01 プロローグ
『聖女よ。その聖なる力でぜひこの国を救ってほしい』
こんなことってあるのだろうか。
気づいたら見知らぬ国にいて、やけに煌びやかな格好をしたおっさんに助けを乞われた。
周りを見れば見知らぬどころか日本人ではない顔立ちの人に囲まれて。
意味が分からなくて唖然とした私を、誰も責められないと思う。
当時の私はただの女子高生で、反射的にむしろ私の方が救ってほしいと思った。
自ら国王を名乗るそのおっさんは、魔王軍によって滅びゆく世界を救ってほしいと言葉を続けた。なんでもこの世界では定期的に魔王が生まれ、活発化によって危機にさらされるという。その対抗策が、異世界から召喚した聖女。
まるでゲームかラノベみたいな話だ。
事情を知った私の感想はそれに尽きた。
私がこの世界をドッキリでも夢でも何でもなく、現実なのだと受け入れるには、それから数週間ほどの時間が必要だったとここに追記しておく。
と言っても、その頃にはお金と護衛の騎士をつけられて、さっさと城から放り出されていたのだけれど。
はっきり言って、正気を疑う。
なにせつけられた護衛の騎士は一人。しかも貴族の三男坊だかで旅どころか世間知らずも甚だしかった。挙句の果てに旅費を持ってとんずら。ゲームだったらあまりのクソシナリオにコントローラーを投げ捨てるところだ。
けれどこれは現実で、リセットもできなければ引き返すこともできなかった。なにせ日本に帰るには、魔王を倒すしかないと言い含められていたからだ。
平々凡々な私に魔王を倒すなんて無茶振りだと思ったけれど、魔王を倒さなければ日本に帰さないと言われればやらないわけにもいかない。
唯一の救いは、その聖女の力とやらが私にもちゃんと備わっていて、旅にとても役に立ったということだろうか。
魔族を倒したり、傷を癒すことのできる不思議な力。
私はこれで、自分の傷を治したり用心棒をしてお金を稼ぐことができた。
人間慣れとはこわいもので、平和な日本で暮らしていた女子高生も、千尋の谷から突き落とされればモンスタースレイヤーになれるらしい。
ゲームと違って力の使い方を懇切丁寧に教えてくれるチュートリアルなしの、超ハードモードではあったけどね。
ともあれ私は旅の間に仲間を増やし、何度も死にかけながら目的を果たした。
そう、苦難の末に魔王とやらを倒したのである。
そして世界は平和になった――かどうかは知らないが、私は日本に帰るべく仲間と別れ召喚された国へと凱旋した。