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超ブラックな王国を追放された宮廷魔法士、神ホワイトな帝国にスカウトされる~実は最強レベルの魔法士と気付いてももう遅い。正当な評価をくれる人たちのもとで働きます~【追放魔法士の魔力無双】 作者:月島 秀一
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第三話:王国を追われたアルフィと帝国の皇女

「しゃ、シャルロット様!?」


 彼女の名前は、シャルロット・ディ・アレスティア。

 数か月ほど前、『ドラグノフ王国』に(とつ)いできた『アレスティア帝国』の第二皇女だ。

『帝国の俊英』と評されるほどの頭脳を持つ、絶世の美少女である。


 王国の第一王子との結婚が予定されていたのだけれど、結婚式の当日に突然婚約を破棄されてしまった。

 傷心のシャルロット様は、後宮(こうきゅう)に引き籠り、毎日毎日メイドたちをいびっているらしい。


 僕も遠目にその光景を見たことがあるけれど、なんだか『チグハグ』な印象を受けた。


 シャルロット様はとても怖い顔で、キツイことを言っているのだが……その体を流れる魔力は、誰よりも優しくて温かい。

 そして何より、意地悪を言った後は、決まっていつもつらそうな顔をしているのだ。


「シャルロット様、どうしてこんな河原へ飛んできたのですか? 護衛の姿も見えないのですが……」


 高貴な身分の人が空間転移を行う場合、飛び先の安全を確保するため、先んじて護衛を送るのが通例である。


「……失敗、した」


「え?」


「失敗した、失敗した、失敗した……っ。何度も何度も『死に戻り』を繰り返して、世界の滅亡を防ごうとしてきたけれど……駄目なの。何度やり直しても、どれだけ頑張っても、世界は滅びてしまう。私は(むご)たらしく殺されてしまうのよ……ッ」


 彼女は憔悴(しょうすい)しきった表情で、溢れんばかりの思いを吐き出した。


「平和で幸せな世界を願って、これまでたくさんの『泥』をかぶってきたわ。下劣な第一王子に尽くしたり、憎らしい皇帝に頭を下げたり、嫌味な悪役を(よそお)ったり……っ。だけど、世界の滅亡は止められない。魔王が、魔人が、そして何より――私利私欲に駆られた欲深い人間たちが、いつもいつも邪魔をしてくるの……!」


 シャルロット様のお話はとても難しく、僕なんかにはほとんど理解できなかった。

 だけど、この人がいっぱい頑張って、たくさん努力して、それでも失敗して……とても傷付いていることはよくわかった。 


 だから僕は、ただひたすらその話に耳を傾け、心の器から溢れてしまった気持ちを受け止め続けた。


 それからしばらくして、彼女は少しだけ落ち着きを取り戻す。


「……ごめんなさい。いきなりこんなわけのわからないことを言われて、困っちゃったわよね……」

「いえ、お気になさらないでください」


『女が悲しんでいるときは、男は黙って死ぬまで話を聞け』――師匠から授かった、ありがたい教えの一つだ。


「ありがとう、優しいのね。……そういえば、あなたのお名前は?」


「僕は王国のアルフィ・ロッドで……あっ、もう追放されちゃったんでした……。今は国を追い出された、ただのアルフィですね」


 僕が冗談めかしてそう言えば、


「ふふっ、変な人。これまで百回ぐらい死に戻りをしてきたけれど、あなたに出会ったのは今回が初めてよ」


 シャルロット様は、クスリと笑ってくださった。


「ところでシャルロット様、先ほどから(おっしゃ)られている『死に戻り』とは、いったいなんなのでしょうか?」


「……多分、信じてもらえないと思うけれど……。私が死んだ瞬間、世界の時間が巻き戻るの」


「せ、世界の時間が巻き戻る……?」


「えぇ、そうよ。私の死を含めた全ての事象が、一瞬にしてリセットされるの。どれくらい過去へ戻されるかは、その時々によって完全にランダム。一日だったり一か月だったり一年だったり、十年以上のときも何度かあったかしら……。まぁでも最近は、自分の意思である程度、巻き戻す時間をコントロールできるようなったわ。何度も暗殺されたり処刑されたり謀殺(ぼうさつ)されたり、死に戻りを経験し過ぎたせいで、この力に慣れてきたのかもしれないわね……」


