られたものの末路は捕食者に喰われる以外にないのだ。
おもむろに永琳の服の胸元に手を置く藍。
そしてそのまま乱暴に胸元から裾までを爪で引き裂いた。
(ッ……!)
全面が左右に大きくはだけられる永琳のシャツ。
そしてそこに隠されていた大人びた黒い下着が、惜しげもなく露にされてしまう。
なるほどこれは官能的だ。
赤と黒の薬師衣装と同じコントラストの下着。
戦闘用のものなのか、生地は薄く、内側をカバーするパッドはあてがわれていない。
そしてそれに包まれているのは、布地に押さえつけられ、締め付けられている乳房。
激しい動きに耐えられるようにするためか、強めに戒められて、その圧迫にたえきれなくなった豊満な柔肉がこぼれてそうになっている。
もともと藍も、その主も、比較的大きめのふくらみを所持している。
しかし眼前のそれは、自らのものと比してもさらに大きなボリュームを誇っている。
その生意気な双丘を見下ろしていると、嫉妬と軽蔑の入り混じった感情が藍の胸中にもたげてくる。
(チッ、品のない。)
でかけりゃいいってものでもないだろう。
気に入らない。
外気に晒された黒い下着を隠そうと、本能的に腕を動かそうとする永琳。
だが、藍による術式がそれを許さない。
最早逃れることも、説得することも不可能であることを悟った永琳は、赤面ししつつも睨みつけるような視線を目の前の妖怪に送り続ける。
しかしそのおびえるような視線は藍を高揚させる効果しか持たなかった。
あの八意永琳が眼前で羞恥に悶え、身体を守ることすらかなわずただ恨めしそうに睨むことしかできないという状況。
そしてその支配者が自分であるということに、藍は興奮を隠せなくなっていた。
「まるで乙女のようだな。下着を見られるのはそんなに嫌か?」
「…………。」
小馬鹿にするような藍の問いに対し、永琳は口を真一文字に結び、藍を睨み返している。
なるほど、徹底抗戦の構えということか。
願ったりかなったりだ。
藍の手が永琳の首筋に触れる。
優しく、触れるか触れていないかの瀬戸際の強さで。
咄嗟に息をのむ永琳。
見られていると思えば思うほど、肌を人前に晒しているという意識が強く働き、さらなる羞恥心を感じてしまう。
そうして高められた官能のためか、永琳は柔らかく体に触れられるだけで徐々に身体が反応し、体の奥から熱いものがこみあげてくる。
藍のタッチは首筋から段々と下へと降りていき、鎖骨を経て胸へとたどり着く。
さきほどの襲撃の様とは対極的に、女性の肌感覚を引き出すことに特化した手つき。
それも随分と手馴れており、永琳の身体の反応を見ながら様々な箇所に触れていく。
先ほどまで能面のようだった藍の表情も、今では紅潮しており、熟れながらも均整の取れた永琳の肉体の感触を楽しんでいるようだ。
藍は薄手の生地に覆われる永琳の胸の一番敏感な部分にはあえて触れない。
藍の指の降下は、一旦胸を通り過ぎ、腹部に達したかと思えば、そのまま引き返してまた胸へ。
そして脇腹、腕。
あらゆる個所を嘗め回すかのように藍の手が這いまわる。
呼び起されていく永琳の女に呼応するかのように、永琳の肌が泡立つ。
表情にこそ出しはしないが、きめ細かい肌の反応を見る限り、明らかに藍の指を味わっている。
その様子を委細観察している藍。
永琳の身体の反応、表情の変化。
まるで舐りまわすかのような藍の視線を途絶させるべく、永琳はキッと目を閉じた。
数分にわたり一通り永琳の肌の触感を堪能した藍は、未だ布地に守られつつもひと際主張の強い永琳の胸に狙いを定めた。
これまで振れるか触れないかの強さに執心していた藍の手先が、おもむろに乱暴な動きへと変わる。
永琳の豊潤なバストを強く揉みしだいた。
「ふぅっ……!」
突然の動きの変化に、思わずうめき声とも嬌声ともつかない息が永琳の口から洩れる。
「どうした?変な声を上げて。」
ここぞとばかりにそれをからかう藍。
嗜虐心と支配感から、藍も相当に興奮している。
永琳の段々と変化していく様子に比例して、藍の手つきも段々と刺激の強いものへと変わっていく。
しかし、胸の先端部の突起にだけはあえて触れようとしない。
乳房を揉みしだき、敏感な部分を焦らすかのように、その周辺部のみを撫で続ける。
両手でそれぞれの乳房を持ち上げるように両の掌で支え、全体を包み込むように永琳の体温を味わう。
そうしているうちに、薄手の生地のブラジャーの先端に形状が浮き上がってきた。
藍の手による愛撫が永琳の秘めたる感覚を呼び起こし、体の反応として表れてしまっている。
永琳は自分で気づいているのだろうか。
「こういった行為はご無沙汰なのか?
随分と気に入っているようだが?」
「……。」
藍の言葉にも完全黙秘。
何の反応も見せないことで、最後に残ったプライドだけは守り通そうとしているようだ。
それならそれで楽しめそうだ。
どこまでその籠城が続くか試してみよう。
「ココは嬉しそうに反応しているじゃないか。
まだ触れてもいないのにこんなになって。」
言うや否や、薄手の下着を持ち上げる生意気な突起を、ブラジャーの上から軽く触れる。
指をかすめるようにして触ってやると、その刺激から逃れるように永琳は身体をくねらせて抵抗する。
ただ体幹の動きは、指先ほど繊細ではない。
悠々とその突起に狙いを定め直し、執拗に軽い刺激を与え続ける。
永琳も咄嗟の身体の反応を制御しなおし、凌辱者を喜ばせるだけと無駄な抵抗をやめ、藍の攻撃を甘んじて受け入れるほかなくなってしまっている。
藍の容赦のないタッチに、永琳の胸の先に色づく部分は屈し、みるみるうちに硬さを増していく。
触られる感触から、永琳も自分の乳首が勃起し始めていることに気づくが、抵抗のしようもない。
ただひたすらなすが儘に甘い感覚を甘受しつづける羽目になる。
その間も藍の器用な指先の動きに翻弄されつづけた永琳の乳首は、永琳の意志に反してただただ硬さを増していく。
その様を眼前で藍に観察されていると思うと、羞恥に犯しぬかれているかのような感覚を抱く。
「……!!」
突然そそり立っていた乳首を藍に強くつままれる。
布の上からとはいえ、これまでの焦らすような感覚から一転して、するどい刺激が走る。
蓄積する喜悦を体内だけにとどまらせておけないというほどではないが、さきほどまでよりも明らかに十分な快感が永琳に遅いかかる。
何とか表情を崩すことなく、声を出すこともなく平静を装い続ける永琳。
「そろそろ服の上からだともどかしいんじゃないか?」
「……」
「沈黙は肯定の意思と見做すぞ。」
「……」
断固沈黙を貫く永琳。
もし口を開くと同時に、藍が指の動きを変えれば、思わず嬌声が漏れてしまうかもしれない。
そんなことになれば……。
唯一永琳が行える抵抗の裏にはそんな計算もあった。
いずれにせよ永琳にできることは、徹底して藍を無視することのほかにはない。
そんな永琳の胸中などお察しと言わんばかりに、藍は永琳の羞恥心を掻き立てる。
「ハハッ、この好き者が。」
言うなり、永琳の胸を覆っていた下着の中心に指をかけ、一気に引きずり上げる。
その反動で、押さえつけられていた乳房が解放されたとばかりに、大きく揺れながら外気にさらけ出される。
十分な大きさを持ちながらも、ピンと張りつめ、横に崩れ落ちない張り。
これまでの藍の手により敏感さを押し上げられ、それに抗する結果として、しっとりと滲む汗。
そしてそれらの頂点で薄く色付き、硬さと柔らかさの両方を体現しながらピンと立ち上がっている桜色の突起。
「美しい」と形容するのが最も単純かつ十分ではないだろうか。
永琳の両胸を見ると同時に、藍が思わず抱いてしまった感想はそれであった。
と同時に、強い加虐心に駆り立てられる。
藍の心に生まれた一抹の羨望を否定するかのように、乳首を両手の二つの指でつまみ上げる。
つまみ上げ、擦り上げ、はじき上げる。
この美の極致ともいえるような部位を、自身の意志で思い通りにねぶることで、優位感を保とうとしているのだろうか。
パンチングボールよろしく、どれだけ弾こうとも戻りかえってくる乳首を相手に、藍は徹底的に指で転がし、引っ張り上げ、時には押し込む。
痛みを感じさせないギリギリの力加減で、ただ快楽だけを呼び起こすために、藍は自身の持つ技術を最大限に目の前の女にぶつける。
その乱暴とも繊細ともいえる動きを、敏感な乳首に数分と受け続けなければならなかった永琳は、徐々に息遣いが荒くなり、また眼前の凌辱者から逃れるように顔を背ける。
顔色を変えまいと必死の抵抗を見せていた永琳の表情にも変化が訪れ、何かに耐えるように眉根を寄せている。
ただ無残にも、いくら耐えたところで蓄積する快楽が止むことはない。
崩れ始めた永琳の反応をじっくりと観察しながら、それに応じて藍は刺激に慣れてしまわないように攻め立てる箇所と方法を変化させる。
乳房全体を覆いつくすように、隙間なく、乳輪も、その先で喜びに震える乳首も、絶え間なく隙間なく、指先で弄び続ける。
そんな中。
左手は乳房を刺激しながらも、右手が動きを変える。
少し強めに先端を摘み上げ、永琳の顎をわずかに浮かせたのを皮切りに、触れる箇所が下へと降りていく。
「……!?」
脇腹を超え。
腹部を超え。
今度は戻らずそのまま腰を超え。
外太ももへ。
未だ永琳の下半身は、薬師装束と下着で厳重に守られている。
それが脅かされようとしている。
永琳の唇がわずかに動き、何かを訴えかけようと一瞬開いたが、思い返したかのように再び強く閉じられる。
藍はそれを視認しながらも意に介せず、上着の上からもどかしいばかりの刺激を与えるべく五指を使って脚の上で蠢かせる。
藍の攻めの変化に伴い、永琳は強く内太ももに力を込める。
決して破廉恥を見せないよう、脚が恥ずべき外旋をしないよう、最も秘すべき部分を守るよう。
一方で藍の手もなかなか動きを見せない。
臀部を触るでもなく、内またに潜り込むでもなく、ただ太ももを撫でまわしている。
その間も左手による乳房への刺激は忘れない。
「そろそろココにも欲しいじゃないか。」
下卑た笑みとともに発せられる問い。
来た。
最後の砦を陥落させに。
「それはやめて、お願い。」
これまで眉根を寄せて目を強く瞑り、口を真一文字に結んでいた永琳が、こちらを凝視しながら嘆願するかのように口を開いている。
無言による抵抗を貫くとばかり思っていたところに、意外な反応。
そこまでの乙女心を未だに保っているのか、それとも誰かに操を立てているのか。
どちらでも良い。
「残念だが。」
藍の右手が永琳のスカートの腰回りにかかる。
永琳の下半身を隠す邪魔な布地を奪い去るために。
そのまま力任せに引きずりおろそうとした瞬間、あれだけ閉じ合わせられていた永琳の脚部が外旋し、大腿部が大きく開かれる。
開かれた脚部は肩幅を超えんばかりだ。
足首は術式により固定されているが、数少ない可動域である太ももだけを動かした永琳。
なるほどこれでは永琳の袴を下におろすことはできない。
正真正銘、永琳による最後の抵抗だった。
「やめて、お願いよ。」
つぶやくようなか細い嘆願に、藍は並々ならぬ愉悦を覚える。
あの八意永琳が自分に弱弱しく懇願している。
まるで自分が生殺与奪を握っているかに思えるような状況に、藍も興奮を隠しきれず体の奥に熱いものを感じてしまう。
だが永琳の情に訴えかけるような懇願も、今の状況では藍の嗜虐心を煽り立てる結果にしかならない。
むしろ、大きく開いている開脚部を隠す永琳のスカートを剥ぎ取って、その破廉恥な姿を目に焼き付けてやりたいという衝動に駆られる藍。
左胸を触り続けていた手を、そのままスカートのベルト部分に移動させ、両手で鷲掴みにする。
有無を言わさずそのまま引き裂かれる、永琳の薬師装束。
永琳がプライドを放棄してまで守り抜こうとしていた箇所があっさりと、無残にも藍の眼前に晒される。
スカートが引き裂かれる瞬間、察知した永琳は慌てて元通りにぴったりと両脚を閉じ、これ以上の狼藉から最後の砦を守ろうとしたため、
望みの姿を見ることはかなわなかったが、それでも永琳の肌を隠す最後の布が外気に直接さらされることとなった。
装束に合わせてコーディネートされた、少し派手目な黒い上下。
永遠亭で生活を共にするもの達ですら、まず見ることのない永琳の下着姿。
藍はそんなことを知る由もないが、今はその扇情的な姿を視姦することを楽しんでいた。
全体的に肉付きが良く、女性的な体つきをしている中でも特に目を引く胸部は、哀れにも既に藍の手によって曝け出され。
腕を完全に拘束されているために、隠すこともかなわないその先端では、藍が執拗に施した凌辱の跡として、淡い桜色の乳首が硬くしこり立っている。
丹念に手入れされている脇。
女性らしい脂肪をうっすらとまといながらも、豊かな胸部と腰部とは対照的に細くくびれた腰回り。
そこは汗でしっとりと濡れ、荒い呼吸とともに上下する横隔膜の動きに合わせて、生命を感じさせる運動を続けている。
そして。
今晒された、派手目な黒いショーツに覆われた永琳の最後の場所。
そこを懸命に守ろうと、ぎこちのない動きで強く閉じられている両脚。
陥落寸前でありながらも、最後まで必死に抵抗を続けている動きに、永琳の強い乙女心と覚悟を感じ取れる。
その先端の足首は、これまた藍によって施された術によって青白く光り、空間に固定されている。
つまり、藍の意志一つでこの位置は如何様にも変化させることができる。
藍の意志一つで、永琳の最後の抵抗を、難なくこじ開けることができるのだ。
藍はたっぷりと永琳のあられもない姿を楽しんだ後、やおらに背筋を伸ばし、拱手の構えに戻った。
霊術、妖術、結界術、魔術、体術、あらゆる種類の術を使う前に取る、藍の予備動作。
自分の身体を嘗め回すように触れていた藍が、ゆっくりと離れていくのを見ていた永琳も、この姿を見て次に何が起こるのかを察知する。
藍の顔にはいつもの冷静さはない。
どちらかというと、主の尊大で不遜な笑みにも似た表情を浮かべている。
羽をもがれ、逃げ出す術を失った小鳥を弄ぶ子猫のように。
無邪気故に邪悪な目で永琳を見下ろしている。
懇願も駄目。抵抗もできない。逃亡もかなわない。説得などもってのほか。
万策尽きた永琳は、ただ弱弱しく藍の瞳に訴えかける。
藍はその眼差しを受け止めながらも、淡い消え入りそうな希望を打ち壊すかのように、右手を左袖から抜き取った。
そして人差し指を立て、永琳に向かって手のひらを向ける。
これはお伽噺ではない。
藍は心変わりなどしない。
紫に命と許可をもらっている。
助けも援軍もなく、変化もない。
ここはマヨヒガ、八雲のテリトリー、藍の作り出す隔離空間。
故に、藍の指先の動きを阻止するものは何もなかった。
永琳の一縷の希望を払い去るかのように、藍の右人差し指がわずか数センチ、右方向に空を切る。
それに伴い、永琳を拘束している左足の枷が、左方向へと大きく動く。
同様に、藍の指が左に動く。
それに伴い、永琳の右足が右方向に大きく動く。
永琳も医者だ。
何度となく手術を行ったこともあるし、助産を行ったこともある。
その際に患者に開脚させることもある。
それでも、現在の永琳の恰好は医療の場ではありえない。
治療行為のためには、ここまで脚部を開かせる必要がないからだ。
この手術室では似つかわしくない格好。
ただ女性を辱めることのみに主眼を置いた、無残なまでの大開脚を永琳は強要されている。
永琳の両股の角度はゆうに100度を超え、120度をも超えている。
そして両足首は、藍の意志によりご丁寧にも少し高く持ち上げられ、これ以上ないほどの羞恥のポーズを取らされている。
自らの秘部を他者の視線から遮るものは、今や頼りない黒い布切れ一つ以外には何もなく、むしろ下着は他者の視線を集め、楽しませるアクセサリーとなってしまっている。
藍はこれ見よがしにゆっくりと永琳の前へと移動し、しゃがみこみ、最も見られたくない場所をまじまじと観察している。
凄まじい羞恥心に脳が焼き切れそうになる永琳は、あまりの恥ずかしさに自分の姿を直視することもできず、ただ顔を背け、目を強く瞑っている。
その様子を藍は満足そうに眺めながら、数十秒にわたって厭らしい視線を永琳の股間部に集中させ、それを永琳にも意識させた。
黒い布地により隠されているため、直接観察することはできないが、おそらくその内部では女性器が何とかして外部からの侵略を防ごうとして、
うごめいているのだろう。
それとも、既に受け入れる準備を始めているのだろうか。
にわかに立ち込めてくる、永琳の汗と、さらにそれとは別の甘酸っぱいにおい。
この距離にまで接近すれば、藍の鋭敏な嗅覚では容易に補足することができた。
まだ下着を濡らすほどにまで溢れてきているわけではないが、その中ではそれなりの量の液が分泌されているに違いない。
「月人は穢れを避けるようだが、随分とスケベだな。
触ってもないのに、もうパンツが黒ずむほど大きなシミを作って。」
藍の発する言葉に永琳は目に見えて顔を赤らめる。
隠すことのままならない部位をこれでもかというほど観察された挙句、自分が性的に興奮している証拠を言葉で指摘され、
突きつけられる。
本当は小さな染みすら確認できていないのだが。
「中を確認したらどうなっているんだろうな?」
さらに煽り立てるような藍の言葉に、はっと目を開き藍の手の行き先を確認してしまう永琳。
しかし、目を開けたことによって、自身がどんな羞恥のポーズを強要されているかを今一度確認することになってしまった。
うっすらと涙を浮かべながら再び目を強く瞑る永琳。
もはや永琳は藍に言われるがまま、なされるがままで何も抵抗できなくなっている。
抵抗したとしても、ただ大きく開かれた股間部をはしたなく上下左右に揺さぶる事ぐらいしかできず、それは藍の眼をさらに楽しませることにしかならない。
それならば現状維持を保つほかない。
もっとも、それでも死ぬほど恥ずかしいのだが。
永琳が屈辱に打ちのめされているのを十分に感じ、それに満足する藍は、次なる行動に入った。
永琳を守る最後の布切れのクロッチ部分を人差し指で持ち上げ、秘匿すべき肉に外気を味わわせる。
今永琳の秘部を隠している下着ですら、藍の意志によって如何様にでも取り去り、陥落させることができる。
この事実を否が応でも永琳に実感させるために。
藍が股布を持ち上げたのは一瞬だけであったが、それだけでも、眼前の凌辱者はどこまでも手加減する気などないことを永琳に覚悟させる。
さらに2度3度と、さも楽しそうに藍はパチンパチンと音を立てながら、その部分を引っ張り、離す。
永琳の弱くも荒い呼吸音の他は総じて静寂であった部屋の中に、永琳の股間と伸縮性のあるパンティーのゴムが奏でる音が響き渡る。
おもむろに藍の右手が、永琳の内太ももに触れた。
まだこの場所には一度も触れてきていない。
同時に、他者が容易に触れられる箇所でもなかった。
事実、過去永琳のこの鋭敏な場所に触れたことがあるものなど、両手で数えるほどもいない。
その一人に藍が加わったことは、新たなる侵略を告げる合図でもあった。
相変わらず藍の指の動きは、繊細でかつ官能を引き出すことのみを意識したものであった。
大きく広げられ、阻むものなど何もない永琳の股関節一帯に、隙間なく途切れなく五指を這わせる。
左太ももから外大腿部に。
そのまま腹部まで上がり、今度は右脚部へ。
右足をじっくりと堪能するように撫でまわした後は、両脚の付け根に藍の指が向かう。
だが肝心な部分には触れずに素通りしてまた左足へ。
じっくりと焦らすように、弱火で煮込むように、十分に永琳の意識を下腹部に集中させる。
触れるのか触れないのか、いつ触れられるのか。
永琳には一切の動きがなく、おねだりするかのようにはしたなく腰を揺することもなく、口を開くわけでもなく。
ただじっと耐えている。
その中にも微妙な表情の変化、肌の変化が生じることを、藍の眼は見逃さない。
どれだけ嫌がろうとも、その中で生き恥を晒させるために、無理やり永琳の性を押し上げていく。
ただいたずらに脚部を往復していた藍の手が、ついに永琳の中心に触れた。
きわめて軽く、触れたか触れなかったかわからないほどに。
そしてそのまま通過するかのように指を移動させるかのように思った瞬間、藍の指は再び足の付け根に戻り、永琳の中心部を人差し指と中指の腹で再度捉える。
二度三度とパンティーの上から強めに押し込み、揉みこむような動きを見せた後、また指は離れていった。
離れていったっきりなかなか戻ってこない。
時々左右を往復する手が股間部に触れるが、中心部からは外れた外側を通過していく。
これには永琳も憔悴している。
突然これまでにない強い刺激を味わった後に、来るのか来ないのか、予測できない動きが繰り返され、その間にも大腿部を撫でまわされ、官能を高められ続けている。
いつの間にか、藍の指が次に秘穴の上を通過するのを待ち望んでいるかのような考えが頭の中に浮かび上がってきていたのに気づき、永琳は慌ててそれを消し去る。
こんな獣の指などには屈しない。
決して欲しがったりはしていない。
そんな永琳の逡巡を見透かすかのように。
(はぅ……ッ!!!)
