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 国土交通省の実態調査(平成26年度)では、空き家所有者の7割の人が「特に何もしていない」といいます。親が亡くなり家を相続しても、もてあます人は多いことがわかります。遠方でなかなか手がつけられなかったり、思い出を処分するのに、ためらいがあったり、理由はさまざま。

【写真】家をどうする? 売る・貸す・放置の3パターン別メリットとデメリットを紹介

維持費を知れば手放す気持ちに

「家は誰も住まなくなると急激に傷み、価値が下がります。相続してすぐなら売れた物件も放置したことで売れなくなることも。放っておいてもいいことはありません。どうすべきなのか先送りせず考えましょう」

 と語るのは自身も親の家の活用問題に直面した経験を持つ、『ネットではわからない空き家問題の片づけ方』の著者・大久保恭子さん。

「親の思い出が残る家を処分するのは心情的につらいことですが、親の家を社会のために有効活用することは、引き継いだ者の責任ともいえます」

 そう考えることで、うしろめたさからも解放されるといいます。家の有効活用法は基本的に売るのか貸すのか2つの選択肢しかありません。

 いずれにせよ、まず最初にすべきことは実態を把握すること。名義人、ローン残債の有無、固定資産税の金額、火災保険の有無とその金額など年間にかかる費用の合計といったことをしっかり調べておきましょう。

 コストが具体的にわかると、何とかしなければという気持ちにもなるはず。実家対策に、今すぐ動き出しましょう。

《家をどうする? パターン別のメリット&デメリット》

・売る
メリット……手間も管理コストも不要になる/財産分与しやすくなる
デメリット……思い出を手放すような気持ちになる

・貸す
メリット……資産として残しつつ収入が得られる/建物は残るので寂しさが軽減される
デメリット……リフォームや維持費などの出費が多くなる/立地などの条件がよくないとマイナスになる

・放置
メリット……実家を手放すといううしろめたさからは、逃れられる
デメリット……固定資産税など無駄な出費になる/劣化して価値は下がり続ける/放火など問題が起こりやすい/強制解体されて費用を請求されることも

「空き家」を売る、もしくは貸すならできるだけ価値を高めることが大切。適切に対応していれば、それだけ条件も有利になります。

選択肢1:売る

 空き家を売る決意をしたら、まずは登記簿(登記事項証明書)のチェックが必要になります。

 登記簿には、土地や建物の広さや所有者、権利関係などが記されているので、家の正しい情報がわかります。

 登記簿は所轄の法務局や登記所で請求できますが、最近はインターネットで閲覧・証明書の発行が可能。遠方にある空き家の登記情報も簡単に調べられます。

 自分で簡単に空き家の価格相場を調べるには、「SUUMO」など大手不動産検索ポータルサイトが便利です。条件の近い物件をチェックすることで大まかな価格がわかってきます。

 相場がわかったら、少なくとも2~3軒の不動産会社に査定を頼み、なるべく条件のよいところに仲介を依頼しましょう。

 編集部の調べによれば、売買の際、何より有利なのは、買い手のコスト削減になる、「住宅ローン減税」が適用される物件。あてはまるのは木造住宅なら築20年以内が条件なので、それ以前の古い住宅は「既存性住宅性能評価書」を申請し、審査に通れば適用が認められます。

 また、物件の引き渡し後に、雨漏りなど瑕疵(欠陥)が見つかったとき、補修に必要な費用が保険金で支払われる「既存性住宅売買瑕疵(かし)保険」に加入しても住宅ローン減税に適用されます。この保険がつけば、買い手も安心できます。しかも、支払いは加入時1回のみで10万円程度、審査も甘めといわれています(編集部調べ)。

 さらに、大久保先生によれば、実際に売りに出される際は、「古い家ならではの魅力的な資材、無垢(むく)の板張り、漆喰の塗り壁、御影石の玄関など、親の古い家のよさのアピールを忘れずに」とのこと。

「実際に私の親の家も築30年を超えていましたが、使われていた木材が、今では手に入りにくい希少なものだったので、気に入った方が不動産会社の提示額より1割強高い値段で買ってくださいました」

■相続税の「3000万控除」を活用!

 細かい条件がありますが、下記のような控除があるので利用できるか調べてみましょう。

・空き家も条件を満たせば控除対象
 1981年5月31日以前に建築された戸建てで、被相続人がひとり暮らしをしていた家。さらに相続開始から売却まで誰も住んだり使用しなかった家に関しては譲渡所得額から3000万円の特別控除が受けられます。

・一時でも住めば控除拡大
 相続する不動産が居住用で居住実態があれば、譲渡所得額から3000万円の特別控除が受けられます。例えば親に介護が必要となり一時的に同居するといったことがあれば、住民票も移しておきましょう。

・事業を行っている土地なども対象
 被相続人の配偶者や同居家族が相続する場合、相続した土地の330平方メートルまでは80%減額されます。ほかにも相続開始前から事業を行っている土地、貸し付けしている土地も対象。建物は対象外です。

《登記簿はネットでチェックが手軽!》
インターネットの閲覧・交付請求サービスはこちら。
■登記情報提供サービス(https://www1.touki.or.jp/)
■登記・供託オンライン申請システム(https://www.touki-kyoutaku-online.moj.go.jp/)

