女友達がファミレスに行った時、4歳の息子に「このくだものは何?」と聞かれて「マンゴーよ」と答えたら「マンコ! マンコォォォーーーー!!!」と連呼されて、困ったそうだ。
44歳の拙者も隠語を言いがちだが、さすがにファミレスで連呼はしない(友人の息子は単なる言い間違いだが)。
子どもが人前で「うんこ!」「ちんちん!」と連呼するので困る、と悩む親御さんは多いという。
子どもは下ネタが大好きなので、うんこ漢字ドリルもヒットした。たしかにこのドリルの例文はユニークだ。
「ずっと前から、うんこがもれる予感がしていました」などハラハラするものもあれば、「駅長のうんこが線路の上に置かれている」など事件性を感じるものもある。
「会社にうんこの絵を飾ったところ、業績が上がったそうだ」という例文には「ワイも飾ってみよかな」という気になった。
でも実際は飾らないし、人前でうんこと叫んだりもしない。なぜ子どもは「うんこ!」「ちんちん!」と叫ぶのか……心が叫びたがっているから??
という謎の答えが『おうち性教育はじめます』に書かれていた。
本書は二児の母であるイラストレーターのフクチマミさんと、性教育の専門家である村瀬幸浩先生の共著である。
先ほどの謎について、村瀬先生はこのように語っている。
「幼児にとって、うんちやおしっこを出すことは気持ちいい。しかも『上手にできたね』と褒められて、誇らしい気持ちになる」
「その感覚を覚えているから、基本的に子どもはうんちやおしっこの話が大好きなんだ」
大好きでも公共の場で叫ばれると困るよね。というわけで、そんな時の対処法も書かれている。
うんこちんちん問題だけじゃなく、様々な問いに対する答えが丁寧に解説されている。
プライベートパーツについてどう教える?
性被害から子どもを守るためには?
一緒にお風呂に入るのはいつまで?
子どもが性器さわりをしていたら?
子どもがスカートめくりをされたら?
子どもがアダルトサイトを見ていたら?
パートナーが性教育に無理解、非協力的だったら?
子どもはいつからセックスしていいんだろう?
避妊について、いつどう伝えればいい? ……等など
子どものいない私も大変勉強になったので、ぜひ全国民に読んでほしい。
「夫と男児を育てるのが無理ゲーすぎる問題」で書いたように、夫婦間の意識のギャップに悩む人は夫に読んでもらうといいと思う。
本書でも指摘されるように、日本の性教育はかなり遅れている。一方、日本では世界のポルノの約6割が作られていて「性産業先進国」と呼ばれている。
そのため、多くの子どもがポルノを性教育の教科書にせざるを得ない状況になっている。
カナダ人の友達が「日本のBUKKAKEという言葉は有名だ」と教えてくれたが、無論うどんの話ではない。
村瀬先生いわく「現実とフィクションを見分ける力がつくのは、少なくとも10代後半から」だそうだ。にもかかわらず、子どもでも簡単にアダルト情報につながれてしまう。
しかも「痴漢モノ」「レイプモノ」と呼ばれるコンテンツが溢れていて、性暴力とセックスの区別がつかなくなるリスクがある。
『男が痴漢になる理由』の斉藤章佳先生と対談した時に「痴漢をする男性の中には、痴漢モノのAV を繰り返し見たことがキッカケになったという人は多いですね」「性犯罪が学習された行動であるという前提で考えると、痴漢やレイプもののAVが誰にでも簡単に閲覧できるような状況は非常に危険だと感じます」と仰っていた。
私の元には「エロを規制するフェミ」と金太郎飴みたいなクソリプが飛んでくるが、エロが悪いとも、エロを描くなとも言っていない。性暴力をエロやギャグとして描くな、と言っているのだ。
国民的アニメ『ドラえもん』にも、いまだにしずかちゃんのお風呂シーンが出てくる。
しずかちゃんは「のび太さんのエッチ!」と湯をぶっかけるが、翌週にはさくっと仲直りして、将来結婚までしてくれる。
それを見て「風呂覗きは犯罪だ」と子どもは理解できるだろうか? 学生時代に女湯を覗いたエピソードを、笑い話のようにする大人の男性も多い。
性犯罪にゆるすぎるガバガバ国家で「子どもを被害者にも加害者にもしたくない」と不安を抱える親は多いだろう。
本書に書かれているように、性教育を学ぶことは「性犯罪の被害者・加害者にならない」「低年齢の性体験・妊娠のリスクを回避できる」といったメリット以外にも、「自己肯定感が高まり、自分も人も愛せる人間になる」など多くのメリットがあるそうだ。
村瀬先生は「子どもが自分の性や体に対して肯定的に捉えられるようになって、自己肯定感の高い人間に育つ」「自分だけでなく相手も尊重できるから、幸せな人間関係を築く力の土台となる」と語っている。
海外では包括的性教育が成果を上げている。
『ボーイズ 男の子はなぜ「男らしく」育つのか』には「愛情や親密性の育みを大事にした性教育を行うことによって、支配やコントロールじゃなく、双方の敬意と充足感のある健全な男女関係が育めるようになる」とある。
性教育が進んでいるオランダでは、初性交年齢が高く、十代の出産中絶率も低いそうだ。正しい性知識を教えることで、子どもは自分を守れるようになるのだ。
かたや日本は「性知識を教えると性が乱れる」「寝た子を起こすな」の一点張りで、子どもを信用してないし、守るつもりもない。
「海外に学んだら死ぬ病気なのか?」と自民党のおじいさんたちを正座させて詰めたいが、私にそんな権力はない。
「チカラガ……ホシイ……」と震えつつ、『おうち性教育はじめます』が続々重版で売れまくっていることに希望を感じる。
