アートとカルチャー
2020年12月01日 12時21分 JST

「ラッキースケベ」描写、何が問題ですか。太田啓子弁護士に聞いた

「Kis-My-Ft2」のメンバーが出演するドラマ『快感インストール』(dTVで配信予定)に対し、ラッキースケベを「許す」ような形で描いているとして批判の声が上がっている。

「思わぬハプニングで、女性の胸に触った」「女性の下着や裸が、偶然見えた」ーー。

フィクションで、主に異性愛者の男性がこういったシチュエーションに遭遇する描写は、「ラッキースケベ」と呼ばれる。

このラッキースケベを「許す」ような形で描いているとして、あるドラマに批判の声が上がっている。

 

「つまずいた もえちゃんの胸を触っちゃった」

そのドラマは『快感インストール』というタイトルで、12月4日から動画配信サービス「dTV」で配信されるものだ。3日には1話の無料先行配信も予定されている。

主演は、ジャニーズ事務所のグループ「Kis-My-Ft2」の二階堂高嗣さんで、同グループの北山宏光さんが原案を担当したという。

公式サイトによると、“ある男性が、女性の胸に触ると、その女性の快感をインストールできる特殊能力を手に入れて…”という設定のドラマだ。予告動画には、主人公の「たまたま、酔っ払ってつまずいたもえちゃんの胸を触っちゃったんだよ。そうしたら電流が身体中に走って、もえちゃんがエッチしてる映像が見えた」というセリフと、その場面の映像が使われている。

いわゆる「ラッキースケベ」をきっかけに性的な映像が見えたという設定だ。

予告編には他にも、転んだように見える主人公の手が女性の胸に伸びていく映像や、「このキャンパスにはおっぱいが大量にある」というセリフもあり、「<男の夢>完全実写化」とうたっている。

著書『これからの男の子たちへ 「男らしさ」から自由になるためのレッスン』(大月書店)などで、メディアにおける性差別的な表現の問題点に触れてきた弁護士の太田啓子さんは、「ラッキースケベ」について、「同意のない性的接触を、娯楽にしている」と指摘する。

何が問題なのか、太田さんに聞いた。

HuffPost Japan
太田啓子弁護士(zoom画面より)

人が傷つく経験をする風景を「ラッキー」として描くことの問題点

『ドラえもん』での、のび太君がしずかちゃんの入浴シーンを「偶然見てしまった」という描写はよく知られていますが、こういった「ラッキースケベ」は、フィクションの世界にテンプレートとして存在し続けています。

偶然という形をとることで、「非難されづらい」という立ち位置をとっていますが、要するに、「性的な同意をとるためのコミュニケーションをしないままで『いい思い』ができた」という、主に男性異性愛者の登場人物にとって「都合の良い」描写として使われています。

しかし現実には、ハプニングだとしても、同意のない性的接触があったり、意に反して裸を見られたりした時、された側は深く傷つくものです。

触った側が「故意ではなかったけど、相手は嫌な思いをしただろうな」と思いを巡らせる場面にするどころか、人が傷つく経験をする風景を「ラッキー」として描き、笑いをとるような文脈で描くことには問題があると、私は考えています。

そもそもこういう場面を娯楽ネタにできるのは、同意のない性的接触がどれだけ人を傷つけるかということへの認識があまりに低いからでしょう。

「偶然触った」方には「ラッキー」と感じられると仮にしても、「偶然触られてしまった」側の心情が軽視されすぎている描写ですよね。そのことに問題を感じます。

 

「現実の性暴力被害を軽視する感覚を助長することに繋がりかねない」

こういった話をすると、「『ルパン三世』を見たからって強盗にならないし、『名探偵コナン』を見たって殺人犯にはならないから、問題ない」といった反論も耳にしますが、強盗や殺人と性犯罪では社会での扱われ方に違いがあります。

どういう行為が強盗や殺人に当たるか、また、それがどれだけひどい行為なのかは広く適切に理解されている一方で、性暴力については、「そもそもどんな行為が性暴力なのか」「性暴力はどれだけ人を傷つけるか」についての社会全体での認識が甘いところが今の日本社会にはあります。

「それはセクハラです」「性暴力です」と指摘すると、大人でさえ「冗談なんだからいいじゃないか」「本当は同意があったんじゃないの?」などと平気で言うような、性暴力への認識が甘い状況が現実にあることを踏まえて、その状況下でこういう表現がもってしまう意味、効果を考える必要があります。

こういった現状下で、同意のない性的接触を娯楽として誰でも見られる媒体で発信することは、現実の性暴力被害を軽視する感覚を形成、助長することに繋がりかねないと私は思っています。

 

「男の夢」は、「都合の良い期待」を押しつけてくる言い回し

@kisdoki_dtv
『快感インストール』のTwitter(@kisdoki_dtv)投稿より

また、「ラッキースケベ」的なシチュエーションについて、「男のロマン」「男の夢」などという語りもされていますよね。

しかし、性的接触自体には故意がなくて非難できないとしても、同意のない性的接触などをされた側には傷つく経験を、公然と喜び、娯楽のネタにするというのは、それ自体が別途の暴力、ハラスメントでしょう。

「男のロマン」「男の夢」といった言葉は、その暴力性、ハラスメント性を包んで見えづらくしてしまうのではないでしょうか。「女性は苦笑いしつつも、『まったくもう』と許さないといけない」みたいな都合の良い期待を押しつけてくる言い回しでもある気がします。

 

エンタメの作り手には、世の中の現状をよく見て欲しい

性的な表現はあってもちろんいいんです。ただ、エンタメの作り手には、世の中の現状をよく見て欲しいと思っています。

誰かの同意がない接触の場面をつかわなくても、「エッチなネタ」は描けるでしょう。なぜ、誰かの同意がない接触という場面を使うのか、今一度考えてみて、性的同意についての理解が深まっていない今の社会で、受け手に“その表現”が届いた際の影響を考えて制作して欲しいです。

今回のドラマは有料サイトで配信されるものですが、そもそも予告編はネットで誰でも見られる状態になっています。あえて検索して見に行かなくても、話題になって、勝手にSNSのタイムラインに流れてくるような状況でしたし、そういう状況を予測というかむしろ期待して予告編を流していたはずです。

若い世代に人気のアイドルが出演しており、そういう若いファン層を主な視聴者として想定して作ったものでしょう。ファンからのものも含め、厳しい指摘を受けているのを踏まえてどう行動するかは企業の判断ですが、その良識が問われていると思っています。