▼行間 ▼メニューバー
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
日本語が話せないロシア人美少女転入生が頼れるのは、多言語マスターの俺1人 作者:アサヒ

第一章: 初めましてとご挨拶

5/65

5話: クリスティーナ攻防戦

引き続きお読みいただきありがとうございます!


※この物語はフィクションです。実在の人物や団体、法律などとは関係ありません。

 そして現在。


『おいおいチーナ。どうせこいつらロシア語分かんないだろうけど、ひどい言いようだなぁ』


 俺がそうチーナに声をかけた瞬間、全方位から殺意の波動が俺に襲いかかった。


"おい、なんであいつがクリスちゃんに話しかけてんだよ。てか何言ってんだよ"

"クリスちゃん困ってるじゃない"

"俺の妹に手を出すな!"


 そんな囁きが方々から耳に入る。

 言ってる奴らは聞こえてないつもりなんだろうが、残念。

 通訳者の耳は細かい陰口も逃しません。


 それにしてもこいつら、まじで自分らがしてる事分かってないのか。

 誰もがお前らみたいなコミュ力お化けだと思うなよ。


『ごめんヨリ。日本語分からないって何度も言ってるんだけど、全然聞いて貰えなくて……』

『あぁ、うん。分かってる。分かってるから落ち着け。こいつらも悪気がある訳じゃないんだ……』


 そう、この野次馬どもに悪気がある訳じゃない。


 だからと言って………


『悪気がないのが、余計に腹立つんだ。これを素でやってんだ。もうボコボコにして分からせるしかない』


 許したりしないんですよ?


『待って待って!それはだめだから!ヨリが殴ったら死んじゃうから!』


 立場が一転、鈴を転がすような声を必死に張って俺をなだめるチーナ。


 まるで、日常系。ほのぼのする。


 にしても…………よくない?

 こいつらそろそろ血祭りに上げても許されない?


 そんな会話をしていると、遂に取り巻いている内の一人が俺に野次を飛ばしてきた。


「おい鏡!訳わかんないこと言ってんじゃねえよ!クリスちゃん困ってるだろうが!」


 難癖付けてきたのは、詩織ファンクラブの1人である男子生徒。


 ほんと、ファンクラブや親衛隊の面々は俺の事嫌いよな。


「あのさ、どう見ても俺の方が会話成立してただろ。チーナからしたら、訳わかんないこと言ってんのはお前らの方だ」

「んなわけ無ぇだろ!それにチーナって、クリスちゃんの事か?勝手に気持ち悪いあだ名付けてんじゃねぇよ!」


 随分と勝手な物言いに、俺のいかりのボルテージが上がっていく。


 こめかみに青筋がビキビキと走るのが分かった。

 こんなに頭に来るのは久しぶりだ。


「おい。お前チーナの為だって言いながら、それ全部本人困らせてるんだよ。本当にチーナの為ってんなら、ロシア語話せ」


 ほら!話せって!なぁ!?………っとまくし立てたいところだが、これ以上大事にすると、あとあとチーナが困るかもしれないから我慢する。


 なんだと!っと親衛隊(詩織の)男子が声を更に荒らげたその時…………


「まあまあ、2人とも落ち着けって」


 別の男子生徒…………例のイケメンくんが、割って入ってきた。相変わらずキラキラしたオーラを身に纏いつつ、あくまで友達で同じ立場の仲間なんだと言わんばかりの口ぶり。


 さすが正義漢。分かってるじゃないか。

 さぁ、俺じゃ抑えきれないこの暴れ馬共を制しておくれ!


「みんなも落ち着いて。鏡だって悪気がある訳じゃないんだ」


 ……………前言撤回。何も分かってないわこの鳥頭。


「鏡も、クリスに話しかけたいのは分かるけど、彼女を困らせるのはよくない。転入初日なんだから、ゆっくりさせてあげないと」


 ほぼ同じニュアンスのこと言いましたけども?

 なんで話聞いてないのに割り込んできたのこの子………。

 いや、聞いてはいたんだろうな。理解してないだけで。


 とりあえず、これ以上言っても状況が悪くなるだけなので、唇を噛み締めてぐっと堪える。

 それでも頭に来るから、もうちょい噛み締める。

 引くんだ。ここは俺が引かないといけないんだ。


「そいつは…………悪かったな。以後、気をつけるよ」


 なんとか我慢して譲歩の言葉を紡いだ俺の口端から、ツーっと血が流れた。


 いっけね、噛み切っちまった。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「おらああああああああぁ!!」


 ずだああぁん!


