「クリーンなタカより、ダーティなハトの方がマシ」
これは私が政治ウォッチングをする上で、何番目かに大切にしている信条である。
信念のない正義を囃し立てるよりも、信念のある悪を見守る方が余っ程面白い。
政治に綺麗事が介在する余地などない。
考えても見てほしい。大野伴睦は総裁選前に川島正次郎に3000万円を渡していたが、川島は池田に寝返った。池田は一体、川島にいくら渡していたのだろうか。当時の3000万円を現在に置き換えると
企業物価指数(国内企業物価指数)
101.5(令和元年)÷48.1(昭和35年)=2.11…倍
3000万円×2.1倍=6300万円 になる。
その後、池田は選挙に多額の資金を注ぎ込んだことが切っ掛けで九頭龍ダム汚職を起こすことになるわけだが、官僚の自殺と告発した記者の死、そして池田自身が病死したことによって真相は永遠に闇の中に葬られることとなった。
繰り返すようだが、政治の中に綺麗事が介在する余地などというものは存在しない。
そんな思わず目を背けたくなるような現実を、エンターテインメント仕立てで見せつけてくれるのが、他でもない「アソタケ戦争」なのだ。
今回はアソタケ戦争をこよなく愛する、この黒幕ちゃんがビシッとバシッと親愛なるフォロワー諸君に政治の世界の恐ろしさと愉快さをレクチャーしようと思う。まあそんなに期待せずに、肩の力を極限まで抜いてお付き合い頂けると有難い。なんてね。
まず、アソタケ戦争について簡単な説明をしておく。アソタケ戦争という言葉は存在しない。勝手に私が作った造語である。漢字にすると麻武戦争。麻生太郎と武田良太から取っただけの何の捻りもない名称である。
彼らは福岡という地方都市で血で血を洗うような闘争を繰り広げている。どれほどその争いが熾烈かと言うと、県連大会で乱闘騒ぎが起きて警察が出動するほどである。
「松山(県連会長)は人間じゃねえ!!!!」
「やめて!民主主義だよ!自民党は民主主義だよ!!」
といった怒号が飛び交い、殴り合いが始まる場面を朝日新聞さんがYouTubeに掲載しているのでリンクを貼っておく
自民県連もめすぎて警察沙汰に 福岡、執行部方針に不満https://youtu.be/Ca-dZgwWk0k
これほどまでに揉めた原因は何なのか。
____その原因こそが麻武戦争なのである。
発端は、自民党が下野したあとの県連会長を誰にするか、という議論であった。
もともと武田氏は麻生氏の総裁選推薦人名簿にも名を連ねており、党内で麻生氏への総裁辞任を求める声が高まってきたときには結束の会なるものを作って、
「小手先の政治テクニックは国民には通用しない。ここで総裁(麻生氏)をすげ替えることには、政治家として賛成できない」
と主張している。このように、元来良好な関係を築いていたはずの二人が啀み合うようになったのは、麻生氏を差し置いて武田氏が県連会長に選出されたことが切っ掛けであったりする。
くだらないと思うかもしれないが、2009年の衆院選で福岡から当選した議員は、
の4名であり、県連側は名だたる重鎮達に会長職を今更任せるのは忍びないという思惑のもと、武田氏を推薦したところ、本当は自分に回ってくると思っていた麻生氏の反感を買い関係が拗れた_という、凄絶な入れ違いの連続が引き起こした悲劇なのだ。
__それくらいで終わればよかった。
例えば、松山政司議員も応援演説に麻生氏ではなく古賀氏を呼んでしまったことで、関係が悪化したという噂が流れるなどしたが、見る限り決定的な軋轢は生まれていないようであるし、この件に関しても、ここで終わっていれば、まだ関係改善の余地もあったのではないかと思う。
__だが、政治の世界はそんなに甘くなかった。
2011年の統一地方選挙にて自民党県連は2月5日、知事選候補選考委員会で同党県議団会長・蔵内勇夫氏の擁立を決めた。
しかし、「院政」を目論む麻生渡知事や、麻生太郎元首相が急遽小川洋氏の擁立を唱え始め、蔵内氏擁立を決めたはずの自民党県連が混乱し始めた。
これを受けて、武田氏は蔵内氏に出馬辞退をしてもらうよう頭を下げなくてはならなくなり、完全にメンツを潰された形になってしまった。
その後も麻生氏の猛攻(という名の腹いせ)はまだまだ続く
まず、2012年12月の総選挙において、武田氏率いる県連は、福岡1区に古賀誠氏の秘書・新開裕司氏の公認申請をするつもりであったが、これも麻生氏が党本部に働きかけ、井上貴博県議にすげ替えてしまう。
2013年に行われた豊前市・築上郡部の県議補選では、武田氏秘書の西元健氏が自民党公認で初当選を果たすことが出来たものの、またもや麻生氏の働きかけによって県連は別の元豊前市議を推薦し、西元氏は長らく自民党県議団に入ることができなくなった。
