中世ヨーロッパ、戦場のやじり | ウルフバート + トーキョー!

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中世前期 (ヴァイキング時代) 北欧/東欧や、中世後期イングランドの装飾品にインスパイアされたアイテム、主にレザーアクセサリーを制作、販売

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鉄砲が無かった時代、長距離から敵を攻撃する手段は弓矢かクロスボウでした。

クロスボウにせよロングボウにせよ、矢の先に鏃 (やじり/矢尻) がついており、これがなければ矢はただの木の棒です。

鏃が付いて初めて凶器になるのですが、鏃といっても多種多様な形が存在し、用途に応じて適切なものを使うことで弓矢の威力を最大限に発揮します。

弓やクロスボウについては議論される事が多いと思いますが、鏃については意外と注目されていないのではないでしょうか。

 

 

 クロスボウ vs ラメラーアーマー

 

先日、ヴァイキング バトルクラブのご好意でビザンティン スタイルのラメラーアーマー (小札鎧) に中世クロスボウを発射させてもらいました。

 

(標的にさせてもらったラメラーアーマーとヘルム)

 

射撃距離は10メートル以内、使用したのはボドキンと呼ばれる、中世で使用された四角錐の鏃 (やじり) の複製。

 

(使用した中世スタイルのボドキン型鏃)

 

人力では弓弦をセットできない、戦場用の張力500ポンド級クロスボウですが、結果はアーマーの表面に少しの穴を開けた程度で、見事に弾き返されました。

ヘルムの方もかすり傷だけで被弾経始 (ひだんけいし) に沿って見事に撥ね飛ばされました。

 

(使用した13世紀の500ポンド級クロスボウの複製)

 

さすがアーマー&ヘルム!

生半可な矢は通しません。

 

なんだ、クロスボウ意外と大したことないな、とお思いの方、、、それらを弾く為に存在する鎧です。

弾丸貫通する防弾チョッキなんて着る意味が無いのと同じです。

易々と通したら鎧の意味がありません。

 

 

 もしかしたら貫く可能性があったかも?

 

しかし、鏃には用途に応じて種類が色々あります。

適切な鏃を使っていたら、もしかして装甲を貫通出来たかもしれません。

またそのうちヴァイキング バトルクラブにお願いして標的にさせてもらいたいとおもいます。

 

 

 中世の戦場の鏃 (やじり)

 

さて、弓矢やクロスボウが戦場で活躍した中世のヨーロッパではどの様な鏃が使われていたのでしょうか?

中世前期のヴァイキング時代には主に三つの鏃の分類がありました。

 

「リーフ型」

幅広の平らな鏃は、主に狩猟用で、装甲をしていない人体に対しても使用されました。

肉を鋭利に切り裂いて致命的な深手を負わせます。

(タング式のリーフ型鏃)

 

 

「ショルダード型」

こちらも非装甲の標的に使用しますが、鋭い「かえし」が付いているため引き抜く事が出来ない、または引き抜く際にさらに肉体を損傷させる恐ろしい鏃です。

 

(タング式のショルダード型)

 

 

そして「ボドキン」と呼ばれる細く、長く、重い鏃は戦場でのみ使われ、鎧を破壊しました。

(タング式のボドキン型)

 

ヴァイキング時代の鎧は「メイル」と呼ばれる鎖かたびらでした。

メイルは金属の輪を鎖状に連ね、それぞれの輪をリベットで補強した鎧でしたが、ボドキンはこのメイルの輪に侵入し、破壊する徹甲弾でした。

 

(鉄の輪を鎖状に連結させた鎧、メイル)

 

 

 戦場の花方、徹甲弾ボドキン

 

スカンジナビアでは鏃の後部 (タング) を矢の本体 (シャフト) に突き刺したり、巻き付けて固定するる「タング式」が一般的だったようで、接続部分は動物の腱やワイヤーなどで補強しました。

 

一方ブリテンでは矢の本体に被せて使う「ソケット式」の鏃が一般的だった様です。

 

10世紀後半から北ヨーロッパの戦場ではボドキン型の鏃が主流になっていきます。

この時期から戦場に装甲した騎士が多く出現するようになったためとみられています。

(ソケット式のショートスクエア ボドキン)

 

 

ピラミッドの様な四角錐のボドキンは、メイルを貫通し破壊するためのデザインなので、麻や羊毛をキルティングした、「ギャンベソン」などのファブリックアーマー に対しては、そこまでの効果を発揮しなかった様です。

 

(メイルは単体ではなくファブリックアーマーと併せてた着用された)

 

この様な標的には「タイプ7」と呼ばれる様なニードルボドキンが使用されました。

ニードルボドキンは完全なるアーマー ピアッシング (装甲貫通) のためのデザインで、細く、鋭く、長く、重い、いわゆる徹甲弾でした。

メイルとファブリックアーマーの二重装甲も貫通するため、良く使われていた様です。

 

