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日本語が話せないロシア人美少女転入生が頼れるのは、多言語マスターの俺1人 作者:アサヒ

第三章: 家族

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46話: ホームがどこよりもアウェーってはっきりわかんだね

『大丈夫?着替え持った?お財布持った?』

『母ちゃんかよ……ってこれ前にも使ったツッコミだな』

『ルルイエ異本持った?』

『どこのキャスター!?それ持ってる方が100倍心配にならないか!?』


 11月初週。土曜日の朝。


 いよいよ実家に帰ろうという俺に対して、謎の緊張緩和を図るチーナ。


 分かってる?そのネタ通じない可能性の方が高いからな?


 とは言え、久しぶりの実家……父のいない初めての実家に、緊張していないと言えば嘘になる。


 いくら週末の2日間だけとは言え、気が滅入るな。

 それに何か……妙に寂しい気がする。


 父さんがいない家に帰ること?それとも、いつも会ってる誰かと会えないから?……多分、両方だ。


『気をつけてね。少し証拠が手に入れば良いだけなんだから、無理しちゃだめだよ』

『分かってる。そっちの方こそ、周りの目気にしとけよ』


 チーナが尚心配そうに声をかけてきたが、週末に動くのは俺だけじゃない。

 総司は母が所属していた事務所に、他4人は近場の病院を回って痕跡を探す。


 どちらも守秘義務があるし、情報を得るのは極めて難しいだろう。

 でも今は、これしか手掛かりがないのも事実。


『まあお互い、成果があれば儲けもんくらいの気持ちでやろうぜ』

『成果なかったら困るけど、まあそうだね』


 そう締めくくってからチークキスを交わし、俺は家を後にした。


 さあ、行こう。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 バスと徒歩を交えて30分。

 俺は実家の前に立っていた。


 ごく普通の団地にあるごく普通の一軒家、ここに帰って来たのは実に4ヶ月ぶりだ。



 詩織か母さん、少なくともどちらかは家にいるだろうな……。


 母は働いていない上に、今日は休日。何か特別な用事でもない限り、留守という可能性は低い。

 俺は一度深呼吸を挟んで覚悟を決め、玄関の鍵を開けて中に入った。


 ガチャり。


 最初に目に入ったのは、見慣れた廊下。そこにはどこからも明かりが入らず、物音も全く聞こえない。


 まさか、2人とも不在か?


 予想外の好機に、俺はほくそ笑む。

 ボーナスタイムだ。今のうちにいろいろやっておこう。

 バイクで来なかったのは正解だったな。


 俺は靴を脱いで隅に隠し、一応全ての部屋を確認して留守を確定させて行く。

 観測されない限り複数の状態は併存する。

 コペンハーゲン解釈は役に立つなぁ。


 そうして確認していく中でリビングに入った時、ある物が目に付いた。



 テレビの横に置いてある写真立て。



 そのフレームには、詩織と母のツーショット写真が飾られていた。


 かつてそこには、4人の家族写真が収まっていた。

 母が嫌がって外す度に、父がしつこく元に戻していたのをよく覚えている。


 父さんはもう……この家には居ないんだな。


 その現実を突きつけられた後は、家の中を見て回るのも辛くなった。

 特に、父の書斎。

 お、伊織どうした?っと明るく迎えてくれる姿は、もうそこには無い。


「ごめん父さん。俺は、2人と縁を切るよ」


 誰も居ない書斎に独り謝って、俺はその場を後にした。




 結局一通り見て回っても、人の気配は無かった。


 ならばよし、行動を開始しよう。


 まず俺はリビングに戻り、持ってきた小型カメラや盗聴器を仕掛けて行く。

 基本会話はこの部屋でしかしないので、他の場所に仕掛けて置く必要は無いだろう。

 最近はこの手の機材も安く高性能になっており、入手も容易かった。

 本来こういった工作は違法行為に当たるが、浮気などの証拠確保のために、自宅に設置する分には問題ないらしい。


 火災報知器の内部など、詩織が見つけてしまわないよう出来るだけ巧妙に仕掛けていく。

 持って来たのは全て電波式なので、記録したデータは全て外部保存。

 故に、万が一見つかっても特に問題は無い。もちろん見つからないに越したことはないが。


 そしてリビングへの工作が終わり、次は母の部屋のガサ入れに取り掛かる。

 目的は母子手帳、ついでに俺への虐待の理由を示す根拠だ。


 母が日記でもつけていない限り、確実に出生場所を知る方法は母子手帳くらいしかない。

 法務省に問い合せたところで、そういった情報は本人にも開示されないのが普通だ。

 探偵を雇うという手もあるが、さすがにそこまでの財力は無い。


 もしあるんなら、さっさと出てこい。


 心中で祈りつつ、少し漁っては元に戻し、少し漁っては元に戻しと、丁寧に調べていく。

 いつ詩織たちが帰ってくるか分からない以上、大胆に引っ掻き回す事は出来ない。


 くそ、もどかしいな。


 結局大した証拠も見つからないまま、14時を回る。

 やはりあのものぐさマミーは、母子手帳なんて無くしてしまったのでは無いだろうか?

