日立製作所水戸事業所 さつきまつりに初参加 その6 リニアモータ方式L4形貨車加減速装置
日立製作所水戸事業所「さつきまつり」の展示物、今回は国鉄時代、ヤード継走式貨物輸送の最盛期にヤードの近代化、効率化推進のため開発された貨車加減速装置の紹介です。
鉄道貨物輸送は1872年(明治5年)の開業から間もなく開始され、鉄道網の拡充とともに陸上輸送の主流となって行きました。1906年の鉄道国有化で輸送量は増大し、それまで駅構内の付属施設(仕分け線)で行われていた貨車の入換え、貨物列車の組成作業を専門に行うための操車場が全国各地に建設されました。この時期に建設されたのが稲沢、吹田、田端、品川操車場で、品川は後に旅客化され、貨車の入換作業は新鶴見に移転しました。1937年の日中戦争勃発で軍需を中心とした輸送が増加、香椎、新潟操車場が新たに建設され、太平洋戦争後の復興期に、経済の復興に合わせて増大する貨物輸送のため、富山操車場などが建設されました。
ヤード継走方式(車扱貨物)と言われた貨物輸送方式においては、中継の拠点となる組成駅で、異なる方面から到着した複数の列車が「分解」され、行先の方向を同じくする貨車ごとに「仕分」し、異なる方面に向かう複数の列車を「組成」する作業が行われました。
操車場の形態は大きく以下の3つの方式に分けられました。
1)平面ヤード スイッチャーが貨車を仕分け線に押し込み、推進運転後、急ブレーキを掛け、貨車を「突放」、添乗した構内作業掛がブレーキを操作し、目的の位置に停止させる。
2)ハンプヤード 入換用機関車が貨車を推進運転でハンプに押し上げ、先頭の貨車から下り勾配を転がる。仕分け線のポイントを切り替え、貨車を仕分する。この際にカリターダーにより、貨車を減速する仕組みもありました。
3)重力ヤード 操車場自体が傾斜地に設置されたもので、多くがドイツやイギリスにあり、日本ではありませんでした。
我が国のハンプヤードなどにおける貨車の入換作業は多大な労力を要し、かつ事故も多く大変危険な作業であるため、その近代化、合理化、効率化を目指して、1965年に開業した郡山操車場では空気リターダー方式によるターゲット・シューティング方式が導入され、高崎操車場では1970年にYACS(Yard Automatic Control System)として油圧ユニット方式(ダウティ方式)が採用されていました。そういった情勢のなかで日立製作所水戸事業所ではリニアモータ方式によるL4形貨車加減速装置を開発、試作機を冨山操車場に納入、試験の後、塩浜操車場などに量産タイプが納入されました。
プッシャーカー、ブレーキカー、コントロールカー、モーターカー、およびディスタンスカーの5両で1組となったL4カーが仕分線ごとに配置されており、ハンプから散転されてくる貨車を捕捉し、所定の距離を走行後、安全連結速度で停止中の貨車に連結させてゆく装置です。動力などのための電源は三相交流220Vで軌道間に張られたトローリ―線から給電されました。運転は微弱電界による無線運転とL4カー内に内蔵されたプログラムによる自動運転の二通りが可能でした。
L4カーのサイズは貨車の輪軸に対してかなり小さいことがわかります。
プッシャーカーには前後2組のプッシャーローラーがあり、プッシャーローラーは貨車の進入を検知すると軌条の側面に突き出し貨車車輪のフランジを捕捉し、減速時には前側のローラー、加速時には後側のローラーで貨車の速度を制御します。コントロールカーは捕捉した貨車を制御し、停止している貨車に安全連結速度で連結するための制御装置が搭載されています。また、リニアモーターの逆相ブレーキの他、空気ブレーキ装置が取り付けられています。モーターカーには2台のリニアモータが搭載されており、地上側のリアクション♪レートとの間で推進力を出します。 L4カー試作1号機は鉄道技術研究所、2号機は富山操車場に納入され、量産型は各地のヤードに納入されましたが、展示されているのは新南陽ヤードに納入されたもので1978年3月に製造、1996年10月まで稼働したものです。一日に1800台の貨車の処理にあたりました。
1970年代をピークにモータリゼーションの発達で我が国の貨物輸送の主流はトラック輸送となり、輸送にかかる時間が不確定なヤード継走方式は1969年に東海道・山陽本線で「フレートライナー」が登場して以降、衰退の道を辿り、相次ぐストや国鉄経営の悪化で操車場の近代化は頓挫、1978年10月2日、1980年10月1日のダイヤ改正で貨物列車の大幅な削減が行われ、1984年2月1日のダイヤ改正でとうとうヤード継走方式は全廃となりました。
国鉄の解体、ヤード継走方式の廃止でL4形貨車加減速装置は全国のヤードに普及することは無くなりました。しかしここで終わらないのが、技術者たちの素晴らしいところで、1973年のオイルショック以降、地下鉄の建設工費は1kmあたり、約150億円にまで高騰しており、その70%が土木工事費用で、トンネル内径を小さくすれば工費が安くできる、そのためには小断面地下鉄が出来ないか、というアイデアから開発されたのがその後の大阪市営地下鉄7号線や都営地下鉄大江戸線に繋がるリニア地下鉄でした。この台車に繋がったのがなんとL4形貨車加減速装置で開発されたリニアモータとその制御技術でした。
ということで次の記事では同時に展示されていたリニア地下鉄用小型台車の紹介をします。
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