「なる、ほど……」


 あまりにとんでもない話だったので、すぐに呑み込むことができなかった。


「――アルフィ、私の話を信じてくれるのなら、今すぐにでも王国を離れてちょうだい」


 離れるも何も、僕は既に『国外追放処分』を受けてしまっているのだけれど……。

 どうやらさっきの自己紹介は、軽い『冗談』として受け取られたみたいだ。


「破滅の序章は一週間後。魔王軍四天王『暴虐のギルガザック』が、ドラグノフ王国を強襲するの」


「暴虐のギルガザック……」


 その名前には、とても聞き覚えがあった。

 というか、さっき倒した。


「ギルガザックは驚異的なほど屈強な肉体を誇り、魔法の絨毯(じゅうたん)爆撃を受けてもピンピンとしているような鬼の化物。王国はこの強力なモンスターに蹂躙(じゅうりん)され、わずか一夜にして攻め落とされてしまうの……」


「えっと、さすがにそれはあり得ないと思うのですが……」


 あんな弱いモンスターは、王国の黒魔法士によって、すぐに討伐されてしまうだろう。

 というか、もう倒した。


「……やっぱりこんな話、信じられないわよね」


「あっ、いえ! シャルロット様の『死に戻りの力』を信用していないわけではなくてですね! なんというかその……暴虐のギルガザックというモンスターは、つい先ほど倒してしまったので……」


「……え?」


「ほら、あそこ。……もう首だけになっちゃっていますけど……」


「う、そ……っ」


 ギルガザックの生首を見て、シャルロット様は固まってしまった。


(あれ、ちょっとマズかったかな……)


 師匠のもとで文字通りの『地獄』を過ごした僕にとっては、モンスターの生首なんかへっちゃら――というか『日常』そのものなんだけれど……。

 シャルロット様のように高貴なお人からすれば、少しショッキングな光景だったのかもしれない。


「い、今まで何度も目にしてきたから間違いない……こいつは正真正銘本物のギルガザック……っ。アルフィ、あなたがこれをやったの!?」


「はい。何故か急に襲い掛かって来たので、魔法でやっつけました」


「『魔法でやっつけました』って……っ」


 彼女は唖然(あぜん)とした表情を浮かべた後、何故か黙りこくってしまった。


(常識的に考えて……あり得ない……ッ。魔法は本来、時間と研鑽の積み重ねによって、ゆっくりと鍛え上げられていくもの。アルフィのような子どもが、魔王軍四天王を、あの無敵の肉体を誇る『暴虐のギルガザック』を倒せるわけがない。それに何より――彼の体からは、ほんのわずかな魔力さえも感じられない)


 シャルロット様の鋭い視線が、頭の天辺から爪先まで突き刺さり、なんだか気が落ち着かない。


(……だけど、『アルフィ・ロッド』という人間を観測できたのは、百度の死に戻りの中で、今いるこの世界だけ……。もしかしたら、もしかするかもしれない……っ)


 彼女は真剣な表情で、ジッとこちらを見つめた。


「ねぇ、アルフィ。もしよかったら、暴虐のギルガザックをやっつけたという魔法を見せてもらえないかしら?」


「はい、もちろん構いませんが……。どこへ撃てばいいですか?」


「そう、ね……。ちょうど目の前にレーヌ川があることだし、あのあたりを目掛けて魔法を発動してちょうだい」


 シャルロット様はそう言って、川の中央部分を指さした。


「えっと、よろしいのですか……?」


 確かに<聖槍(グングニル)>は、威力の控えめな魔法だけれど……。

 あんなところへ放てば、それなりに騒がしくなってしまう。


「……? 別に構わないわよ」


「わ、わかりました。では――<聖槍(グングニル)>」


 僕が言われた通りに魔法を発動した次の瞬間――何もない空間から極大の槍が射出され、巨大な河川が文字通りに吹き(・・)飛んだ(・・・)


「な、ぁ……っ!?」


 刹那(せつな)のうちに水は干上がり、川底には深く巨大な穴が空く。

『河川』という地形は、『底なしの大穴』へ変貌(へんぼう)()げた。

※とても大切なおはなし!


本日は短編版(4話分)+新規エピソード1話を投稿します!


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