第四話:明るい未来と王国の惨状
「この魔法を使ってギルガザックを……って、シャルロット様?」
彼女は口をぽっかりと開きながら、目を白黒とさせている。
「えっと……さすがにこの状態のまま放置するわけにはいかないので、元に戻してしまいますね――<
魔法が正常に機能し、淡い光がレーヌ川を優しく包み込む。
すると、大きく
その光景を目にしたシャルロット様は、瞳の奥を揺らしながらスッと顔を伏せた。
(さっきの大魔法は、間違いなく『魔王』や『魔人』クラスの一撃だった……っ。そのうえ、まるで時を巻き戻したかのような究極の<
彼女は突然バッと顔を上げ、僕の両肩をがっしりと掴む。
「アルフィ!」
「は、はい、なんでしょうか!?」
女の人特有の甘いかおりが
「あなたの魔法の力、私に貸してもらえないかしら!?」
「えっと、どういう意味でしょうか……?」
突然「力を貸してほしい」と言われても、ちょっとよくわからない。
「この世界は魔王・精霊・魔人――そして何より、欲深い人間たちの手によって、滅ぼされてしまうの。私はそれを阻止し、平和な世界を作るため、これまで何度も死に戻りを繰り返してきた」
シャルロット様は、真っ直ぐこちらの目を見つめながら話を続ける。
「だから、私は『未来』を知っている。王国の裏切り者を、帝国のクーデターを、誰が誰を裏切っているのか、誰がどこの派閥に付いているのか、魔王が次に打つ一手、皇帝の計画、魔人の出現地点――この先に起こる悲劇とその原因を知っているの! もちろん多少のランダム性はあるけれど、それでもこの情報はとても大きな武器になるわ!」
「なる、ほど……」
彼女の言うことが真実だとしたら――本当に未来の悲劇を知っているのだとしたら、確かにそれはとても凄いことだ。
「ただ……この世界を破滅の運命から救うには、『情報』だけじゃ足りない。どれだけたくさんのことを知っていても、そこに『力』がなければ、簡単に上から抑え込まれてしまう。あの偉そうな兄を――アレスティア帝国の皇帝を交渉の舞台に引きずり出すことすらできない……っ。愚かなドラグノフ国王に鼻で
過去の屈辱的な記憶を思い出したのか、シャルロット様は拳をギュッと握った。
おしとやかそうに見えて、中々に感情表現の豊かな人だ。
「私の頭脳と情報は、それを支えてくれる『圧倒的な武力』があってこそ、初めて真価を発揮する。だから――お願いアルフィ。世界の破滅を防ぐために、あなたの魔法の力を貸してちょうだい……!」
シャルロット様はそう言って、僕の両手をギュッと握った。
そこから伝わってくる魔力は、どこまでも真っ直ぐで温かい。
(――魔力は口ほどにモノを語る、という)
きっとここまでの話に嘘はない。
全て本当のことを言っていると思う。
つまり彼女は、とても心の優しい人だ。
「――わかりました。僕なんかの力が、平和の役に立つのであれば、喜んで協力させていただきます」
「……! ありがとう、アルフィ!」
シャルロット様は、まるで大輪の花のような笑顔を浮かべた。
「さてそれじゃまずは、私の母国アレスティア帝国へ行きましょう! あそこは完全な『実力主義社会』。あなたのその力があれば、すぐにでも皇帝との
「はい!」
こうして僕は、帝国の第二皇女シャルロット・ディ・アレスティア様と一緒に、アレスティア帝国へ向かうことになったのだった。
■
それからわずか数日後――アルフィ・ロッドの魔法結界を失った王国は、いとも容易く魔王軍の侵攻を許し、
「緊急連絡! 西部ダリオス郡が陥落したとの情報が入ってきました!」
「北方から魔王軍の軍勢を確認! 早急に指示をお願いします!」
「南部の
作戦本部の置かれた玉座の間は、蜂の巣を
「くっ、前線へ兵を送れ! このままでは、王国が落とされてしまうぞ!」
「お言葉ですが、前線とはいったいどこを指すのでしょうか!? 敵は東西南北――全方位からやってきているのですよ!?」
「くそ、何故だ!? 何故ベルナード様の練り上げた魔法結界が、こうも簡単に破られてしまうのだ!?」
王国を半球状に守護する魔法結界は、まさに『守りの
それが破られたことで、王国側は三百六十度全方位からの攻撃を受けてしまい、戦線の維持すらままならないという悲惨な有様であった。
「そ、そんな……こんなはずでは……っ」
『宮廷魔法士』ベルナード・フォン・ドラグノフは、半べそをかきながら必死に魔法結界を張り直す。
しかし、修復した矢先からすぐに破られてしまい、結界が結界としての役割を果たしていない。
そんな我が子の醜態を目にした国王は、国中へ轟くほどの怒声を張り上げる。
「ベルナードォオオオオ! 貴様、いったい何をやっておるのだ!? 宮廷魔法士でありながら、結界すらも満足に張れぬとは……恥を知れぃ! これではアルフィ・ロッドの方が、何百倍も優れておったではないかッ!」
「ち、違うのです、陛下! これは何かの間違いでして……!」
「くだらぬ言い訳など聞きたくもないわ!」
「も、申し訳ございません……っ」
ベルナードは悔しさに奥歯を噛み締めながらも、ただただ平伏することしかできなかった。
「――ダールトン、貴様もだぞ! 今朝方、魔法学校の理事長が直々に、アルフィ・ロッドの処分取消を訴えてきたぞ!? これはいったいどういうことだ! 奴は不正を働いていたのではなかったのか!?」
「へ、陛下……それは、その……っ」
ダールトンは泡を吹きながら、必死にこの場を乗り切る策を考えるが――
結局この日、第三王子ベルナードは王位継承権を剥奪され、大貴族ダールトン公爵は爵位と領地を没収され――二人の明るい未来は、完全に閉ざされてしまった。
今更になって『宮廷魔法士アルフィ・ロッド』の価値に気付いた国王は、すぐさまアルフィと連絡を取り、再び宮廷魔法士の任に就くよう命じるのだが……。
「す、すみません、僕はもう帝国と契約を結んでしまったので……」
これは超ブラックな王国に捨てられた最強の魔法士が、神ホワイトな帝国に再就職を果たし、圧倒的な力で世界にその名を轟かせる物語――。
※とても大切なおはなし!
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