司法への信頼を損なわないために、略式不相当とし、正式裁判を開くべき
ここ10年間の例を見てみると、簡裁が略式不相当と判断した事件は(1)事件による結果が重大 (2)被告人が警察官など公務員 (3)社会的影響が大きい――という3要素のいずれかを含んでいる。
安倍氏事務所の件も、(1)と(3)は満たしているうえ、公設秘書は税金から給与を支払っており、身分は国家公務員特別職で(2)にも該当するといえるだろう。
これを略式手続きで済ませ、公開の裁判を開かずに終われば、裁判所は権力者に甘いと受け止められ、司法の公平性、公正性に対する信頼は著しく損なわれるに違いない。
また、略式手続きで済まされれば、当該秘書らがコトの経緯について何を語っているか、検察官が作成した調書のなかに記されるだけで、国民は知ることが難しくなる。一部を、検察がメディアにリークしたとしても、全容を直接確かめることはできない。そもそも、検察官調書が本人の供述通りに作成されているか、確かめようがない。
略式手続きであっても、確定後には記録の閲覧はできることになっている。しかし現実には、記録は検察庁が保管・管理し、記録のどの部分を、何を閲覧に供し、どの部分を非公開にするかは、検察の判断ということになる。
たとえば、横綱日馬富士(当時)の暴行事件は略式手続きが行われ、私はその記録を閲覧した。しかし、横綱白鵬や鶴竜ら目撃者の調書は閲覧用の記録からは外され、日馬富士本人の調書も黒塗りされた部分が多かった。
この問題では、国会で虚偽の答弁を行った安倍氏自身が、記者会見などで国民に詳細な説明をするべきであることはいうまでもない。読売新聞の世論調査では、72%が安倍氏の説明を求めている。共同通信の世論調査でも、60.5%が安倍氏の国会招致を要求した。
ことの全体像を知るために、最も詳細を知る秘書らにも、公開の法廷で正直に経緯を語ってもらいたい。
●江川紹子(えがわ・しょうこ)
東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か – 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。
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