夫が死んでから「タンス預金」を税務署に見つかった年金暮らし主婦のヤバい末路

11/7 9:01 配信

マネー現代

大損した妻

(文 週刊現代) 夫婦の間でしばしば知識の格差がみられるのが、自宅の金庫だ。

 機械好きの夫が勇んで金庫を購入、「最新のテンキー式だと、暗証番号を入力した履歴も残るから安心だな」と嬉しそうに通帳や証券をしまい込んだ。だが妻は興味がわかず、開け方もちゃんと聞かない。そして数年経ち、夫が亡くなった―。

 こんな夫婦には悲劇が待ち受けている。金庫を開けられないと相続財産が確定せず、遺産分割手続きや、相続税の申告が遅れてしまうのである。

 「現金や古い株の証券が入っているのに、奥さんが長い間気づかないこともある。数千万円と額が大きければ、税務署に『わざと隠していたのではないか』と疑われるケースが珍しくありません。

 相続を申告できずに期限の死後10ヵ月が過ぎると、延滞税や過少申告加算税の対象になります」(税理士法人レディング代表・木下勇人氏)

 さらに、業者に金庫の開錠を頼むと、法的な決まりはないものの「遺族2人以上の立ち会い」を求められることもある。親族に資産のことを知られたくないなら、気が進まない。暗証番号を記したメモと鍵の場所さえ夫婦で共有しておけば、すべては無用な苦労だ。

 「そんなに何千万円も貯め込んでいるわけじゃないし、自分たちのような平凡な夫婦には、きっと税務署も気がつかないはず」と油断している人も多いことだろう。だが、税務署がもっとも目を光らせているのは専業主婦のカネだという。前出の木下氏が指摘する。

 「税務署は『専業主婦が大金を持つのはおかしい』と考えている。妻名義で、ある程度大きな預金は真っ先に疑ってきます」

重加算税35~40%…

 夫の資産の一部を妻名義の口座、いわば名義預金に移している夫婦は少なくない。

 それが数百万円単位の金額でも、夫が亡くなって1~2年後、忘れたころに税務調査官がやってくるかもしれない。ある朝、いきなり「○○税務署です。相続税の件で伺います」と電話がかかってくるのだ。いわゆる「臨宅」である。

 「贈与税の時効である6年より昔、例えば『10年前に夫から贈与してもらった』と言い訳する奥さんがいますが、たいていは逆効果。『贈与契約書も贈与税申告もない? それでは贈与だと認められませんね』と言われ、相続税を取られる可能性が高い」(木下氏)

 税金逃れを企んだと判断されると、最悪だ。1億6000万円までの相続税の配偶者非課税枠が適用されないばかりか、重加算税35~40%が妻にのしかかってくる。

 夫からすれば、妻のためを思って資産を分けておきたいのは当然だ。

 だが、焦って一度に大きな額を動かし税務署に睨まれれば、かえって妻に苦労をさせることになる。

 夫婦間できちんと話し合い、年間110万円以下に分けて暦年贈与すると決め、贈与契約書を作ったほうが、いらぬトラブルを招かずにすむ。

 さらに、生前贈与には見落としがちなポイントがある。「死亡する前3年以内の贈与には、さかのぼって相続税が適用される」というきまりだ。

延滞税まで取られた

 都内在住の田所昌子さん(76歳・仮名)は、5年前に夫が食道がんを患った後、夫の預金口座から400万円を4回に分けて自分の口座へ移した。「暦年贈与だから相続税を払わずに済んだ」と思っていたら、夫が亡くなって1年が経った今春、税務署から連絡があった。

 「夫が亡くなる前の3年間に移した300万円には、相続税がかかると言われてビックリしました。その分が相続財産に加算されたうえ、さらに相続税の納付期限10ヵ月を超えていたので、延滞税も9%取られてしまいました」

 思わぬ追徴課税に遭わないためにも、相手が健康なうちに早めの対策をしておきたい。

 あなたの家では、印鑑や預金通帳を無造作に箱に突っ込み、押入れやタンスの中に寝かせていないだろうか。綜合警備保障の調査によれば、印鑑・通帳の置き場所に気を配っていない人は22・2%にものぼる。

 特に、印鑑の在りかは夫婦で共有しておかないと、相手の死後に手も足も出なくなってしまう。遺産分割協議、不動産の相続、預金口座の名義変更、相続税申告と、「死後の手続き」には印鑑と印鑑証明書が必要なものが目白押しなのだ。

 夫婦どちらかが施設に入った場合も、印鑑の場所がしばしば問題になる。ケアタウン総合研究所の高室成幸氏が言う。

 「妻が施設に入所して、費用を妻名義の口座から引き出したいときは、銀行の届出印が必要です。ところが、夫が探してもなかなか見つからない。やむなく別口座から支払っている、という人が案外います」

 さらに、紛失したときや見つからないとき、大きな損を被りかねない重要書類がある。

 古い不動産売買契約書だ。

売却価格の約90%に課税される…

 例えば妻が亡くなったあと、残された夫が自宅を売って施設に移りたいなら、所得税額を割り出すために自宅の不動産を買ったときの価格、つまり「取得価額」を知らなくてはいけない。

 ところが売買契約書が見つからないと、自宅をいくらで購入したか正確に分からないため、取得価額が自動的に「売却価格の5%」とみなされる。譲渡所得税は売却価格から取得価額と仲介手数料などを引いた額にかかるので、売却価格の約90%に課税されかねない。

 書類が見つからないだけで、所得税が500万円以上高くなってしまうこともある。印鑑だけでなく書類の在りかも、夫婦どちらか一方が管理するのはもうやめよう。

 『週刊現代』2020年10月3・10日号より

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最終更新:11/7(土) 9:01

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