来てしまった。次の藍の指が。
やっと来た…!
などとは思っていない。
こんな幼稚な、たどたどしい指使いで月の頭脳の熟れた体を追いやる事などできない。
また二度三度の揉みこみで、永琳の秘密の穴の上から立ち去っていく藍の指だったが。
今度は足にまでは移動しない。
永琳を飾る最後の下着と肌の境界を執拗になぞり続ける。
その黒と桃のコントラストを比較するかのように。
藍の指は大腿部の肌ではなく、ついに永琳の両脚の付け根の素肌を楽しみ始めた。
未だ黒のショーツで守られているため、露出している肌自体は少なめだが、そのあらわになっている素肌だけを舐るように徹底的に撫で始めた。
永琳としてはたまらない。
否が応でも女性器への刺激を意識せざるを得ない。
やにわに藍が永琳の股間部の間に身体を入れ、腰を落とした。
目をつぶっている永琳もその気配を察し、薄目を開け藍の姿を確認する。
すると。
藍は永琳の陰部を至近距離で観察しながら右手でソコを弄っている。
おそらくあの態勢だと藍の視界のほとんどが永琳の黒い下着と、そこから漏れ出る肉体で埋め尽くされていることだろう。
脳の焼き切れるような羞恥を感じながらも、何の抵抗もできない永琳はただ目を閉じて、その光景を脳から追い出すことしかできなかった。
一方の藍は、これまでの永琳の身体の反応から判断して、そろそろ本格的な責めを展開し始めようかと思案しているところであった。
永琳に恥辱を与えつつ、ココにも満足のいく刺激を与え、乱れさせる。
そしてプライドを崩したうえで、恥も外聞もなくあられもない姿をさらさせた後、任務を遂行する。
幸い、永琳の身体は思ったよりも反応が良い。
言い換えれば永琳は思ったよりスケベだ。
想定より少し長く遊べそうだ。
そんな計算をしながらも、藍は永琳の観察を怠らない。
鋭敏な嗅覚は、永琳の恥液を検出しているが、未だに下着に浮き出てくるほどではない。
さすがに直接弄らなければだめか。
そう結論付けた藍は、永琳の最後に残されている黒い下着に向かって最後の侵攻を開始した。
永琳の布地は、最も秘すべき部分を藍の視線から守るという点においては、大いに役割を果たしていたが、
所詮は永琳の秘部に、張り付いているだけの布切れである。
指でズラせばあっさりと陥落する。
しかし、あえてそうはしない。
永琳を脳の髄まで犯すためにも、藍はゆっくりと指先をその布地の内側へと潜らせ始めた。
それに伴い、黒で守っていた面積が肌色に侵食されていく。
藍は両手の親指で、クロッチ部分に左右から中央に向かってゆっくりと指を這わせ、円を描くように揉みこんでいく。
永琳からすれば堪らない。
陰部を揉みこむような動きで、だんだんと最も大切な部分に向かって両側から藍の指が近づいてきている。
このままではほんの十数秒後には、中心部に到達してしまう。
いよいよ覚悟を決めるしかなさそうだ。
藍は永琳の鋭敏な部分の感触を確かめながら、指を進めていく。
既にかなりの熱を持っているため、かなりの興奮状態に陥っていることは容易に読み取れる。
…おや?
ようやく目の前のパンティーの中央部に黒い染みが出てき始めた。
反射的に、その中央部を弄り倒したくなる衝動に駆られるが、抑え込む。
恐らく今の状態で永琳の秘部を閉ざしているであろう肉唇を左右に大きく開くと、ナカにとどまっているであろう液が一気に外に漏れだし、
染みは一気に大きくなるだろう。
ただそれは直接見ながら、その様子を言葉にして永琳にぶつけてやりたい。
仕方がないので、今の作業は中断して、もっと直接的に弄ることにしよう。
藍は指を下着の縁から抜き、今度は中央部から少し上の個所に狙いを定めた。
間髪入れずにそこを右手の親指で押す。
おそらく永琳の秘豆が隠されているであろう場所を。
突然の刺激の変化に、永琳は一瞬腰を浮かす。
まだ強い刺激は与えていない。
親指の腹で撫でているだけ。
それでも、女性が快楽を得るためだけに準備されている器官を刺激されているのだから、たまったものではない。
ついに来た本格的な性感に、永琳は戸惑いながらも眉根を寄せて耐える。
永琳を女にして悦ばせているそこを、藍は軽く撫で、時々指の腹で弾く。
すると、隠されていたはずの陰核のありかが、だんだんと下着越しにでも明らかになってきた。
まさか自ら淫撃に晒されに来るとは。
そんなに快楽を貪りたいのか。
それでも快楽の中枢に強い刺激は与えてやらず、代わりに上半身で起立している突起を左手で弄ってやる。
左手を伸ばしたことにより、藍の顔はさらに永琳の股間部と近づいてしまい、思わず目の前のソレを藍は嘗め上げそうになる。
藍も粘膜同士の感触を楽しみたいと思うほどにまで興奮してしまっている。
そのままたっぷりと下着の上から永琳の股間を集中的に撫でまわして数分後。
そろそろ頃合いか。
目の前の布切れがもう邪魔になってきた。
直接中を確認しながら徹底的に穿り抜き、永琳を観察しながら分析し、そして永琳にあられもない嬌声をあげさせてやりたい。
蓋を開けてみると、永琳の女性器が興奮しきって大口を開き、だらしなくよだれを垂らしながらこちらを大歓迎していたりしても興ざめだ。
あと数分弄り続けると、そうなりかねない。
藍自らの経験に照らしてみても、それほどまでに永琳は刺激に対して我慢弱い。
この女にはあくまでも妖獣による凌辱に耐える月人を演出してもらわねば。
「さて。――――――」
全ての手の動きを突然にやめてしまった藍は、おもむろに立ち上がる。
そして再びいつもの拱手の姿勢。
大股開きになっている永琳のそばを通り、診察台の横に置かれている機器の前にまで移動する藍。
そこで何やら操作をすると、照明がついた。
手術中などに使われる無影灯。
非常に明るく、細部を観察するために使われる照明。
つまり、今何も隠すことのできていない永琳の恥部は、これからさらに藍によって詳細に観察されることを意味している。
永琳も目をつぶっていたとはいえ、突然の照明に何が起こったかわからず、当惑している。
しかし、自らの下品な痴態が、さらに淫靡な照明によってライトアップされていることを飲み込むと、すべてを理解したかのように藍を見つめた。
藍は相も変わらず、その主と同じような笑みを浮かべている。
藍は捕食者、永琳は囚われの獲物。
文字通り微塵も隠れることなどできなくなっている。
拱手の捕食者は、再び永琳の股前にまで戻ってきた。
「―――――そろそろ本番といこうか。」
言うや否や、藍は自身の爪を剥き、永琳の最後の下着の両サイドに引っ掛けた。
そのまま鋭利な爪で、布を裂くように一閃させる。
―――――ハラリ。
抗弁の間もなく、抵抗の術もなく。
永琳の身体を守っていた、正真正銘最後の一枚が、藍の爪によって引き裂かれ、あっさりと、無残にも床へと舞い落ちた。
そして今、無影灯の前に曝け出されているのは永琳の秘すべき女の場所。
美しく形を整える胸部も、その先に色づく蕾も。
丹念に手入れがなされ、永琳の女性器の周りを彩る銀色の陰毛も。
凌辱を受けているとはいえ、未だに清純を誇示するかのように、ぴったりと閉じられたままの陰唇も。
全てが淫靡な明かりのもとに曝け出されてしまった。
とはいえ、永琳も大きく左右に足を割り開かれている中でも、性器のさらなる内側の秘粘膜を容易にさらすような真似はしていない。
先ほど藍からの攻撃を受けていた豆も、場所の主張こそすれ、包皮から顔を出すような、はしたない様子は見られなかった。
凌辱者の責めに屈して、興奮しきってだらしなく大口を開けて異物の挿入を心待ちにしている、そんなふしだらさは微塵も感じ取れない。
しかし永琳の興奮の証として、わずかに内から漏れ出した分泌液によって、表面はヌラヌラと無影灯を反射していた。
「ココを。
こんなにもあっさりと他人に観られるのが信じられないか?」
「……」
「あられもなく大股を開かされて、オンナの最も秘すべき部分を暴き出されて。
普段のお前なら想像だにできないだろう?」
「……」
「それが今やコレだ。
月のリーダーだかなんだかしらないが、随分とみっともない恰好じゃないか。
丸見えなんていうものじゃないぞ?
乳首をはしたなく尖らせて、まんこからはダラダラと涎を流して悦ばせて。
お前のペットのウサギにも、この格好を見せてやりたいもんだ。」
「……」
(だんまり、ね。)
おそらく永琳に許された最後の抵抗、黙秘。
ならば。
その抵抗もできなくなるほどに辱めてやろうじゃないか。
藍は躊躇うことなく永琳をさらに恥辱に貶めるべく、永琳を守っていた秘粘膜を両の指で大きく捲り返し、最奥を無影灯のもとに曝け出させた。
その途端に、中にためられていた蜜が零れ落ち、永琳の銀色の陰毛を淫靡に彩ることとなった。
たとえ外見上は慎ましく澄ましていようとも、秘粘膜の内側は収縮をひくひくと繰り返し、大量の汁をしたたらせている。
煮込むようにして永琳の官能をあおり続けた結果として、ピッタリと閉じていた内側には我慢しきれないほどの淫蜜を隠していたのだ。
溢れた熱い蜜が垂れ落ち、そのままありの門渡りを超え、アナルにまで熱を伝える。
途端にあたりに漂う、淫臭。
ツンと酸っぱいにおいが両者の鼻を衝く。
その感覚のあまりの羞恥に顔を紅く染めながらも、必死に顔を背け、口を閉ざし耐える永琳。
そんな光景を観察しながら、そこに藍は二本の指を一まとめにして尖らせ、そのまま永琳の穴に突入させた。
「あうぅっっ!!」
これまで口を堅く閉じ、声を上げまいと頑張って着た永琳であったが、本丸への攻撃に耐えきれず思わず声を上げてしまう。
挿入された深さは、第二関節ほどまでで、決して奥までは届いていなかったが、それでもそれまでの焦らすような攻めとは異なる動きで永琳を攻め立てる。
藍は白昼のような明るさの照明のもとで、じっくりと永琳の股間部を凝視し、表情を読み取り、内部の様々な部分を探している。
熱い吐息を漏らし続けるさなか、ひと際息をのむように永琳の上顎が上がる箇所をいくつか探り当てる。
藍の探るような手つきに合わせて、永琳の下半身は無意識のうちにも時々跳ね上がる。
そのまま指での浅いストロークを繰り返しながら、丹念に永琳の弱点を探索する藍の指。
入り口付近のみとはいえ、それまで直接刺激されてこなかった陰部に本格的な激しい刺激をくわえられ、嫌が応にも感じてしまう永琳。
焦らしに焦らされたところに、待ち焦がれたような快感を叩き込まれ、埋め込まれ、すんでのところで永琳は嬌声を上げないように耐えている。
いくつかのツボを押さえた藍の右手は、探るような指使いから変化し、永琳の弱点をひっかくように強く指の腹でこそげ上げていく動きへと変わった。
その衝撃から何とか逃れようと永琳は下半身を揺さぶるが、容易に藍により空しく追撃されてしまう。
「なんだ、お楽しみのようだな、そんなにはしたなく腰を振りたくって。
指を咥えこんで早々おねだりとは、
もう少し恥じらいを知ったらどうだ?」
永琳としては、少しでもこの強烈な快美感から逃れるための運動なのだが、外から見れば確かに快感を貪るように腰を振っているように見えなくもない。
もちろん藍も、永琳の腰使いが指から逃れようと動いているのは百も承知だが、羞恥を植え付けるためにわざと煽っている。
その間にも藍の指は休むことを知らない。
抜いては浅く挿入しなおし、永琳が刺激になれないよう天井部分を、下の方を、入り口だけを、徹底的に擦り上げる。
そんな攻防を幾度となく繰り返しているうちに、ますます永琳の奥からは蜜があふれ、そのまま藍の指の抽送とともに外側へと掻き出されていく。
結果として、クチュクチュという音を奏でながら、むせ返るような強いニオイがあたりにも立ち込める。
「はぁっ、ぁぁ…、うううっ」
冷静な目つきで永琳を観察し、これからの準備を進めている藍はそのまま数分にわたって一定の動きを継続し、永琳の浅い部分を調べ上げていた。
永琳はその藍からの刺激に耐えきれず、すでに断続的に声を上げている。
永琳が刺激に慣れてしまわないように、藍は逐一掻き上げる位置を少しずつ変え、さらに持て余していた左手を参加させた。
そして今や涎をたらして喜んでいる穴の上部にちょこんと顔を出している、最も鋭敏な部分を申し訳程度にからかってやる。
「ひぅ!?んうぁぁ…!」
突然の新しい刺激に成すすべもない。
嬌声とともに永琳の身体は悶えるようにあわただしく動かそうとしてはいるが、四肢の拘束がそれを許さない。
指先から伝わる熱は熱湯に使っているかのような熱さで、藍の指をきつく食い締めている。
ぬかるみに入れているかのような粘着質な感触も気にすることなく、容赦なく永琳の膣に藍の指により抽送が続けられる。
探求の指は段々と永琳の膣深くにまで侵入しようと、上下運動の幅を広げてくる。
それに対して永琳はきつく息んで腰を絞り、括約筋を締め付けて侵入者を阻もうとする。
しかし、その甲斐もむなしく、藍の細い指先はズルズルと奥の方にまで到達する。
到達部が深くなればなるほど、新たな快美観が追加され、いよいよもって永琳を高みへと突き上げていく。
疼く局部をなぶり続けていた藍の手は、さらに手首をうならせるようにして回転運動を加えて、永琳を存分に弄る。
漏出する愛液を左手で借りてきて陰核にまぶし、包皮の上からクリを左右に徹底的に弾きつづける。
――クチャ、クチュクチュッ…。――
聞くに堪えない水音が響き渡り、藍の指は泡立ち白濁した永琳の汁によって幾重にもコーティングされている。
先ほどまでぴったりと閉じ合わされて、永琳の最奥を守っていた小陰唇も、今や藍の指をくわえこみ、美味しそうにしゃぶりついていた。
挿入した指が深くなるにつれて、言いようもないほどの快美感が永琳の脳を突き抜ける。
止むことなく引き出された快楽に呼応するかのように、泡立った永琳の愛液がだらしなく小陰唇から洩れ、アナルの蕾にまで到達していた。
さらに藍の指は永琳の膣の天井部分のある一点を重点的に刺激し始める。
膣内部でも特に神経が集中しているそこを、狂おしいまでに擦り上げられた永琳はたまらない。
それまでの蓄積をはるかに上回る悦楽が永琳の頭を支配する。
「はぁはぁ、ら…ん…、も…っ、やめ…っ!」
荒い呼吸の合間に、なんとか最後の一線を踏みとどまろうとする永琳。
息遣いに合わせて上下に揺れる永琳の乳房の先に色づく乳首も最早、恥も外聞もなくビンビンに痛いほど勃起している。
照明に照らし出され、熱を持った光と身体の内から溢れる熱に犯され、玉の汗が首筋にも滴っている。
ビクンッとあたかも電流が走ったかのように、突然の強い快感が永琳の脊髄に駆け巡り、永琳の顎が跳ね上がる。
―――藍の右手が膣内部からクリトリスを押し出すように擦り、同時に左手が勃起しきってむき出しにされた突起をつまみ上げたのだ。
これまで弾くようにしか刺激されていなかったところに、新しく強い刺激が加わる。
勃起クリを根元から二本指で揉み上げるようにして弄る藍。
「はおおおぉぉォォ―――――――っっ!!!」
たまらず腰を浮かせて数度空腰を使ってしまう永琳。
快楽の中枢神経を直接刺激されたような快美感に、反射的に腰をくねらせて指から逃れようとする。
そんな必死の抵抗もむなしく、藍の指は的確にますます永琳を追い込み、蹂躙する。
快楽を得るためだけの器官を、内と外から、右と左から、四方八方から挟み撃ちにされ、徹底的に追い詰められる永琳の秘豆。
最早包皮は根元まで剥かれ、先端から付け根までを揉み上げられる。
永琳の腰の動きがどんどん激しくなっていくのを見ながら、永琳の絶頂が近いことを悟る藍。
クリを挟み撃ちにしながらも藍の右手はズボズボと永琳の内部を掻き出すような動きで、天井部分を擦り上げる。
その動きは激しさを増し、永琳を絶頂へと導くことに専念をし始めていた。
「あああああ――――――ッ!!もう止め……ッッ!!」
「なんだ?
