09:晩御飯
ヴィンセントはちゃんと本を持ってきてくれた。
「すごい量ですね……」
ヴィンセントが持ち込んだ本の量を見て、感心しながら言う。
「この塔には色んな種類の歴史書があるからな。国から見た歴史書や、庶民の生活に焦点を当てた歴史書など、さまざまだ。一点だけ見ず、それぞれの観点を見ながら読め」
「はい、わかりました」
アリシアが頷くのを見ると、ヴィンセントは満足したのかすぐに去って行った。その背中を名残惜しく見送ると、手をパンと叩いて気合を入れる。
「大仕事です!」
アリシアは本をそれぞれ分類する。バラバラな観点を適当に入り乱れて読むのは効率が良くない。似たもの同士で分けて、頭の中で整理するのがいい。
分類が済んだら、あとは読むのみだ。
アリシアは高く積まれた本にゴクリと息を飲む。
「さあ、頑張ります!」
◇◇◇
「疲れました……」
アリシアは抜け殻のようになった自分を奮い立たせてキッチンに向かった。なぜなら空腹を感じたからだ。
集中するあまり、すっかり昼食も食べ損ねてしまった。
腹が減っては戦はできぬ。母が良く言っていた。
母は大事なことをよく教えてくれると思いながら、玉ねぎを切る。悲しくなくても涙が出るからいざというときに使えると母が言っていた。いざというときがどんなときか、アリシアにはわからなかった。
鶏肉、ニンジン、ジャガイモも炒め、程よいところで小麦粉を入れる。小麦粉が全体的に馴染んだのを見て、牛乳と野菜の出汁を入れる。そのまま混ぜ続けると、徐々にとろみが出てきた。
同時にまろやかな香りがしてくる。
「何の匂いだ?」
「ホワイトシチューです」
アリシアはグツグツ煮込みながら答える。どうやら香りに誘われて部屋から出てきてくれたらしい。
朝食のことはまぐれだった可能性を考えていたアリシアは嬉しくてニコニコする。
そんなアリシアに対してヴィンセントは無表情で席に着いた。
アリシアは火を消すと、器に盛っていく。晩御飯のメニューはホワイトシチューに今朝焼いたパン、レタスのサラダに、それだけでは足りないかと思い、食糧庫にあったピクルスも置いた。
「どうぞ、召し上がれ」
「いただきます」
きちんと礼をしてから、ヴィンセントは食事に手を付けた。その様子を悟られないように盗み見る。食事のペースからして、おそらく口に合ったのだろう。
アリシアはあったかい気持ちになりながら、パンをシチューに浸した。