一方、ノートPCは狭い筐体の中に効率よく部品を詰め込み、CPUが発生する熱などを上手く放熱してやる必要があるので、部品と部品の配置や関係性を上手くコントロールしないと、PCとして組み上げることができない。この場合、部品と部品との間のインターフェースは個別にカスタマイズされ、標準的な部品やケーブルなどを組み合わせるだけでは完成させることができない。

日系自動車メーカーの強みの源泉
インテグラル型のアーキテクチャ

 こうした製品の構成をインテグラル型のアーキテクチャと呼ぶ。インテグラルとは統合の意味で、東京大学の藤本隆宏教授は「すり合わせ」という日本語で表現するが、すり合わせのイメージの通り、部品と部品を一つひとつ調整しながら、カスタマイズしてつなげていくことで製品がつくられる構成が、インテグラル型のアーキテクチャである。

 この際、より機能や性能を向上させたり、サイズを小さくしたりするために、部品間の調整を行う知識やノウハウのことをアーキテクチャ知識と呼び、日本の自動車メーカーは自動車をつくるためのアーキテクチャ知識に優れていることが、競争優位の源泉となっている。

 たとえば燃費を向上させる、乗り心地をよくするといった性能や機能は、エンジンだけではなくブレーキやシャシー、タイヤなどさまざまな自動車部品を複雑に調整することによって実現される。CPUを取り替えれば処理速度が速くなる、メモリを取り替えれば記憶容量が増えるといった、PCのようなモジュラー型の製品とは異なり、自動車のような一つの機能の実現が複雑な部品間の調整によって成り立っているインテグラル型製品の場合、技術や部品だけを持ってきても新規参入企業が先発メーカーの自動車と同等のクオリティの製品を真似することは、簡単にはできない。

 なぜならば、日本車の優位性は個別の要素技術だけでなく、部品と部品を複雑に調整するアーキテクチャ知識によって成り立っているからだ。

 アメリカのテスラや中国のEVメーカーが躍起になってEVを開発しているのは、単にガソリンエンジンなどの内燃機関を電気モーターに置き換えようとしているだけではなく、従来のインテグラル型の内燃機関の自動車製品開発を、モジュール型の製品に変えようとしているためだ。