65話: モトユキさん(♂)
休まらない昼食休憩を終えて少しした後、例のアシカショーの時間が近づいて来たので、俺たちはステージのある野外プールに向かう。
ある程度周りが囲まれてるとは言え、この季節で外は寒い。
俺は襟を直しながらチーナの手をとって、空いている観客席を探す。
その入口に、"アシカへの餌やり当選者はこちら"と書かれたプラカードを持ったスタッフが立っていた。
『アシカショーの途中で、当選者が餌やりする時間があるのか』
『他のお客さんが見てる中でアシカと戯れるのって、ちょっと恥ずかしいかもね』
動物を愛でるのは嫌いじゃないが、衆人環視の中ではきっといたたまれないだろう。
だからと言ってやりたくなかったわけでは無いが、まあクジに外れたのは仕方ない。
そう自分を慰めつつ、空いてる席を見つけて俺たちは腰を下ろす。
ギリギリに来てしまったためか、ステージからは少し遠い席になってしまった。
そして、席を埋めている観客のほとんどはやはりカップル。
寒さにかこつけて身を寄せ合い、談笑しながらショーの開始を待っている。
なるほど、その手があるわけか……。
『チーナ、寒くないか?』
『……いや、大丈夫だよ?』
ですよね〜。さすが寒冷地対応女子。
この程度で温もりを求めたりなんて……
『でも、温かいに越したことはないよね』
そう言ってチーナは俺に身を寄せ、肩に頭を持たれかけて来た。
ジャケット越しにほんのりと伝わる温もり。頬をくすぐる細い髪。
その愛しいその感覚を逃がさないように、俺は恐る恐る腕を上げ、チーナの肩を抱き寄せてみる。
そのまま黙ってお互いの存在を噛み締めていると、ステージの脇から何人かのスタッフが現れ、ショーの開始を宣言した。
「みなさ〜ん、こ〜んに〜ちは〜」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ショー自体は、至って普通のアシカショーであった。
鼻でボールを投げあったり、逆立ちしたりと実に芸達者だ。
そして特に盛り上がるのが、今日という日にピッタリのあの芸だ。
「皆さん見てください!アシカのバンガとラルタがチューをしています!ラブラブですね〜」
そう、アシカ同士のキッス。
クリスマスイブの今日、観客のほとんどはカップル。
当然甘い歓声が響き渡る。
観客席を見渡すと、影響を受けてこっそりキスをし始めるカップルもいた。
『『いやいや、それはないでしょ』』
いくらなんでもバカップル過ぎる行動に、思わず呟くと、隣のチーナが全く同様のツッコミを漏らした。
綺麗に重なる2人の囁き。
『ハモったな』
『ハモったね』
それが急におかしくなり、はははっと2人で笑い合う。
楽しい。いつも一緒にいるからか、チーナとは自然体で笑い合うことができる。
この時間を、これから増やしていきたい。
彼女の笑顔を見ながらそんな感傷に浸っていた、その時だった。
「それでは今から、抽選で選ばれたお客様に、アシカたちのご飯のお手伝いをして頂きたいと思います!お熱いカップル3組に来ていただきました!それではどうぞ!」
スタッフのお姉さんがそう言うと、ステージ袖から3組のカップル、計6人がぞろぞろとステージ上に現れた。
皆防水の作業着のような服上から装備し、スタッフ数人が濡れた足元で転ばないようにと付き添っている。
遠くからでよく見えないが、高校生くらいのカップルが2組と、20代くらいのカップルが1組と言ったところか。
そして6人が1列に並んだところで、スタッフがハンドマイクを持ってきて、
「それでは皆さん、順番にお名前だけお聞きしてもよろしいですか?」
っと、端の1人にマイクを手渡した。
受け取ったのは女子高生らしき女の子。
『自己紹介までするんだね』
『だな。まあべつに名前くらい、聞かれても大丈夫だと……』
「隣町から来ました、あきもとゆきです!」
……………………ん?
『ねえヨリ。今あの人、アキモトユキって……』
『きっとアキ・モトユキさんだ。ああ見えて男性だったんだな。となりの彼女さんからはアキくんって呼ばれてるに違いな……』
「清水そーじです」
Sooooooooooじいいいいいいいぃ!!!!
なんと1組目のカップルは、総司と秋本だった。
最悪だ!よりにもよってデートスポットが被ってしまった!
秋本はいいにしても、その隣の悪魔大元帥に見つかったらどんないじられ方をするか分かったもんじゃない。
それに、目立つのが嫌いな総司はこんなステージに立たされてストレスを感じているはずだ。
恐らく秋本に無理やり引っ張られたのだろう。
そのせいで不機嫌な状態の総司に見つかったら……まず助からない。
そんな不安を抱いたのは俺だけではなかった。
『ヨリ……逃げよう』
さすがに顔を青くしたチーナが、撤退の選択肢を提示してきた。
『いいのか?この後すぐイルカショーだぞ。それに館内にいる限り、多少距離を取ったところで鉢合わせる可能性が……』
『イルカショーは……勿体ないけど諦めよう。それに鉢合わせる事は多分無いと思うよ。ユキって色んなものに興味持ってすぐ動けなくなるタイプだから。ほら今だって』
そう言ってチーナが指さすままステージの秋本を見やる。
そこで彼女は、渡されたアシカの餌である小魚を手に持ってはしゃいでいた。
その会話をスタッフのマイクが辛うじて拾っており、観客席でもその内容がギリギリ聞き取れる。
「わ〜総司くん!ほらほらアジだよ!今日の夕飯はアジフライにしよっか?」
「……ありだな」
クリスマスイブにアジフライは無いだろ……っというツッコミが出てこないバカップル。
確かに、秋本なら各水槽でいちいち時間を使いそうだな。
これなら案外、逆走さえしなければ見つかることなく水族館デートを続けられるかもしれない。
『そうだな、じゃあ今のうちに離れるか』
そうして俺たちは、終盤に差し掛かったアシカショーを途中で抜け出して、そそくさと屋内の展示エリアに戻った。
だがそこで、更に予想外の出来事が発生してしまう。
その発端は、あるカップルの男性が、不意に呟いた一言。
「あれ?あそこにいるのって、ニュースで映ってたシオンちゃんの弟じゃね?」
その瞬間、室内の客の視線が一斉に集まった。
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