8月7日、第58代横綱・千代の富士、九重親方の告別式が営まれた。昨年6月に膵臓ガンの手術を受けたものの、今年に入って再発。7月31日に61歳で急逝したのだ。
そんな千代の富士にとって最大の目標だった第55代横綱・北の湖も、2015年11月に62歳で亡くなったばかり。日本人男性の平均寿命が80.79歳(2015年)であることを考えると、両横綱の死はあまりに早い。
角界には「還暦土俵入り」という行事がある。第22代横綱・太刀山が1937年におこなって以降、60歳を迎えた横綱経験者は、土俵入りを披露することが慣例になっている。
だが、太刀山以降の横綱経験者のうち、健在であれば還暦に達しているのは38人。そのなかで、還暦土俵入りをできたのは、わずか10人だ。残る28人は、還暦を前に亡くなったり、健康を保つことができなかったのだ。
千代の富士や北の湖も、勇姿を披露して、ほどなく亡くなっている。明らかに「横綱経験者は早死にだ」といえるのではないだろうか。
●過激な運動で免疫力低下 ガンになりやすい肉体に
「お袋は91歳まで生きたんだ。俺にも長生きの遺伝子があるのかな?」
相撲協会診療所の元所長・林盈六医師に対し、生前の北の湖はこう尋ねたという。
「千代の富士さんも北の湖さんも、現役時代は血液検査をすると、血糖値から肝機能まで全部よかった。筋肉量や体脂肪率も申し分ない数値でした」
力士たちの診察や健康管理をおこなってきた林医師は、「体、内臓が丈夫な力士が出世していった」と言う。
「それほど優秀な幕内力士が短命なのは、過激な運動のしすぎとしか考えられない。過激な運動は、DNAに悪影響を与える活性酸素を過剰に発生させるし、免疫力も落ちていく。そのため、ガンになりやすい、治りにくい肉体になってしまっている。残念ながら、稽古熱心な力士ほど、顕著です」(林医師)
●平均寿命が高い競技は引退してもできる生涯型
大妻女子大学副学長の大澤清二教授は、実際にアスリートと寿命の相関関係を明らかにした。表は1939年までに生まれたアスリート1920人の寿命を追跡調査した表だ。力士の平均寿命は56.69歳でワースト1位になっている。
なお、この調査は1998年に発表されたもの。その後日本人の平均寿命は伸びているから、表の数値も多少は上昇していると考えられる。
「このときアマチュアの力士も調査しましたが、こちらは73.61歳と一般人と大差なかった。プロとアマではストレスがまったく違うためです。ストレスは、ガンなど多くの病気の危険因子です。また、競技レベルが上がるほどに怪我も増える。怪我がストレスになるという悪循環です」(大澤教授)
ただ、ストレスやプレッシャーは、ほかの競技もあるだろう。中長距離の陸上が80.25歳、剣道が77.07歳と高い数値を出しているのはなぜなのか。
「平均寿命が高い競技は、いずれも生涯型で、引退後も自分のペースで続けられるものが多い。一方、相撲は筋肉や脂肪で人工的に体をつくりあげる競技ですし、レスリングやボクシングは厳しい体重制限、食生活のなか何カ月もトレーニングをおこなう。引退後、現役時代と同じように競技を続けることが難しい種目なのです。瞬発力系のスポーツである水泳や陸上短距離も、選手寿命が短く、引退後は運動不足になってしまいがちです」(同)