 体育館に轟音が響き渡ると同時に、敷かれた競技用畳に大柄な男が叩きつけられる。

 広く敷かれた畳の上にいるのは、2人1組のペアが3組の計6人。

 そして、畳を囲むようにして見守っているのが10数人。

 その全員が、ミリタリーパンツに山葵わさび色のシャツという出で立ちだ。


 ここは在日米海軍内にある訓練用体育館の1つで、現在格闘術の訓練を行っている。

 叩きつけられたのは、畳の上で組み合っている内の1人で、投げ飛ばしたのは…………俺だ。


『おぉ!いつも以上に気合い入ってるなぁ伊織!』


 畳の外から見物している軍人の1人が、愉快そうに英語で声をかけてきた。


『鬱憤が溜まってんだよ』


 俺は英語で返しつつ、ペアの男が立ち上がるのに手を貸し、そのまま畳の外へ出て次のペアと交代する。


 なぜ俺が軍の訓練に参加しているのか。

 それは、ここで通訳の仕事をしていた父が小さい頃から俺をしょっちゅう連れてきてくれていたからだ。

 放って置いたら母が俺に対して辛く当たるのは分かっていたから、家に置いて出たく無かったのだろう。

 父の仕事中、俺が見学出来ないような内容の時は、軍の人達が訓練の傍ら面倒を見てくれることが多く、次第に俺も訓練に参加させてもらうようになったのだ。


 今では、通訳の仕事がない時は毎日訓練に参加している。

 もちろん、部隊チームワークのシミュレーションなどは流石に見学で、主に個人技能のトレーニングや、体作りのプログラムに合流するだけだ。

 ちなみに、何故か訓練の時間も時給を貰っている。

 責任者曰く、日頃の訓練事情を把握している事や、将兵の面々と密にコミュニケーションを取っている事が、通訳時の円滑な情報交換に繋がるとかなんとか……。

 要は、随分と軍の方々に世話になっているのである。

 俺にとっては、軍の訓練に混ざりながら通訳の仕事をするこの毎日がたまらなく楽しい。


 それはそれとして、


 結局今日は一日、休み時間の度に皆がチーナに群がり、それを俺が庇ってヘイトを集めるという繰り返しだった。


 別に全員が俺の事を毛嫌いしている訳ではないし、奴らの理不尽さに心中で閉口してくれている奴らもいるんだろうが、如何せん詩織信者共の影響力が強く、俺への風当たりは強い。

 別にそれはいつも通りだし、もう慣れたつもりだったのだが、今日は何故かやたら腹が立った。


 明日が憂鬱だ。


 その時、ビー!っとチャイムがなった。

 訓練終了の時間だ。


 まだ暴れ足りないが……仕方ない。


 全員、やれやれ疲れたといった体で体育館のシャワールームに向かう。


 その途中、


『伊織、今日はこの後飯食ったらバスケするんだが、やるか?』


 先程俺のペアだった大柄な男………リアムが、俺にそう提案してきた。


 これもいつものこと。


 普段なら付き合うのだが、今日は………


『チーナに日本語を教えにゃならんから、しばらくは断ることになる。ごめん』


 断らなければならない。


 今日の様子からして、彼女に最低限の日本語を叩き込むのは急務だ。


『アンジーが引き取ったって子か。大変だな。しっかり守ってやれよ!』

『……………分かってるさ』


 リアムの豪快な檄に返事をしてから、シャワーを浴びてさっさとマンションへ帰る。


 鍵を開けて、アンジー宅と瓜二つの廊下を進みリビングに出ると、日本語の教本を取りに寝室に入る。


「え?」


 部屋に入ると、にわかに信じられない光景が目に入り思わず驚きの声が漏れてしまった。





「なんでチーナが、俺のベッドで寝てんの」




 そこには、なぜか俺のベッドでスヤスヤと寝息を立てる小動物がいた。


宜しければ、ブックマークや評価☆よろしくお願いします!


クリスちゃんクリスちゃん呼ばれているチーナですが、"キリスト信者(クリスチャン)そんなに珍しいの?"って思ってたりしなかったりする。

  • ブックマークに追加
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。

感想を書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。