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発注したシステムのプログラムの著作権、その有無の基準とは?

edited by DB Online   2020/12/07 09:00

プログラムはは平凡でも認められる場合もある

 しかしこれは、そもそもプログラムというものには著作物性が認められない、ということを示すものではありません。著作権法でもコンピューターのプログラムには造作物として認められる余地があることは示されています。また、実際に出た判決を見ても、プログラムの命令自体はごく平凡でも、それを著作物として認めた例もあります。

 以下は、平成28年に知財高等裁判所から出た判決ですが、ごく平凡なデータベースのテーブルとそれにアクセスするためのSQLという言語の工夫が、著作性ありと認められた例です。

(知財高等裁判所 平成28年1月19日判決)

 ある旅行会社がバス旅行の計画を立てるために効率的な経路を検索するシステムを開発したが、以下のようなデータベースとプログラムの工夫に創作性が認められた。

a)(このシステムはデータベース内の)「市区町村テーブル」「駅テーブル」「ホテル、旅館テーブル」「観光施設テーブル」「地点名テーブル」「接続テーブル」および「道路テーブル」により、代表道路地点の情報を用いて、出発地、経由地、目的地に面した道路に関するデータの検索を可能にする

b)同じく「地点名テーブル」「道路テーブル」「接続テーブル」「禁止乗換テーブル」「区間料金テーブル」および「首都高速料金テーブル」により、代表道路地点の情報を用いて、道路を利用した移動に関する経路探索、料金の算出に必要なデータの検索を可能にする

c)「ホテル、旅館テーブル(緯度経度情報を含む)」「観光施設テーブル(緯度経度情報を含む)」「観光施設備考テーブル」「緯度経度テーブル」「URLアドレステーブル」により、ホテル、旅館、観光施設に関する情報を検索することを可能にする

d)「市区町村テーブル」「地区・県名テーブル」と「地点名テーブル」「ホテル、旅館テーブル」「観光施設テーブル」「駅テーブル」によって、道路と地図を関連付けて行う地図からの検索、および、道路地点、ホテル、旅館、観光施設、駅について市区町村、地区、県名からの検索を可能としている。

 少し長い引用でしたが、お判りいただけましたでしょうか? 実はこのシステムもそこに用いられているプログラムやデータベースに関しては平易なもので、それだけを見れば創意工夫など認められるとは言い難いものでした。

 しかしこちらは、その創作性を認められたのです。今回の件とどこが違うのでしょうか。これからの見解は私見の域を出ないのですが、旅行会社の裁判の場合、開発者が訴えたのは中のプログラム上の工夫ではなく、その効果性でした。

 平凡な言語、平凡なデータベースでもそれを組み合わせることによって今までになかった検索を可能にするつまり新しい機能効果をもったシステムを作り上げたのです。そこが裁判所に評価されました。「will」や「be going to」といった誰もが知る表現方法でも、それによって作り上げられた文章全体がありふれておらず、6時の表現になっていれば、著作物として認められるのと同じです。


著者プロフィール

  • 細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

    ITプロセスコンサルタント 東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員 1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より2012年まで日本アイ・ビー・エム株式会社にてシステム開発・運用の品質向上を中心にITベンダ及びITユーザ企業に対するプロセス改善コンサルティング業務を行なう。現在は、東京地方裁判所でIT開発に係わる法的紛争の解決を支援する傍ら、それらに関する著述も行なっている。 おもな著書に、『なぜ、システム開発は必ずモメるのか? 49のトラブルから学ぶプロジェクト管理術』 日本実業出版社、『IT専門調停委員」が教える モメないプロジェクト管理77の鉄則』。

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