__そして、宿命の2014年4月に行われた行橋市選挙区の福岡県議会議員補欠選挙。
無所属の新人・堀大助氏が、武田氏の秘書・小堤千寿氏に競り勝ち、初当選を果たしてしまう。
しかも、堀氏は名目上・無所属ということになっていたが、実は会長が武田氏から松山氏に交代した自民党県連からの公認を受けていたのである。
では何故、無所属ということになったのか。
それは、本来、武田氏の選挙区である福岡11区に含まれている行橋支部の青年局長を務めていた小堤氏が自民党の公認を受けることになっていたのにも関わらず、自民党福岡県連が推薦したのは勝った堀氏であったからだ。このことに武田氏と同党行橋支部は抗議して小堤氏を推薦。自民党が2つに分かれる事態となってしまった。
しかも、堀氏は元々維新の会の候補者として前の衆院選に出馬し、落選しており、それを無理に擁立したので先述した乱闘騒ぎに発展したのである。
ここまで読んでお分かり頂けただろうが、アソタケ戦争の前半戦は武田氏が麻生氏からメンツを潰される_即ち、麻生氏が武田氏を圧倒してきた戦いなのだ。しかし、この先、急に風向きが変わる。
なんてったって、武田良太は、あの田中六助の甥っ子なのだ。こんなところで退き下がるような男ではない。見た目は何故か年々藤山愛一郎に似てくるが、中身は生粋の川筋者なのである。
前哨戦_2016年福岡6区補選
鳩山邦夫元総務相の死去に伴う衆院福岡6区補選で、武田氏は鳩山邦夫氏の次男で元福岡県大川市長の鳩山二郎氏を支援、麻生氏は蔵内勇夫氏の息子・蔵内謙氏を支援し、結局公認をどちらに出すか決まらず、当選した方が自民党に入党するというところにまでもつれ込んだ。
結果は鳩山二郎氏の当選で終わった。
【衆院東京10区・福岡6区補選の結果を受けて_二階俊博幹事長/古屋圭司選対委員長(2016年10月23日)】https://youtu.be/fg3lqgR3cMU
鳩山氏の当選報告を受け、公認を出す旨を発表する二階氏の背後に武田氏が映っている。
__特筆しておかねばならないのは、このとき、小川知事が鳩山氏支持に回っていたということだ。このことが、後の保守分裂選挙を引き起こす引き金となる。
そして来るべき、2019年統一地方選挙
麻生氏と、補選で鳩山氏を推した小川知事の関係は日に日に悪化の一途を辿り、終いには自民党が小川知事の公認を取り下げてしまった。
これを受けて小川知事は、再出馬をするかすまいか検討する旨を発表、その後、再出馬することを決断する。それに対して麻生氏が黙っているわけがなく、元・厚生官僚の武内氏を急遽擁立。ここに晴れて、保守分裂の盤面が整った。
ここで各陣営のメンツを整理しておく。
小川陣営
武内陣営
んー、どう考えても小川陣営が強すぎる。
実際に知事選の様子を間近で見ていたので分かるが、明らかに大して非のない小川さんを、よく分からない理由で降ろした麻生さんへの怒りが、理不尽なことに武内さんに向くという流れ弾選挙であった。
テレビの前で開票結果を待っていたが、まさかの1分も経たずに「小川氏当選確実」というテロップが表示された。
これだけは言っておくが、私は、好ましく思っていない政治家であっても、事実を誇張してまで批判するようなことはしないように心がけている。
麻生副総理、現職知事実績「一つでもありますか」福岡知事選 https://youtu.be/GXIupx1Lt50
しかしもかかし、地元に帰ってきてこんなことを言うようじゃ、有権者の不評を買うのも仕方がないと言わざるを得ないのである。
小川氏を支持した自民党議員に対する麻生氏の発言
麻生氏の発言を受けての武田氏の発言
あーーー、傑作。
まさにこれはエンターテインメントである
そして、先述した選挙結果の詳細も念の為掲載しておくが、
▽小川洋(無所属・現)当選 129万3648票
▽武内和久(無所属・新)34万5085票
▽篠田清(無所属・新)11万9871票
と、言うまでもなく、凄まじい小川氏の圧勝で保守分裂選挙は幕を閉じた。
おまけ
古賀誠のコメント
「いろいろな状況や環境の中でその時その時決断をするのは、党の責任者であり、難しい問題だ。ただ、7月の参議院選挙で、また一緒に頑張って、われわれの候補者を当選させるのかがいちばん大事なことで、それに向けてまとまっていくことだ」
山崎拓のコメント
「やはり選挙は県民の民意を無視した形で押し通そうとしたら、強力なしっぺ返しを受ける。オウンゴールでしょう」
(さすがに「麻生太郎は腹切って死ね」と言っていた人は完全に振り切れていて面白い)
更に波乱は続く
知事選も終わり、事態は収束したかに思えたが、メンツを潰された麻生氏が大人しくしているはずがない。
