裁判所が略式不相当と判断した事件は過去にも数多く存在する
それでも、検察が略式手続きを強行した場合は、裁判所に適正な役割を果たしてもらいたい。
検察が略式手続きを選択しても、裁判所が略式不相当と判断すれば、正式な裁判を開くことができる。そうした事態は頻繁にあるわけではないが、これまで少なからぬ前例がある。
メディアで報じられ、記事データベースに収められている例を挙げる。
▽2018年11月 佐久簡裁(略式不相当の判断をした裁判所、以下同じ)
従業員に違法な長時間労働をさせたとして労働基準法に問われた長野県南牧村の乳製品製造販売会社と同社役員2人の事件。正式裁判も同簡裁で実施。
▽2019年1月 名古屋簡裁
生徒に体罰を加えたとして暴行罪に問われた養護学校教諭の事件。名古屋地裁が罰金30万円の判決。
▽2018年11月 岐阜簡裁
岐阜県警の巡査長が、法定速度の60キロを大幅に上回る約112キロで公用車を走行させ、物損事故を起こした。
▽2018年8月 岐阜簡裁
生活保護を受給する女性らに抱きつくなどしたとして、暴行罪に問われた岐阜市職員。
▽2018年1月 盛岡簡裁
盛岡市内の認可外保育施設で1歳の乳児が食塩中毒で死亡し、施設経営者が業務上過失致死罪に問われた。盛岡区検の略式起訴に対し、被害児の両親が正式裁判を求める意見書を簡裁に提出していた。
▽2017年7月 東京簡裁
女性新入社員が自殺に追い込まれたことをきっかけに発覚した広告代理店王手・電通の違法残業事件。東京地検は法人としての電通を略式起訴し、同社部長らは不起訴処分としていた。
▽2017年3月 大阪簡裁
ファミリーレストラン「和食さと」の運営会社が、7人の従業員に月40時間の上限を超えた時間外労働をさせていた事件。正式裁判も同簡裁で行われた。判決は、「全国規模で飲食店を展開する大企業で社会的影響は少なくない」などとして罰金50万円。
▽2017年3月 大阪簡裁
大阪市内のスーパーマーケット運営会社「コノミヤ」が従業員4人に時間外労働の上限を超えて残業をさせた。正式裁判も同簡裁で行われ、判決は「6100人も雇用する大企業で、社会的責任が大きい。労働基準監督署からの是正勧告後も是正しておらず、刑事責任は重い」として罰金50万円。
▽2012年12月 大阪池田簡裁
二日酔いの酒気帯び状態で車を運転して出勤し、道交法違反に問われた大阪府警の元警部(依願退職)が正式裁判に。
▽2012年3月 大阪簡裁
事件の証拠品の木刀を紛失したと思い込み、無関係の木刀を証拠品にねつ造したとして証拠隠滅罪に問われた大阪府警の元警察官3人の事件。正式裁判で検察側は罰金10~20万円を求刑したが、大阪地裁は1人を懲役3月執行猶予2年とし、残る2人も求刑を上回る罰金を科した。
▽2011年5月 大阪簡裁
柔道練習中の小学1年生男児が死亡した事故で、業務上過失致死罪に問われた指導者に対し、大阪区検は罰金100万円で略式起訴したが、大阪地裁での正式裁判に。判決は求刑通り罰金100万円。
▽2010年12月 大阪簡裁
任意の取調べの際に被疑者に対して暴言を吐いて、脅迫罪に問われた大阪府警の警部補について略式不相当とし、大阪地裁に移送。正式裁判では求刑20万円を上回る罰金30万円の判決。