まずEVにすることで部品点数を減らし、アーキテクチャの複雑性を下げるとともに、電気モーターをコンピュータ制御することで、これまで機械的に行われてきた巧みな調整プロセスをなくそうという試みである。EVがモジュール型の製品として確立すれば、日本の自動車産業が持つアーキテクチャ知識を無意味なものにすることができる。
ハイブリッド車は
技術優位性の延命策だった
トヨタ自動車やホンダといった日本メーカーが、これまでハイブリッド車に力を入れてきた理由の1つは、電気モーターに内燃機関をセットにすることによって、複雑でインテグラルなアーキテクチャを自動車の製品開発に残すという、技術優位性の延命策でもあった。

意外に思われるかもしれないが、そもそもEVとは決して新しい技術ではない。実は、100年以上前のアメリカでは多くのEVが生産されていた。19世紀末から20世紀初頭の自動車の黎明期には、さまざまな自動車の動力源が提案され、ガソリン車の他に蒸気自動車や電気自動車など、さまざまなアイデアの自動車が製品化された。
愛知県長久手市にあるトヨタ博物館には、1902年にアメリカで発売されたベイカー・エレクトリックというEVが展示されている。「1馬力のモーターで時速40キロメートルの走行が可能。走れる距離は80キロメートルだった」という。
しかし、当時の電池やモーターの技術では十分な自動車の性能を引き出すことができず、内燃機関に一日の長があったので、今日までガソリン車やディーゼル車といった内燃機関の自動車が自動車界の主流を占めてきたのである。
その意味で言えば、どの自動車メーカーにとっても、EVは決して見たこともない新しい技術ではなく、かつて一度捨てたアイデアの1つに過ぎない。高容量のリチウムイオン電池や高性能な電気モーターの技術が登場するに至って、初めて内燃機関に並ぶ性能の自動車がつくられるようになった、というだけの話である。
日本の自動車産業にとって怖いのは、急速なEVの普及が自動車の製品アーキテクチャを急速に変化させ、モジュール型の製品にしてしまうことである。デスクトップPCやデジタル家電などはモジュール型アーキテクチャの製品の代表例であるが、どれも標準的な部品の組み合せによって誰でもつくることができる製品になったので、新規参入企業が増え、価格競争が激化し、あっという間にコモディティ化に陥ったのである。