ちょっと弄っただけでもうイきそうなのかっ!?
このスケベめ!」
言葉とは裏腹に、今や最大限のストロークで指を抽送させている藍の指は、もはや指の付け根まですべて膣内に飲み込まれては第一関節が引っ掛かかるのみにまで引きも出され。
再度根元までを一気に突入させては、引き戻され。
中の秘粘膜をめくり返しながら外に引き出すかのように乱暴に出し入れされ。
軽く曲げられた指先は永琳の弱点を的確に追い詰めながらこそぎ上げ。
中身を掻き出すように、苛烈ともいえる動きで永琳を攻め立てる。
「そんなに穢れた指が気持ちいいのか?!
ココを、こうするだけでビクビクしてっ!
こんなに涎ダラダラまんこから垂れ流して、少しは恥を知ったらどうだ!?
いい加減グチョグチョ音を上げてるこのスケベ汁を止めろっ!」
「止めてぇっ!……もう無理もう無理ッ…!!
むりぃぃ……ッッ!!
イッ……!!
ダメぇッ…!!!」
普段は毅然として、誰からも尊敬を受けている永琳の脳内に、藍の言葉が響き渡り、被虐、羞恥、悔恨、様々な感情が渦巻き、それを股間から押し寄せる圧倒的な快感に押し流される。
そしてそれらの感情が勝手に悦びとして変換され。
「そらイけッッ!!!
この淫乱月人……ッ!!!」
発声と同時に、指が引き抜かれ、指を3本を捩り合わせて一気に永琳の膣奥にまで突入させる!
しっかりと永琳の弱い部分全てをひっかき上げながら、的確に苛め抜き。
ビクビクと強い痙攣を始めた永琳の肉に、さらなる性感の強烈な攻め!
「だめええええええええっっ!!!!」
凄まじい刺激に、絶頂への準備を整える永琳の身体!
しつこく、的確に、永琳の性感帯を何往復も何往復も藍のうごめく指がこそぎ上げる!
穴は擦り上げられ、クリトリスは抓まれ先端を指の腹でなぞられる!
悶えても悶えても、後から後から押し寄せてくる絶頂、快感!
大量に噴出されている愛液を飛び散らせながらも、藍の指は許してくれない。
さらにランダムに動き、薬師の膣内を攻めまくる!
出し入れする指の速度がさらに上がる!
鳴り響く淫らな水音!
気絶しそうなほどの性感攻めに、永琳は舌をだらしなく出して悶え狂う!
「はああおおおおおおおおおおっっ!!!!」
一瞬、大きく嬌声をあげる永琳!
それに合わせて藍は永琳の穴を攻めまくっていた指をギリギリまで引き抜き……
「今きちゃだめ、今きちゃだめよ!――いまきたら!!」
声にもならない声で、最後の懇願をする永琳の膣奥めがけて……
3本に捩り上げられた藍の指が一気に永琳のまんこを抉り抜いた!
子宮の入り口にまで到達したと同時にそこを指先で押し上げ!
同時に左手でクリトリスを強くつまみ上げる!
ついに臨界点を超えてしまい、蜜を垂れ流す永琳の淫穴!
「なはおおおお――――――――ッ!!!
ダメッ!!イクッ!!
イクッッッ!!!!
あああああ―――――――――ッッ!!!!」
蓄積されてきた凄まじい快感が脊髄から脳めがけて全身を貫く!!
同時にすごい勢いで四方八方に噴出するシオ!!!
それを正面から顔に浴びつつも、絶頂中の永琳をさらに深くイカせるために、指を深く突っ込んだまま蠢かせ、弱点を強く押し込む!
永琳の穴は、藍の指を隅々と味わうかのように、ギッチリと括約筋で喰い締め上げながら何度も卑猥に痙攣を繰り返す!
次々に押し寄せる絶頂感。
妖獣の指に最後まで屈してしまったという敗北感。
そしてそれを一瞬にして無に帰すような圧倒的な下半身からの快感。
(―――――あああっ……
す……すごい……
こんな……―――――)
永琳は声にもならない嬌声を何度か上げた後、グッタリと脱力する。
煮えたぎった油のような熱さの愛液に、藍はその端正な顔を穢されながらも、苦痛にならない程度に永琳を追い込んだ後。
藍の指を締め上げていた永琳の膣圧が弱まっていくのを感じた藍は、指を膣内から抜き取る。
その指に絡みつき、未だ熱を持ち白濁した愛液を見て、思わず嘗め取ってしまう藍。
藍自身も体の奥底からくる熱いものを感じてはいたが、月人に身体を預ける気にはなれない。
存分に自身の欲望を永琳にぶつけ、いくらか満足そうな笑みを浮かべながら、グッタリと絶頂の余韻に浸る永琳を見下ろす。
その余韻に浸っている永琳は、すぐに動けるような状態ではない。
これまでにもそうそう経験したことのないような深い絶頂を受け、大きく胸を上下させながら呼吸を落ち着けている。
まだはっきりとは意識が戻らない中、ぼんやりと無影灯を眺め続け。
それまで以上に無防備な体を晒しながら、ただ漫然とふわふわした余韻に身をゆだねている。
(さて、そろそろやっておくか。)
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不意に藍は立ち上がり、再び診察台横の台車に近づき、そこに置かれたトレイで何やらカチャカチャと始める。
藍が手に取ったのは、耳かきほどの細さのガラス棒。
そして藍はその先端に「何か」を取り付けた。
その棒にヌラヌラとしたグリスのようなものを垂らし、ガラス棒全体になじませる。
怪しげな液体にまみれたガラス棒を片手に、再び藍は永琳の大きく広げられた両脚の前に歩み寄り、屈みこむ。
そして。
遠慮なく無防備な永琳の膣口を再び捲り返し、その穴の中にガラス棒を挿し込んだ。
完全に脱力しきっていた永琳は、再度の異物感に腰を浮かせる。
絶頂を迎えたばかりで敏感になっているところに、突然冷たいものを奥の奥まで挿し込まれたことを感じ取った。
深い絶頂の直後のため、体には思うように力が入らず、まともな思考もままならない。
成すがままに藍の行為を受け入れる他なかった。
藍は慎重に棒の先端を永琳の子宮腔の入り口にまで押し込むと、そのままの状態で軽く目を閉じ、霊力を発動させ、何らかの術式を施す。
その後あっさりとガラス棒を抜き取り、袖の中にしまい込んだ。
(これで完了。)
やにわに藍の雰囲気が変わる。
先ほどまでは嗜虐心に支配され、攻撃的な言動を見せていた藍であったが、今では普段通りの冷静な頭に戻っている。
もう八意永琳に用はない。
横で磔にされているその体にも一縷の関心もないかのように、この部屋に最初に訪れた時に設置しておいた札のもとへと近づき。
それに手をかざし、いつものように青白い紋様を重ねると。
一瞬青白い光を強くした後、その札は消滅していた。
「さて、これで終わりだ。
まあまあ楽しい時間だったが、ここまでだよ。」
永琳に告げているのか、ただの独り言なのか。
独り言であればわざわざ永琳に聞こえるように言う必要もないのだろうが。
永琳は耳で聞き取りつつも、まだ通常の頭脳明晰な状態には戻れずにいる。
一体さっきから藍は何をしているのだろうか。
「マヨヒガでの出来事は無かったことになる。
月人も「穢れ」ずに済んだということだ。
お前のあられもない姿も、誰も見ていなかったし、存在しなかったということさ。」
「……何をいってるの?」
「構わんさ。
私も1分後にはこの出来事を覚えてさえいないだろう。」
言いながら、袖の中から黒い札を取り出した。
主、八雲紫から授かった不気味な札。
膨大な力と悪意を込められた、あるべきでないもの。
それに藍は妖力を込め始める。
さすがの永琳もその禍々しいモノに、意識を呼び起こされる。
一目見ただけで永琳にも直感的に理解ができた。
あれだけの妖力、魔力、霊力を込めなければ現実化できない事象。
月の技術でもまだ干渉することができない領域。
「時間操作」。
おそらく限定的な用途でしか実現できないだろうが、おそらく時間を少しの間巻き戻そうとしている。
でもいったいなぜ?
藍の妖力を授かり続けるそのモノを前に、永琳は相変わらず抵抗もできず、観察していることしかできない。
おそらく藍の記憶も巻き戻されることになるだろう。
何のために?
疑問、安堵、不安、恐怖、様々な想いを胸に抱きながらも、札は封じられていた効力を発動させ、一瞬にしてそこにあった世界が消滅した。
於マヨヒガ入り口前、戌の刻。
「そこで何をしている。」
厳しい口調の言葉が突然背後から投げかけられる。
やはりここで正解だったようね。
空間の断絶面を探しに来た永琳に対して、不審者を問い詰めるような口ぶりで詰問が投げかけられる。
永琳が後ろを振り返ってみると、拱手の姿勢で戦闘状態で立っている九尾の狐がそこには立っていた。
「ここから先は八雲の管轄だ。
訪問の報せは受け取っていない。
即刻立ち去ってもらおう。」
有無を言わせない退去通告。
(これが八雲紫の忠実な番犬ね。)
子犬が威嚇するかのような攻撃的な対応に、いささかの蔑視を向けながら心の中で辟易する。
「交渉に来たのよ。
単刀直入に言うわね。
月と地上を結ぶ量子航路。
あれへの干渉をやめてもらいたいの。」
「そのような話は紫様からお聞きしていない。
再度通告する。即刻立ち去れ。」
やれやれ。
八雲のイヌも厄介なものだ。
姫様のためにも、多少の荒事を介してでも解決しなければならない問題。
ここは……
「賑やかね。
ひとんちの庭先で何事かしら?」
突然声だけが先に空中から出現した後。
空間に突然隙間が出現する。
そしてそこからヌルリと女性の上半身だけが現れる。
言わずもがな、ご主人様のお出ましだ。
(予想外だけど、八雲紫本人が出てきてくれるなら話は早いわね。)
声の主、八雲紫は隙間からあたりを窺うように見た後、そのまま全身を現し、地面へと降りる。
即座に永琳と紫の間に割って入るように、紫の斜め前に立ちはだかるように立ち位置を移動させる藍。
なるほど、忠実なイヌだ。
護衛のつもりなのだろうか。
「量子航路、ね。」
先ほどまでの会話を聞いていたかのように言葉を繰り返す紫。
「あれ、博麗結界に干渉していて困るのよ。
ちょっと書き換えてみたんだけど、だめだったかしら?」
明らかにちょっとではない。
あからさまな細工が間違いなく施された跡があるのだ。
幻想郷で最も油断ならない相手の言葉だ、真に受けるわけがない。
「書き換えた内容の詳細を教えてほしいのだけれど。
記述の中にこちらでは読み取れない不可解な場所があるはずよ。
何をたくらんでるの?」
一瞬永琳の心中を推し量るようにじっと視線を向けてくる紫。
その横では藍が何かもの言いたげな様子で口を開きかけるが、紫が片手で制する。
「バレにくいようにやったつもりだったんだけど、随分早く気付くのね。
どっち?お姫様?それともあなた?」
「どちらでもいいわ。
とにかく結界をもとに戻しなさい。」
この妖怪と下手に会話をしてはいけない。
煙に巻かれるか逃げられるか。
なんにせよロクなことにはならない。
「そうねぇ……。」
わざとらしく、いかにも考える仕草を取る紫。
あざといを通り越して気分が悪い。
恐らく全て結論が出ている中での演技だろう。
とにかくコイツの相手は時間がかかる。
「今度藍をそっちに行かせるわ。
術式に関する情報はすべて持たせておくから。
あなたたちの航路が博麗結界に干渉しているのは事実よ。
その点に関してはこちらも譲れない。
そこを修正しながら調整するのであれば、そちらの事情も飲むわ。」
……あら?
意外とあっさり折れてくれるわね。
少し肩透かしを食らったような気分になりながらも、最低限自体は好転しそうである。
まだその先の折衝でひと悶着あるかもしれないが。
「こちらの事情を知ってくれているのなら話はつけやすいと思う。
とにかく次の新月までには航路をこちらが管理できるようにしたいのよ。」
「……。
そうね。
じゃあ二日後に藍を永遠亭に向かわせるわ。
刻限はそちらの都合の良い時に。」
………
……。
その後も紫の混ぜ返しを受けながらも、何とか交渉をまとめ、約束を取り付けた永琳は無事に永遠亭に戻っていった。
大きないざこざもなく。
八意永琳が立ち去った後、幻想郷からも世界からも隔絶された住処へと戻った二人。
その帰り道に。
「紫様、お言葉ですが、少し月人に甘くないですか?
あの航路は一方的にあちらに落ち度があるのですよ?
なのに……」
納得がいかないと言わんばかりに憮然と言い放つ藍。
ここまで紫に感情的な言葉を放つ藍も珍しい。
「ふふ。
本当に覚えてないのね。
私ったらすごいわ。」
「???」
唐突な謎かけに、それもあまりにも難解で理解の突端すらつかめない応答に面食らう藍。
「覚えている?
先ほどのやり取りの中ででしょうか?」
「そうね。
月人は聡いの。
藍は嘘をつけないから。
――――コレ。
覚えてないでしょ。」
全くの意味不明の言葉の羅列にますます混乱する藍。
その前に差し出されたのは、一枚の蒼い札。
紫の言う通り、藍には全く見覚えがない。
「これ、私にも覗けないのよ。
藍が思い出したら、それ、何があったのか私にも教えてね。」
紫から手渡しされた瞬間、紫からの手渡しがトリガーになっていたのか、札の解除鍵が藍の脳裏に想起される。
「これはここで?」
「私も早く知りたいもの。」
言葉少なな会話。
紫の許可を合図に、札に解除鍵を念じる。
途端、蒼の札は消滅し、藍の装備している帽子の札の一つと呼応し、その札が明滅する。
帽子の札からの情報を転送するかのようにして、藍に記憶がよみがえる。
この世の事象としては存在しないはずの出来事を。
八意永琳とのやり取りを。
そしてそれを忘れていた理由を。
藍の顔に攻撃的な笑みが浮かぶ。
なるほど、すべてに合点がいった。
「藍、そんな顔、人前ではしちゃダメよ?
藍のイメージってものがあるんだから。
私に似た、なんて思われちゃ私が困るわ。」
そういう主の顔にも、屈託のない、笑顔が浮かんでいる。
「さて、報告して頂戴。」
「はい、紫様。
少し長くなりますよ。」
「ええ、詳細にお願いね。
それを楽しみにしてるんだから。
微に入り、細を穿ち、余すことなくよ。」
「でしたら転送しますか?」
「無粋ね。
それは帰ってからでいいわ。
藍の見たものも見たいけど、それは後でのお楽しみ。」
今回の紫の計画。
それは月人の動向を握る事。
そのためにはかつてトップに君臨し、現在も大きな役割を担っている八意の動向をこちらで一方的に把握をすることが最上。
それを実現するための手段として、八意の体内に情報発信術式を埋め込むことが最良であったが。
薬も効かず、身辺護衛もあり、特に不老不死の姫と二人でいるときには迎撃能力の高さから身体に接触することも不可能。
さらに解除されないためにも相手に察知されず、成功後も気づかれてはならない。
そのためには、八意永琳の体内のうち、長期にわたってそれほど変化をしない箇所についての生体情報を一方的に、気づかれないように採取する必要があったのだ。
八意の生体情報さえこちらで取得できれば、あとはわけない。
大結界の中では位置情報さえつかめば、周辺の空気の振動も、空間中の動きも容易に把握することができる。
あとはそれを解析してしまえば、言動全てを記録、保存することが可能というわけだ。
そのための舞台として選ばれたのが、藍の管理するマヨヒガ。
マヨヒガは現実とは隔絶された別空間。
そこを隔離し、用事を済ませた後、空間事消し飛ばす前に情報だけを八雲の管理室に送り届けていたのだ。
首尾よく任務を終え、主の期待に大いに応えた藍は得意げにマヨヒガでの出来事を報告する。
マヨヒガの設定。
永琳をはめるための前準備。
情報収集のために行った前処置。
そして、それに楽しそうに相槌をうちながら聞き入る紫。
――だったのだが。
段々と主の相槌に不満の蔭が見え隠れし始める。
「紫様?」
「じゃあ藍は一人で楽しんでたのね。」
「??」
「私は大結界の調整で大変だったのに。」
「あの……
どういう……?」
「月人虐めて藍はえっちな気分になったのかどうかって聞いてるのよ。」
あ、この展開はまずい。
「いえ、決して……」
「嘘。
ケダモノの藍が仇敵を好き放題弄って興奮しないはずがないわ。
どうせ任務とか忘れて楽しんでたんでしょ。」
「いえ、そのようなことは……」
「このえろぎつね。
私の藍があんな年増に欲情してたなんて絶対に許せないわ!」
「あの、紫様……」
「股開いてる女だったら誰でもいいだなんて、そんなふしだらな狐だったとは思わなかったわ!
決めた。
家に帰ったら藍の身体に聞いてあげる。
何したのか全部。
記憶転送したときに、一瞬でもあの女のこと綺麗とか思った瞬間があったら覚悟しておくことね。」
「ゆ、ゆかりさま……」
「誰が綺麗か思い出させてあげるんだから。
思い出すまで絶対に許してあげない。」
「もう思い出しました!
