第七話:皇帝との謁見
魔法遊戯で勝利した直後――シャルロット様の狙い通り、運営キャンプの中にいた魔法省の役人が動き出す。
「おめでとう、アルフィ・ロッドくん! いやぁ、本当に素晴らしい結界魔法だった! おっと、失礼。私はこういうものだ」
彼は早口にそう言うと、帝国の身分証らしきものを取り出した。
そこには『帝国魔法省視察官トーマス・フレデリック』と記されている。
「はじめまして、トーマスさん。アルフィ・ロッドです」
お互いに軽く挨拶を済ませたところで、彼はすぐに話を切り出してきた。
「ところでアルフィくん、先ほど見せてくれた素晴らしい結界なのだが……。全力を出せば、どれぐらいの領域を囲うことができるんだい? おそらくさっきのは、全力じゃないだろう?」
「そう、ですね……。限界まで広げたことはないので、正確な範囲はわからないのですが……。ドラグノフ王国全域ぐらいなら、簡単に囲えます」
というか、つい先日まで囲っていた。
「ど、ドラグノフ王国全域を……!? す……素晴らしい……ッ! っと、こうしてはいられない。すぐにファラル翁へ報告をしなければ! アルフィくん。すまないが、少しここで待っていてはくれないかね!? 絶対、どこにも行かないでくれよ!?」
「は、はい、わかりました」
トーマスさんはそう念を押してから、足早に運営キャンプへ戻り、興奮した様子で<
「――こちらトーマス・フレデリックです。ファラル翁、とんでもない化物を見つけましたよ! ……えぇ。はい、なんと四千層もの魔法結界を一瞬にして……い、いえ、本当でございます! 嘘ではありません! この目ではっきりと見ました! ……はい、はい……こ、皇帝陛下が!? しょ、承知いたしました。すぐにお連れいたします!」
どこかへ連絡を取り終えた彼は、大急ぎでこちらへ戻ってきた。
「アルフィくん! なんとあの皇帝陛下が、君に会って話をしたいそうだ!」
「皇帝陛下が!?」
「うむ! 陛下とファラル翁は、君の優れた魔法結界に大変な興味を示しておられる! この後、時間は大丈夫かね!?」
「え、えぇ、それは問題ありませんが……」
まさかこんなにもすぐ皇帝陛下との謁見が叶うなんて……驚きだ。
あまりにも順調な滑り出しに、呆然としていると――先ほどまで観衆に紛れていたシャルロット様が、スタスタとこちらへ歩いてきた。
「ねぇ、私も一緒に行ってもいいわよね?」
「おや、アルフィくんのお連れの方ですか? 申し訳ないが、さすがに陛下の御前に一般の方を――って、あなたは……シャルロット皇女殿下!?」
トーマスさんは驚愕に目を見開く。
「私も一緒に行ってもいいわよね?」
シャルロット様がもう一度確認すれば、
「は、はい! もちろんでございます……!」
彼はコクコクコクと何度も頷き、すぐに馬車を手配した。
その後、僕とシャルロット様は、豪勢な馬車に揺られて、帝都アレスティアに向かうのだった。
■
帝都アレスティアに到着した僕とシャルロット様は、トーマスさんの案内を受けて、立派な
(す、凄いなぁ……っ)
皇帝陛下の居城は、神の宮殿のようだった。
荘厳な外観は、まさに白亜の神殿。
城内には神代・古代・現代――伝統と革新が一体化した優美な空間が、どこまでも広がっている。
埃一つない真っ白な廊下を進めば、厳めしい黒の扉が見えてきた。
きっとこの奥が、玉座の間なのだろう。
「「……」」
扉の両脇に立つ二人の騎士は、こちらの姿をギョロリと
僕は未知の世界へ踏み入るような緊張感を抱きつつ、扉の奥に踏み込んだ。
まず視界に入ったのは、高級そうな真紅の絨毯。
天井から温かい光を降らすのは、荘厳なシャンデリア。
内装を彩るのは、一流の風格を放つ調度品。
そんな部屋の最奥――豪奢な玉座に腰掛けたるは、威風堂々とした若い男の人。
その顔は、魔法学校の教科書で何度か見たことがあった。
(こ、この人が……アレスティア帝国の第九十九代皇帝ロイゼン・ジ・アレスティア様……っ)
身長は百八十センチほど、年齢は二十に届くか届かないかぐらいだろう。
整えられたプラチナブロンドの髪・全てを見通すような紺碧の瞳・余裕を感じさせる柔和な口元・スラリと伸びた手足・ほどよく鍛えられた肉体――まさに全てが黄金比、存在そのものが芸術品のようだった。
「――ようこそ、アルフィ・ロッド殿。突然、呼び出してすまなかったな」
皇帝陛下は知性と風格を感じさせる凛としたお声で、歓迎の言葉を述べてくださった。
「い、いえ……っ。皇帝陛下に拝謁する機会をいただき、光栄の至りでございます」
僕が下手な敬語を口にしながら、その場に膝を突こうとすれば、彼は
「ははっ、アルフィ殿は客人だ。そのように堅苦しい作法は必要ない。もっと気を楽にしてくれ。なんなら、この城を我が家のように思ってもくれても構わないぞ?」
陛下は冗談めかした口調で、そう言ってくださった。
きっとこちらの緊張を解きほぐすためだろう。
とても気さくでいい人だ。
「それから――久しいな、シャルロット。変わりないようでよかった」
「皇帝陛下におかれましても、壮健なご様子で何よりです」
「ふっ、血の繋がった兄弟ではないか。俺とお前の間には、いろいろとあったが……。昔のように兄上と呼んでくれると嬉しいぞ?」
「はい。
「はっはっはっ! 相も変わらず、気の強い女だ!」
「ふふっ。兄上の方こそ、相変わらずのようですね」
皇帝陛下とシャルロット様の間には、何やらピリピリとした空気が漂っていた。
この二人の間には、何かいろいろとあったようだ。
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