人間の能力を拡張する、明日(アス)の道具(ツール)を創りだす
アスツール株式会社は、スマートフォン向けブラウザ「Smooz(スムーズ)」や、在庫価格検索サービス「在庫速報.com」の開発を行っている会社だ。設立は2016年3月で、東京都渋谷区東に本社オフィスを置く。売上高は非公表だが前年比2倍以上の成長を続けており、今期は前期比10倍以上の成長を見込む。
代表を務める加藤雄一氏は、一貫してスマホ関連プロダクトの企画・立ち上げに携わってきた人物。フリーランスとして開発した「TennisCore」は、「Best of Apple Watch2015」を受賞した。早稲田大学商学部を卒業後に新卒入社したソニー株式会社では、ソニー・エリクソンのルンド(スウェーデン)の本社でグローバル市場向けスマートフォンの商品企画や次世代スマートフォンのコンセプト策定に従事。日本に帰国後は楽天株式会社に転じ、モバイル系新規プロジェクトの立ち上げや、買収先(Viber)のプロダクトマネージャーを歴任した。
加藤氏を起業にかきたてた源泉は、学生時代にPDAにハマり、ツールによって“できること”が飛躍的に高まった経験にある。アスツールは「人間の能力を拡張する未来の道具を創る」をモットーに、個々人の幸せだけを追求するのではなく、人類全体の進化に貢献することをミッションに掲げる。その例の一つが、インターネットとソフトウェアによる新しい道具(ツール)の開発だ。
アスツールが大切にしている理念には、以下の3つがある。1つは「ユーザーファースト」で、ユーザーの反応を正確に受け取り、高速にプロダクトに反映。それだけでなく、ユーザーがまだ気づいていない課題に対して仮説を立てて解決し、この2つのバランスを取りながらプロダクトをつくっている。2つ目は「実行は正義」で、正しい答えが分からなければ実際にやってみて検証することで、事業をパワフルに前進させる。3つ目は「強い個の掛け算」で、「強い個」の力を掛け合わせ、化学反応させることで大きな価値を生みだす、そんなチームを目指している。
スモールチームの利点を活かし、ユーザーのリアルなニーズに高速対応
ここでは、アスツールが開発・提供するプロダクトやサービスについて見ていこう。
「Smooz」は、ジェスチャーによる片手操作や使えば使うほど賢くなるリコメンデーション、優れたカスタマイズ性によって、ブラウジングを文字通りスムーズにしてくれる次世代ブラウザだ。2016年9月にリリースされ、2016年末には「App Store 2016年 今年のベスト」に選出された。ダウンロード数は2020年4月現在で160万ダウンロードを記録。App Storeレビュー数は3万を超えて平均評価は4.7と、スマホブラウザアプリとしては日本のApp Storeで最も高い評価を得ている。
ターゲット層は一般ユーザーよりもネットリテラシーが少し高い層で、毎日使うブラウザを少しでも快適に使いたい、という意識を持つユーザーに受け入れられている。例えるなら、競合するSafari(Apple)やChrome(Google)がママチャリだとすると、Smoozはクロスバイクのような位置づけだ。また、Smoozの開発リソースはSafariやChromeと比較すると(当然ながら)少ない。しかし、その分スモールチームで素早く動けるため、ニーズを的確につかんで高速でプロダクトを改善できる(2019年のアプリの更新回数は100回以上)。カスタムジェスチャーに関する発明では、特許出願中だ。
「在庫速報.com」は、新型コロナウィルスの問題発生以降、マスクを探すのに苦労した開発者の提案によりスタートしたWebサービスだ。当初は「マスク在庫速報」としてリリースされ、その後、アルコール消毒液なども対象商品に加えて「在庫速報.com」に改名した。Web版はリリース後1カ月で400万UU(Unique User)達成。アプリ版はリリース翌日にApp Storeショッピングカテゴリー2位を獲得した。
今後は、すでに黒字化を果たしているSmoozをビジネス基盤としながら、「在庫速報.com」を成長の柱に据え、年間10倍ペースでの成長を目指す。「在庫速報.com」は、現在のところコロナ下での便利サービスという位置づけだが、今後は商品購入時の意思決定を助ける商品検索プラットフォームへと成長させていく。
「自らの力でプロダクトと会社を成長させる!」という熱意を歓迎
2020年5月時点の従業員数は5名で、平均年齢は30歳。新卒・中途の割合は、新卒:中途=2:8の比率だ。現時点ではすべて男性が占めるが、女性の意見を必要としており、「女性第1号社員」を歓迎している。まだ小規模ということもあって、組織上はあえて役職をまったくつけず、完全にフラットな組織で運営している。
アスツールは強いチームづくりを目指し、各人が会社のオーナーとしての意識をもち、「船に乗る」のではなく「船を自分でつくりながら漕ぐ」という姿勢で日々の業務にあたっている。「即断即決」、「朝令暮改」で、いいと思うことはどんどんやる。社員同士の仲はとてもよくて、一番若い23歳の新卒社員も、社長にどんどん組織運営の改善提案をしているという。
残業はほとんどなく、多くても1日1時間程度だ。ただしトラブル対応などでごくたまに、土日に数時間の稼働が発生する場合がある。ミーティングは週に2回開かれ、月曜日はKPIの振り返り、その週の重点アクションの決定、事業戦略の議論などについてのteam meetingが1時間ほど実施される。金曜日はその週の成果を共有するwin sessionが約20分開催される。
教育制度は現状では特に設けられていない。2週間に1度、社長と面談して、悩みやキャリアなどの相談や今後のアドバイス、仕事の期待値調整などをしながら、個々の力を最大限に発揮できるようにしている。福利厚生は、水やナッツの飲み/食べ放題のほか、リモートワーク中は毎月1万円の補助を支給。定例の行事は、毎週水曜のチームランチ(会社負担)や、事業戦略策定合宿(不定期)などがある。リモートワーク中もZoomランチをするなど、何でも言いたいことを言いあえる風土がある。
今回の採用では、実力があれば年齢・性別・学歴はまったくこだわらない。アスツールのミッション、ビジョン、バリュー、提供しているサービスへの共感、そして、「テクノロジーは事業成長のための手段である」という考え方への共感が重視される。