紫様ですよ!」
「駄目よ、口先でなら誰でも何とでも言えるわ。
心の底から思い出せるように、藍があの月人にしたより酷い躾をしてあげる。
帰ったら覚悟しておくことね。」
「そ、そんなむちゃくちゃな……」
恥じ入るようにもじもじする藍。
主の横暴にも慣れっこの様子。
飼い主から叱責を受ける子犬のように縮こまってしまっている。
……というよりも、これからのことを少し期待しているようにも見える。
任務達成のご褒美と躾を同時に頂戴できるからだろうか。
八雲藍はどこまで行っても八雲の戌である。
久々の二人水入らずの時間に、紫も藍も胸に期待を寄せながら、これまでの、そしてこれからの出来事に話を弾ませながら家路について行った。
(了)
於マヨヒガ深部、亥の刻。
「ん、来たか。」
八雲藍はマヨヒガを抜けた先の八雲の敷地で一人瞑想をしていた。
毎日行っている鍛錬の一環である。
マヨヒガを抜けた先には広大な敷地があり、山菜を取るには困らない大きさの野山から平地まで、一通り敷地内だけで生活の糧となるものは手に入る。
野生の動物も放たれており、それらも完璧に管理されている。
無論、幻想郷とは隔絶されており、八雲の住処はもはや別の惑星にあるといってもあながち誤りではない。
通用経路は、突破のほぼ不可能なマヨヒガを踏破するか、紫の能力と、それを付与された藍だけである。
静かに目を閉じ、心を落ち着けていた藍は自身の衣装を覆う夥しい数の結界札の一つが反応したことに伴い、口を開く。
藍の姿は、八雲紫より託された、おそろいの導師服と、特徴的な形をした専用の帽子。
鋭敏な耳を保護するよう覆われた帽子と、そこに貯付された大量の札。
一つ一つが役割を持ち、ただの飾りではない。
その一つがマヨヒガの扉を開かれた信号が送られてくる。
(予想よりも少し早かったか。)
とはいえ、準備は万端であった。
直接向かわずともわかる。
来訪者は月の民の関係者、目的は地上と月を結ぶ航路への干渉の中断、破棄の要求。
扉の開いていた時間から見て、数はおそらく一人。
八意永琳本人だろう。
こちらは少し予想外だった。
ウサギの一匹でも連れてくるものだと想定していたが。
(一人、ね。まあいい。手間が省ける。)
敬意を払われているのか、それともナメられているのか。
敵陣本拠地に向かって一人で来るとは。
主人の言によれば、月人の誘い込みも今回の目的ということらしい。
生体情報をこちらが握ることができれば万々歳、といったところか。
容易ではないことは重々承知している。
マヨヒガに意図的に侵入できるだけの空間管理能力、結界術。
薬物は全く効かず、頭脳は天才、年齢に比例した経験と知恵。
おそらく身体強化術の類もある程度は使えるのだろう。
一人で向かってくるのに相応の理由はあるということだ。
藍はそれと直接対峙しなければならない。
だが、こちらは想定しうるだけの策を張り巡らせてきている。
用意の整ったこちらのテリトリーで、こちらの有利なペースで、一方的に情報を握った状態で。
狩る。
空間管理はこちらの十八番。
マヨヒガの中で相手が一人なら、十分に機能するだろう。
(行くか。)
マヨヒガはその特殊性から、閉じ込めたものをこちらから覗くことはできない。
本人と対峙するには管理者が乗り込むしかない。
藍は結跏趺坐に組んでいた足を戻し、立ち上がる。
おや、いつの間にか青白い冷たく燃え盛る狐火がまたいくつか浮いている。
自身は平常心のつもりでいたのだが、どうやら昂揚しているようだ。
久しぶりの状態だ。
たまにはこういうのも悪くはない。
軽く手を上下に振り狐火を消し、手のひらをまっすぐに伸ばすと、その掌の先の空間に藍の身長ほどはあろうかという巨大な紋様が多重に浮き上がる。
三重を超え、四重になったところで、八雲紫の行使している隙間がその紋様の先に出現した。
隙間の中は相変わらず何も見えない。
その中に藍はいつものことと、慣れた様子で入っていく。
マヨヒガの姿は、マヨヒガに最初に入った人が監視対象者となり、その監視対象者の内面によって形を変える。
藍自身がマヨヒガの監視対象者となった状態であれば、藍は見慣れている。
しかし闖入者を対象とした場合は、その対象者の内的世界が反映され、マヨヒガに描き出されることとなる。
他人の内心の一端を覗き見るのはいろいろなことがわかって興味深い。
今回の対象者は八意永琳。
どのような世界になっているのか、藍自身も楽しみである。
いつもの導師服姿で、両手を両袖に入れた姿でマヨヒガに降り立った藍。
(ふむ、これが八意永琳の世界か。)
あたりの様子を窺うように、二度三度あたりを見渡す。
変化する世界を注意深く眺めながら、藍の頭脳が高速で演算処理を始める。
その後顎に片手を当て、少し考え込むような姿勢を取る。
(パターン@Uc%Nk=_g2、2g!EaZS%/6、86$d*3o1_8、_t?&.W+*F-、a3$ddboL*1のどれかだな。)
その後ゆっくりと3歩足を進め、もう一度左右を見渡す。
変容する風景をそれぞれゆっくりと確認しながら再度少し考え、
(パターン2g!EaZS%/6で確定。)
ものの数十秒で構造を理解し、マヨヒガを勝手知ったる庭のように歩を進める藍。
マヨヒガを歩く藍の姿は、外から見れば数歩直進したかと思えば突然振り返って数歩戻り、その後右に進行方向を変え、
しばらく歩いたと思ったらまた方向を変える。
全く統一性のない進み方をしているようにしか見えない。
しかし、これがマヨヒガの正しい進み方。
藍本人から見れば、さらに奇天烈な光景が広がっており、壁を歩き、何もない空間を足場にし、階段を上る。
何が起こっているか常人では到底理解ができない世界。
ただ藍は何の迷いもなく歩を進めている。
なんといってもマヨヒガは、藍が紫から管理を全任されている前線設備。
時には敵性排除の場として。
時には未熟な自身の式の訓練施設として。
時には一人きりの時間を過ごせる隔離世界として。
隅から隅まで、すべての構造について完璧に把握している。
こうして15分ほどマヨヒガを彷徨うと、ある一点で突然しゃがみこんだ藍は床に右手を添え、軽く押した。
すると光景が一瞬にして明転し、外の世界の病院の無菌室、あるいは手術室のような空間に切り替わった。
あたりは白く、明るく、床はタイルが敷き詰められ、中央には大きな手術台のようなものが設置されている。
無影灯、モニター、その他電子機器まで揃っている。
幻想郷には存在しえない施設がずらりと並ぶ。
そこに立っているのは藍のみ。
(まだここまでは来ていないか。)
すでに永琳がたどり着いているケースも可能性の一つとしては考えていたが、その線は無いようだ。
いくら月の頭脳とはいえ、藍が数千年にわたって構築してきた防衛線、そうやすやすとは踏み越えられまい。
(さて、八意は今何処か。全世界は知らんと欲す、とね。)
幻想郷の誰もが理解できないであろう小粋なジョークを頭に並べつつ、この謎の部屋でも藍はしゃがみこみ、右手を床につけ、再度青い紋様を展開する。
念のため、永琳がここにたどり着いた場合にはすぐに探知できるよう、この部屋には簡単な結界を張っているのだ。
マヨヒガの構造をここから書き換えることはできないため、永琳のここへの侵入を拒むことはできない。
だが探知程度の簡単な結界であれば、この不思議な空間の中にも設置することができるようだ。
その簡易結界の上に添えるようにして、ある札を慎重に設置する。
数日前、紫から手渡された札と少し似ている。
しかし、あの時の札とは様子が少し違い、漏れ出る悪意の塊のような禍々しさはこちらにはない。
別物ではあるようだが。
無関係でもなさそうだ。
設置を終えた藍は、先ほどマヨヒガから入ってきた場所とは反対の場所にある、手術室の扉に手をかけた。
部屋には扉は一つしかない。
この部屋だけはどうやら通常の空間と同じく、扉を通じて出入りすることができるようだ。
もっとも、藍が今進んできた、マヨヒガ深部側に通ずる側の入り口は、扉ではなくただの壁なのだが。
扉の向こう側は、相も変わらず不思議なマヨヒガの世界。
永琳の精神世界を反映しているのか、日本家屋調の仕立て品、構造物が多い。
また薬の調合器具、薬草をすり潰すすり鉢など、根っからの薬師であることが伺える。
藍としてはあまり面白いものではない。
もう少し下世話なアイテムでも見つかれば、他人の秘密を知った気分にもなれるものなのだが、その類のものは一向に見当たらない。
せいぜいが時々散らばっている派手な衣類ぐらいか。
マヨヒガの上層へとつながる道に入ると、藍は拱手のポーズを崩さず歩くようになった。
本来は最敬礼の儀礼の証。
しかしここは実戦の場。
そして藍は結界術、妖術、体術それぞれを万遍なく使う。
結界を組む際の印を外から見られたくない。
両袖には当然のように、霊力、妖力、魔力、物理力を察知されないよう遮断のための術式が施されている。
言うまでもなく、投げもの、小刀の類はさながら四次元ポケットの如くに半無限に湧き出てくる。
実際今現在も常に両手を紋様が飾っているのだが、服の外からそれを確認、探知することはできない。
八意側は話し合いを申し出てくることも考えられるが、残念ながらここは八雲のテリトリーマヨヒガ、幻想郷の治外法権。
唯一のルールは八雲紫。
今日はその八雲紫から命を受けている。
残念なことに八意が八雲の出方を読み違えた場合には、月の民には相応の被害が出ることとなる。
そして八雲への被害は絶対にありえない。あってはならない。
上層部に入って数分。
藍の読みが正しければ、そろそろ八意永琳と遭遇するはずだ。
恐らく何段階かはこちらの構築した仕掛けを突破しているはずだ。
果たしてその通りになった。
近くに生命反応がある。
まだ微弱な、いわば野生の勘によるものであるが、ほぼ間違いない。
あちらは探知しているだろうか。
両袖に隠された術式を待機状態にする。
正面からやりあうつもりはない。
相手が力を発揮する前に嵌める。
そのためにマヨヒガを組みなおしている。
再び青白い狐火が藍の周りを漂い始める。
足元のその火の一端に触れたマヨヒガの薬草が、一瞬で炭化する。
藍はそちらには目もくれず、面倒くさそうに炭化した薬草だったモノに全ての狐火を集中させると、蒸発してしまった。
冷たく燃え盛る火を一つにまとめた藍は、ぶっきらぼうにそれを鷲掴みにし、握りこむ。
あっという間に青白い狐火は元通り藍の妖力へと戻っていく。
(やれやれ。
私はこんなに感情のコントロールが下手だったかね。)
抑えきれない力と衝動。
月の民は嫌いだ。
あの日以来。
月の頭脳はすぐそこにいる。
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於マヨヒガ上層。刻限???。
相変わらず時間の感覚がない。
永琳がマヨヒガに迷い込んで随分と経つ。
いくつか法則性は理解できたが、少し進めばまた法則が変わるのか、どうやら元の場所に戻されているようだ。
少し進んでは戻され、もう一度確認しながら改めてもう少し進む。
この作業を延々と繰り返している。
いわば敵地に単身で来ている身としては、常に警戒心も薄めるわけにもいかない。
常時緊張状態の中、さらにマヨヒガの術式の解明のために思考をフル回転させている。
さすがに衰弱してきている。
(…少し甘く見ていたわね。半分は進んでいるのかしら。)
携帯固形食を往診鞄から取り出し、かじる。
不老不死の身とはいえ、知力と体力のコンディションを維持しておくためには栄養があったほうが良い。
排泄のことを考えると少し躊躇われるが、幸運にもマヨヒガの想起物の中にトイレに相当するものがあったので、済ませておいた。
誰もいないとはいえ、トイレ以外の場所で排泄行為をするのはかなりの抵抗がある。
(この状態で海千山千とやりあえるのかしら。)
さすがの永琳も少し弱気になっている。
正解と思しきルートを考え出し、右に左に、前後に左右に、歩を進めてゆく。
目につくものといえばさほど変わらず、これまでにどこかで見たことある景色の一部ばかり。
始めの方こそ興味深く、また懐かしみながら見ていたものもあったが、今ではただの情報処理の鍵でしかない。
そして再び現れる同じ景色。
大きな寺の大広間のような広い場所、横目には三面鏡のような部屋が鏡写しに続いている。そしてゴチャゴチャとした椅子、机、家具。
そこに無造作に転がっているのは姫の使っている布団か。
これまでの計算では、この光景が出ているということは「あたり」だ。
順調に進んできている。
マヨヒガでは、目線の先を変えれば、視界の外の風景は変化してしまう。
つまり左右に目をやれば目に見える光景が変化してしまうため、視野を正面に固定し続けた状態で歩かなければならない。
だが。
思わず反射的に今見たものを確認するために右を向いてしまう。
永琳の見ている世界が変わる。
世界が鮮明になり、時間の流れが少し遅くなる。
マヨヒガの効果ではない。永琳が戦闘態勢に入ったのだ。
脳内物質が分泌され、その他の五感も研ぎ澄まされていく。
目の端に映ったのは、間違いなくこの空間にあるはずのない結界札。
大広間の柱に乱雑に張り付き、さらにわずかながら霊力を発している。
この手のものを自分が扱うことはない。
故に想起されえない物体。
永琳が霊力を込めなければすべてレプリカになっているはずの物。
故に自分以外の誰かが設置したもの。
永琳以外に誰かいる。
誰が?
決まっている。
八雲紫か、八雲藍か、あるいはその両方か。
既に戦闘準備は始まっている。
両手をほとんど動かさずに、必要最小限の動きだけで服の中に仕込んである劇物を合成し、散布可能な状態にまでもっていく。
荒事があればこれで主導権を握る。
視線の先には三面鏡と化した無限の広間が続いている。
そこに八雲がいる。
相手は気づいているのか?
待ち伏せされているのか?
気づかれていないのならこちらから接触するべきか?
変化の乏しい世界でようやく見つけた小さな変化。
それに縋ろうとしているのだろうか。
正常な判断を下せているのだろうか。
数々の問いが頭を駆け巡る中、出した答えは正しくないルートを進むこと。
それはつまり、目の前の三面鏡の世界に入ること。
永琳がここに来た目的はマヨヒガの突破ではない。
八雲に接触し、月と地上の航路への干渉をやめさせること。
であれば、そこにいるであろう八雲と接触するのが正答であるはず。
意を決し、静かに部屋に入っていく永琳。
部屋の中は外から見た通りの、合わせ鏡の世界。
三面鏡の中の世界を自由に歩き回っているという、少し不思議な感覚を覚える。
ただ何があるかわからない。
まわりの風景を変化させないためにも、固定させている視点を動かすことはできない。
少し進むと、無数の自分が同じ仕草で歩いているのが目に映り始めた。
こちらが止まればあちらも止まる。
なるほど、鏡だ。
鏡の世界を歩くというのも不思議な感覚ではあるが。
そしてその中をさらに20歩。
いた。
見覚えのある導師服。
永夜異変の時に直接対面したことがある、あのいでたちのままだ。
その導師服の妖獣が、鏡で増幅しあって何百といる。
鏡の世界の八雲藍はこちらに気づいているのかいないのか、こちらを見ていない。
永琳と同じように視点を一定にさせたまま、まっすぐ進んでいる。
鏡の虚像ではない、生身の藍を特定すると、そちらに近づいていく永琳。
「八雲藍、であってたかしら。お久しぶりね。」
躊躇なく声をかける。
藍の方もようやくこちらに気づいたように視点をこちらに振った。
永琳の姿を確認するや否や、口を開いた。
「侵入者はおまえだったのか。何用でマヨヒガに入った。
ここは八雲の敷地だ。訪問の報せは受け取っていない。
即座に立ち去れ。」
挨拶など頭から無視し、突然のお前呼ばわり。
明らかな敵対心を抱いている険しい口ぶり。
他所の領域に侵入した不審者を問い詰めるような姿勢の藍であった。
(…白々しい。)
藍の発する言葉の内容は、一見もっともだが、整合性がない。
覗き魔、八雲紫がいるそばで、藍が永琳の動向を把握していないはずがない。
そして永琳が訪ねてきた理由がわからないはずがない。
航路に細工をしている張本人なのだから。
この部屋に誘導するかのように設置してあった札といい、あの言葉は猿芝居のデタラメとみていい。
だとしたら、目的は時間稼ぎか、不意打ちか。
「単刀直入にこちらの用件を言うわね。月と地上を結ぶ量子航路。
あれに手を出さないで。干渉した後を元通りにして、今後そちらから何も手を触れないで頂戴。」
「ん?月?
ああ、あれか。
紫様から、あの航路は外からの干渉に対する障壁が穴だらけで脆弱すぎるからプロテクトを強化しておいた、とお聞きしている。」
以外にも素直な対応だ。
「外からの干渉?」
「幻想郷と外部との通路を設けるのなら、もっと緻密なシステムを構築するようにしてほしいと、散々嘆いておられたぞ。
こちらとしては、幻想郷の管理者として、あの航路の警備を強化したまでだ。従来の機能と差異はなく、そちらの設定した通りに作動する。
だから元通りにはしない方が幻想郷のためだ。要求はのめない。」
この狐…。
問いには答えず、一方的な拒絶宣告。
それだけでなく欠陥品を作り上げた永遠亭の代わりに、八雲が更新しただけだと言わんばかりの言い様。
随分と攻撃的な態度だ。
さらに、確かにあれを構築したのは永遠亭だが、今の状態ではこちらからは内容を正確に理解できない。
なぜなら、紫によって未知の結界術式で膨大な改変がなされ、その上で改変個所を保護されてこちらからの改変を受け付けない箇所がある。
つまり明らかに何かを仕込んでいる。
その張本人の言い分なのだから、看過できない。
「改変した箇所の中に、未知の術式で書いてある部分があるでしょう。あの記述の意味内容は何?」
若干の苛立ちを覚えつつ、詰問するような口調で藍を問い詰める。
「残念ながら、この件は紫様がご自身で全ての術式を更新された。なので私は航路の情報については不関知だ。」
いうに事欠いて、私は知りません、ときた。
お役所仕事か。
いらだちが募る永琳。
「とにかく、紫様の命で侵入者は排除せよ、ということになっている。荒事にはしたくない。
お引き取り願おう。」
「なら外で話しましょう。ここから退くこと自体には、こちらとしては異論はないわ。
とにかくあの記述の内容を詳しく説明してもらうか、削除して欲しいの。
あの航路には手を加えないでほしいの。」
苛立ちながらも、こちら側が譲歩し、とにかく目的を遂げたい。
八雲藍のあの高圧的な態度と、一切警戒態勢を解かないことからも、友好的、といった雰囲気はまるでない。
荒事にしたくないのはこちらも同じだが、こちらにとってもあの航路は姫を地上に隠すための重要な要塞でもある。
譲歩できない部分はできないのだ。
「繰り返すが、紫様にお尋ねしなければ術式の詳細については不関知だ。お引き取り願おう。」
「だったらその紫様を出しなさい。当人だったらいくらでも説明できるでしょう?」
「紫様はお休み中だ。」
「ならたたき起こして連れてきなさい。」
「私にその権限はない。あるのは紫様の休息を邪魔するものを排除する権限だけだ。」
(何なのよこの狐。
獣には自分でものを考える知能がないのかしら。)
いい加減うんざりしてきた永琳。
いらつきやら呆れやら、様々な感情が渦巻く。
この狐と会話する気も失せてきた。
「じゃあ紫はいつ起きるのよ。」
「通例この季節では1週間ほどだ。紫様にお会いしたいのなら、来週そちらに私が言伝をもって伺おう。」
「あんたを介していたら話が進まないのよ。結界の記述を見せるからあんたが説明しなさい。」
半ば喧嘩腰になってきている永琳。
慇懃無礼な振る舞いがいちいち神経に障る。
昨夜から碌に寝ず、神経をすり減らして来た身に、このやり取りは不快極まりない。
以前あったときは、こんな奴だったかしら。
「なるほど。それならば私にでも可能だ。
それであれば双方の要求が叶うかもしれない。」
(あら?あっさり?)
