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画像: note help centerより © ダイヤモンド・オンライン 提供 画像: note help centerより

国内月間アクティブユーザー数が6300万を超えたとも言われ、国内でもっとも人気のあるWebサービスのひとつとしての地位を確立しつつあるnote。しかし、運営元ではここ数カ月間、「炎上騒ぎ」が続いている。一体何があったのか。(フリーライター 鎌田和歌)

今年に入って急伸、文藝春秋とも資本提携

 ツイッターやフェイスブックで話題となっている記事をクリックすると、左上にエメラルドグリーンの四角いアイコンとアルファベット4文字「note」が表示される、という経験をしたことがある人は多いはずだ。

 noteは、ここ数年急成長したWebサービスのひとつで、ブログのように誰でも情報発信ができる。2020年6月には国内の月間アクディブユーザー(月に1回以上アクセスしたユーザー数の合計でMAUともいう)が6300万を突破したことを発表した(会員登録者数は260万人)。2019年9月時点のMAUは2000万で、数カ月で急激に増加した理由について、運営するnote株式会社(以下、note社)はコロナ禍において専門性や知識に基づいた、医療やビジネス記事が多く拡散されたことなどを挙げている。

 ツイッターのMAUが4500万、インスタグラムが3300万(どちらも国内)なので、ユーザー数だけを見れば、noteが後発のWebサービスとしていかに善戦しているかがわかる。

 note社の設立は2011年。ダイヤモンド社の書籍編集者として「もしドラ」こと 『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(岩崎夏海著)などのヒット作を手がけていた加藤貞顕氏が立ち上げた。設立時の名称は「株式会社ピースオブケイク」で、2014年にメディアプラットフォームとしてスタートした「note」の拡大を受け、2020年4月に「note株式会社」に社名変更している。

 2019年8月にはテレビ東京ホールディングスと資本業務提携、そして2020年12月10日には、文藝春秋が同社に出資し、資本業務提携したことを発表した。

 noteは文章、画像、音声、動画を誰でも投稿でき、さらに有料販売できることがクリエイターの利用者が多い理由と言われている。さらに、法人が「公式ブログ」として利用しているケースが多く(同社発表では1600件)、それが「信頼性のあるプラットフォーム」の印象に一役買っている。

 利便性と信頼性の両面でユーザーを獲得してきており、メディア・IT業界における成功例として注目株だったことは間違いない。

ユーザーに「特定」の恐怖を与えたIPアドレス漏洩問題

 しかし、そのnoteの評判がここ数カ月で傾きつつある。

 始まりは2020年8月。ユーザーのIPアドレスが第三者から確認可能な状態になっていることが明らかになり、「IPアドレス漏洩問題」と騒がれた。

 IPアドレスの一致は、「同じ場所から書き込まれた」ことを意味するため、匿名掲示板に書き込まれたコメントのIPアドレスと有名人のnoteのIPアドレスを照合する人たちまで現れた。

 noteで数万人のフォロワーがいる筆者の知人はこの時期にフォロワー数が100人ほど減ったといい、「漏洩で怖くなってアカウントを消したユーザーがそれなりにいたのではないか」と話していた。

 ネット上では素性を隠して発信をする人も多い。著名人が匿名で書き込みを行うこともある。匿名のいちユーザーのつもりで交流を楽しんでいたのに、急に「特定」される可能性が持ち上がった。この恐怖は十分理解できる。

人気の写真家による人生相談

DV被害を「ウソ」と決めつけて炎上

 また、10月後半からはnote社が運営する「cakes」での「炎上」が相次いだ。cakesは、コラムニストや漫画家らが連載を持つ有料のコンテンツ配信サイトだ。

 最初に炎上したのは、写真家・幡野広志氏が連載していた人生相談「幡野広志の、なんで僕に聞くんだろう」。夫との関係を相談した女性に対し、「大袈裟もウソも信用を失うから結果として損するよ」というタイトルをつけて、「あなたの話はどこまで真実でどこまでウソなのか、どれくらい大袈裟にいってるのか、ぼくにはわからないの。細かいことはわからないけど、でもあなたが大袈裟に言ってることだけははっきりわかるの」などと言い立てる内容だった。

