第八話:宮廷魔法士ファラル・グリステン
「さて――どうだ、ファラル?」
「ふぅむ……」
先ほどから陛下の隣に控えている人は、帝国の誇る宮廷魔法士ファラル・グリステン、その人だ。
背中まで伸びた艶のある白髪・腹部まで届く立派な白髭・目元を隠さんとする白眉――真っ白な魔法着に包んだその姿は、浮世から遠く離れた仙人のようだった。
身長は百五十センチほど。
外見年齢は八十歳ぐらいだが……教科書に載っている情報が正しいのならば、御年三百歳を超えているらしい。なんでも『不死の禁呪』を用いることで、人間の寿命を超越したそうだ。
顔に刻まれた深い皺は、過ごした年月の重さを感じさせ、
ファラル様は鋭い視線をこちらに向け――小さく首を横へ振った。
「……残念ながら、これはハズレですな。ほんのわずかな魔力さえ感じませぬ。どうやらうちのトーマスは、狐に摘ままれてしまったようでございます」
彼の口から零れ出たのは、落胆と失望の滲み出した感想。
するとその直後――トーマスさんが声をあげるよりも早く、シャルロット様が異議を唱えた。
「――ファラル翁、その判断は明らかに誤っておられます。
いくつか引っ掛かるフレーズがあったけれど、とてもツッコミを入れられるような空気じゃない。
「ほぅ、これはまた面白いことを言うな、シャルロット? ファラル・グリステンは、遥か悠久の時を生きる帝国最強の魔法士。その審美眼が、曇っているとでも言うつもりか?」
皇帝陛下から問われた彼女は、
「はい、曇っているようですね」
間髪を
「先ほども述べました通り、
「……それは
「兄上、私が嘘をついたことがありますか?」
「ふむ……」
皇帝陛下は押し黙り、再び隣の腹心へ視線を送った。
「陛下、何度視ようが、結果は同じでございます。アルフィ・ロッドという少年からは、ほんのわずかな魔力さえも感じられません。間違いなく、ただの
ファラル様が
「『百聞は一見に如かず』と言います。――ファラル翁、ここはひとつ『魔法遊戯』などいかがでしょうか?」
「……それはいったいどういう意味ですかな?」
「特に深い意味はございません。『凡夫』のアルフィ・ロッドが、『帝国最強の魔法士』ファラル・グリステンに勝つことこそが、アルフィの力をご理解いただく最短経路だと思ったまでです」
シャルロット様は、言葉の節々に
僕のことを凡夫と蔑んだファラル様に対し、怒りを覚えているようだ。
「くっ、くくく……くぁっはっはっはっ! 姫様、お気は確かですかな? そこな青二才が、この儂に勝てると本気でお思いか!?」
「はい。お言葉ですが、勝負にもならないかと」
「ふはっ、よいでしょう! 儂にも魔法士としてのプライドがあります! そうまで言われては、引き下がれませぬ! ――陛下、よろしいですな!?」
「はぁ、好きにするといい。ただ……
「ふぁっはっはっはっ、心配ご無用! 億が一、いや兆が一にもございませぬわ!」
「まぁ……それもそうだな」
ファラル様の魔法力に
皇帝陛下はコクリと頷き、こちらに視線を向けた。
「さて、魔法遊戯を執り行うからには、題目となる魔法を決める必要があるのだが……。それについては、そちらが選ぶといい。――ファラル、異存はないな?」
「えぇえぇ、もちろんでございますとも。
魔法の選択権がこちらに委ねられたところで、シャルロット様は人差し指を顎に添えながら口を開く。
「
「なんだと?」
「……それは本気で仰られているのですかな?」
その瞬間、皇帝陛下は目を鋭く尖らせ、ファラル様の顔から笑顔が消えた。
玉座の間にひりついた空気が流れる中、シャルロット様だけは余裕の笑みを崩さない。
「あ、あの……シャルロット様……? 絶唱歌舞とは、いったいどんな魔法なんでしょうか?」
そんな名前の魔法、聞いたことがない。
「『魔法遊戯・絶唱歌舞』は、遥か
シャルロット様はそう言って、柔らかく微笑んだのだった。
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