急速なモジュール化によって
強みを奪われてしまった電機業界

 日本のエレクトロニクスメーカーが2000年代以降、業績が振るわなくなったのは、急速なエレクトロニクス製品のモジュール化によって、日本が得意とするインテグラル型のアーキテクチャ知識が無意味になったことも一因だ。

 エレクトロニクス産業の失敗の轍を踏まないためには、内燃機関からEVへのシフトはある程度慎重に行う必要がある。少なくとも、日本の主要自動車メーカーがEV化しても競争優位を維持できるような体制づくりができるようになるまで、ガソリン車という既存製品のビジネスが「キャッシュカウ」となって利益を出し続ける必要がある。ハイブリッド車という既存のアーキテクチャ知識を必要としながら、電気モーターという新たな潮流を組み合わせたまさに「ハイブリッド」なアイデアは、内燃機関からEVへのソフトランディングを行うための上手い戦略といえる。

 また、現在のEVの性能は、かつてに比べれば飛躍的に向上したものの、まだ世界中の自動車をEVに置き換えるほどの性能にまで達しているとは言い切れない。一番の問題は、寒冷地対策だろう。気温が下がるとバッテリーの性能は低下するので、満充電からの連続走行距離は低下する。

 さらに、暖房の問題もある。現在のガソリン車の暖房は、エンジンが発する余熱を利用しているので、暖房は燃費に影響しない。冷房の場合は、エアコンコンプレッサーを作動させるためにエンジンの力を必要とするし、送風のために電力も使うので、燃費に影響する。一方のEVは、そもそも熱を発するエンジンがないので、暖房をつけるためにもわざわざ電気を消費する必要があり、さらに走行距離は短くなる。

 中国ではEVが急速に普及しているイメージがあるが、南部の沿岸部の比較的温暖な地域でこそ、タクシーはほとんどEVに置き換わっているものの、東北部などではまだまだガソリン車が主力だ。各社がEVにシフトする中で、内燃機関の自動車を必要とする地域が残るとすれば、ガソリン車をつくり続けるメーカーが残存者利益を獲得できるかもしれない。

 さらに、Well-to-Wheel(油井から自動車まで)の考え方でいえば、日本でEVを走らせても「ゼロエミッション」にはならない。日本では東日本大震災以降、全ての原子力発電所を止めており、順次再稼働の方向性ではあるが、現在の電力の大半は重油を燃やしてつくっている。電気は電池に充電する以外は燃料のように貯めておくことができないので、発電しても使われなかった電力や、電線の抵抗による電力のロスなども含めて考えると、発電所で重油を燃やすより、走るときに必要なだけガソリンを消費する方が効率は良い、という考え方もある。