 読者からは、DVやモラハラにあたるような内容を伝えている相談者に対して酷な回答であると批判が殺到。ウソだと思うなら取り上げなければいい、などの意見が上がった。また、批判が上がり始めた段階で、編集部が無料公開部分を大幅に減らし、「隠蔽しようとしている」という印象を与えたこと(*)や、編集部がツイッターの告知で女性の文章を「違和感のある相談文」と紹介していたことも火に油を注いだ(*後日のインタビューで、無料箇所の変更は他記事でも行っており、「特別な意図はございません」と釈明)。

 この後、幡野氏と編集部はそれぞれ謝罪。幡野氏は相談者の女性と直接連絡を取って謝罪したことを明らかにしている。

 個人的には、モラハラなどで追い詰められた人に適切な相談相手がおらず、適切ではない相手に相談した結果、二次被害に遭うケースに見えて心が痛かった。

優秀作を受賞したホームレス「観察」レポートが炎上

 さらに11月に入ってからは、cakesのクリエイターコンテスト優秀作を受賞した作品が炎上。これは、ホームレスを3年間取材し続けた夫婦ユニット「ばぃちぃ」による写真入りのレポート記事だった。タイトルは「ホームレスを3年間取材し続けたら、意外な一面にびっくりした」。

 この記事については、「ホームレスの人を動物のような“観察対象”、“異文化扱い”にしている」「剥き出しの差別だ」といった批判のほか、優秀作に選ぶ編集部のスタンスにも批判が集まった。一方で、「異文化扱いしてはいけないのか」「タブーにするより興味関心を持った方がいい」などの擁護意見もあった。

 ただ、「ばぃちぃ」が過去に、交流のあるホームレスの人が作った食事を「ホームレス飯」と名付けてレシピサイトに投稿していたことや、「ホームレス人生ゲーム」の制作を企画し、その境遇を面白がっているとも取れるスタンスだったことが明らかになると、擁護の声は少なくなっていった。

 ミュージシャンのロマン優光氏は自身の連載の中でこの炎上を取り上げ、この記事について「単純に失礼な感じ」「対象に対して失礼でしかないみたいな文章が多い」「文章が雑なせい、下手なせいで余計に変に見えてる部分もあるとは思います」と分析している。

 この分析にもあるように、そもそも記事のクオリティに疑問を持った読者も多く、優秀作品に選んだ編集部の運営に疑問の声が上がった。

2回の炎上、余波で関係のない書き手が「連載消滅」

 そして12月に入り、3回目の炎上があった。12月9日に声優の浅野真澄氏が「あさのますみ」名義でnoteにアップした記事のタイトルは「cakes炎上と、消滅した連載」。

 浅野氏の記事が炎上したのではない。前述した10月と11月の2回の炎上により、cakesで予定されていた浅野氏の連載がなくなった、というものだ。

 浅野氏は、友人が自死を選んだことをきっかけに生じた自身の葛藤を2020年3月に「逝ってしまった君へ」という文章にして発表。cakesクリエイターコンテストに入選し、連載の権利を得ていたという。

 しかしその後の炎上を受け、cakes編集部からは「刺激が強い部分はマイルドに書き直してほしい」「フィクションってことにしませんか」などの提案があり、浅野氏は大きなショックを受けた。また、掲載できないが、支払うとされた原稿料は「1本あたり7000円」だったという。

 これについてネットでは「ひどすぎて言葉にならん」「編集がだめすぎる」などの声があふれた。

 ただ、その後12月14日に浅野氏はnoteを更新して、編集部と和解したことを報告している。

 また、12月10日にはcakesで連載を持っていた佐伯ポインティ氏が「2年間続けていたcakesでの連載が打ち切りとなりました」という記事を公開し、編集部都合により連載打ち切りの提案があり、その提案に不信感を覚えたことをつづっている。

