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日本を代表するシンガーソングライター「吉幾三」の魅力に迫る。

金曜ボイスログ

毎週金曜日の朝8時30分からお送りしている、『金曜ボイスログ』。
パーソナリティのシンガーソングライター、臼井ミトンによる音楽コラムの書き起こしです。

「日本を代表するシンガーソングライターといえば、意外なこの人! 〝吉幾三〟の魅力に迫る。」

臼井ミトンの「音楽コラム」を聴く。http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20201030092145

radikoで放送をお聴きいただけます(放送後1週間まで/首都圏エリア無料)

今日は、シンガーソングライターというキーワードについてお話したいと思うんですけれども、僕も一応シンガーソングライターという肩書きで活動しておりまして。「シンガーソングライターとはなにか?」っていうと、自分で歌詞も書き、曲を作る歌手のことですね。で、これ今となっては、ほとんどのアーティストが自分で曲も書くっていう感じかもしれませんが、元々はですね、曲を書く作曲家の先生、詩を書く作詞家の先生、で、それを編曲する、アレンジする編曲家の先生、たとえば、「ストリングスやホーン・セクションをどう入れるか」とか「どんなリズムにするか」とかを考える人ですね。そしてあとはそれを歌う人、さらにはバッグで演奏する人がいて。

音楽の世界って、こんな風に「分業制」が当たり前だったんですよ。
それぞれのプロフェッショナルがそれぞれの持ち場で仕事をするという。

この常識を、おそらく最初に壊したのは「ビートルズ」なんですよ。「ビートルズ」の商業的な大成功によって、「あれ? プロの作曲家・作詞家の先生に頼まないで、歌う本人が書くんでも人々の心に刺さるようないい曲って書けるじゃん!」っていうことに世界が気付いた。

シンガーソングライターっていうと、思い浮かぶのはソロアーティストだったりするかもしれません。日本でもたとえば、吉田拓郎さんとかね、井上陽水さん。さっき、曲をかけた荒井由実さんもそうですね。あがた森魚さんとか。そして、臼井ミトンね。(笑)

それこそ、僕がすごくアイドルとして崇めている、ジェームス・テイラーも、70年代のシンガーソングライターの大ブームがあって、その先駆け的なアーティストなんですけれども。元を正すと、やっぱり「ビートルズ」っていうのが、その分業制を壊した最初の大きなきっかけだったのかな、という感じがするんですよね。それ以降、バンドであれソロアーティストであれ、自分で曲を書くのが当たり前、という感じになっているわけなんです。特にポピュラーミュージックの世界では。

ただですね、演歌の世界では、割と今でも根強く分業制が残っていて。やっぱり、作曲する先生と作詞する先生と歌う人がいる、っていう。古式ゆかしい、昔からの音楽の世界っていうのがあるわけなんですよね。そんな演歌の世界にあって、レパートリーの大半を自分で作詞・作曲している、シンガーソングライタータイプの珍しい歌手がいるので、本日はこの人をご紹介したいと思います。

吉幾三さんについてのお話です。

♪〜「雪國」

……流れてまいりました。吉幾三さんのおそらく一番のヒットソングかな。「雪國」という曲なんですが、こちらもご自身が作詞・作曲されています。僕は元々、演歌は全然詳しくないんですけど、吉幾三さんの声がすごい大好きで。かすれる感じはあるんだけれども、すごく芯もあって、太い声なんですよ。ふつう、ハスキーな声って細い。声自体は細くなるんですよね。逆に、声が太い人、芯がある人ってのは、艶やかなベルベットのような声になるわけですが、吉幾三さんは本当に、そのハスキーさというかエッジのある感じと、芯があって太い感じを両立している、希有な歌声を持つボーカリストであると僕は思っていて。とにかく歌も上手い。演歌の世界の方々、みなさん上手ですけどね。

演歌の世界でも作曲する歌手がいないわけではないですよ。たとえば、五木ひろしさん。代表曲の「契り」はご本人の作曲ですし。北島三郎さんも近年は、かなり精力的に作曲活動をされていて、北島ファミリーの他の歌手に結構提供していたりするんですけど。ただ、その歌手のキャリアを通して、レパートリーのほとんどが自分の作詞作曲の曲で占められている、という演歌歌手はかなり珍しい。やっぱり、吉幾三さんはその点で非常に稀な存在なんですよね。

でね、シンガーソングライターって、自分の人生の生活の中で起こったことをモチーフに歌う、っていうのが王道。シンガーソングライターの非常に一般的な形なんです。演歌でよくある、酒場だとか波止場だとか、独特な世界観あるじゃないですか。「やたらと夜風吹いてる」みたいな。で、もちろん吉幾三さんも、そういうド定番の演歌の世界を歌うことも多いんですけど、自分の故郷、つまり青森とか津軽について、東北ネタについて歌ったり、娘さんがお2人いらっしゃるんですけど、娘さんへの歌とかも多くて。そういう意味では歌詞の内容も結構、シンガーソングライター的な、人生での出来事を歌っているんですよね。

吉幾三さんっていうと、やっぱり俺ら東京さ行ぐだっていう日本のラップミュージックの先駆けみたいな、その点、ネタとして消費されてる感じがすごくあって。YouTubeでも、本当に勝手なマッシュアップ作品みたいなのが、リミックスみたいなのがたくさん作られて大量にアップロードされていて。最近もね、YOASOBIの「夜に駆ける」っていう曲があるんですけど、それと、「俺ら東京さ行ぐだ」を掛け合わせて勝手にマッシュアップして、「村を駆ける爺さん」っていうのが、最近ちょっとプチパズりしてますけど。(笑)

そんなネタとして、とかく消費されがちな吉幾三さんですけれども。やっぱり何より、この歌声の素晴らしさ!何事にも代え難い、このハスキーさと太さ。そして大ヒット曲の数々を、自分自身で詩も曲も量産しているっていう。もう音楽人として、すごい神様みたいな人なんですよね。

そういう意味で、ちゃんと音楽コラムで取り上げたいと番組開始当初から思っていたんですけど、先週の玉袋筋太郎さんの歌謡曲レクチャーなんかもあったこの流れで、「もうここで行くべし!」と思いましてですね。芸能生活45周年を記念した全集だとか、コンサートDVDとかも大量に買い込みまして、たくさん曲を聴いた中で、吉幾三さんのちょっとコミカルな面白さと曲の良さ、何より歌声の良さが素晴らしくよく分かる楽曲を1曲お届けしたいと思います。

それでは、聞いてください。吉幾三「みちのくブルース」