2話: 冤罪にイライラ
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体、法律などとは関係ありません。
俺がクリスティーナと出会った日の話をしよう。
遡ること4日前。始業式の日。
金曜日。
双子の姉である詩織が俺への陰口を叩くせいで、俺は一部の奴らから悪人扱いされるようになっていた。
一部というのは、詩織を取り巻いている親衛隊の女子共や、ファンクラブの男子連中だ。
俺に対して普通に接していたヤツらも、そいつらの影響で最近俺を避けるようになってきた。
まあその成り行きについてはまた詳しく話そう。
その日も俺は学校が終わると同時に帰り支度を始め、さっさと帰路に就こうとしていた。
今日は始業式と掃除だけだったので、昼頃には解散だ。
他のクラスメートたちも、早いうちに帰ることが出来る喜びに浸りながら、思い思いにだべっている。
「鏡くん、いる?」
そこへ、他クラスの女子が数人、俺たちの教室を訪ねてきた。
俺を探しているらしいが、なんの用だろうか。
いや、なんか予想できる気がする。
「鏡ならあそこにいるよ」
それに対応したのはクラスのイケメンくん。
穏やかな話し方で、いかにも正義漢然とした男子で、異世界召喚でもされたら間違いなく勇者になるんだろうなって雰囲気のやつだ。
まぁ、その正義感は相当自分の物差し基準みたいだが………まあ今は置いておこう。
訪ねてきた女子生徒達はイケメンくんに礼を言うと、俺の机を囲むように近づいてきた。
俺は敢えて気づかない振りをしつつ、カバンに荷物を詰め込む手をとめない。
なんか反応するのめんどいし。
どうせ詩織の親衛隊を気取った女子共だろう。
名前は1人も知らん。
どうせ"あいつ"がまた俺の小言を漏らしたんだろう。それもかなり誇張して。
こいつらは詩織を男子の毒牙から守るって名目で詩織に付きまとっているような連中だが、俺から見れば友達思いの良い奴演じる計算高い女狐集団だ。
そんな奴らに構ってやるほど俺は暇じゃない。
バイトあるし。
「ねぇ!鏡くん!」
痺れを切らして1人の親衛隊メンバーが俺の机を軽く叩きながら声をかけてきた。
タンっという音が響き、教室にいた半数程度がこちらに注目する。
めんどくせぇ〜っと思いながらも、自分から心象を悪くするメリットも無いので、できるだけ穏やかに言葉を返す。
そう、さっきのイケメンくんみたいに。
「ぁあ?」
無理でしたああぁ!
凄いぶっきらぼうになっちゃった!俺自分の心に正直すぎぃ!
予想外の高圧的な態度に、親衛隊女子共も微妙に後ずさり気味だ。
まぁ、自分で言うのもなんだが俺はそこそこ痩せマッチョだ。
まあまあの迫力が出てるのだろう。
「あ、あんたさぁ……!」
それでも立ち直って何とか凄んで見せるあたり、さすがは親衛隊と言ったところか、俺の正面に立つリーダーっぽいやつが口を開いた。
「あんた、また詩織がお風呂で着替えてるとこ覗いたらしいじゃない!? いい加減迷惑かけるのやめなさいよ!あの子の気持ち考えたことあるの?」
話し始めるとノってきたのか、次第に声を大きくしてとんでもない事を言い出しやがる。
詩織とは他クラスなのに、こういったことのせいで段々とクラスメートからの評価も下がってきているのだ。ほんと、毎度毎度俺の気持ち考えたことあんのか?
