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日本語が話せないロシア人美少女転入生が頼れるのは、多言語マスターの俺1人 作者:アサヒ

第三章: 家族

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53話: 最後の質問

 土日が明けて12月頭。


 俺は実に3週間と少しぶりの登校を果たした。


 世間はもっぱら"サキ"の虐待報道でもちきりだ。

 人気を博していたサキの謎の引退理由が、妊娠だった事。更に、その子供に対して虐待を行っていたこと。

 メディアやネットは、サキを批判する声で溢れていた。


 そして同じく、シオンの事もトップニュースに。

 彼女の世間からの印象は、弟と共に虐待を耐え抜いて勝った強い女の子……だ。


 基本的に家事審判の内容は開示されないため、詩織も虐待に協力していた事はバレていない。


 サキが親権を取り上げられた、と言う情報だけなら、確かに詩織も虐待を受けていたと考えるのが普通だろう。

 さらに、本人のイメージアップにも繋がる。

 詩織の事務所は、上手いことやったものだ。


 現にサキと違って、ずっと耐えてきて偉い、だとかこんな可愛い子が虐げられるなんて、などともてはやされている。


 別に俺が真実をバラしてやってもいいんだけど、このカードは別の切り方をしないとな……。


 そんな事を考えつつ、校門に群がっていたマスコミを突破して教室に辿り着いた時には、既に俺以外の5人は揃っていた。

 その5人とはもちろん、チーナ、魔王、細井、秋本、宮本だ。チーナにはメディアに捕まらないよう、バスを降りる際に別れて先に行ってもらっていたのだ。

 5人は固まって、俺の席の近くで雑談していた。


『やっときた。マスコミ大変だった?』

『そりゃあな。あいつら、モラルもへったくれも無い』

「今伊織君の発言はお金になるからね」

「嫌な言い方するなよな、秋本」


 などとそれぞれ挨拶を交わしていると、他のクラスメート達も心配そうに声をかけてきた。


「お、鏡が来た!」

「鏡くん、大変だったね!」

「お前、少しは相談しろよな!」


 詩織信者以外とは、クラスマッチ以降から良好な関係を築けている。

 みんな、俺が休んでいる間心配してくれていたらしい。


 半年前なら、決してこんな事は無かっただろうな。


 俺を取り巻く環境は変わりつつある。

 そしてこれからも、変わって行くんだ。

 これから増えていく友達……大事にしないとな。


 そう感じた俺は、自分の机に座りながらクラスの味方組に明るく答える。


「すまんすまん。親との縁を切ろうだなんて、簡単に言いふらせる内容じゃないよぅ(・・・・)って」




 しーーーーん。




 ……すまんでした。慣れてないんです、大勢の前で明るく振る舞うとか。


「と、ところで、しおりんがまさかアイドルになるなんてビックリしたねー」


 気を利かせたみやもっさん。

 あせあせしながら脈絡のない話題で白けた空気を破ってくれる。

 正直へったくそな発言だったが、何故かほっこりしてしまうのはチャイルドシルエットのなせる技か。


 それをきっかけに、クラスは少し詩織の話でにわかに盛り上がり始める。


「ほんとだよな!鏡、お前知らなかったのか?」

「いや、全然」

「姉弟だってのにつれないよなぁ。お前ら」

「いや、もう……」

「詩織ちゃんは詩織ちゃんで、アイドル業大変そうだよな」

「お母さんから虐待受けてたって、詩織ちゃんも同じなのか?」

「詩織はお母さんのこと悪く言ってた感じは無かったけど」

「…………」


 普段の詩織の様子を知っている奴らは、メディアの情報に疑いを持っているようだ。


 そりゃそうだ、いつも詩織はあいつを持ち上げてたからな。


 その時である、


「伊織!!!!」


 教室の入口から声が響いてきた。

 見ると、詩織が肩で息をしながら開いた扉に手を掛けている。


 廊下には詩織ファンクラブの男子、詩織親衛隊の女子がいつの間にか勢揃い。

 教室の外はぎゅうぎゅうだ。



 来ると思っていた。



 俺は心中でほくそ笑み、あえて気さくに言葉を返す。




「よお詩織、元気そうだな」

「元気なわけないでしょ!!」