「だが待て、紫様の指令に背くものがないか少し確認させてくれ。」
「はぁ。」
(何なのこの狐。)
藍は拱手に組んでいた両手をほどき、手を顎に当て、考える姿勢を見せる。
まあ良い。話し合いで解決できそうだ。
1週間で事態が進展するのなら、それはそれで良いと思うべきだろう。
十数秒ほどで藍は検索を終えたのか、目をこちらに向け、口を開いた。
「お待たせした。来週私が永遠亭に訪問する件について、約束しよう。
ただ、一つ条件があt…」
(熱っ…!?)
瞬間、永琳は往診鞄を持っていた右手に焼け付くような感覚を感じた。
その一瞬後、鈍い音とともに鞄が吹き飛ぶ。
打撃を受けた。
恐らく右手を後ろから。
蹴り飛ばされた。
右手はもう駄目だ、破壊された。
すべてを理解した永琳は、懐で準備していた劇物を散布すべく、無事な左手を懐の小瓶にとっさに伸ばす。
同時にすさまじい衝撃と激痛が右手に伝わり、ほぼ時を同じくして肩から背中にかけて途轍もない重量がのしかかる。
予想の範囲外の重量に、瞬時に態勢を崩された永琳は、人間の原初の防衛本能を発動させてしまう。
倒れる体を支えようと、瓶に触れる前に手を前に伸ばしてしまった。
そのほんの一瞬の間に劇物を入れている懐を、何者かに触られた感触が肌に残る。
(しまっっ…!!)
永琳も並の人間ではない。
相当程度の身体操作術を習得している。
即座に腕と足と体の連動を切り離し、顔面から地面に倒れこみながらも、再度懐の小瓶に残った左手で触れることに成功した。
そしてわずかな圧力をかけた。
小瓶は割れない。
そんなはずはない。
微力でも割れるように設計してあるはずのガラスなのに。
同時に腕以外は、背中からかかる重圧を裁くために重心の位置を変える。
右足を抜き、態勢をわざと崩し、重力と相手の力を利用して、相手を地に落とす。
はずが。
これだけの力を加えておきながら相手も体を入れ替えた。
相手の力を使ったはずが、それを逆に利用されている。
いよいよ態勢を崩した永琳は、今度は左足を抜き、右足を移動させ、入れる。
倒れてしまえば後はない。
何とか右足が間に合い踏みとどまったが、今度は左手に激痛が走る。
踏みとどまることに意識を割かれた刹那、手の甲のある一点を強く圧迫された。
それだけでも頭の中に白い閃光が走るほどの鋭い痛みを感じる。
初撃で破壊された右手は?
すでに再生がはじまってはいるが、まだ完全には動かない。
思考をめぐらす余裕もないままに1秒にも満たない中で瞬間瞬間で思考を飛ばされ、無防備な状態で体に何度も触れられている。
最後に背中の重圧が消えたかと思うと、今度はすさまじい衝撃が後頭部に直撃する。
命を絶とうとしているか、あるいは相手の後遺症など全く考慮しない、殺意に満ち溢れた脚部からの一撃。
永琳の全世界が一瞬暗転し、停止する。
そのさなか、後ろの襲撃者から術式の詠唱文句が聞こえてきた。
対抗呪文を唱える暇など許さない、完璧なタイミング。
(…やられた。)
「…ってだな、紫様の命によってお前を拘束した後でだ。」
眼前の八雲藍は、よどみなく最後の交渉口上を述べたところで、獰猛な笑みを浮かべた。
もう手遅れだ。
無防備な状態で掴まれた右手と左手は、青白い魔力冠によって覆われている。
拘束呪文のための術式は結界で保護され、並大抵の手段では魔力と結界術の双方を同時に消失させることはできない。
そして最後の術式詠唱によって魔力の効果が生じ、両手は空間に固定された。
永琳は、蹴りだされた態勢のまま両手を固定されてしまっているため、極めて不安定な態勢を余儀なくされている。
未だ正常な思考もままならない。
不老不死でなければ、永琳でなければ、1秒にも満たない時間の中で数度絶命しているほどの鋭い襲撃を受けた。
その襲撃の中、正対していては到底達成できなかったであろう拘束術を両手に施され、こちらの必殺の薬物も結界により厳重に保護されてしまっている。
投げ出された鞄からは、本来は武器として使う予定だった矢尻、薬品が数本こぼれ出している。
衣服に忍ばせていた矢尻も最後まで触れる暇すらなかった。
唯一自由に動く頭部を上げ、眼前の藍を睨みつける。
無様な姿で藍を睨みつける永琳とは対照的に、藍の方は汗の一つもかいていない。
「何のつもり?後先考えられないほどの畜生ではないと思っていたのだけれど。」
「案ずるな。後先すべて考慮したうえでの行動だ。」
せめてもの抵抗と、口を動かしてみるが、形勢が動くはずもない。
身体強化術を入念に施して来たのに、全く対応できなかった。
必殺のはずの劇物も、あらかじめ仕込んでいた場所と効能を知られていたようで、今現在も強固な結界で保護されている。
思えば、あの回りくどい交渉ごっこも予定調和か。
揺さぶり、気が緩んだところを背後から全力の一撃。
さらにこの部屋は三面鏡が如く、永琳も藍も数百人は目視できる。
その全ての虚像を警戒するまでには意識を割けない。
そして何よりも、マヨヒガでは正面から視線を切ることを禁じるよう意識づけられていた。
ようやく背後の襲撃者が永琳の視界内に収まった。
言うまでもなく八雲藍である。
「そっちは式神だよ。」
いうや否や、眼前のおしゃべりだった藍は札に変化し、空しく地に舞い落ちる。
普段ならこんな馬鹿馬鹿しい仕掛けに気づかないはずはない。
「あらゆるところでお前は削られていたんだよ。道具も。心も。身体も。潜在意識も。」
ふてぶてしい拱手の態勢に戻った藍は、すでに脅威は去ったといわんばかりにご高説をのたまう。
永琳の表情を見ながら、永琳の頭の中で渦巻いているであろう疑念、後悔について答え合わせをする。
一言でいえば、永琳は嵌められたのだ。
(次に会ったときは全面戦争ね。
必ず殺して裂いて、九尾の毛皮を作ってやる。)
隠しきれない殺意を振りまきながら藍を睨みつける。
もっとも次があるかどうかは現時点では相当に怪しい。
ただ、永琳を拘束した目的は何か。
この様子だと殺されることはなさそうだ。
もっとも、不老不死の民は殺せないからこのような回りくどい手を打ったのだろう。
漫然と立ち、永琳を見下ろしている藍は、しばしその光景を堪能していた。
月人が首をたれ、不安定に拘束された姿勢で恨めしそうにこちらを見上げ、睨んでいる。
まるで無力な赤子のようではないか。
今ならコレを如何様にでもできる。
その絶対的優位な立場を藍は無表情ながらもじっくりと味わっていた。
「さて、お前には酷だが、ここからが本番だよ。」
藍からの不気味な宣告とともに、両袖の中の藍の手がわずかに振れる。
すると、永琳の不安定だった態勢の戒めが動き、上方に動き、永琳は両手首を高く掲げさせられる。
足はつま先立ちで、地面を踏みしめる力も奪われた格好。
そこから両手首の青白い拘束が、こちらの意志などお構いなしに強制的に水平移動を始める。
それに引きずられ、さながら下手なマリオネットのように、力なく足を前に出す。
一方の藍は囚われの囚人を監視する看守のように、永琳の真後ろから付いてきている。
拘束が空間ごと移動しているため、マヨヒガの中だろうと、最早後ろを振り返ろうとも関係ない。
藍の様子を少しでも視認しようと首をよじってみるが、両腕を高く掲げているこの態勢では十分に首が回らず、はっきりと見ることはできない。
悪態の一つでもぶつけてやりたい気分だが、あまり小物のような振る舞いでこれ以上後ろの狐を喜ばせたくはない。
先ほどの攻撃で受けた傷はすでに再生が終わり、身体機能自体は正常に戻っている。
しかし、手を完全に封じられ、地面を強く踏みしめることができない今の状態では、どんなに藻掻いてみても、ただ一定の速度で進む両手の紋様に引きずられることしかできない。
試しに自由なままの脚を思いっきり振りかぶって、後ろの狐めがけて蹴りだしてみるも、ほとんど手ごたえのない感触が伝わってくるだけだった。
後ろの狐はこの程度の抵抗は意に介する必要もないと言わんばかりに、何の反応もなく、それがまた永琳に屈辱感を与えた。
そのままマヨヒガをなすがままに進み、例の手術室のような場所にまで連れていかれる永琳。
手術室への扉を開くと、それまでのでたらめな光景とはうって変わり、整然とした明るい通常空間に戻されたような感覚に陥る。
ただ永琳にとって普段と異なるのは、これまでに見たことのない奇妙なものがいくつも並んでいることである。
用途のわからない、四角い無機質なものが多数。
あれは探照灯だろうか。やけに小さい。
中央にあるのは洋式ベッドか。
「…何をするつもり?」
これまでとは異なる緊張感を漂わせながら、低いトーンで後ろの藍に聞く。
嫌な未来しか思い浮かばない。
「月の民の生体情報収集だ。」
後ろからの冷徹な宣告に、思わず生唾を飲み込む。
生体情報収集?
まさか不老不死を利用した人体実験…?
「安心しろ、生きたまま刻んだりはしないさ。
妖怪とてそこまで残虐ではないさ。」
心中を的確に読み取り、先回りした答えをはじき出される。
しかしその言葉も半分は本当、半分は嘘だろう。
体の自由を奪って、生きたまま拘束している輩がまともな接待をしてくれるとは到底思えない。
「ただまあ。
…月人は嫌いでね。
生き恥をかいて貰おうと思ってね。」
言うや否や、永琳の両手の拘束が移動し、手術台の二角に固定される。
(この…!クソ狐ッ…!!)
地に足がついたその一瞬、永琳は好機とばかりに、全力で八雲藍の側頭部めがけて足をぶちつける。
ここがおそらく最後の抵抗の期となるだろう。
五体が満足に動くわけではないが、できる限りの事はしておかなければ。
自身の保身のためにも、ここで藍をやらなければ。
鈍い手ごたえとともに、宙を舞う藍の帽子。
この打撃のみでどうにかなるとも思ってはいないが、せめて一矢。
突然の衝撃により、藍の首の角度を変えることに成功し、傲岸な面を右に向かせることができた。
しかし、これほどの攻撃を貰っても、藍は視線を永琳からは切っていなかった。
冷徹な目を永琳に向けたまま、その後の追撃が可能な態勢かどうかを見極めている。
両腕の拘束は外れていない。
今や永琳は手術台に磔だ。
その情報だけを確認すると、平然と永琳に背を向け無防備に床にしゃがみ込み、飛ばされた帽子を手に取る藍。
背面を向けたまま、丁寧に藍のトレードマークともいえる札だらけの帽子を深くかぶりなおす。
紫様から賜った、大切なもの。
月人はそれを足蹴にした。
こいつらはどうしてここまで八雲を虚仮にできるのか。
胸に去来する、どす黒い狂気をなだめながら、いまだ平静を保っている藍。
「構わないさ。」
虚ろな瞳をまっすぐと永琳に向けながら独り言ちる。
全ては無かったことになるのだから。
八雲の記憶を除いて。
無言のまま藍は拱手の姿勢のまま、まっすぐ永琳のそばまで歩み寄る。
その静かな動作を緊張した面持ちで、見つめ続ける永琳。
あまりの藍の無反応ぶりに、恐怖すら覚える。
この妖獣は何を考えているのか見当がつかない。
激昂するわけでもなし。反撃するのでもなし。警戒するのでもなし。
身動きを封じられた永琳の足元まで移動した藍は、両手を両袖から抜き取り、無造作に身動きの十分に取れない永琳の左足首を両手でつかむ。
おもむろに力を込め…。
そして…。
〇○○〇ッ!
日常生活ではまず聞くことのない、形容しがたい異音とともに、何の躊躇もなく破砕。
その激烈な痛みに、永琳は眼前が白くなり、さらに痛みを緩和するために急速分泌される脳内物質の副作用として、吐き気と強い脱力感を味わうこととなった。
(コイツッ!コイツ…ッ!!)
無論抵抗の余地などない。
悪態をつく余裕すら与えてもらえない。
痛み以外の感覚が遮断され、思考もさえぎられる。
吹き出る脂汗を拭うこともできず、その甚烈な痛みに苦悶の表情を浮かべる。
時間がたてばたつほど心臓の鼓動は強くなり、それに伴い左足からの信号は強さを増す。
その様子を表情一つ変えず、冷徹に見下ろす藍。
そして両手と同じように、何の抵抗もない左脚にも青白い足かせを取り付けた。
残るは右足。
再び藍は、ゆったりとした動作で両腕を両袖に隠す。
あらゆる両手の動き、術の兆候を隠す、攻撃のための動作。
永琳を見下ろす冷たい視線も、態勢も能面のような凍り付いた表情にも、何もかもに変化がない。
ただ淡々と、事務処理を行うように、次の作業の準備を始めている。
そして次に行われるであろうことも明らかだ。
永琳はこの妖狐にかつてない恐怖を感じ始めた。
(…嘘でしょ。)
両袖の中で、術式を組み終わったのか。
両手が両袖から抜かれ。
またアレが来る。
今度は右足。
「待って!待って!
もう抵抗はしないから。もう…」
「それで?」
永琳の右足に両手が添えられる。
「待って!それは駄目、」
「すぐに再生するのだろう?」
徐々に力を込められていく。
「違うの、それでも痛いのよ!」
「そうか、それはお気の毒にな。」
(嘘よ、嘘!)
次の瞬間に訪れるであろう、苛烈な苦痛に備えて、覚悟を決める。
歯を食いしばり、目を強く瞑り、全身に力を込める。
………ッ!!
しかしソレは来ない。
代わりに右足には術式が施された感触が起こる。
恐る恐る薄目を開け、自身の右足を確認しても、既に藍は右足からは手を放し、用事は済んだといわんばかりに背を向け見慣れない機器を触っている。
ただ右足首には両手、左足と同じく青白い紋様で飾られ、既に永琳の意志では自由に動かせなくなっていた。
藍の攻撃は、あくまでも術式を抵抗されないために、永琳の意識を散らし、対抗術式に集中できないようにするための行為だったのだろうか。
合理的といえば合理的だが。
理由はともかく、あの激烈な痛みを再度味わう心配はもう無さそうだ。
左足の再生も既に始まっている。
(何のつもりなのよ。)
声に出して、藍に問いただしたかった永琳ではあったが、今は下手に刺激しない方が良さそうだ。
これから何が行われるかも具体的にはよくわかっていないのだから。
現状では、永琳の四肢は手術台に完全に固定されてしまっている状態である。
両手を高く掲げ、両足をまっすぐと伸ばされ、それぞれが台の四隅に向かって伸ばされている。
抵抗しようにも、手足は強固な結界術と魔術で完全に自由を奪われ、藍の思うがままに空間上の座標に固定されてしまっている。
つまり藍がその気になれば人体の耐久力の限界を超える力で手足を別方向に動かすことも容易なのである。
しばらく従順にしておいた方が、その後の対策を考える時間を稼げるというものだろう。
ふと先ほど藍が発していた言葉が永琳の頭をよぎる。
「生き恥」。
考えられる今後の展開はそれほど多くはない。
が。
永琳は自分にとって都合の良い展開を肯定するための材料を並べ始める。
まさか、藍ほど永く生きている妖怪が、自分を凌辱し、辱めるはずはないだろう。
だって、これまでも合理的な行動しかとってこなかったのだもの。
自分の生体データが欲しいのならば、それこそ紫の能力を使えば、空間に干渉をして簡単に調べることができるはず。
そう、だから今から紫が現れて自分の身体をスキャンして終わるはず。
それが一番効率的なのだから。
一縷の希望に縋るために、なんとかそれなりに説得力のある理由を探す。
もしかしたら交渉材料となるかもしれない。
想像しうる最悪の状況になった時に…。
「脚の再生は完了したようだな。」
藍の一言で、思考の渦から現実へと引き戻される永琳。
台に張り付けられた今の状態ではよく確認できないが、藍は複数の器具をトレイに乗せた運搬台車を脇に設置しながら戻ってきた。
「もう想像はついていると思うが。
これからお前を犯す。」
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於マヨヒガ内部。刻限???。
永琳に対して凌辱開始の宣告がなされた。
ようやくここまでこぎつけた。
いけ好かない月人を辱め、弄び、屈伏させる。
主が月面から撤退したあの時からの怨恨。
紫様は何とも思われていないようだが、私は忘れたことはない。
しかし今から月の最高頭脳を意のままにできるのだ。
楽しみではないと言えば嘘になる。
藍の見下ろしている先には、四肢を四隅に拘束された永琳。
冷静を装っているように見えるが、心中は穏やかではあるまい。
いつもの薬師の装束に身を包み、おしとやかに清ましている。
さて、どんな反応をしてくれるか。
永琳は藍の言葉を待っていたかのように口を開いた。
四肢は動かないため、言葉を使って何とかする他ない。
「待って!
貴女の目的は情報なのでしょう?できる限り協力するわ。
そっちの方がいろいろと伝えられることも多くなるはずよ。
何も力ずくでやる必要はないと思うの。
少しでも多くの情報を得られた方が貴女の任務にとっても益になるはずよ、そうでしょう?
だから…」
「黙れ月人。」
威圧的に一言だけ告げ、そのまま永琳の顔に手が届く距離にまでに横から近づく。
この期に及んでもべらべらと口うるさい。
逃げ惑うウサギのようにおびえていれば多少は可愛げがあるものを。
狩られたものの末路は捕食者に喰われる以外にないのだ。
おもむろに永琳の服の胸元に手を置く藍。
そしてそのまま乱暴に胸元から裾までを爪で引き裂いた。
(ッ……!)