といっても、これに関しては完全に無罪なので、反論の余地がある。異議あり!っと心で唱えて口を開く。
「俺がそれを最後にやっちまったのは小6の時のはずだ。それ以降そんなイベント起きてねえよ。それに、あれだってノックに気づかず鍵もかけ忘れてたアイツもそこそこ悪いと思うんだが」
「嘘言いなさいよ!小6の時からずっとやってるんでしょ?どうせ鍵とかに細工してさぁ!」
中々の剣幕で否定する親衛隊女子。
連れの女子たちもうんうんと小さく頷くのが見えた。
盲信者共め………、俺は心の中で毒づく。
こいつらは詩織の言葉をそっくりそのまま鵜呑みにしやがる。
どうせ、決定的証拠でも突きつけない限り俺を悪者にするのだろう。
詩織バイアス恐るべし。
ならば良かろう、証拠を突きつけてやる。
「まぁ俺が忘れてるだけにしろ、少なくとも高校に入ってからは絶対にやっていないはずだ。ほら、これ」
と言って俺が取り出したるは、去年取得した大型二輪の免許証(最近16歳で大型が取れるようになった)、そしてその裏………現住所の欄を見せる。
「今俺は一人暮らしで、詩織とは暮らしてない。さすがに詩織の家くらい把握してるだろ?」
正確な住所までは覚えていないかもしれないが、親衛隊名乗るなら詩織の家の大体の所在は知っているはずだ。
今俺が住んでいる場所と、詩織の家………俺の実家とは、そんなに離れてはいないがギリギリ地区は違う。
これを見れば、さすがに俺の無実を理解するだろう。
「一緒に住んでいないのだから、間違いなんて起きるはずが無い。これで分かったろ?」
敢えて周りに聞こえるように、少し大声で事実を突きつける。
こうしとかないと、周りで聞いているクラスメート達を発端に、誤解が誤解のまま広がってしまう。
これで親衛隊諸君が納得してくれればいいんだが………
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その日の帰り道。
学校の駐輪場に停めておいたバイクに跨り、自宅への道を景気よく走り抜ける。乗っているのはKLR650。
元々は米軍の偵察用バイクだったのだが、民間払い下げ機となった時に譲ってもらったのだ。
炎天下の中、風を切る感覚が心地いい。
あの後、親衛隊共はどうにか俺を罪人にしようとやはりいくらか粘って来た。
それもいつもの事なのだが、ちょっとくらい俺の言葉を聞いてやくれんのかね?
あのままだと、さすがにキレてぶち転がしそうだったので突っぱねて帰った。
ほんと、詩織と別の高校に行きたかったな。色々事情があって無理だったけど。
そんな事を考えているうちに、自宅………在日米海軍基地の入口に着いた。
俺は高校に入ってから、ここで住み込みの通訳のアルバイトをしている。
本来一般の高校生が米軍で通訳をするなんてことはありえないのだが、昔からここの軍人方とは交流があり、幼い頃から語学だけは堪能だった俺は特別に認められた。
正規の通訳者は定時が17時までだから、その時間外で動ける俺は案外重宝されている。
将兵用集合住宅の一室を借りて住んでいるのだが、それは俺の家庭事情を知っている上の人がいろいろ便宜を図ってくれたおかげだ。名目としては、"緊急時の通訳の確保"ということになっているらしい。
基地の正面入口、白の鉄製ゲートを抜けると、高速道路の入口にあるような警備員小屋がある。
その前で一旦バイクを停め入構許可証を提示しようとすると、いつもの顔馴染みの警備員が顔を出した。
「よう伊織、始業式にしてはちょい遅かったな?」
「他クラスの誰かさんに絡まれちゃったんですよ」
気さくに日本語で話しかけてくる男性警備員。
米軍基地と言っても、警備や通訳、清掃員など日本人は多くいる。
俺もその1人だ。
ところで…………と、用事があるのか警備員のおっさんが少し真面目な顔になって続けた。
「今日の仕事だが、特に通訳の用は入ってねぇから、代わりにレイクさんのとこ行ってくれって」
「アンジーのとこに?なんで?」
彼の言うレイクとは、アンジェリーナ・レイク二等兵曹の事だろう。
いつも仕事で海外を飛び回っている彼女が日本に帰っているのは珍しい。
だが、俺に用事ってなんだ?
俺の問いに、おっちゃんも首をひねりながら答えてくれる。
「よく分からんが、会わせたい人がいるとか聞いたぞ」
なんか、凄く大事になる気がした。
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軍事車両が民間払い下げになって、それを一般人が所有することは可能です。
米軍基地の描写については、なるべく真に沿って描きたいと奮闘しておりますが、いささか情報が少ない……
できるだけ頑張ってはおりますが、分かんないとこは想像で補っております。
ご配慮を……