事件の発覚で韓国に居場所をうしない、ラトビアで新型コロナに感染して死去したという。
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その訃報に対して性暴力事件にふれない反応が多いことを『かぞくのくに』等のヤン・ヨンヒ監督が嘆いていた。
もちろん事件が表面化して捜査がおこなわれた2017年は日本でも話題となり、朝日新聞などが報じていた。
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しかし継続した話題にはならず、日本では作品の公開や配信がつづけられている。
2018年の新作『人間の時間』は日韓の俳優を起用し、韓国では上映されなかった一方、日本ではそのまま公開された。公式サイトに事件への言及も見つからない。
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アニメ雑誌が事実上の作品広報誌であり、まれに作品批判はあっても、制作の諸問題の追求などはおこなわれないことも思い出す*1。
比べると映画雑誌は良くも悪くもスキャンダラスな問題を報じている印象があるが、やはり観客の興味にそうなら制作現場の問題を継続して追及することは難しいだろう。たとえばダークなミュージカル映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の制作などでラース・フォン・トリアー監督がおこなったハラスメントを、どれほどの映画ファンが認識しているだろうか。
訃報でも「近年は女優への暴行罪で起訴されていた」という一文で言及はされているが、多数の俳優やスタッフを巻きこむ継続的な事件と追及されていることはわからない。
つまりキム・ギドク監督について調べようとすると、相対的に事件の情報が目にうつらなくなっている。
また、高評価されている作家の非道は才能の源泉と見なされ、短所とは認識されなくなる問題もあるだろう。
少し前に漫画『プラネテス』の演説描写が現実に必要として肯定されていたことを思えば、創作にとどまらない根深さがある。
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実際には共同作業において非道な中心人物の成果に見えるものは、しばしば才覚ある人々の人生を不当に奪っている結果なのだが。
それらとは別に、韓国などが揶揄の対象になっている差別的なインターネットコミュニティを見る時、あまりキム・ギドク監督が批判的な話題にのぼらない感触もある。
それこそ日本のメディアで報じられないような事件や、知られていない文化でも継続して話題にしてスラング化したりしているのに*2、どうやらキム・ギドク監督はそうなっていない。
事件の大きさを説明するために韓国人が世界的に評価されている情報に言及せざるをえないため、国家や民族の揶揄を優先する心情から話題にしたくないのかもしれない。あくまで印象論に憶測をかさねた仮説にすぎないが。
*1:コラムなどで制作スタッフ側から発信することはある。また、数年前からカルチャー総合的なWEBメディアでは「ねとらぼ」等が継続して労働問題を話題にしており、時代の変化を感じている。
*2:もちろん根本的に差別であるだけでなくデマも多くて、エベンキ族とむすびつける揶揄に対しては現在のニコニコ大百科ですら批判的な記述がされている。エヴェンキとは (エヴェンキとは) [単語記事] - ニコニコ大百科