全面が左右に大きくはだけられる永琳のシャツ。
そしてそこに隠されていた大人びた黒い下着が、惜しげもなく露にされてしまう。
なるほどこれは官能的だ。
赤と黒の薬師衣装と同じコントラストの下着。
戦闘用のものなのか、生地は薄く、内側をカバーするパッドはあてがわれていない。
そしてそれに包まれているのは、布地に押さえつけられ、締め付けられている乳房。
激しい動きに耐えられるようにするためか、強めに戒められて、その圧迫にたえきれなくなった豊満な柔肉がこぼれてそうになっている。
もともと藍も、その主も、比較的大きめのふくらみを所持している。
しかし眼前のそれは、自らのものと比してもさらに大きなボリュームを誇っている。
その生意気な双丘を見下ろしていると、嫉妬と軽蔑の入り混じった感情が藍の胸中にもたげてくる。
(チッ、品のない。)
でかけりゃいいってものでもないだろう。
気に入らない。
外気に晒された黒い下着を隠そうと、本能的に腕を動かそうとする永琳。
だが、藍による術式がそれを許さない。
最早逃れることも、説得することも不可能であることを悟った永琳は、赤面ししつつも睨みつけるような視線を目の前の妖怪に送り続ける。
しかしそのおびえるような視線は藍を高揚させる効果しか持たなかった。
あの八意永琳が眼前で羞恥に悶え、身体を守ることすらかなわずただ恨めしそうに睨むことしかできないという状況。
そしてその支配者が自分であるということに、藍は興奮を隠せなくなっていた。
「まるで乙女のようだな。下着を見られるのはそんなに嫌か?」
「…………。」
小馬鹿にするような藍の問いに対し、永琳は口を真一文字に結び、藍を睨み返している。
なるほど、徹底抗戦の構えということか。
願ったりかなったりだ。
藍の手が永琳の首筋に触れる。
優しく、触れるか触れていないかの瀬戸際の強さで。
咄嗟に息をのむ永琳。
見られていると思えば思うほど、肌を人前に晒しているという意識が強く働き、さらなる羞恥心を感じてしまう。
そうして高められた官能のためか、永琳は柔らかく体に触れられるだけで徐々に身体が反応し、体の奥から熱いものがこみあげてくる。
藍のタッチは首筋から段々と下へと降りていき、鎖骨を経て胸へとたどり着く。
さきほどの襲撃の様とは対極的に、女性の肌感覚を引き出すことに特化した手つき。
それも随分と手馴れており、永琳の身体の反応を見ながら様々な箇所に触れていく。
先ほどまで能面のようだった藍の表情も、今では紅潮しており、熟れながらも均整の取れた永琳の肉体の感触を楽しんでいるようだ。
藍は薄手の生地に覆われる永琳の胸の一番敏感な部分にはあえて触れない。
藍の指の降下は、一旦胸を通り過ぎ、腹部に達したかと思えば、そのまま引き返してまた胸へ。
そして脇腹、腕。
あらゆる個所を嘗め回すかのように藍の手が這いまわる。
呼び起されていく永琳の女に呼応するかのように、永琳の肌が泡立つ。
表情にこそ出しはしないが、きめ細かい肌の反応を見る限り、明らかに藍の指を味わっている。
その様子を委細観察している藍。
永琳の身体の反応、表情の変化。
まるで舐りまわすかのような藍の視線を途絶させるべく、永琳はキッと目を閉じた。
数分にわたり一通り永琳の肌の触感を堪能した藍は、未だ布地に守られつつもひと際主張の強い永琳の胸に狙いを定めた。
これまで振れるか触れないかの強さに執心していた藍の手先が、おもむろに乱暴な動きへと変わる。
永琳の豊潤なバストを強く揉みしだいた。
「ふぅっ……!」
突然の動きの変化に、思わずうめき声とも嬌声ともつかない息が永琳の口から洩れる。
「どうした?変な声を上げて。」
ここぞとばかりにそれをからかう藍。
嗜虐心と支配感から、藍も相当に興奮している。
永琳の段々と変化していく様子に比例して、藍の手つきも段々と刺激の強いものへと変わっていく。
しかし、胸の先端部の突起にだけはあえて触れようとしない。
乳房を揉みしだき、敏感な部分を焦らすかのように、その周辺部のみを撫で続ける。
両手でそれぞれの乳房を持ち上げるように両の掌で支え、全体を包み込むように永琳の体温を味わう。
そうしているうちに、薄手の生地のブラジャーの先端に形状が浮き上がってきた。
藍の手による愛撫が永琳の秘めたる感覚を呼び起こし、体の反応として表れてしまっている。
永琳は自分で気づいているのだろうか。
「こういった行為はご無沙汰なのか?
随分と気に入っているようだが?」
「……。」
藍の言葉にも完全黙秘。
何の反応も見せないことで、最後に残ったプライドだけは守り通そうとしているようだ。
それならそれで楽しめそうだ。
どこまでその籠城が続くか試してみよう。
「ココは嬉しそうに反応しているじゃないか。
まだ触れてもいないのにこんなになって。」
言うや否や、薄手の下着を持ち上げる生意気な突起を、ブラジャーの上から軽く触れる。
指をかすめるようにして触ってやると、その刺激から逃れるように永琳は身体をくねらせて抵抗する。
ただ体幹の動きは、指先ほど繊細ではない。
悠々とその突起に狙いを定め直し、執拗に軽い刺激を与え続ける。
永琳も咄嗟の身体の反応を制御しなおし、凌辱者を喜ばせるだけと無駄な抵抗をやめ、藍の攻撃を甘んじて受け入れるほかなくなってしまっている。
藍の容赦のないタッチに、永琳の胸の先に色づく部分は屈し、みるみるうちに硬さを増していく。
触られる感触から、永琳も自分の乳首が勃起し始めていることに気づくが、抵抗のしようもない。
ただひたすらなすが儘に甘い感覚を甘受しつづける羽目になる。
その間も藍の器用な指先の動きに翻弄されつづけた永琳の乳首は、永琳の意志に反してただただ硬さを増していく。
その様を眼前で藍に観察されていると思うと、羞恥に犯しぬかれているかのような感覚を抱く。
「……!!」
突然そそり立っていた乳首を藍に強くつままれる。
布の上からとはいえ、これまでの焦らすような感覚から一転して、するどい刺激が走る。
蓄積する喜悦を体内だけにとどまらせておけないというほどではないが、さきほどまでよりも明らかに十分な快感が永琳に遅いかかる。
何とか表情を崩すことなく、声を出すこともなく平静を装い続ける永琳。
「そろそろ服の上からだともどかしいんじゃないか?」
「……」
「沈黙は肯定の意思と見做すぞ。」
「……」
断固沈黙を貫く永琳。
もし口を開くと同時に、藍が指の動きを変えれば、思わず嬌声が漏れてしまうかもしれない。
そんなことになれば……。
唯一永琳が行える抵抗の裏にはそんな計算もあった。
いずれにせよ永琳にできることは、徹底して藍を無視することのほかにはない。
そんな永琳の胸中などお察しと言わんばかりに、藍は永琳の羞恥心を掻き立てる。
「ハハッ、この好き者が。」
言うなり、永琳の胸を覆っていた下着の中心に指をかけ、一気に引きずり上げる。
その反動で、押さえつけられていた乳房が解放されたとばかりに、大きく揺れながら外気にさらけ出される。
十分な大きさを持ちながらも、ピンと張りつめ、横に崩れ落ちない張り。
これまでの藍の手により敏感さを押し上げられ、それに抗する結果として、しっとりと滲む汗。
そしてそれらの頂点で薄く色付き、硬さと柔らかさの両方を体現しながらピンと立ち上がっている桜色の突起。
「美しい」と形容するのが最も単純かつ十分ではないだろうか。
永琳の両胸を見ると同時に、藍が思わず抱いてしまった感想はそれであった。
と同時に、強い加虐心に駆り立てられる。
藍の心に生まれた一抹の羨望を否定するかのように、乳首を両手の二つの指でつまみ上げる。
つまみ上げ、擦り上げ、はじき上げる。
この美の極致ともいえるような部位を、自身の意志で思い通りにねぶることで、優位感を保とうとしているのだろうか。
パンチングボールよろしく、どれだけ弾こうとも戻りかえってくる乳首を相手に、藍は徹底的に指で転がし、引っ張り上げ、時には押し込む。
痛みを感じさせないギリギリの力加減で、ただ快楽だけを呼び起こすために、藍は自身の持つ技術を最大限に目の前の女にぶつける。
その乱暴とも繊細ともいえる動きを、敏感な乳首に数分と受け続けなければならなかった永琳は、徐々に息遣いが荒くなり、また眼前の凌辱者から逃れるように顔を背ける。
顔色を変えまいと必死の抵抗を見せていた永琳の表情にも変化が訪れ、何かに耐えるように眉根を寄せている。
ただ無残にも、いくら耐えたところで蓄積する快楽が止むことはない。
崩れ始めた永琳の反応をじっくりと観察しながら、それに応じて藍は刺激に慣れてしまわないように攻め立てる箇所と方法を変化させる。
乳房全体を覆いつくすように、隙間なく、乳輪も、その先で喜びに震える乳首も、絶え間なく隙間なく、指先で弄び続ける。
そんな中。
左手は乳房を刺激しながらも、右手が動きを変える。
少し強めに先端を摘み上げ、永琳の顎をわずかに浮かせたのを皮切りに、触れる箇所が下へと降りていく。
「……!?」
脇腹を超え。
腹部を超え。
今度は戻らずそのまま腰を超え。
外太ももへ。
未だ永琳の下半身は、薬師装束と下着で厳重に守られている。
それが脅かされようとしている。
永琳の唇がわずかに動き、何かを訴えかけようと一瞬開いたが、思い返したかのように再び強く閉じられる。
藍はそれを視認しながらも意に介せず、上着の上からもどかしいばかりの刺激を与えるべく五指を使って脚の上で蠢かせる。
藍の攻めの変化に伴い、永琳は強く内太ももに力を込める。
決して破廉恥を見せないよう、脚が恥ずべき外旋をしないよう、最も秘すべき部分を守るよう。
一方で藍の手もなかなか動きを見せない。
臀部を触るでもなく、内またに潜り込むでもなく、ただ太ももを撫でまわしている。
その間も左手による乳房への刺激は忘れない。
「そろそろココにも欲しいじゃないか。」
下卑た笑みとともに発せられる問い。
来た。
最後の砦を陥落させに。
「それはやめて、お願い。」
これまで眉根を寄せて目を強く瞑り、口を真一文字に結んでいた永琳が、こちらを凝視しながら嘆願するかのように口を開いている。
無言による抵抗を貫くとばかり思っていたところに、意外な反応。
そこまでの乙女心を未だに保っているのか、それとも誰かに操を立てているのか。
どちらでも良い。
「残念だが。」
藍の右手が永琳のスカートの腰回りにかかる。
永琳の下半身を隠す邪魔な布地を奪い去るために。
そのまま力任せに引きずりおろそうとした瞬間、あれだけ閉じ合わせられていた永琳の脚部が外旋し、大腿部が大きく開かれる。
開かれた脚部は肩幅を超えんばかりだ。
足首は術式により固定されているが、数少ない可動域である太ももだけを動かした永琳。
なるほどこれでは永琳の袴を下におろすことはできない。
正真正銘、永琳による最後の抵抗だった。
「やめて、お願いよ。」
つぶやくようなか細い嘆願に、藍は並々ならぬ愉悦を覚える。
あの八意永琳が自分に弱弱しく懇願している。
まるで自分が生殺与奪を握っているかに思えるような状況に、藍も興奮を隠しきれず体の奥に熱いものを感じてしまう。
だが永琳の情に訴えかけるような懇願も、今の状況では藍の嗜虐心を煽り立てる結果にしかならない。
むしろ、大きく開いている開脚部を隠す永琳のスカートを剥ぎ取って、その破廉恥な姿を目に焼き付けてやりたいという衝動に駆られる藍。
左胸を触り続けていた手を、そのままスカートのベルト部分に移動させ、両手で鷲掴みにする。
有無を言わさずそのまま引き裂かれる、永琳の薬師装束。
永琳がプライドを放棄してまで守り抜こうとしていた箇所があっさりと、無残にも藍の眼前に晒される。
スカートが引き裂かれる瞬間、察知した永琳は慌てて元通りにぴったりと両脚を閉じ、これ以上の狼藉から最後の砦を守ろうとしたため、
望みの姿を見ることはかなわなかったが、それでも永琳の肌を隠す最後の布が外気に直接さらされることとなった。
装束に合わせてコーディネートされた、少し派手目な黒い上下。
永遠亭で生活を共にするもの達ですら、まず見ることのない永琳の下着姿。
藍はそんなことを知る由もないが、今はその扇情的な姿を視姦することを楽しんでいた。
全体的に肉付きが良く、女性的な体つきをしている中でも特に目を引く胸部は、哀れにも既に藍の手によって曝け出され。
腕を完全に拘束されているために、隠すこともかなわないその先端では、藍が執拗に施した凌辱の跡として、淡い桜色の乳首が硬くしこり立っている。
丹念に手入れされている脇。
女性らしい脂肪をうっすらとまといながらも、豊かな胸部と腰部とは対照的に細くくびれた腰回り。
そこは汗でしっとりと濡れ、荒い呼吸とともに上下する横隔膜の動きに合わせて、生命を感じさせる運動を続けている。
そして。
今晒された、派手目な黒いショーツに覆われた永琳の最後の場所。
そこを懸命に守ろうと、ぎこちのない動きで強く閉じられている両脚。
陥落寸前でありながらも、最後まで必死に抵抗を続けている動きに、永琳の強い乙女心と覚悟を感じ取れる。
その先端の足首は、これまた藍によって施された術によって青白く光り、空間に固定されている。
つまり、藍の意志一つでこの位置は如何様にも変化させることができる。
藍の意志一つで、永琳の最後の抵抗を、難なくこじ開けることができるのだ。
藍はたっぷりと永琳のあられもない姿を楽しんだ後、やおらに背筋を伸ばし、拱手の構えに戻った。
霊術、妖術、結界術、魔術、体術、あらゆる種類の術を使う前に取る、藍の予備動作。
自分の身体を嘗め回すように触れていた藍が、ゆっくりと離れていくのを見ていた永琳も、この姿を見て次に何が起こるのかを察知する。
藍の顔にはいつもの冷静さはない。
どちらかというと、主の尊大で不遜な笑みにも似た表情を浮かべている。
羽をもがれ、逃げ出す術を失った小鳥を弄ぶ子猫のように。
無邪気故に邪悪な目で永琳を見下ろしている。
懇願も駄目。抵抗もできない。逃亡もかなわない。説得などもってのほか。
万策尽きた永琳は、ただ弱弱しく藍の瞳に訴えかける。
藍はその眼差しを受け止めながらも、淡い消え入りそうな希望を打ち壊すかのように、右手を左袖から抜き取った。
そして人差し指を立て、永琳に向かって手のひらを向ける。
これはお伽噺ではない。
藍は心変わりなどしない。
紫に命と許可をもらっている。
助けも援軍もなく、変化もない。
ここはマヨヒガ、八雲のテリトリー、藍の作り出す隔離空間。
故に、藍の指先の動きを阻止するものは何もなかった。
永琳の一縷の希望を払い去るかのように、藍の右人差し指がわずか数センチ、右方向に空を切る。
それに伴い、永琳を拘束している左足の枷が、左方向へと大きく動く。
同様に、藍の指が左に動く。
それに伴い、永琳の右足が右方向に大きく動く。
永琳も医者だ。
何度となく手術を行ったこともあるし、助産を行ったこともある。
その際に患者に開脚させることもある。
それでも、現在の永琳の恰好は医療の場ではありえない。
治療行為のためには、ここまで脚部を開かせる必要がないからだ。
この手術室では似つかわしくない格好。
ただ女性を辱めることのみに主眼を置いた、無残なまでの大開脚を永琳は強要されている。
永琳の両股の角度はゆうに100度を超え、120度をも超えている。
そして両足首は、藍の意志によりご丁寧にも少し高く持ち上げられ、これ以上ないほどの羞恥のポーズを取らされている。
自らの秘部を他者の視線から遮るものは、今や頼りない黒い布切れ一つ以外には何もなく、むしろ下着は他者の視線を集め、楽しませるアクセサリーとなってしまっている。
藍はこれ見よがしにゆっくりと永琳の前へと移動し、しゃがみこみ、最も見られたくない場所をまじまじと観察している。
凄まじい羞恥心に脳が焼き切れそうになる永琳は、あまりの恥ずかしさに自分の姿を直視することもできず、ただ顔を背け、目を強く瞑っている。
その様子を藍は満足そうに眺めながら、数十秒にわたって厭らしい視線を永琳の股間部に集中させ、それを永琳にも意識させた。
黒い布地により隠されているため、直接観察することはできないが、おそらくその内部では女性器が何とかして外部からの侵略を防ごうとして、
うごめいているのだろう。
それとも、既に受け入れる準備を始めているのだろうか。
にわかに立ち込めてくる、永琳の汗と、さらにそれとは別の甘酸っぱいにおい。
この距離にまで接近すれば、藍の鋭敏な嗅覚では容易に補足することができた。
まだ下着を濡らすほどにまで溢れてきているわけではないが、その中ではそれなりの量の液が分泌されているに違いない。
「月人は穢れを避けるようだが、随分とスケベだな。
触ってもないのに、もうパンツが黒ずむほど大きなシミを作って。」
藍の発する言葉に永琳は目に見えて顔を赤らめる。
隠すことのままならない部位をこれでもかというほど観察された挙句、自分が性的に興奮している証拠を言葉で指摘され、
突きつけられる。
本当は小さな染みすら確認できていないのだが。
「中を確認したらどうなっているんだろうな?」
さらに煽り立てるような藍の言葉に、はっと目を開き藍の手の行き先を確認してしまう永琳。
しかし、目を開けたことによって、自身がどんな羞恥のポーズを強要されているかを今一度確認することになってしまった。
うっすらと涙を浮かべながら再び目を強く瞑る永琳。
もはや永琳は藍に言われるがまま、なされるがままで何も抵抗できなくなっている。
抵抗したとしても、ただ大きく開かれた股間部をはしたなく上下左右に揺さぶる事ぐらいしかできず、それは藍の眼をさらに楽しませることにしかならない。
それならば現状維持を保つほかない。
もっとも、それでも死ぬほど恥ずかしいのだが。
永琳が屈辱に打ちのめされているのを十分に感じ、それに満足する藍は、次なる行動に入った。
永琳を守る最後の布切れのクロッチ部分を人差し指で持ち上げ、秘匿すべき肉に外気を味わわせる。
今永琳の秘部を隠している下着ですら、藍の意志によって如何様にでも取り去り、陥落させることができる。
この事実を否が応でも永琳に実感させるために。
藍が股布を持ち上げたのは一瞬だけであったが、それだけでも、眼前の凌辱者はどこまでも手加減する気などないことを永琳に覚悟させる。
さらに2度3度と、さも楽しそうに藍はパチンパチンと音を立てながら、その部分を引っ張り、離す。
永琳の弱くも荒い呼吸音の他は総じて静寂であった部屋の中に、永琳の股間と伸縮性のあるパンティーのゴムが奏でる音が響き渡る。
おもむろに藍の右手が、永琳の内太ももに触れた。
まだこの場所には一度も触れてきていない。
同時に、他者が容易に触れられる箇所でもなかった。
事実、過去永琳のこの鋭敏な場所に触れたことがあるものなど、両手で数えるほどもいない。
その一人に藍が加わったことは、新たなる侵略を告げる合図でもあった。
相変わらず藍の指の動きは、繊細でかつ官能を引き出すことのみを意識したものであった。
大きく広げられ、阻むものなど何もない永琳の股関節一帯に、隙間なく途切れなく五指を這わせる。
左太ももから外大腿部に。
そのまま腹部まで上がり、今度は右脚部へ。
右足をじっくりと堪能するように撫でまわした後は、両脚の付け根に藍の指が向かう。
だが肝心な部分には触れずに素通りしてまた左足へ。
じっくりと焦らすように、弱火で煮込むように、十分に永琳の意識を下腹部に集中させる。
触れるのか触れないのか、いつ触れられるのか。
永琳には一切の動きがなく、おねだりするかのようにはしたなく腰を揺することもなく、口を開くわけでもなく。
ただじっと耐えている。
その中にも微妙な表情の変化、肌の変化が生じることを、藍の眼は見逃さない。
どれだけ嫌がろうとも、その中で生き恥を晒させるために、無理やり永琳の性を押し上げていく。
ただいたずらに脚部を往復していた藍の手が、ついに永琳の中心に触れた。
きわめて軽く、触れたか触れなかったかわからないほどに。
そしてそのまま通過するかのように指を移動させるかのように思った瞬間、藍の指は再び足の付け根に戻り、永琳の中心部を人差し指と中指の腹で再度捉える。
二度三度とパンティーの上から強めに押し込み、揉みこむような動きを見せた後、また指は離れていった。
離れていったっきりなかなか戻ってこない。
時々左右を往復する手が股間部に触れるが、中心部からは外れた外側を通過していく。
これには永琳も憔悴している。
突然これまでにない強い刺激を味わった後に、来るのか来ないのか、予測できない動きが繰り返され、その間にも大腿部を撫でまわされ、官能を高められ続けている。
いつの間にか、藍の指が次に秘穴の上を通過するのを待ち望んでいるかのような考えが頭の中に浮かび上がってきていたのに気づき、永琳は慌ててそれを消し去る。
こんな獣の指などには屈しない。
決して欲しがったりはしていない。
そんな永琳の逡巡を見透かすかのように。
(はぅ……ッ!!!)