 ともすれば、意図的に捨ててしまったか。


 俺がそう思い、諦めかけたその時だった、


 ガチャり!っと下でドアが開く音がした。


「さあみんな、入って入って〜」


 そして、詩織が誰かを招き入れる声が響く。


「おっじゃま〜」

「ここが詩織の家かぁ、普通だね」

「マスク暑〜」

「もう外していいでしょ。誰も見てないんだし」


 続いて聞こえてきたのは、数人の若い女の声。


 帰ってきたか……友達も一緒のようだ。まあ、潮時だな。


 手早く部屋を元に戻し、自室に移動する。

 俺、詩織、母の個室は全て二階にあるので、1階にいる詩織たちに気付かれる事無く部屋に辿り着けた。


 詩織の部屋は俺の部屋の奥。

 もし彼女の部屋でだべる予定なら、うるさくなるかもしれないな。


 そう思いつつ、一応自室の鍵を閉めておく。


 さて。やる事もないし、久しぶりにゲームでもするかな。

 テレビゲームなんて、最近は総司の家くらいでしかやらないし。


 一人暮らしを始める際、荷物を減らすため不要な物はこの部屋に置いて出た。

 据え置きゲーム機もその一つ。


 このハード買ってもらう時も、父さんが母さんを説き伏せてくれたんだよなぁ。


 そんな懐かしい思い出に浸りつつ、遊ぶソフトを選ぶ。


 よし、これにしよう。


 選んだのは、一人用アクションアドベンチャー。緑色の寝巻きみたいな服を着た勇者が、風を操るタクトを振り回して冒険するゲームだ。


 これ、まだあきビン縛りでクリアしてないんだよなあ。


 階下からわいわいと騒がしい声が響く中、俺はホクホク顔で電源を入れる。


 だが……


 あれ、俺のセーブデータが……無い。


 確か俺はモリアーティというデータを一つだけ作っていたはずだが、3つまで作れるセーブファイルはそれぞれ、上からイサミ、トシゾウ、ナガクラとなっている。


 詩織のやつ、俺のデータまで消して目一杯楽しんでやがる……。


 このネーミングセンスは、間違いなく詩織だ。別に勝手に使うなとは言わないが、俺のセーブデータ1つくらいは残しておいてくれよ……。


 それだけではない。


 あれ、ハード増えてんだけど。


 今更ながら気づいたが、俺が使っているハードの横に、同じメーカーが発売した最新のゲーム機も置かれていた。

 そう言えば、先程詩織の部屋をチラッと覗いた時に、かなり散らかっていた気がする。


 あの野郎、自分の部屋が過ごしにくくなったからって、俺の部屋まで私物化しやがったな?


 他人には俺が勝手に部屋に入ってくるなどと言いふらしてるくせに、自分の事は棚上げか?

 腹立つ。


 頭に来てゲームを打ち切る。また暇になったので筋トレでもしようと思い立ち、上半身だけ裸になって部屋の隅に置いてあるダンベルを手に取った。


 これは14歳の誕生日にリアムがくれた物。

 久しぶりの感触に機嫌を直しつつ、少し汗をかいてきたところで、


「みんな、こっちこっち」


 詩織の声が、先程より鮮明に聞こえてきた。

 どうやら二階に上がってきたらしい。


 詩織の部屋に場所を変えるようだ。

 にしても、あの散らかった部屋にそんな大人数入れるのか……。


「弟の部屋だけど、気にしないでね。許可は取ってるから……」


 俺の懸念を裏付けるように詩織の声が聞こえ、次の瞬間、ガッ!!っという音が俺の部屋に響いた。


 やはり……俺の部屋を会場にするつもりだったのか。


「え、なんで開かないの?」


 っと扉の向こうでガチャガチャやってる間に、俺は立ち上がって鍵をあける。

 うるさいな、ここは俺の部屋だぞ。


 ガチャり……


「俺がいつ許可出したって?」


 開けた扉の向こうには、詩織を除いて女子が4人立っていた。

 そして俺は、詩織を不機嫌そうに睨みつける。


 それを見た彼女らは………



「「「「ぎゃあああああ!変態不審者あああ!」」」」



 やべ、上裸のままだったわ。



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一人だけ苗字なナガクラさん

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