ちなみに拙者も7年前、正しい性知識とセックスの方法を綴った『オクテ男子のための恋愛ゼミナール』を出版した。
この本は細々と売れ続けていて、私にしては隠れたヒット作なのだが、べつに隠れなくていい。拙者の本はめったに話題にならないのが残念だ。
私がこの本を書いた理由は、女性読者からセックスの悩みが多く寄せられるからだ。
「初体験の時、痛いと言ってるのに『そのうち気持ちよくなるから』と彼氏が動きを止めてくれなくて、セックスが怖くなった」「『外出しすれば大丈夫』と彼氏が避妊をしてくれない」……等など。
そうした悩みを読むたび「今からそいつをこれからそいつをグレッチで殴りにいこうか」と怒髪天を突くが、全員グレッチで成敗するのは無理なので、本を書いたわけである。
こちらは大人向けの本だが、大人の男性にこそ「学び落とし」をしてほしい。
20代の女友達が「痴漢を目撃した時にどうするか?」と男友達に聞いたら「俺は何もしないかな……だって触られてる女性も喜んでるかもしれないし」と返ってきたそうだ。
「ゲロ以下のにおいがプンプンするぜッーーーーッ!! オボロロロ」と吐きそうになるが、これが認知の歪みである。
実際、私も電車で痴漢に遭った時「誘ってるんだろう?」と犯人の男に囁かれた。「こいつはヤベえッー!!」とダッシュで逃げたが、「女は痴漢をされたがっている」と本気で信じている輩もいるのだ。
「環境で悪人になっただと? 違うねッ! こいつは生まれついての悪だッ!」とスピードワゴンは言っていたが、彼らはオギャーと生まれた瞬間、認知が歪んでいたわけではないだろう。
ポルノで学習してしまって、現実とフィクションの区別がつかなくなったのだろう。
斉藤章佳さんの著書『セックス依存症』の対談の中で、AV男優の森林正人さんが以下のように語っていた。
「以前の僕は、女性がセックスで『イヤ』とか『やめて』と抵抗することに興奮を覚えていた時期もありました。いわば『イヤよイヤよも好きのうち』を真に受けていた。『女性器は挿入したら自動的に反応する装置』くらいの認識でした」
「しかし近年、性的同意について学んでいくにつれ、女性の嫌がる様子を見るとすごく萎えてしまうようになりました」
これについては、私も理解できる。以前の私は美少年がムチャクチャにされる系のBLを読んでいたが、今は読めなくなった。
石油王や天狗が美少年をムチャクチャにするシーンを見て「俺もムチャクチャにしてやりてえ」と思ったことは一度もないが、異世界ファンタジーとしても楽しめなくなったのだ。
同様に「フェミニズムを学んで、無理やり系のBLが無理になった」と話す腐女子は多い。
男同士のセックスを壁のシミになって見ていたけど、それでも「攻めが受けを無理やり襲う」みたいな描写を受け入れられなくなった。性暴力をエロとして消費することに、嫌悪感を抱くようになったと。
正しい知識をインプットすることで、感覚がアップデートされる。大人にはこうした学び落としが必要だし、子どもには認知を歪ませないための教育が必要だと思う。
『これからの男の子たちへ』の太田啓子さんと対談した時に「一度学んだものを削ぎ落とすのは大変な作業だから、まず『身につけさせない』ことに大人が注意を払うべき」と仰っていた。
村瀬先生も「子どもの頃から『自分や相手の心や体を大切に扱うこと』を教えておけば、(現実とフィクションを)見分ける力が育つ土台になる」と語っている。
小学生の2人の息子を持つ太田さんは、子どもが見るテレビや漫画について、制限はしていないそうだ。
ただし一緒に見ている時にラッキースケベやジェンダー差別的なシーンがあると「お母さんはこれは良くないと思う」と丁寧に説明してきたという。
すると長男氏はその手のシーンになると「お母さん、わかってるよ!」と宣言するようになったんだとか。
また次男氏が「男のくせに泣くなよ」とお友達にからかわれた時、長男氏が「男とか女とか関係ないよ」とすかさずフォローを出したそうだ。
尊い(尊い)
太田さんに育てられたい人生だった。完。
子どもの頃、私は父に胸や尻を触られていて、「あれは性暴力だったのか」と大人になってから気づいた。
子どもは正しい知識を教えてもらわないとわからないし、子どもは親を選べない。だから本来は性教育を家庭任せにするんじゃなく、義務教育で教えるべきだ。
でも自民党のおじいさんたちに期待はできない。となると市井の人々が性教育を学んで、アップデートしていくしかない。それによって「性暴力を見過ごさない社会」に変わっていくだろう。
親子ガチャがハズレだった元子どもとして、『おうち性教育はじめます』を書いてくださった著者のお二人に感謝したい。
昨今、あちこちで炎上の狼煙が上がっているが、それは燃えるべきものが燃える時代になったということだ。
時代は少しずつでも良い方向に進んでいるな……と思っていた矢先、『快感インストール』の予告を見て腰を抜かした。
私がキスマイのファンだったら、ショックで憤死しただろう。なぜファンの女性の多くが性被害に遭っていることを想像できなかったのか、なぜ誰も止めなかったのか……??
と天を仰いでいたら、キスマイファンの女子から「自律神経がムチャクチャです(泣)」とLINEをもらって胸が痛んだ。
彼らもファンを悲しませる気はなかったはずだ。まともな性教育を受ける機会がなかったことが、こんな悲劇を招いたのだろう。
というわけで、ジャニーズはジェンダー担当に拙者を雇ってはどうか。ギャラは千円でいい。
アルテイシアの59番目の結婚生活
大人気コラムニスト・アルテイシアの結婚と人生にまつわる大爆笑エッセイ。
- バックナンバー
-