来てしまった。次の藍の指が。
やっと来た…!
などとは思っていない。
こんな幼稚な、たどたどしい指使いで月の頭脳の熟れた体を追いやる事などできない。
また二度三度の揉みこみで、永琳の秘密の穴の上から立ち去っていく藍の指だったが。
今度は足にまでは移動しない。
永琳を飾る最後の下着と肌の境界を執拗になぞり続ける。
その黒と桃のコントラストを比較するかのように。
藍の指は大腿部の肌ではなく、ついに永琳の両脚の付け根の素肌を楽しみ始めた。
未だ黒のショーツで守られているため、露出している肌自体は少なめだが、そのあらわになっている素肌だけを舐るように徹底的に撫で始めた。
永琳としてはたまらない。
否が応でも女性器への刺激を意識せざるを得ない。
やにわに藍が永琳の股間部の間に身体を入れ、腰を落とした。
目をつぶっている永琳もその気配を察し、薄目を開け藍の姿を確認する。
すると。
藍は永琳の陰部を至近距離で観察しながら右手でソコを弄っている。
おそらくあの態勢だと藍の視界のほとんどが永琳の黒い下着と、そこから漏れ出る肉体で埋め尽くされていることだろう。
脳の焼き切れるような羞恥を感じながらも、何の抵抗もできない永琳はただ目を閉じて、その光景を脳から追い出すことしかできなかった。
一方の藍は、これまでの永琳の身体の反応から判断して、そろそろ本格的な責めを展開し始めようかと思案しているところであった。
永琳に恥辱を与えつつ、ココにも満足のいく刺激を与え、乱れさせる。
そしてプライドを崩したうえで、恥も外聞もなくあられもない姿をさらさせた後、任務を遂行する。
幸い、永琳の身体は思ったよりも反応が良い。
言い換えれば永琳は思ったよりスケベだ。
想定より少し長く遊べそうだ。
そんな計算をしながらも、藍は永琳の観察を怠らない。
鋭敏な嗅覚は、永琳の恥液を検出しているが、未だに下着に浮き出てくるほどではない。
さすがに直接弄らなければだめか。
そう結論付けた藍は、永琳の最後に残されている黒い下着に向かって最後の侵攻を開始した。
永琳の布地は、最も秘すべき部分を藍の視線から守るという点においては、大いに役割を果たしていたが、
所詮は永琳の秘部に、張り付いているだけの布切れである。
指でズラせばあっさりと陥落する。
しかし、あえてそうはしない。
永琳を脳の髄まで犯すためにも、藍はゆっくりと指先をその布地の内側へと潜らせ始めた。
それに伴い、黒で守っていた面積が肌色に侵食されていく。
藍は両手の親指で、クロッチ部分に左右から中央に向かってゆっくりと指を這わせ、円を描くように揉みこんでいく。
永琳からすれば堪らない。
陰部を揉みこむような動きで、だんだんと最も大切な部分に向かって両側から藍の指が近づいてきている。
このままではほんの十数秒後には、中心部に到達してしまう。
いよいよ覚悟を決めるしかなさそうだ。
藍は永琳の鋭敏な部分の感触を確かめながら、指を進めていく。
既にかなりの熱を持っているため、かなりの興奮状態に陥っていることは容易に読み取れる。
…おや?
ようやく目の前のパンティーの中央部に黒い染みが出てき始めた。
反射的に、その中央部を弄り倒したくなる衝動に駆られるが、抑え込む。
恐らく今の状態で永琳の秘部を閉ざしているであろう肉唇を左右に大きく開くと、ナカにとどまっているであろう液が一気に外に漏れだし、
染みは一気に大きくなるだろう。
ただそれは直接見ながら、その様子を言葉にして永琳にぶつけてやりたい。
仕方がないので、今の作業は中断して、もっと直接的に弄ることにしよう。
藍は指を下着の縁から抜き、今度は中央部から少し上の個所に狙いを定めた。
間髪入れずにそこを右手の親指で押す。
おそらく永琳の秘豆が隠されているであろう場所を。
突然の刺激の変化に、永琳は一瞬腰を浮かす。
まだ強い刺激は与えていない。
親指の腹で撫でているだけ。
それでも、女性が快楽を得るためだけに準備されている器官を刺激されているのだから、たまったものではない。
ついに来た本格的な性感に、永琳は戸惑いながらも眉根を寄せて耐える。
永琳を女にして悦ばせているそこを、藍は軽く撫で、時々指の腹で弾く。
すると、隠されていたはずの陰核のありかが、だんだんと下着越しにでも明らかになってきた。
まさか自ら淫撃に晒されに来るとは。
そんなに快楽を貪りたいのか。
それでも快楽の中枢に強い刺激は与えてやらず、代わりに上半身で起立している突起を左手で弄ってやる。
左手を伸ばしたことにより、藍の顔はさらに永琳の股間部と近づいてしまい、思わず目の前のソレを藍は嘗め上げそうになる。
藍も粘膜同士の感触を楽しみたいと思うほどにまで興奮してしまっている。
そのままたっぷりと下着の上から永琳の股間を集中的に撫でまわして数分後。
そろそろ頃合いか。
目の前の布切れがもう邪魔になってきた。
直接中を確認しながら徹底的に穿り抜き、永琳を観察しながら分析し、そして永琳にあられもない嬌声をあげさせてやりたい。
蓋を開けてみると、永琳の女性器が興奮しきって大口を開き、だらしなくよだれを垂らしながらこちらを大歓迎していたりしても興ざめだ。
あと数分弄り続けると、そうなりかねない。
藍自らの経験に照らしてみても、それほどまでに永琳は刺激に対して我慢弱い。
この女にはあくまでも妖獣による凌辱に耐える月人を演出してもらわねば。
「さて。――――――」
全ての手の動きを突然にやめてしまった藍は、おもむろに立ち上がる。
そして再びいつもの拱手の姿勢。
大股開きになっている永琳のそばを通り、診察台の横に置かれている機器の前にまで移動する藍。
そこで何やら操作をすると、照明がついた。
手術中などに使われる無影灯。
非常に明るく、細部を観察するために使われる照明。
つまり、今何も隠すことのできていない永琳の恥部は、これからさらに藍によって詳細に観察されることを意味している。
永琳も目をつぶっていたとはいえ、突然の照明に何が起こったかわからず、当惑している。
しかし、自らの下品な痴態が、さらに淫靡な照明によってライトアップされていることを飲み込むと、すべてを理解したかのように藍を見つめた。
藍は相も変わらず、その主と同じような笑みを浮かべている。
藍は捕食者、永琳は囚われの獲物。
文字通り微塵も隠れることなどできなくなっている。
拱手の捕食者は、再び永琳の股前にまで戻ってきた。
「―――――そろそろ本番といこうか。」
言うや否や、藍は自身の爪を剥き、永琳の最後の下着の両サイドに引っ掛けた。
そのまま鋭利な爪で、布を裂くように一閃させる。
―――――ハラリ。
抗弁の間もなく、抵抗の術もなく。
永琳の身体を守っていた、正真正銘最後の一枚が、藍の爪によって引き裂かれ、あっさりと、無残にも床へと舞い落ちた。
そして今、無影灯の前に曝け出されているのは永琳の秘すべき女の場所。
美しく形を整える胸部も、その先に色づく蕾も。
丹念に手入れがなされ、永琳の女性器の周りを彩る銀色の陰毛も。
凌辱を受けているとはいえ、未だに清純を誇示するかのように、ぴったりと閉じられたままの陰唇も。
全てが淫靡な明かりのもとに曝け出されてしまった。
とはいえ、永琳も大きく左右に足を割り開かれている中でも、性器のさらなる内側の秘粘膜を容易にさらすような真似はしていない。
先ほど藍からの攻撃を受けていた豆も、場所の主張こそすれ、包皮から顔を出すような、はしたない様子は見られなかった。
凌辱者の責めに屈して、興奮しきってだらしなく大口を開けて異物の挿入を心待ちにしている、そんなふしだらさは微塵も感じ取れない。
しかし永琳の興奮の証として、わずかに内から漏れ出した分泌液によって、表面はヌラヌラと無影灯を反射していた。
「ココを。
こんなにもあっさりと他人に観られるのが信じられないか?」
「……」
「あられもなく大股を開かされて、オンナの最も秘すべき部分を暴き出されて。
普段のお前なら想像だにできないだろう?」
「……」
「それが今やコレだ。
月のリーダーだかなんだかしらないが、随分とみっともない恰好じゃないか。
丸見えなんていうものじゃないぞ?
乳首をはしたなく尖らせて、まんこからはダラダラと涎を流して悦ばせて。
お前のペットのウサギにも、この格好を見せてやりたいもんだ。」
「……」
(だんまり、ね。)
おそらく永琳に許された最後の抵抗、黙秘。
ならば。
その抵抗もできなくなるほどに辱めてやろうじゃないか。
藍は躊躇うことなく永琳をさらに恥辱に貶めるべく、永琳を守っていた秘粘膜を両の指で大きく捲り返し、最奥を無影灯のもとに曝け出させた。
その途端に、中にためられていた蜜が零れ落ち、永琳の銀色の陰毛を淫靡に彩ることとなった。
たとえ外見上は慎ましく澄ましていようとも、秘粘膜の内側は収縮をひくひくと繰り返し、大量の汁をしたたらせている。
煮込むようにして永琳の官能をあおり続けた結果として、ピッタリと閉じていた内側には我慢しきれないほどの淫蜜を隠していたのだ。
溢れた熱い蜜が垂れ落ち、そのままありの門渡りを超え、アナルにまで熱を伝える。
途端にあたりに漂う、淫臭。
ツンと酸っぱいにおいが両者の鼻を衝く。
その感覚のあまりの羞恥に顔を紅く染めながらも、必死に顔を背け、口を閉ざし耐える永琳。
そんな光景を観察しながら、そこに藍は二本の指を一まとめにして尖らせ、そのまま永琳の穴に突入させた。
「あうぅっっ!!」
これまで口を堅く閉じ、声を上げまいと頑張って着た永琳であったが、本丸への攻撃に耐えきれず思わず声を上げてしまう。
挿入された深さは、第二関節ほどまでで、決して奥までは届いていなかったが、それでもそれまでの焦らすような攻めとは異なる動きで永琳を攻め立てる。
藍は白昼のような明るさの照明のもとで、じっくりと永琳の股間部を凝視し、表情を読み取り、内部の様々な部分を探している。
熱い吐息を漏らし続けるさなか、ひと際息をのむように永琳の上顎が上がる箇所をいくつか探り当てる。
藍の探るような手つきに合わせて、永琳の下半身は無意識のうちにも時々跳ね上がる。
そのまま指での浅いストロークを繰り返しながら、丹念に永琳の弱点を探索する藍の指。
入り口付近のみとはいえ、それまで直接刺激されてこなかった陰部に本格的な激しい刺激をくわえられ、嫌が応にも感じてしまう永琳。
焦らしに焦らされたところに、待ち焦がれたような快感を叩き込まれ、埋め込まれ、すんでのところで永琳は嬌声を上げないように耐えている。
いくつかのツボを押さえた藍の右手は、探るような指使いから変化し、永琳の弱点をひっかくように強く指の腹でこそげ上げていく動きへと変わった。
その衝撃から何とか逃れようと永琳は下半身を揺さぶるが、容易に藍により空しく追撃されてしまう。
「なんだ、お楽しみのようだな、そんなにはしたなく腰を振りたくって。
指を咥えこんで早々おねだりとは、
もう少し恥じらいを知ったらどうだ?」
永琳としては、少しでもこの強烈な快美感から逃れるための運動なのだが、外から見れば確かに快感を貪るように腰を振っているように見えなくもない。
もちろん藍も、永琳の腰使いが指から逃れようと動いているのは百も承知だが、羞恥を植え付けるためにわざと煽っている。
その間にも藍の指は休むことを知らない。
抜いては浅く挿入しなおし、永琳が刺激になれないよう天井部分を、下の方を、入り口だけを、徹底的に擦り上げる。
そんな攻防を幾度となく繰り返しているうちに、ますます永琳の奥からは蜜があふれ、そのまま藍の指の抽送とともに外側へと掻き出されていく。
結果として、クチュクチュという音を奏でながら、むせ返るような強いニオイがあたりにも立ち込める。
「はぁっ、ぁぁ…、うううっ」
冷静な目つきで永琳を観察し、これからの準備を進めている藍はそのまま数分にわたって一定の動きを継続し、永琳の浅い部分を調べ上げていた。
永琳はその藍からの刺激に耐えきれず、すでに断続的に声を上げている。
永琳が刺激に慣れてしまわないように、藍は逐一掻き上げる位置を少しずつ変え、さらに持て余していた左手を参加させた。
そして今や涎をたらして喜んでいる穴の上部にちょこんと顔を出している、最も鋭敏な部分を申し訳程度にからかってやる。
「ひぅ!?んうぁぁ…!」
突然の新しい刺激に成すすべもない。
嬌声とともに永琳の身体は悶えるようにあわただしく動かそうとしてはいるが、四肢の拘束がそれを許さない。
指先から伝わる熱は熱湯に使っているかのような熱さで、藍の指をきつく食い締めている。
ぬかるみに入れているかのような粘着質な感触も気にすることなく、容赦なく永琳の膣に藍の指により抽送が続けられる。
探求の指は段々と永琳の膣深くにまで侵入しようと、上下運動の幅を広げてくる。
それに対して永琳はきつく息んで腰を絞り、括約筋を締め付けて侵入者を阻もうとする。
しかし、その甲斐もむなしく、藍の細い指先はズルズルと奥の方にまで到達する。
到達部が深くなればなるほど、新たな快美観が追加され、いよいよもって永琳を高みへと突き上げていく。
疼く局部をなぶり続けていた藍の手は、さらに手首をうならせるようにして回転運動を加えて、永琳を存分に弄る。
漏出する愛液を左手で借りてきて陰核にまぶし、包皮の上からクリを左右に徹底的に弾きつづける。
――クチャ、クチュクチュッ…。――
聞くに堪えない水音が響き渡り、藍の指は泡立ち白濁した永琳の汁によって幾重にもコーティングされている。
先ほどまでぴったりと閉じ合わされて、永琳の最奥を守っていた小陰唇も、今や藍の指をくわえこみ、美味しそうにしゃぶりついていた。
挿入した指が深くなるにつれて、言いようもないほどの快美感が永琳の脳を突き抜ける。
止むことなく引き出された快楽に呼応するかのように、泡立った永琳の愛液がだらしなく小陰唇から洩れ、アナルの蕾にまで到達していた。
さらに藍の指は永琳の膣の天井部分のある一点を重点的に刺激し始める。
膣内部でも特に神経が集中しているそこを、狂おしいまでに擦り上げられた永琳はたまらない。
それまでの蓄積をはるかに上回る悦楽が永琳の頭を支配する。
「はぁはぁ、ら…ん…、も…っ、やめ…っ!」
荒い呼吸の合間に、なんとか最後の一線を踏みとどまろうとする永琳。
息遣いに合わせて上下に揺れる永琳の乳房の先に色づく乳首も最早、恥も外聞もなくビンビンに痛いほど勃起している。
照明に照らし出され、熱を持った光と身体の内から溢れる熱に犯され、玉の汗が首筋にも滴っている。
ビクンッとあたかも電流が走ったかのように、突然の強い快感が永琳の脊髄に駆け巡り、永琳の顎が跳ね上がる。
―――藍の右手が膣内部からクリトリスを押し出すように擦り、同時に左手が勃起しきってむき出しにされた突起をつまみ上げたのだ。
これまで弾くようにしか刺激されていなかったところに、新しく強い刺激が加わる。
勃起クリを根元から二本指で揉み上げるようにして弄る藍。
「はおおおぉぉォォ―――――――っっ!!!」
たまらず腰を浮かせて数度空腰を使ってしまう永琳。
快楽の中枢神経を直接刺激されたような快美感に、反射的に腰をくねらせて指から逃れようとする。
そんな必死の抵抗もむなしく、藍の指は的確にますます永琳を追い込み、蹂躙する。
快楽を得るためだけの器官を、内と外から、右と左から、四方八方から挟み撃ちにされ、徹底的に追い詰められる永琳の秘豆。
最早包皮は根元まで剥かれ、先端から付け根までを揉み上げられる。
永琳の腰の動きがどんどん激しくなっていくのを見ながら、永琳の絶頂が近いことを悟る藍。
クリを挟み撃ちにしながらも藍の右手はズボズボと永琳の内部を掻き出すような動きで、天井部分を擦り上げる。
その動きは激しさを増し、永琳を絶頂へと導くことに専念をし始めていた。
「あああああ――――――ッ!!もう止め……ッッ!!」
「なんだ?
