プログラムはは平凡でも認められる場合もある
しかしこれは、そもそもプログラムというものには著作物性が認められない、ということを示すものではありません。著作権法でもコンピューターのプログラムには造作物として認められる余地があることは示されています。また、実際に出た判決を見ても、プログラムの命令自体はごく平凡でも、それを著作物として認めた例もあります。
以下は、平成28年に知財高等裁判所から出た判決ですが、ごく平凡なデータベースのテーブルとそれにアクセスするためのSQLという言語の工夫が、著作性ありと認められた例です。
(知財高等裁判所 平成28年1月19日判決)
ある旅行会社がバス旅行の計画を立てるために効率的な経路を検索するシステムを開発したが、以下のようなデータベースとプログラムの工夫に創作性が認められた。
a)(このシステムはデータベース内の)「市区町村テーブル」「駅テーブル」「ホテル、旅館テーブル」「観光施設テーブル」「地点名テーブル」「接続テーブル」および「道路テーブル」により、代表道路地点の情報を用いて、出発地、経由地、目的地に面した道路に関するデータの検索を可能にする
b)同じく「地点名テーブル」「道路テーブル」「接続テーブル」「禁止乗換テーブル」「区間料金テーブル」および「首都高速料金テーブル」により、代表道路地点の情報を用いて、道路を利用した移動に関する経路探索、料金の算出に必要なデータの検索を可能にする
c)「ホテル、旅館テーブル(緯度経度情報を含む)」「観光施設テーブル(緯度経度情報を含む)」「観光施設備考テーブル」「緯度経度テーブル」「URLアドレステーブル」により、ホテル、旅館、観光施設に関する情報を検索することを可能にする
d)「市区町村テーブル」「地区・県名テーブル」と「地点名テーブル」「ホテル、旅館テーブル」「観光施設テーブル」「駅テーブル」によって、道路と地図を関連付けて行う地図からの検索、および、道路地点、ホテル、旅館、観光施設、駅について市区町村、地区、県名からの検索を可能としている。
少し長い引用でしたが、お判りいただけましたでしょうか? 実はこのシステムもそこに用いられているプログラムやデータベースに関しては平易なもので、それだけを見れば創意工夫など認められるとは言い難いものでした。
しかしこちらは、その創作性を認められたのです。今回の件とどこが違うのでしょうか。これからの見解は私見の域を出ないのですが、旅行会社の裁判の場合、開発者が訴えたのは中のプログラム上の工夫ではなく、その効果性でした。
平凡な言語、平凡なデータベースでもそれを組み合わせることによって今までになかった検索を可能にするつまり新しい機能効果をもったシステムを作り上げたのです。そこが裁判所に評価されました。「will」や「be going to」といった誰もが知る表現方法でも、それによって作り上げられた文章全体がありふれておらず、6時の表現になっていれば、著作物として認められるのと同じです。