04:アリシア八歳の決意
題名を改題しました。
『呪われ賢者と祝福の魔女』→『前世、弟子に殺された魔女ですが、呪われた弟子に会いに行きます』
よろしくお願いします。
やはりどう考えても呪っていない。
アリシアは何度も読み返した絵本を再び読みながら思案する。
これはこの国に古くからある物語だが、その内容は半分真実だ。いや、脚色されている部分さえ目を瞑れば八割真実である。
祝福の魔女は存在したし、その魔女に弟子もいた。魔女は弟子に殺されたし、その弟子は現在賢者と呼ばれ、塔で暮らしている。
ただひとつ違うのは、アリシアは不死の呪いなどかけていないことだ。
「なぜ不死になってしまったのでしょう……」
アリシアは同じ話の絵本を何度も読んだが、どれも、不死になったのは魔女の呪いと書かれていた。
「呪ってなどいないと、声を大にして言いたいです……」
むしろ殺されたのに、死ぬ直前に相手の幸せを願って『祝福』したのだから、褒めてほしいぐらいである。
そしてもう一つ。
「どうして、この国はあのときのままの名前なのでしょう……」
あの後、この国は他国に攻め込まれ、あっという間に敗戦し、そのとき他国の指揮を取っていた弟子——ヴィンセントが国王になっている。ラリーアルド帝国を、ラリーアルド王国としたのもこのときだ。
その後、彼は後継者を育てて、あっけなく政から遠ざかった。
塔を作り、そこに住んでからは、生きる歴史書として暮らしている。二百年分の歴史を知る者。それを評して賢者と呼ばれている。
「ヴィンセント……」
ぎゅっ、と絵本を抱きしめる。
彼が何かしら呪いか魔法をかけられているのは確実だ。でなければ二百年の時を生きるなど不可能だ。
この二百年で、魔法はなくなってしまった。アリシアも、魔法を使うことはできない。
ヴィンセント……彼はどうなのだろう。まだ魔法を使えるのだろうか。
彼に会うにはどうしたらいいか。
アリシアは絵本を持ったまま走り出す。
「お母さん!」
ぎゅうっと母に抱き着くアリシアを、母は困った顔で見ている。
「アリシア、お母さん今料理してるから……」
「お母さん!」
アリシアは母の言葉を遮った。
「私、歴史学者になります!」
アリシア、八歳の決意だった。