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(千代)天海さん? 天海さん?
天海さん?
どねしてんな!
(辰夫)テルヲらな 夜逃げしくさったんや。
♪「オレンジのクレヨンで描いた太陽だけじゃ」
♪「まだ何か足りない気がした」
♪「これは夢じゃない(夢みたい)」
♪「傷つけば痛い(嘘じゃない)」
♪「どんな今日も愛したいのにな」
♪「笑顔をあきらめたくないよ」
♪「転んでも ただでは起きない」
♪「そう 強くなれる」
♪「かさぶたが消えたなら」
♪「聞いてくれるといいな」
♪「泣き笑いのエピソードを」
♪~
大正5年 暮れ。
一平の父 初代 天海天海は33歳の若さで この世を去りました。
(宗助)ボン… 気落ちしてんのちゃうやろか。
(一平)さんざん俺のこと振り回しといてあっけのう このざまや。
(ハナ)一番無念なんは お父ちゃんだす。あんたのことも 芝居のこともこれからやったさかいな。
葬儀の喪主を務める この男 ここ道頓堀のほとんどの興行を取りしきる道頓堀の主鶴亀株式会社創始者 大山鶴蔵です。
彼の意向で この劇場葬が執り行われることになりました。
(鉦の音)
(ざわめき)
(鉦の音)
あれが あんたのお父ちゃんが超えようとした男須賀廼家万太郎さんだす。
ハッハッハッハッハッハッハッ…。
(笑い声)
彼の名は 須賀廼家万太郎。
この後30年 日本の喜劇界に君臨し続けることになる喜劇の帝王です。
(笑い声)
あ~…。
何よりの手向けやなあ 万太郎はん。
社長はんこそ こない盛大な劇場葬を催してくれはったらさぞかし 故人も喜んでますやろ。ついでに 鶴亀の名もまた 一躍 世に広まる。
ほんに人の世は 笑えん喜劇と笑える悲劇の よじれ合いや。
よじれんのは腹だけにしたいもんやなあ。ハハハハハハハ!
(万太郎)おまはんも 運のない男やなあ。
いつでも うっとこに戻ってきてもよろしおまっせ。
この須賀廼家千之助さんはもともとは 万太郎一座におりましたがその後 天海と組み天海一座を支えた役者の一人です。
(シズ)よろしいな 鰻谷の大野屋さんにお渡しするのやで。
へえ。
何してますのや。 はよ行きなはれ。
へえ。
♪~
回想 (辰夫)千代ちゃんほんまに何も知らんのけ?
テルヲらな 夜逃げしくさったんや。
借金膨れ上がったとかでヤクザ者みたいなんが毎日 取り立てに来よってな。なんとか どこにおるかだけでも分かれぃんか思て来たんやけど。
何やね それ…。
うち 何のために…。
♪~
うっ… う~っ!
う~っ!死ぬんけ?
あ~っ!(荒い息遣い)
あほ。 何で俺が死ななあかんねん。
お父ちゃんの後 追うのとちゃうんけ?
あんなやつの後なんか死んでも追いたないわ。
あっ… 死んだら追うことになってまうな。
おやじ よう言うてたんや。
道頓堀は 船でお客さん運んできてくれるありがたい川やて。
絶対に石なんか投げ込んだりしたらあかんて。
せやさかいな この石 投げ込んだんねん。
おやじに もう何も言われへん。ざまあみいや。
うりゃあ~! あかん! 重い!
(荒い息遣い)お前も ちょっと手伝え。
はよ。 はよ。
う~っ! せ~の!
(掛け声)
(笑い声)
やったった!どや おやじ! 悔しいやろ!
おやじが大嫌いで飲めへんかった牛乳もしこたま飲んだった。
それから…。あんたのお父ちゃんほんまは あんたのこと気ぃもんでたで。
嘘や。嘘やあれぃん。
あんたに謝っとった。
そんなこと 信じない。ほんまやて。
うちな あんたが羨ましい。
どこがや! 俺 あいつのせぇでお母ちゃん いてへんのやで。
あいつのせぇで学校にも行かれへんかった。
友達もでけへんかった。みんな あいつのせぇや…。
そやのに 何で悲しいねん…。
(泣き声)
何やねん それ!
何やねん!
ええやんか! 最後に お父ちゃんに気ぃもんでもらえただけで!
うち あんたが羨ましい…。
羨ましい…。
(泣き声)
(天晴)天海天海の名ぁをお前に継がしたい。それが鶴亀の あの社長はんの意向や。背けばこの道頓堀で芝居を続けんのは無理や。
ふっ…。
(熊田)天海天海の名をついえさしてはならない。
つまり ボンに2代目継がせえっちゅうことですか。
正直 あのボンボンには無理でっせ。
せやなあ。 天海はんのこと嫌てはったし芝居も いやいや やってたさかいなあ。
社長の鶴の一声は 絶対です。
頼む 一平。わしらと一緒に 芝居 続けてくれへんか。
そないなこと言われても…。
頼む。 このとおりや。
跡継ぐやなんて… 俺には無理や。
どいつもこいつも ほんま邪魔くさいのう。
どこ行くんです?どこって お前 稽古やな。
あの芝居 まだ続ける気ですか?当たり前や。
おやじの役は どないすんの?わしが やるんや。
千さんの役は?それも わしや。
むちゃくちゃや!
むちゃくちゃてかい…。
そうか。 でもな…お前のお父ちゃんはもっと むちゃくちゃやったわい。せやさかい 見せつけたんねん。
おい あんたが おらんようになってもやれるんやで!…ってよ。
クビだす。
千代ちゃん… シズさんに頼まれた届け物えらい遅なって相手さんを怒らしてしもたんやそうです。
このキセルはな 大野屋の旦那さんが長いこと ひいきにしてきはった役者さんに贈ろ思てあちこち探し回ってはった珍しいもんだす。そやけど 間に合えへんかった。
その役者さんはな 廃業して今日 遠い田舎へ帰りはった。もう どこにいてはんのかもよう分かれへんのやそうだす。大野屋さんはな その役者さんとの別れに悔い残してしまいはったんや。
その悔いはな ほげた達者な あんたでもごまかしきれへんもんだす!
分かったら さっさと 荷物まとめてわての前から消えなはれ!
♪~
(かめ)おはようさん。
おはようさんでございます。
お湯 沸かしときました。そら ご苦労はん。
かめさん ちょっことの間やったけどお世話になりました。
何の世話もしてへんけど。
あっ ほな うち行きます。
ちょちょちょ… 行くってまだ口入れ屋 来てへんのに。
自分の家くらい 一人で帰れます。そない言うといてください。
ほな さいなら。
ああ ちゃう… ごめんやす。
♪~
出ていった? 一人で?
悪いけど 追いかけて家まで送り届けてくれるか。
それがなあ ご寮人さん聞いた話なんやけど…。
(雨音と雷鳴)