代表・加藤氏のお詫び文も炎上

 残念ながらまだ終わらない。cakesは2回の炎上を受けて11月末に編集長を大熊信氏から榎本紗智氏に交代。また浅野氏の告発を受けて、お詫び文を掲載していた。

 榎本氏名義のお詫び文は体制の見直しなどを発表し、再発防止に努めることを約束するもので、ツイッターで検索すると中には厳しい言及もあるものの、比較的受け入れられている。

 一方で新たな火種となってしまったのが、12月15日に発表された、CEOである加藤氏のお詫び文「cakes一連の件についてのお詫び」だ。

 ピースオブケイク立ち上げ前、20年間編集者を続けてきた加藤氏が、子どもの頃から「コンテンツに救われた経験」があったこと、そして編集者は「クリエイターの想いを、世の中に届ける手伝いをする仕事」という理念、さらに「ネット全体の創作のインフラ」を作るつもりでnoteを始めたことなどが語られている。

 そして、度重なる炎上について、「メディアのような存在になっていったのに、既存のメディアのような厳格なチェック機構がなかったことです」と説明。cakesの初代編集長だった加藤氏の方針には「悪口禁止」があったが、その後に編集長を引き継いだ際に、「より責任あるメディアの方向に体制をシフトしなかったことが、いまの問題を引き起こしています」としている。

ちょい悪風アイコンで謝罪

にじみ出る危機管理の甘さ

 はてなブックマークでこの記事についたコメントで支持を集めているのは、「普通顛末と再発防止策書くでしょ。なんにも書かれてなくてただの回顧録だった」「社員を批判するな、編集者としての自分の来歴、会社の設立、感謝、ミッションという章立てですが、お詫びの体裁が成立していないのでどなたかプロの編集者の方に添削してもらうとよいのではないでしょうか」「言いたいことだけ言い放っておしまい、というのがとてもcakesっぽくて一貫性を感じる」などで、ネットユーザーの受け止めは総じて厳しい。

 ちなみに、ツイッターで記事をシェアした際に表示される加藤氏の似顔絵アイコンがちょい悪風で、お詫び文にそぐわない。この部分だけでもどうにかしたほうがよかったのではないかと思わざるを得ない。広報は機能しているのだろうか。

すべてのメディアは人ごとではない

指針や倫理観を失った編集部

 ただしツイッターの反応では「応援しています」「読んでよかった」などの意見も散見され、noteの躍進を知るメディアやIT企業関係者の一部は、成長に伴う摩擦にすぎないと見なしている様子がうかがえる。

 実際、不満があっても利便性が高ければユーザーは利用を続けるし、利用するユーザーに罪はないので、書いてある内容が面白ければ読者はnoteやcakesの記事を拡散し続けるだろう。編集部にとって本当に怖いのは、一時期の炎上や編集部への信頼低下よりも、コンテンツがつまらないと判断されることだ。ユーザーが関心を持たなくなり、忘れられ、新規顧客がいなくなることの方が怖い。

 炎上を繰り返すブロガーやユーチューバーが、炎上しているうちは安泰であるのと似ている。

 加藤氏はお詫び文の中で、「インターネットは、仕組み上、悪口があふれがち」「悪口というのは、かんたんに言えて、(残念なことですが)おもしろくて、結果、ページビューも増えるので、ネットのエンジンでもある広告と、非常に相性がいい」と書き、そのような既存のインターネットと別の世界を作ることが目標だったと書いている。

 しかし、炎上した幡野氏の文章は悪口どころか相談者に対する公開いじめめいていたし、現在のnoteは、ネットで簡単にページビューの増える炎上で話題になり注目を集めている。

 炎上ブロガーやユーチューバーに共通するのは、「読まれれば(見られれば)なんでもいい」という節操のなさだ。

 ユーザー数獲得の目標ありきの中で、編集部は指針や倫理観を失っていったのではないか。人気のある書き手には何も言えない、そうではない書き手には不適切なマネジメントをする。続いた炎上は、すべてこれが原因だ。

 指針を失った編集部。これはnoteに限らず、貧すれば鈍するを体現するような出版社や新聞社、テレビ局にも言えることだが、次世代のコンテンツプラットフォームとして注目を集めていたnoteにさえその影を見るのは悲しさしかない。

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