ちょっと弄っただけでもうイきそうなのかっ!?
このスケベめ!」
言葉とは裏腹に、今や最大限のストロークで指を抽送させている藍の指は、もはや指の付け根まですべて膣内に飲み込まれては第一関節が引っ掛かかるのみにまで引きも出され。
再度根元までを一気に突入させては、引き戻され。
中の秘粘膜をめくり返しながら外に引き出すかのように乱暴に出し入れされ。
軽く曲げられた指先は永琳の弱点を的確に追い詰めながらこそぎ上げ。
中身を掻き出すように、苛烈ともいえる動きで永琳を攻め立てる。
「そんなに穢れた指が気持ちいいのか?!
ココを、こうするだけでビクビクしてっ!
こんなに涎ダラダラまんこから垂れ流して、少しは恥を知ったらどうだ!?
いい加減グチョグチョ音を上げてるこのスケベ汁を止めろっ!」
「止めてぇっ!……もう無理もう無理ッ…!!
むりぃぃ……ッッ!!
イッ……!!
ダメぇッ…!!!」
普段は毅然として、誰からも尊敬を受けている永琳の脳内に、藍の言葉が響き渡り、被虐、羞恥、悔恨、様々な感情が渦巻き、それを股間から押し寄せる圧倒的な快感に押し流される。
そしてそれらの感情が勝手に悦びとして変換され。
「そらイけッッ!!!
この淫乱月人……ッ!!!」
発声と同時に、指が引き抜かれ、指を3本を捩り合わせて一気に永琳の膣奥にまで突入させる!
しっかりと永琳の弱い部分全てをひっかき上げながら、的確に苛め抜き。
ビクビクと強い痙攣を始めた永琳の肉に、さらなる性感の強烈な攻め!
「だめええええええええっっ!!!!」
凄まじい刺激に、絶頂への準備を整える永琳の身体!
しつこく、的確に、永琳の性感帯を何往復も何往復も藍のうごめく指がこそぎ上げる!
穴は擦り上げられ、クリトリスは抓まれ先端を指の腹でなぞられる!
悶えても悶えても、後から後から押し寄せてくる絶頂、快感!
大量に噴出されている愛液を飛び散らせながらも、藍の指は許してくれない。
さらにランダムに動き、薬師の膣内を攻めまくる!
出し入れする指の速度がさらに上がる!
鳴り響く淫らな水音!
気絶しそうなほどの性感攻めに、永琳は舌をだらしなく出して悶え狂う!
「はああおおおおおおおおおおっっ!!!!」
一瞬、大きく嬌声をあげる永琳!
それに合わせて藍は永琳の穴を攻めまくっていた指をギリギリまで引き抜き……
「今きちゃだめ、今きちゃだめよ!――いまきたら!!」
声にもならない声で、最後の懇願をする永琳の膣奥めがけて……
3本に捩り上げられた藍の指が一気に永琳のまんこを抉り抜いた!
子宮の入り口にまで到達したと同時にそこを指先で押し上げ!
同時に左手でクリトリスを強くつまみ上げる!
ついに臨界点を超えてしまい、蜜を垂れ流す永琳の淫穴!
「なはおおおお――――――――ッ!!!
ダメッ!!イクッ!!
イクッッッ!!!!
あああああ―――――――――ッッ!!!!」
蓄積されてきた凄まじい快感が脊髄から脳めがけて全身を貫く!!
同時にすごい勢いで四方八方に噴出するシオ!!!
それを正面から顔に浴びつつも、絶頂中の永琳をさらに深くイカせるために、指を深く突っ込んだまま蠢かせ、弱点を強く押し込む!
永琳の穴は、藍の指を隅々と味わうかのように、ギッチリと括約筋で喰い締め上げながら何度も卑猥に痙攣を繰り返す!
次々に押し寄せる絶頂感。
妖獣の指に最後まで屈してしまったという敗北感。
そしてそれを一瞬にして無に帰すような圧倒的な下半身からの快感。
(―――――あああっ……
す……すごい……
こんな……―――――)
永琳は声にもならない嬌声を何度か上げた後、グッタリと脱力する。
煮えたぎった油のような熱さの愛液に、藍はその端正な顔を穢されながらも、苦痛にならない程度に永琳を追い込んだ後。
藍の指を締め上げていた永琳の膣圧が弱まっていくのを感じた藍は、指を膣内から抜き取る。
その指に絡みつき、未だ熱を持ち白濁した愛液を見て、思わず嘗め取ってしまう藍。
藍自身も体の奥底からくる熱いものを感じてはいたが、月人に身体を預ける気にはなれない。
存分に自身の欲望を永琳にぶつけ、いくらか満足そうな笑みを浮かべながら、グッタリと絶頂の余韻に浸る永琳を見下ろす。
その余韻に浸っている永琳は、すぐに動けるような状態ではない。
これまでにもそうそう経験したことのないような深い絶頂を受け、大きく胸を上下させながら呼吸を落ち着けている。
まだはっきりとは意識が戻らない中、ぼんやりと無影灯を眺め続け。
それまで以上に無防備な体を晒しながら、ただ漫然とふわふわした余韻に身をゆだねている。
(さて、そろそろやっておくか。)
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不意に藍は立ち上がり、再び診察台横の台車に近づき、そこに置かれたトレイで何やらカチャカチャと始める。
藍が手に取ったのは、耳かきほどの細さのガラス棒。
そして藍はその先端に「何か」を取り付けた。
その棒にヌラヌラとしたグリスのようなものを垂らし、ガラス棒全体になじませる。
怪しげな液体にまみれたガラス棒を片手に、再び藍は永琳の大きく広げられた両脚の前に歩み寄り、屈みこむ。
そして。
遠慮なく無防備な永琳の膣口を再び捲り返し、その穴の中にガラス棒を挿し込んだ。
完全に脱力しきっていた永琳は、再度の異物感に腰を浮かせる。
絶頂を迎えたばかりで敏感になっているところに、突然冷たいものを奥の奥まで挿し込まれたことを感じ取った。
深い絶頂の直後のため、体には思うように力が入らず、まともな思考もままならない。
成すがままに藍の行為を受け入れる他なかった。
藍は慎重に棒の先端を永琳の子宮腔の入り口にまで押し込むと、そのままの状態で軽く目を閉じ、霊力を発動させ、何らかの術式を施す。
その後あっさりとガラス棒を抜き取り、袖の中にしまい込んだ。
(これで完了。)
やにわに藍の雰囲気が変わる。
先ほどまでは嗜虐心に支配され、攻撃的な言動を見せていた藍であったが、今では普段通りの冷静な頭に戻っている。
もう八意永琳に用はない。
横で磔にされているその体にも一縷の関心もないかのように、この部屋に最初に訪れた時に設置しておいた札のもとへと近づき。
それに手をかざし、いつものように青白い紋様を重ねると。
一瞬青白い光を強くした後、その札は消滅していた。
「さて、これで終わりだ。
まあまあ楽しい時間だったが、ここまでだよ。」
永琳に告げているのか、ただの独り言なのか。
独り言であればわざわざ永琳に聞こえるように言う必要もないのだろうが。
永琳は耳で聞き取りつつも、まだ通常の頭脳明晰な状態には戻れずにいる。
一体さっきから藍は何をしているのだろうか。
「マヨヒガでの出来事は無かったことになる。
月人も「穢れ」ずに済んだということだ。
お前のあられもない姿も、誰も見ていなかったし、存在しなかったということさ。」
「……何をいってるの?」
「構わんさ。
私も1分後にはこの出来事を覚えてさえいないだろう。」
言いながら、袖の中から黒い札を取り出した。
主、八雲紫から授かった不気味な札。
膨大な力と悪意を込められた、あるべきでないもの。
それに藍は妖力を込め始める。
さすがの永琳もその禍々しいモノに、意識を呼び起こされる。
一目見ただけで永琳にも直感的に理解ができた。
あれだけの妖力、魔力、霊力を込めなければ現実化できない事象。
月の技術でもまだ干渉することができない領域。
「時間操作」。
おそらく限定的な用途でしか実現できないだろうが、おそらく時間を少しの間巻き戻そうとしている。
でもいったいなぜ?
藍の妖力を授かり続けるそのモノを前に、永琳は相変わらず抵抗もできず、観察していることしかできない。
おそらく藍の記憶も巻き戻されることになるだろう。
何のために?
疑問、安堵、不安、恐怖、様々な想いを胸に抱きながらも、札は封じられていた効力を発動させ、一瞬にしてそこにあった世界が消滅した。
於マヨヒガ入り口前、戌の刻。
「そこで何をしている。」
厳しい口調の言葉が突然背後から投げかけられる。
やはりここで正解だったようね。
空間の断絶面を探しに来た永琳に対して、不審者を問い詰めるような口ぶりで詰問が投げかけられる。
永琳が後ろを振り返ってみると、拱手の姿勢で戦闘状態で立っている九尾の狐がそこには立っていた。
「ここから先は八雲の管轄だ。
訪問の報せは受け取っていない。
即刻立ち去ってもらおう。」
有無を言わせない退去通告。
(これが八雲紫の忠実な番犬ね。)
子犬が威嚇するかのような攻撃的な対応に、いささかの蔑視を向けながら心の中で辟易する。
「交渉に来たのよ。
単刀直入に言うわね。
月と地上を結ぶ量子航路。
あれへの干渉をやめてもらいたいの。」
「そのような話は紫様からお聞きしていない。
再度通告する。即刻立ち去れ。」
やれやれ。
八雲のイヌも厄介なものだ。
姫様のためにも、多少の荒事を介してでも解決しなければならない問題。
ここは……
「賑やかね。
ひとんちの庭先で何事かしら?」
突然声だけが先に空中から出現した後。
空間に突然隙間が出現する。
そしてそこからヌルリと女性の上半身だけが現れる。
言わずもがな、ご主人様のお出ましだ。
(予想外だけど、八雲紫本人が出てきてくれるなら話は早いわね。)
声の主、八雲紫は隙間からあたりを窺うように見た後、そのまま全身を現し、地面へと降りる。
即座に永琳と紫の間に割って入るように、紫の斜め前に立ちはだかるように立ち位置を移動させる藍。
なるほど、忠実なイヌだ。
護衛のつもりなのだろうか。
「量子航路、ね。」
先ほどまでの会話を聞いていたかのように言葉を繰り返す紫。
「あれ、博麗結界に干渉していて困るのよ。
ちょっと書き換えてみたんだけど、だめだったかしら?」
明らかにちょっとではない。
あからさまな細工が間違いなく施された跡があるのだ。
幻想郷で最も油断ならない相手の言葉だ、真に受けるわけがない。
「書き換えた内容の詳細を教えてほしいのだけれど。
記述の中にこちらでは読み取れない不可解な場所があるはずよ。
何をたくらんでるの?」
一瞬永琳の心中を推し量るようにじっと視線を向けてくる紫。
その横では藍が何かもの言いたげな様子で口を開きかけるが、紫が片手で制する。
「バレにくいようにやったつもりだったんだけど、随分早く気付くのね。
どっち?お姫様?それともあなた?」
「どちらでもいいわ。
とにかく結界をもとに戻しなさい。」
この妖怪と下手に会話をしてはいけない。
煙に巻かれるか逃げられるか。
なんにせよロクなことにはならない。
「そうねぇ……。」
わざとらしく、いかにも考える仕草を取る紫。
あざといを通り越して気分が悪い。
恐らく全て結論が出ている中での演技だろう。
とにかくコイツの相手は時間がかかる。
「今度藍をそっちに行かせるわ。
術式に関する情報はすべて持たせておくから。
あなたたちの航路が博麗結界に干渉しているのは事実よ。
その点に関してはこちらも譲れない。
そこを修正しながら調整するのであれば、そちらの事情も飲むわ。」
……あら?
意外とあっさり折れてくれるわね。
少し肩透かしを食らったような気分になりながらも、最低限自体は好転しそうである。
まだその先の折衝でひと悶着あるかもしれないが。
「こちらの事情を知ってくれているのなら話はつけやすいと思う。
とにかく次の新月までには航路をこちらが管理できるようにしたいのよ。」
「……。
そうね。
じゃあ二日後に藍を永遠亭に向かわせるわ。
刻限はそちらの都合の良い時に。」
………
……。
その後も紫の混ぜ返しを受けながらも、何とか交渉をまとめ、約束を取り付けた永琳は無事に永遠亭に戻っていった。
大きないざこざもなく。
八意永琳が立ち去った後、幻想郷からも世界からも隔絶された住処へと戻った二人。
その帰り道に。
「紫様、お言葉ですが、少し月人に甘くないですか?
あの航路は一方的にあちらに落ち度があるのですよ?
なのに……」
納得がいかないと言わんばかりに憮然と言い放つ藍。
ここまで紫に感情的な言葉を放つ藍も珍しい。
「ふふ。
本当に覚えてないのね。
私ったらすごいわ。」
「???」
唐突な謎かけに、それもあまりにも難解で理解の突端すらつかめない応答に面食らう藍。
「覚えている?
先ほどのやり取りの中ででしょうか?」
「そうね。
月人は聡いの。
藍は嘘をつけないから。
――――コレ。
覚えてないでしょ。」
全くの意味不明の言葉の羅列にますます混乱する藍。
その前に差し出されたのは、一枚の蒼い札。
紫の言う通り、藍には全く見覚えがない。
「これ、私にも覗けないのよ。
藍が思い出したら、それ、何があったのか私にも教えてね。」
紫から手渡しされた瞬間、紫からの手渡しがトリガーになっていたのか、札の解除鍵が藍の脳裏に想起される。
「これはここで?」
「私も早く知りたいもの。」
言葉少なな会話。
紫の許可を合図に、札に解除鍵を念じる。
途端、蒼の札は消滅し、藍の装備している帽子の札の一つと呼応し、その札が明滅する。
帽子の札からの情報を転送するかのようにして、藍に記憶がよみがえる。
この世の事象としては存在しないはずの出来事を。
八意永琳とのやり取りを。
そしてそれを忘れていた理由を。
藍の顔に攻撃的な笑みが浮かぶ。
なるほど、すべてに合点がいった。
「藍、そんな顔、人前ではしちゃダメよ?
藍のイメージってものがあるんだから。
私に似た、なんて思われちゃ私が困るわ。」
そういう主の顔にも、屈託のない、笑顔が浮かんでいる。
「さて、報告して頂戴。」
「はい、紫様。
少し長くなりますよ。」
「ええ、詳細にお願いね。
それを楽しみにしてるんだから。
微に入り、細を穿ち、余すことなくよ。」
「でしたら転送しますか?」
「無粋ね。
それは帰ってからでいいわ。
藍の見たものも見たいけど、それは後でのお楽しみ。」
今回の紫の計画。
それは月人の動向を握る事。
そのためにはかつてトップに君臨し、現在も大きな役割を担っている八意の動向をこちらで一方的に把握をすることが最上。
それを実現するための手段として、八意の体内に情報発信術式を埋め込むことが最良であったが。
薬も効かず、身辺護衛もあり、特に不老不死の姫と二人でいるときには迎撃能力の高さから身体に接触することも不可能。
さらに解除されないためにも相手に察知されず、成功後も気づかれてはならない。
そのためには、八意永琳の体内のうち、長期にわたってそれほど変化をしない箇所についての生体情報を一方的に、気づかれないように採取する必要があったのだ。
八意の生体情報さえこちらで取得できれば、あとはわけない。
大結界の中では位置情報さえつかめば、周辺の空気の振動も、空間中の動きも容易に把握することができる。
あとはそれを解析してしまえば、言動全てを記録、保存することが可能というわけだ。
そのための舞台として選ばれたのが、藍の管理するマヨヒガ。
マヨヒガは現実とは隔絶された別空間。
そこを隔離し、用事を済ませた後、空間事消し飛ばす前に情報だけを八雲の管理室に送り届けていたのだ。
首尾よく任務を終え、主の期待に大いに応えた藍は得意げにマヨヒガでの出来事を報告する。
マヨヒガの設定。
永琳をはめるための前準備。
情報収集のために行った前処置。
そして、それに楽しそうに相槌をうちながら聞き入る紫。
――だったのだが。
段々と主の相槌に不満の蔭が見え隠れし始める。
「紫様?」
「じゃあ藍は一人で楽しんでたのね。」
「??」
「私は大結界の調整で大変だったのに。」
「あの……
どういう……?」
「月人虐めて藍はえっちな気分になったのかどうかって聞いてるのよ。」
あ、この展開はまずい。
「いえ、決して……」
「嘘。
ケダモノの藍が仇敵を好き放題弄って興奮しないはずがないわ。
どうせ任務とか忘れて楽しんでたんでしょ。」
「いえ、そのようなことは……」
「このえろぎつね。
私の藍があんな年増に欲情してたなんて絶対に許せないわ!」
「あの、紫様……」
「股開いてる女だったら誰でもいいだなんて、そんなふしだらな狐だったとは思わなかったわ!
決めた。
家に帰ったら藍の身体に聞いてあげる。
何したのか全部。
記憶転送したときに、一瞬でもあの女のこと綺麗とか思った瞬間があったら覚悟しておくことね。」
「ゆ、ゆかりさま……」
「誰が綺麗か思い出させてあげるんだから。
思い出すまで絶対に許してあげない。」
「もう思い出しました!
紫様ですよ!」
「駄目よ、口先でなら誰でも何とでも言えるわ。
心の底から思い出せるように、藍があの月人にしたより酷い躾をしてあげる。
帰ったら覚悟しておくことね。」
「そ、そんなむちゃくちゃな……」
恥じ入るようにもじもじする藍。
主の横暴にも慣れっこの様子。
飼い主から叱責を受ける子犬のように縮こまってしまっている。
……というよりも、これからのことを少し期待しているようにも見える。
任務達成のご褒美と躾を同時に頂戴できるからだろうか。
八雲藍はどこまで行っても八雲の戌である。
久々の二人水入らずの時間に、紫も藍も胸に期待を寄せながら、これまでの、そしてこれからの出来事に話を弾ませながら家路について行った。
(了)