《2022年問題について》
 2022年問題とは、生産緑地法の期限が切れて農地が売りに出され、不動産の価値が下がるといわれている問題。「影響はないとは言えませんが、農地の宅地化が一斉に起こるわけではなく、特例措置もあるので、急激な不動産の価値低下などが起こるとは考えられません。とはいえ、いま空き家(空き地)があるなら、できるだけ早く手放したほうがいいに越したことはありませんよ」(大久保先生)

選択肢2:貸す

 貸すという方法は不動産を残しながら、収益を得ることもでき、魅力的な選択肢に感じます。マンションで駅近、築浅というような物件であれば賃貸もよいかもしれませんが、家賃として収益が出せる物件は多くはありません。

 リフォームをしたものの借り手がつかず、固定資産税や保険などで出費だけが膨らむことになりかねません。

 また、借り手がついても、家賃を払ってくれない、騒音などで近所からクレームが入る、家をきれいに使わないなどのトラブルが生じることも考えられます。

 管理会社が入れば、そのようなストレスは軽減されますが、管理費の分、収益が減ったり赤字になる可能性が高まります。

 戸建てはファミリー需要があるので、駅から遠くても学校に近い、駐車場が複数台分あるなど立地や条件によっては借り手がつきます。貸し出すときに注意すべき点は、定期借家契約にすることです。

「民法上、借り手の住む権利は強く保障されています、ですから誰も住む予定はないからと期限をつけずに貸してしまうと、買いたいという人が現れたり、古くなって取り壊したいなど事情が変わっても、出ていってもらえません」

 定期借家契約は契約期間は自由に設定でき、基本的に契約の更新はありませんが、貸し主と借り主が合意すれば再契約は可能です。また、契約期間中に借り主に転勤などやむをえない事情が発生した場合には、借り主からの解約の申し入れが可能で、申し入れから1か月経過すれば契約が終了。

 また、仲介は不動産屋に頼む場合がほとんどですが、不動産屋によってすすめる家賃にもバラつきがあります。高ければいいように感じますが、借り手がつかないリスクも。まずは自分でインターネットなどを利用し、相場感をつかんでおくことも必要です。

《売るなら貸すなの法則》
 編集部員Aの実話。「じきに売る予定でしたが不動産価格が低下しているから売り時まで待とう」と、短期間賃貸に出して収入を得てしまいました。ところが、1度でも賃貸に出すと、その物件は収益物件になってしまいます。一般住宅に比べると収益物件は売却価格が安くなってしまうことを知りませんでした。結局は損ということになり、泣きを見るはめに。

こんなときどうする?

■必ず必要なのが名義変更

 空き家を売却する、貸す場合も、まず名義を変更する必要があります。しかし、古い家の場合、ずっと名義変更がされていないケースも少なくありません。

「私の場合も母が亡くなり相続手続きをしようとしたら、家の名義は先に亡くなった父のままでした。そのため、まずは亡くなった母と私と弟の3人で法定相続を前提に名義を書き換え、その後、亡くなった母の相続分を私と弟で法定相続する手続きが必要でした」(大久保先生)

 これが祖父のままだったりした場合には、法定相続人も増え、手続きはいっそう大変になります。しかし、この手続きをふまなければ売却も貸すこともできません。先祖代々続く家などは名義人に行方のわからない親戚などが含まれている場合があり、手間が多くなる。

■古い家ならDIY型賃貸という方法も

 貸し出すためにはある程度のリフォームが必要になりますが、借り手がつくかもわからない物件をリフォームするのはもったいないとか、元手がないという人は「DIY型賃貸契約」という方法があります。この契約では借り手は賃貸でありながら自由にリフォームをすることができ、退去時に原状回復する必要もありません。古いまま貸し出すので家賃設定は相場より安く設定されます。近年、古い家をDIYでリフォームするテレビ企画が人気を呼んでおり、DIY物件も注目されています。試しに募集をかけてみるのもよいでしょう。

■売るも貸すもできない家は?

「あとあとのことを考えれば、更地にしておくのがベストと言えます。

 更地のほうが固定資産税が高いとはいえ、そもそも売却できないような土地なので固定資産税も高額ではないはずです。更地にして防草シートをはっておけば、雑草問題も解決します」

 空き家をそのまま放っておき、近所にご迷惑をかけるような状態になると、自治体から特定空き家に認定されてしまい、強制撤去されることも。もちろん解体費用は所有者に請求されます。

 親の家を負の財産にしないためにも、相続したら早めに対処を決めましょう。

■解体費用の目安

 更地にするためには解体費用が必要となります。目安は木造住宅で1坪当たり3万~4万円、鉄骨造で5万~6万円、鉄筋コンクリートで6万~8万円程度となります。これが基本で、道路状況や庭木やブロック塀などはまた別途費用が発生します。また、アスベストが使われている場合は高くなります。

 自治体によっては解体にも補助金が利用できます。例えば東京都杉並区では上限150万円、神奈川県川崎市では最大100万円の補助があります。細かい条件も含めて、自治体のホームページで確認しましょう。リフォーム補助金などを実施している自治体もあります。

(取材・文/鷲頭文子)

【PROFILE】
大久保 恭子さん ◎株式会社風の代表取締役。社会資本整備審議会委員。主な著書に、『ネットではわからない空き家問題の片づけ方』、『「最期まで自宅」で暮らす60代からの覚悟と準備』ほか。