「犯人はおまいでありんちゅ!」
ありんすちゃんはクライムを指さして宣言しました。
「……なかなかの難事件であっちゃでありんちゅ。犯人は魔犬。ちょこまではわかっちゃでありんちゅが、ましゃか魔犬が人間だったとは盲点でありんちた」
キーノは思わず呟きました。
「……クライムは……ラナー殿下の飼い犬……だから……」
「ちょうでありんちゅ! ちたがって犯人の魔犬はクライムなんでありんちゅ!」
「……そ、そんな……私は犯人じゃありません!」
クライムは悲痛な叫び声を上げながら周りを見回しました。
「……そんな……まさか……クライム、貴方がそんな恐ろしい事を……」
「違います! ラナー様! 信じて下さい!」
「……クライム君……残念です。君には期待をしていましたが……」
「……セバス様! 私はやっていません!」
「なあ、童貞。こうなったら潔く罪を認めた方がいいんじゃねえか?」
「……そんな……ガガーラン様まで……」
クライムはガックリとうなだれました。
「……うむ。クライム。お前を王族殺害の容疑で逮捕する。取り押さえろ!」
ザナック王子の命で兵士たちがクライムを取り押さえました。
「……とりあえず塔に幽閉しておけ。おって審議をする」
クライムがわめきながら連れ出されていきます。ザナック王子はありんすちゃんに深々と頭を下げました。
「この度の活躍、誠にありがとうございました。さすがはエ・ランテル随一の名探偵だ」
ありんすちゃんは口元で人指し指を振りながら
「チッチッチッ。美少女名探て、でありんちゅ!」
「これは失礼した。いやはやかたじけない」
一堂はにこやかに笑いあうのでした。
※ ※ ※
バランシア宮殿の奥まった一室──
「……これはこれはようこそお越しくださいました」
「……これを貴女に。至高の御方からの褒美です」
「……ありがとうございます。御方によしなにお伝えくださいませ」
「……しかし……意外だったわ。てっきり貴女は庇うかと思ったけど……」
「……あの子が失意の中ですがりつく様な目で私を見つめてくれる……それはなによりも替えがたいご褒美だといってもよいでしょう。そして希望を失ったら私が手を差しのべるの。捨てられた仔犬のような目ですがりついてくるでしょう……」
「……そういう愛もあるのかしら、ね。まあいいわ」
「今回は何から何までお膳立て頂きまして……まさか笑いながら死ぬ毒までご用意頂けるとは……おかげで伝説の魔犬をなぞらえる事ができましたわ」
「いいのよ。ちょっと心当たりがあったから入手は簡単だったのだし……」
「調べさせて頂きましたが未知の毒物でした。正に完全犯罪というわけですね」
「……全ては御方のおぼし召しです。貴女はこれからもっと役に立ってもらわないと」
「はい。私の全てを捧げます」
平伏する女を満足そうに眺めると、謎の人物は姿を消しました。
一人になったラナー王女は呟きました。
「……これからが大変ね。如何に有意義な人物か見せつつも警戒されないようにしなくては……」
ラナーは目付きを険しくします。
「……それにしてもあの美少女探偵……『犯人はこの中にいる!』と宣言した時はヒヤヒヤしたわ。侮れない存在かもしれない……」
※ ※ ※
ナザリック地下大墳墓第九階層 ショットバー
「やあ、ビッキー。いつものを頼む」
シモベに抱えられた常連に副料理長は頷いてこたえます。
「おや? 頭が少し欠けているじゃないか? 何があったのかい?」
副料理長は頭を軽く振ると答えました。
「エクレア様。たいした事ではありません。そのうち元通りになりますので」
副料理長は思いました。──よくわからないが口外したら
その後ことあるごとに頭をむしられるようになるとは彼の思いもしない事でした。