戦場には「コート オブ プレイツ」、「ラメラーアーマー」といった板状の鉄を集めた板金鎧も登場しますが、ニードルボドキンはメイル、ファブリックアーマー、板金鎧の全てを深々と貫通して人体を損傷させます。

(タイプ7と呼ばれるニードルボドキン型鏃)

 

ニードルボドキンは中世を通じて人気のあった鏃だったそうですが、特に英仏の百年戦争の最中に良く使われた様です。

 

 

(ギャンベソンの上に着たコート オブ プレイツ、帆布や革の裏に幾つもの鉄板を並べ、リベットで留めた鎧)

 

 

戦場でこのニードルボドキンがあめあられと降り注いで来ることを想像すると、先端恐怖症でなくとも背筋が寒くなります。

 

しかし、戦場にプレートアーマーが登場すると、ニードルボドキンの有効性も薄れてきます。

プレートアーマーは大きな板金を使った胴鎧で、全面装甲が厚く、被弾経始を考えた曲線的な形状のため、ニードルボドキンは弾かれてしまううえに、硬い装甲が鏃の先端を曲げてしまうので、容易に貫通出来ません。

(プレートアーマーで装甲した下馬騎兵)

 

こうした相手にはメイル貫通用の従来のボドキンではなく、プレート貫通用のボドキンを使用します。

それらは「ヘビー プレートカッティング ボドキン」や、「プレートカッター」などと呼ばれ、硬く、重く、質量の高い鏃で、ニードルボドキンの様に厚い装甲に当たっても先端が曲がりませんでした。

 

「タイプ9」と呼ばれる鏃は、角度の鈍い形状をしており、プレートカッティング ボドキンと言われています。

(タイプ9 プレートカッティング ボドキン)

 

(ヘビー プレートカッティング ボドキン) 

 

 

 人体損傷が目的の鏃

 

戦場では全ての兵士が十分な装甲をしているわけではありません。

 

非装甲、軽装甲の標的には徹甲弾を選ぶひつようはありません。

本来弓矢があるべき残忍な姿に戻ればいいのです。

軽装甲の標的や、馬などには「ブロードヘッド」と呼ばれるタイプの鏃を使用しました。

本来は狩猟用に使われる鏃ですが、戦場でも使用された様です。

装甲の無い肉体には最も残酷で致命的な損傷を与える鏃です。

また、普通のボドキンではファブリックアーマーに対して効果が薄いのに対し、ブロードヘッドはファブリックアーマーを切り裂いて貫通します。

 

(ブロードヘッド型の鏃)

 


これが深々と刺さったとして、肉体から引き抜く事を想像してください。

むりやり引き抜くしかなく、肉がズタボロになり修復不能です。

 

 

 非対人の戦場用鏃

 

戦場では標的が人間や馬だけとは限らず、木でできた櫓や門扉に向かって、時には火も発射します。

火矢を放つための鏃は「フレイミングヘッド」と呼ばれる籠状になったものを使います。

可燃物を詰め込み、火をつけて放ちます。

(フレイミング アロウ ヘッド)

 

この様に、中世のヨーロッパの戦場では様々な鏃が時代や用途によって使い分けられていました。

 

 

 鏃、弓矢、クロスボウの議論

 

タイプ7の様なニードルボドキンが、プレートアーマーに対しても効果的であった、とする説もあります。

しかしそれを裏付ける信憑性のある実験はあまり行われていない様で、情報が錯綜してるように思えます。

 

そもそもクロスボウやロングボウがプレートアーマーとその下のファブリックアーマーを貫通し、人体を損傷させる事ができたのか?

どの距離から放つと貫通することが出来たのか?など議論がなされ、意見も分かれています。

 

戦場には質のよい鋼のプレートアーマーだけではなく、粗悪で薄い軟鉄のプレートアーマーも居たそうです。

また、胴の前面装甲以外、特に足周りは弓矢による致命傷の危険が大きかったといいます。

 

(アジンクールの戦い)

 

フランスの重装甲をイングランドとウェールズのロングボウが打ち負かした、1415年のアジンクールの戦いでは無数に飛来する矢がヘルメットの通気穴から侵入する危険性が高かったため、フランスの装甲兵は顔を伏せながら前進したといいます。

ぬかるんだ地面は騎馬突撃で荒れて、後に続いた装甲歩兵は荒れたぬかるみに足を取られロングボウの格好の標的にされた様です。

 

あくまで想像ですが、実際のところはニードルボドキンが良質なプレートには効果を出さなかったかもしれないが、「粗悪なプレートは貫通することができた」のかもしれず、プレートアーマーは貫通せず「それ以外の場所を貫通させてフルプレートの装甲騎士を倒す事が出来た」のかもしれません。

 

とにかく、これらの戦場用の徹甲弾「ボドキン鏃」は、鉄砲が戦場に現れ、普及していくのと同時にその進化を終えてしまいました。

 

 

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