第九話:魔法遊戯・絶唱歌舞
シャルロット様が魔法遊戯・絶唱歌舞を提案した後、話はとんとん拍子で進んで行き、あっという間に決戦の舞台が整えられてしまったのだ。
(はぁ、どうしてこんなことになったんだろう……)
まさか帝国に到着したその日に、宮廷魔法士ファラル・グリステン様と戦うなんて、まったく想像さえしていなかった。
僕が小さくため息を零す一方、
「ほほっ、魔法遊戯・絶唱歌舞なぞ、何百年ぶりかのぅ!」
ファラル様はやる気に満ち溢れていた。
(相手は帝国最強の魔法士。僕の未熟な魔法がいったいどこまで通用するだろうか……)
大きな不安が胸に去来する中、シャルロット様がポンと手を打つ。
「――あっ、アルフィ。言い忘れていたけれど、ちゃんと手加減はしてね? 間違っても殺しちゃダメよ?」
「しゃ、シャルロット様、お声が大きいですよ!?」
彼女の方言を耳にしたファラル様は、いっそう目を厳しいものとした。
「ふむ……。シャルロットは、アルフィ殿のことを本当に高く買っているようだな。しかし――本気のファラルなど、久しく見ておらぬ。これは中々の見物だ」
皇帝陛下が楽しそうにパンと手を打ち鳴らせば――審判役として呼ばれたトーマスさんがコクリと頷く。
「お二人とも、準備はよろしいですか? それでは――はじめ!」
その号令を合図にして、ファラル様が銀の
「まずは、お手並み拝見と行こうかのぅ! ――<
ファラル様が放ったのは、初級の黒魔法。
「――<
僕はそれに対して、同じく初級の白魔法で迎え撃つ。
二つの炎は、互いの中間地点でぶつかり合った。
「こ、これは……!? ――<
視界が白炎で埋め尽くされているため、向こうの状況がわからないけれど……どうやらファラル様は、早くも二つ目の魔法を発動したみたいだ。
(<白炎>の奥で、とても微弱な魔力を感じるぞ……。これは多分、<
とりあえず、二の手・三の手を用意しておこう。
(<
僕は<白炎>の出力を維持しつつ、すぐさま三重の魔法を展開。
何があっても大丈夫なよう、万全の反撃体制を敷いておく。
するとその直後、
「ぐ、ぉ……っ。<
白炎の先から、さらなる魔法の反応があった。
(さ、さすがはファラル様だ……っ。僕の隠匿魔法に一瞬で気付いたうえ、さらにその対策を打って来るとは……)
彼の素晴らしい魔法探知力と状況対応力に舌を巻いていると――。
「ぐ、ぬぅおおおおお゛お゛お゛お゛……!」
炎の奥から、ファラル様の雄々しい叫び声が聞こえてきた。
まだ初級魔法をぶつけ合わせているだけだというのに……まるで生と死の狭間で戦っているかのような、
(初級魔法にここまでの想いを懸けられるなんて……。あぁ、やっぱり僕はまだまだだな……)
『魔法技能』の面は当然として、『気持ち』の面でも負けてしまっていた。
(僕もファラル様みたく、もっと全力を出し切らないと……!)
そうして気合を入れ直していると、
「ねぇアルフィ、もうちょっと出力を上げられるかしら?」
シャルロット様から、鋭い指摘が飛んだ。
どうやら僕の気持ちが足りていないことを見抜かれたらしい。
「す、すみません……っ。もっともっと頑張ります……!」
シャルロット様の期待に応えるよう、ファラル様の気合に追いつくよう――僕は全力で『初級魔法』を解き放つ。
「ふぅー……。――<
先ほどの十倍以上にもなる白炎が射出され、
「よもや、ここまでとは……っ。<
いったいどういうわけか、ファラル様は<空間転移>を発動させ、時空間へ逃げ出してしまった。
「え?」
その結果、とてつもない『破壊の嵐』が吹き荒れる。
僕の放った<白炎>は、魔法教練場の壁を破壊し、帝城の中層を焼き払い、帝国を守護する結界を貫通したうえ、遥か遠方の山々を吹き飛ばし――そこでようやく消滅した。
「な、なん、だと……ッ!?」
「まぁ、なんて凄い魔法なんでしょうか! さすがはアルフィね!」
皇帝陛下は言葉を失い、シャルロット様はパチンと手を打ち鳴らした。
そして――。
「はぁはぁ……っ」
時空間へ緊急離脱していたファラル様が、こちらの世界に戻って来た。
彼の顔は真っ青に染まっており、四つん這いになった状態で、荒々しく息を吐いている。
なんとも言えない緊迫した空気が流れる中、
(ど、どうしよう……っ)
僕の頭は、『借金』の恐怖に支配されていた。
帝城に飾られていた、たくさんの芸術品。
きっとそれらの一部は、僕の白炎で吹き飛んでしまったことだろう。
(<
一流の職人が生み出した作品には、作り手の『魂』が宿ると言われている。
しかし、<修復>の魔法では、職人の魂まで再現することはできない。
(負債額は、数百万リーン? 数千万リーン? それとも……数億リーン!?)
一生を費やしても返しきれない額の借金。
血の気がサッと引き、視界がチカチカと明滅を始める。
皇帝陛下が押し黙り、ファラル様が憔悴し、僕が借金の重圧に沈み――全員が頭を抱える中、
「どうですか、兄上?
シャルロット様の勝ち誇った声が、半壊した魔法教練場に響くのだった。
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