- 蔵内県連会長が辞任。次期会長を決めなくてはならなくなる。
- 武田氏は会長に岸田派の山本幸三元地方創生担当相を担ごうとする
- 麻生氏は原口剣生県議を担ごうとする
- 立候補には県連役員62人のうち20人以上の推薦人が必要だが、原口氏は県議ら43人の推薦人を集め、山本氏が立候補できない状況に追い込む。
- これに対して武田氏・山本氏は意義を唱えるが後の祭り
- 原口氏が県連会長に選出される
- 武田、山本両氏らが11日の総務会を欠席
- 福岡選出の議員13人中麻生派を除くの9人が異議を唱える事態に発展
加えて、武田氏のパーティの日程に蔵内氏の会合の日程を被せ、動員を分担するなどの偶然か故意的なものなのか分からないレベルの嫌がらせも行われていたりして笑ってしまう。
しかし、繰り返すようだが、武田良太はこれで黙ってるほど善人ではない
皆さんご存知の通り、武田氏は第4次安倍第2次改造内閣にて、
- 国家公安委員会委員長
- 行政改革担当大臣
- 国家公務員制度担当大臣
- 国土強靭化担当大臣
- 内閣府特命担当大臣(防災)
に任命された。
これに震え上がったのは私だけではないはずだ。
だって、あれだけ副総裁に面と向かって喧嘩売ってた人がまさか入閣するだなんて、誰も予想できないだろう。
実際、閣僚リストを受け取った麻生氏は武田氏の名前を指で弾いたというような話も、嘘だか本当だか分からないが巷には流れており、武田氏が勝ったと言っていいのか、それとも自由を奪うためにわざと入閣させたのかが分からない以上安易なことは言えないが、ただ、この人事を麻生氏が快く思っていないこと、そして、武田氏にとって絶好のチャンスであることは確実である。
アソタケ戦争の勝敗予想
わたしはこの長い戦争を制することになるのは、より寿命が長い方だと思っている。
不謹慎な発言だと承知の上で敢えて言うが、間違いなく79歳の麻生氏よりも52歳の武田氏の方が長生きするのは必然である。
それでなくても、麻生氏はそろそろ引退する時期に差し掛かっており、いくら地盤を息子が継いだところで、武田氏には対抗できない
加えて、麻生氏は本来、麻生支持だったはずの小川知事や山本氏までもを敵に回し、周りを固める議員は当選回数が少ない議員ばかりになっている。
資金力だけで言えば、麻生財閥を凌ぐ鳩山家もすっかり武田派であり、元々武田氏自身が山崎派に属していた縁もあって、麻生氏以外の重鎮も武田氏に対して敵対的ではない。
そして、何より特筆すべきは二階派の後継者が武田氏になる可能性があるということだ。
実際、武田氏は郵政選挙を造反議員として勝ち抜いていたり、政権交代選挙では4万票以上の差を付けて当選していたり、県連会長時代の衆院選では11人中11人を当選させたり、党員獲得数が党内1位であったり…資金作り・党員を集める実績・選挙の強さにおいては派内に右に出る者がいない状況だ。
不祥事や失言などを起こす心配は無論メチャクチャあるが、派閥の面々を見渡してみても、後継者の有力候補の1人であることは言うまでもない。
もし、麻生氏が引退したあと、武田氏が二階派を継ぐようなことがあれば…
完全に福岡は麻生王国から武田帝国になるであろう。
この戦いを、麻生と二階の代理戦争などと嘯く評論家もいるが、それは違う。
アソタケ戦争は、紛うことなき、両雄対決なのである。
おまけ(2019年知事選後の武田氏のコメント)
「現職じゃない新人候補に推薦を決定した時も、今回の県連会長の決定も、全く一緒なわけ。『ルールには抵触してない』と。一部の県議会議員と一部の国会議員が密室で談合で決めて『ルールにのっとってる』って言うんだけど、この差で負けてるってことは、いかに組織を私物化しているかということの表れなんだよね」
「みんなの気持ちが完璧に離れてるってことにどうして気づかないのか。何でもいいから勝手に決めて、選挙やってみたら、みな負けるというようなことが、果たして許されるのか」
「ここ最近では、福岡6区の補選、県議会議員の補選、県知事選挙、全ての選挙で負けてるんですね。しかも大差で。知事選にいたっては、100万票負けるなんてことは、空前絶後ですよ。それはいかに自分たちの判断が間違っていたか。派閥抗争に持ち込もうという考えなんか、さらさらない。いかに、有権者というものに耳を傾けなかったか。そこの反省なくして、次に進むってことは考えられない」
「今まで何が悪かったのか、どこをどう改めなきゃいけないのかっていうことを検証して、それを改めることが大事なわけであって。そういう努力がなかったために、これだけの県民からそっぽ向かれるような結果が生まれたわけだから」