「稲川淳二」は夏の季語の候補に。
稲川:楳図さんは、飄々としてる。ねちっこくない。多分楽しい人だからあんな恐ろしいものが描ける。
楳図:一見穏やかで優しそう。だけどあんな怖い話する。どっから出てんだろう。ちょっと怖いんでさ。あの喋り方に負けたらいけませんね。
稲川:絵コンテのように見える。ドラマのように動いてんの。
楳図:あのね、僕、絵は描けるんですけど、お話が作れなくて。小学生の頃から、モノ作る苦労を知ってしまった。
稲川:人間って、後ろに対して恐怖がありますよね。背後の恐怖。
楳図:見えない何かで後ろを見てる。
稲川:先生は綺麗なんですよ。汚くない。
楳図:綺麗な怖さでやんないと、自分の気持ちがダメになっていきそうな気がして。
稲川淳二
鏡のないビジネスホテル
地方のビジネスホテルに泊まった時のこと。
こんな狭いロビーでもって、小さいフロントにカウンターがあって、40代半ばぐらいの男の人が待ってた。
「あぁ~ご苦労様でございます。お待ちしておりました」
鍵持ってって部屋のドアに差し込んで開けて、明かりが付いたら、何か様子がおかしいんですよ。普通のビジネスホテルじゃないんです。
テーブルも椅子もお揃いで白く塗ってあって、てっぺんが黄色。ロココ調の家具なんですよ。
あれ~っと思って。柄の壁なんです。
小さなシャンデリアがある。なんか変だぞと思ってマネージャーのとこ行ったら、普通の質素なビジネスホテルの部屋なんです。
でマネージャーに
「あんたあたしの部屋はこうこうこうなんだよ」って言ったら「それ、VIPルームじゃないですか」
ビジネスホテルにVIPルームなんてないんですよ。
部屋に入ったんだけどなかなか落ち着かなくて眠れない。空気が薄いんですよ。
自分の「あぁ~・・」って声が聞こえてる。
ストン!と音がしたんです。今絶対引き出しが空いて、閉まったなって。
カランカラン・・クローゼットの中で、ハンガーが揺れる音もしてる。
風なんか吹いてやしない。窓は閉めてるわけだから。おかしいぞと思って立ち上がると汗グッショリ。
シャワー行って顔洗ってふっと見たら、目の前にあるはずの鏡がない。
洗面台なんだけど穴があいてる。壊れてるのをそのままにしてるんだ、いい加減だなと思って。
そしたらドアがひとりでに開いて、私の背中にドンッてなんか当たったんですよ。
ちょうど背骨のところに。それね、人の指なんだ。
人差し指と中指が動いてんのがわかる。そのまま動けなかったらひとりでにドアが閉まった。
しばらく間を置いてドアを開けたけど誰もいない。
次の日フロントに行くとあの40代半ばの男の人がいた。
「あそこは一体どういう部屋なんです?」
「亡くなりました先代の女性オーナーが、ご主人の部屋として使っておられた部屋です。
ただいま大切なお客様に使っていただいているのです。」
「洗面台ね、鏡ありませんよね?」
「あれはですね、亡くなったオーナーが外させたんです」おかしなことするなぁと思って。
でも鏡があると、ドアがギーっと開いた時にそいつの正体が映っちゃう。だから外させた。
亡くなった先代の女性オーナーは、そいつの正体を知ってるんですね。
楳図かずお
まさかの怪談がえし。
大阪に、アワビを食べに行ったんです。新幹線で。
いつも熱海のところで海のあたりを見るとすごくかっこいいホテルがあるので、前からそこに泊まりたいと思ってたんですね。
で、そこのフロントの人に「泊まりたいんですけど」って言って部屋に行きました。
遅いもんだから賄いの人が
「お食事は何にいたしましょうか」って言った時、僕窓の外を見てたんです。熱海の綺麗な夜景。
「ここ見晴らしがいいですね」って賄いの方に言ったのに返事をしないんですよ。
ご飯食べてたら、隣の部屋がどんじゃかどんじゃか騒いでる。
でも部屋のどっかで、水がポタポタ漏れてる音がする。
変だなと思ったけど構わず寝ちゃったんです。
で朝起きて、テラスの外に出てばァっと見ると、目の下がお墓。
ま、それだけの話なんですけど。
稲川:いやいや、夜中になると霊が呼ぶんですよ。
楳図:いやっ、呼ばないでください! (目を閉じて十字切りながら)ワタシハカンケイアリマセン、カンケイアリマセン。呼ばないでくださいっ!!
稲川:でもそれ無理かもしれない。
楳図:なんでやっ!!(笑)
楳図:そういう話をしていたら、会場に変なことが起きたりとか、あります?
稲川:話をしてたら、下手側の一番端の、前から4列目のあたり。ず~っと手を振ってるんですよ。真っ赤な手が。闇ん中だから、手は見えませんよね。でも見えてるってことは発光してんのかな?赤い手がずーっと手を振ってんの。仕掛けでもあんのかな。明かりが付いたら、そこ、席なんてないんですよ。
怪談のコツ
稲川淳二
あんまりね、ストーリーで話を追ってないんですよ。ほとんど絵。絵がだんだん動いていくのを話している。絵で状況を話しているから、言葉であんまり覚えてないんです。絵で覚えておくと、見えなかったものが見えてきたりする。
擬音を使います。鉄で出来た非常階段の音とか、暗い道を歩くときとか。あと、あまり怖そうに話をしない。
自分の足で毎年、秋ぐらいから歩き回る。で、組み合わせていく。なぜ、どうしてってところがないとね。
怪談の、例えば口減らしなんてね、生きるために仕方がないんです。
たくさん産んどかないと、死んだとき跡継ぎがいなくなる。今なら事件になるけど昔は霊だとか妖怪になぞらえる。
怖くたって、実は優しかったり悲しかったりするんだよね。
※取材ノート、赤字できっちり書いてあって血染めみたいで怖かった。
稲川サンはインダストリアルデザイン(車どめ)で通商産業省の賞を受賞したことがある。新幹線の検札機のデザインも。
綾辻行人
後半楳図かずお邸
楳図先生の隠し球
川柳
ヘビ少女 へをしたとたん 美少女に
「かい蟲(ちゅう)を 釣るんだ!」 と 釣り針 のみ込んだ
「お前のは くさすぎる!」と トイレの中から 声がした
髪の毛の のびる人形に パーマ当て
- 作者:楳図かずお
- 発売日: 2019/08/07
- メディア: 大型本