▼行間 ▼メニューバー
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
前世、弟子に殺された魔女ですが、呪われた弟子に会いに行きます 作者:沢野いずみ

本編

11/55

11:配達人のアダム



 塔に住んで五日。

 まだお互い慣れず、ぎこちなく暮らしている二人のところに、訪問者が来た。

 ヴィンセントが対応している。アリシアは怪しまれないように、壁に隠れながらその様子を見た。

 訪問者は赤毛の若い青年だ。とても明るい性格なのだろう。ヴィンセントと話している間、ずっと笑っている。そして何より――


「ヴィンセントが、とてもしゃべっています!」


 自分には用件のみしか会話をしてくれないのに!

 表情は相変わらずの無表情だが、言葉数が多い。冗談でも話しているのか、赤毛の青年がケタケタ笑う。

 ずるい!

 アリシアは話したこともない赤毛の青年に嫉妬の念を送った。

 あの不愛想な様子から、きっと自分が一番仲良くなれていると思っていたのに!

 赤毛の青年と話す様子から、他者とコミュニケーションを取っているのがわかり、安心するのに、もやもやする。

 まるでヴィンセントを赤毛の青年に盗られた気分だ。

 アリシアは母が言っていた言葉を思い出した。


「間男!」


 仲良くしている二人の仲を切り裂く存在らしい。憎らしい、間男!


「私とヴィンセントの仲は切らせませんよ!」


 アリシアは気合を入れて、二人のもとへ向かった。


「はじめまして! アリシアと申します!」


 はじめが肝心だと、元気よく挨拶をしたアリシアだったが、二人のポカンとした顔を見て、元気が一気に萎んだ。醜い嫉妬心で話しているところに突撃など、良識のある人間がするべきではなかった。アリシアは恥ずかしくなって俯いた。


「ヴィンセント……さん。談笑中に失礼しました……」


 一瞬呼び捨てにしそうになったが、慌てて取り繕った。肩を落としたアリシアを見て、ヴィンセントは首を振った。


「いや、談笑などしていない」

「え!? うそ!? 今の談笑だったよね!?」


 赤毛の青年が驚愕の声を上げるが、なおもヴィンセントは首を振る。


「してない。次に持ってきてもらう物について話していた」

「それ以外も話してたよね? ね?」


 赤毛の青年が詰め寄るが、ヴィンセントは相手をしない。


「持ってきてもらう物……?」


 見れば、青年の足元には木箱がある。中には食材が詰まっていた。

 アリシアの視線の先を見て、青年がにこりと笑った。


「俺はアダムだよ。見ての通り、配達人だ!」


 こげ茶の瞳を細めるアダムを見て、アリシアは納得した。


「いつも新鮮な野菜たちがあるからどうしているのかと思ったら、配達に来てくださっているのですね」

「そういうこと! 大体五日に一回来るよ。食材の依頼が多いけど、それ以外も承るよ。女の子は色々必要だろ?」


 パチンとウィンクをするアダムに、さっきまでの嫉妬はどこへやら、アリシアも微笑み返した。


「紹介しておこうと思っていたから、ちょうどよかった。必要なものがあれば、今後アダムが来た時に頼むといい」

「わかりました」


 アダムはアリシアと話すヴィンセントを見て、ニヨニヨとする。ヴィンセントは不快そうに眉根を寄せた。


「……なんだ?」

「賢者様の恋人?」


 ヴィンセントはさらに眉間に皺を寄せた。


「そんなわけあるか、歴史学者だ」

「だよねえ、こんな可愛い子が」

「どういう意味だ」

「そういう意味だよ」


 ニコニコしているアダムに、不機嫌なヴィンセント。仲良しと思ったのは自分の間違いだったのだろうか。アリシアはオロオロしてしまった。


「あ、あの……」

「ん?」


 声をかけたアリシアに、アダムは向き直る。


「アダムさんは間男ではないのですか?」

「ぶふぅ!」


 アダムはその場で腹を抱えてしまった。

 アリシアはやはりオロオロするしかなかった。



  • ブックマークに追加
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。

感想を書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。