冒頭に述べたように、政府がEVシフトの具体的な目標を掲げたことは産業界のイノベーション促進にプラスではあるが、目標数値だけが一人歩きしないようにする必要がある。全体のバランスを取りながら、何が地球環境と日本の自動車産業の競争優位にとってプラスなのかを、考えていく必要があるだろう。
また、本気でゼロエミッションを実現するためには、EVを走らせるだけでは意味がなく、動力源の電力の生産も含めてEVのサプライチェーン全体をゼロエミッション化することも必要だ。
サプライチェーン全体のゼロエミッション化では、スウェーデンに本社があるノースボルトという会社の取り組みが面白い。スウェーデンには、リチウムイオン電池の原料となるリチウムなどのレアメタル鉱山があり、ノースボルト社はリチウムの採掘から、EV用リチウムイオン電池の生産までを手がけているのだが、リチウムを細工するために必要なドリルなどの工具も、風力発電などのゼロエミッションエネルギーによって充電された機器だけを利用しているという。同様に、リチウムイオン電池の工場の建設や、生産設備の稼働も、ゼロエミッションエネルギーだけを利用して生産している。
同社の電池工場には、ドイツ政府やドイツの自動車メーカーも注目していて、メーカーとの提携や政府による融資保証などに基づいて、ドイツ国内にノースボルト社のリチウムイオン電池生産のためのギガファクトリー建設が進んでいる。
自動車業界だけでなく
各産業の協力が必要に
日本でも、単にEVを走らせるだけでは温室効果ガス排出ゼロは実現しないため、サプライチェーン全体のゼロエミッション化のために、多くの産業の協力が必要であろう。
太陽光発電も期待されるエネルギー源だが、発電量は天候に左右されるという問題があり、さらに森林を切り開いて無秩序に太陽光パネルを設置するような発電設備をつくることにより、景観破壊の問題も指摘されている。地域の景観問題とも両立し得る、高効率で小型化が可能、なしいはデザイン的に自然と調和するような太陽光パネルの新しい技術開発、製品開発も必要だろう。
ガソリン車ゼロの目標を柔軟に活用しながらも、将来的な温室効果ガス排出ゼロを目指して、自動車産業だけではなく各産業の協力が必要だろう。また、そこには新たなビジネスチャンスがあるだろう。
(早稲田大学大学院経営管理研究科教授 長内 厚)