原告社長が告発! 吉村知事が被告となった「損害賠償裁判」の中身
代表を務める法律事務所が管理していた「預かり金」1000万円が使われ、 大阪弁護士会には懲戒請求も出された
「大阪維新の会で頑張ってるか知らんけど、おカネを戻してもらわな、ウチがどれだけ苦しい思いをするか」
そう語気を強めるのは、大阪市内で不動産会社を経営する立野太一氏(2枚目写真)だ。立野氏は吉村洋文大阪府知事、および吉村知事が代表を務める『スター綜合法律事務所』に所属する藤原誠弁護士らを相手に、1000万円の損害賠償請求を起こし、現在、民事裁判中だという。
いったいどんな裁判なのだろうか? 少々複雑だが、立野氏が大阪地裁に提出した訴状に沿って、経緯を説明していく。
’16年9月、立野氏は懇意にしていたA氏に強く頼まれて1500万円を貸した。約3ヵ月後には1800万円にして返済するというのが借用の条件だったという。その際、借金の「担保」となるように、A氏が所有する不動産を、立野氏が1500万円で購入した形をとっていた。期日までにA氏が返済すれば、不動産を売り戻すというわけだ。
「実際にはその不動産は二束三文で、数百万の価値しかありません」(立野氏)
ところが、A氏は借金を返済しなかったうえ、「担保」となった不動産を立野氏が売却できないようにするため、’17年4月28日、この不動産の処分禁止仮処分命令を大阪地裁に申し立てた。しかも、「買い戻しの金額は1000万円」と主張したのだという。そして、このA氏の代理人を務めたのが、当時、大阪市長を務めていた吉村知事と藤原弁護士だった。
「吉村知事が、事務所に顔を出せるのは月に数日あるかないか。実質的には事務所の同僚が業務を行っていたでしょうが、代理人であったのなら、依頼内容をまったく知らないということもありえないではないか」(在阪の全国紙府政担当記者)
A氏側は「買い戻し代金1000万円をスター綜合法律事務所の『預り金口座』で預かっており、立野氏に即時に返還する用意がある」と主張し、仮処分決定が認められた。立野氏はこう憤る。
「スター綜合法律事務所は大阪地裁に通帳を見せた後、預り金口座からお金を引き出していたんです。私の弁護士が確認したところ、A氏の家族から『仕事の関係で500万円が必要』という申し入れで返金されていた。吉村知事の事務所は『不足分は数日中には返金を行う目途がある』と回答したのですが、その後もまったく戻されなかった」
そこで立野氏側はA氏を債務者、スター綜合法律事務所を第三債務者として、大阪地裁に債権仮差し押命令の申し立て(残りの預り金500万円の返還請求)を行った。すると吉村知事らは陳述書で「1000万円の預託金は現在2万円になっている」という趣意の回答をしてきた。
「仮処分決定を得るための供託金200万円や弁護士費用約70万円なども預り金から支払われていた。これはもともと私に返還されるべきお金ですよ」(立野氏)
これを受けて同年10月に大阪地裁は仮処分決定を取り消し、買い戻し金額は1500万円プラス延滞損害金であると立野氏の主張を認めた。
その後、立野氏は弁護士を通じて、’17年12月に「預り金の保管義務違反」「預り金を供託金に流用した」などの理由で、吉村知事らスター綜合法律事務所の3人の弁護士に対して懲戒請求を大阪弁護士会に提出。さらに、今年8月6日、吉村知事らに損害賠償請求を起こしたのだ。
「A氏は破産申請して逃げ切ってしまい、債権はまだ回収できていません。預り金を保全しなかったのは、明らかにスター綜合法律事務所の責任です」(立野氏)
司法ジャーナリストの河野真樹氏はこう解説する。
「弁護士が経営難から預り金を着服する不祥事が多発して、今、業界は頭を痛めています。今回のケースはそれとは異なりますが、このご時世に預り金の口座から、裁判所の判断が出る前におカネを引き出していたことは管理が杜撰(ずさん)だったと言わざるをえない。依頼主の言いなりになってしまうことも問題だと思います」
本誌はスター綜合法律事務所に面会取材を申し込んだが、「担当者不在」が3日間続き、最終的には書面でこう回答した。
「当職らが預り金を流用したことはなく、また当職らの行為によって、立野氏に損害が生じた事実もありません。(預り金の保管義務については)現在進行中の手続に関するものであり、お答えしかねます」
両者の主張は真っ向から対立している。
まだ第一回の口頭弁論が10月23日に終わったばかり。府知事が被告となった裁判の行方は果たしてどうなるのか――。
『FRIDAY』2020年12月11日号より
PHOTO:共同通信社、加藤慶(2-4枚目)