 いつになく憤怒した様子で、教室に入ってくる詩織。

 その目には、化粧で隠しきれない濃い隈が出来ていた。


 審判以降眠れてないんだろうな。俺は快眠だったけど。


 そんな詩織に付き従うように、親衛隊やファンクラブも数人教室に入ってきた。恐らくリーダー格の奴らだろうそいつらは、俺の周りの人混みを押しのける。

 他のメンバーは廊下から見守っているようだ。


 学年の大半に監視されているとさえ思えるなか、詩織が俺の前に立ち、口を開いた。


「伊織あなた、お母さんになんてことをしたのよ」

「その母さんが、最後にお前を否定したんだぞ」

「あれは追い詰められ過ぎて、心にも無いことを言ってしまっただけよ。あんなに家族想いのいいお母さんだったのに、どうして伊織は傷つける事しかできないの?どうしてあなたは家族を大切にできないの?」


 そんな詩織の言葉を聞きながら、俺は感じた。


 ああ、いつもの詩織だ。

 嘘に真実を混ぜて俺を陥れようとする、気持ち悪いやり口だ。


 家族想い……ね。あいつが家族の一人である詩織を大事にしていた事に間違いはないし、俺が家族であるお前らを大切に思ってなかったのも事実だ。


「そうだぞ鏡!詩織ちゃんがどれだけ悲しんで苦しんでるのかお前には分からないだろ!」

「鏡!あんたは詩織にいつもいつも辛く当たってたけど、お母さんに対してもそうだったのね!見損なったわ!」

「どうせ、ありもしない証拠をでっち上げて、お母さんや詩織を嵌めたのよ!」


 詩織の言葉に呼応して、輪唱のように責め立ててくる詩織信者たち。


 相変わらずの盲目的な発言に怒りのボルテージが上がるのを感じつつも、それを抑えながら一応反論を試みる。


「あいつや詩織は、俺の事を家族なんて思っていやしなかったよ」

「そんなわけないでしょ!血の繋がった姉弟や親子なんだから!」

「そりゃ血は繋がってるさ。でも家族と思ってるかは別問題だろ。現にあいつは俺の金を使い込んでたみたいだしな」

「そんなはずないじゃない。お母さんはいつもとっても優しかったわ!なのに、なのにあなたは、その絆を否定した!お母さんを不幸にした!どうしてそんなに酷いことができるの!」


 さも心を痛めてますと言わんばかりに、目に涙を浮かべる詩織。


 だが分かる、その涙は嘘だ。お前は俺を陥れるために演技をしている。


「そうよ!詩織が家族を大事にしないはず無いでしょ!」

「よっぽど周りが見えてないのね!」

「いつも酷かったが、今回ばかりは度が過ぎてるぞ!」


「度が過ぎてるのはそっちだろ!!」


 詩織の策略にホイホイ乗ってくる狂信者共に、俺も声を荒らげてしまう。


 ああもう、頭にくる。よくもいけしゃあしゃあと、そんな事が言えるものだ。


 でもまあ、それも今日までだけどな。

 俺はこめかみに青筋が走るのを感じつつ、詩織に問いかけた。


「なあ詩織!本当に母さんやお前は、俺の事を家族だと思っていたか?本当に、俺は大切にされていたと思うか?」

「血が繋がってるんだもの。大切にしないなんてない!」

「……そうか。おいみんな、たのむ!」


 詩織の言葉を確認した俺が声をかけると、教室の電気が消え、窓にカーテンがかけられた。

 チーナやみんなが、俺が囲まれている隙に動いていたのだ。


 急に部屋が暗くなったことで、教室内がにわかにザワつく。


 そんな中、教壇から大きな声が上がった。


「はいはい皆さんお静かに!みんなに見てほしい物がある」


 その声の主は総司。みんなの注目が一気に集まる中、教卓に両手を置いて、あえて芝居がかった喋り方をしている。


「ちょっと清水くん、今私たちが話している所なんだけど」

「大丈夫大丈夫、関係ある話だ」


 詩織の苦情も何処吹く風。総司は全く気にせず、ある物を教卓に置いた。


 それは、スマホを繋げたポータブルプロジェクター。そこから、黒板にスマホの画面が浮かび上がる。


「さあみんな、よく聞いてくれよ」


 そして再生された映像と音声を見て、詩織の表情は絶望に染まった。





『私もママも、あんたを家族なんて思った事はないわ』





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ついに始まった詩織への逆襲。

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