所蔵80万冊も経営危機 雑誌の宝庫「大宅文庫」知られざる歴史

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レトロな木製の本棚で雑誌を検索する鳥山・専務理事。紙の優しい匂いが漂う

●89年:1位・美空ひばり、2位・松田聖子、3位・中森明菜、4位・中曽根康弘、5位・明石家さんま

●99年:1位・野村沙知代、2位・松坂大輔、3位・広末涼子、4位・藤原紀香、5位・宇多田ヒカル

●09年:1位・小沢一郎、2位:佐藤優、3位・鳩山由紀夫、4位・酒井法子、5位・バラク・オバマ

●19年:1位・秋篠宮眞子さま、2位・上皇、3位、今上天皇、4位・雅子妃、5位・嵐……。

これは各年代ごとの、「大宅壮一文庫」記事検索人物ランキングだ(呼称は当時)。

大宅文庫とは、東京世田谷区八幡山にある日本唯一の雑誌図書館。70年に亡くなった評論家・大宅壮一氏の蔵書をもとに、翌年オープンした。来年50周年を迎える大宅文庫は、週刊誌や月刊誌を中心に、明治時代からの雑誌約1万2600誌、80万冊ほどを所蔵する雑誌の宝庫だ。500円の入館料を払えば、15冊まで誰でも閲覧できる。専務理事の鳥山輝氏が語る(以下、コメントは鳥山氏)。

「検索人物ランキングを見るとわかる通り、雑誌は時代を反映します。09年は政治が、昨年は皇室が注目されたことがわかるでしょう。大宅文庫は、自身の蔵書を『雑草』と称した大宅先生の考えを引き継いでいる。公立の図書館にはない、ゴシップ誌や休刊した雑誌もあるんです。ページをめくり記事を眺めているだけでも、世相を実感できますよ」

地下にある書庫に行くと、木製のレトロな棚に古今の雑誌がビッシリ。紙の優しい匂いに満ちている。最も古い雑誌は明治8(1875)年発行の『會館雑誌』だ。復刻版なら、慶応3(1867)年に出された日本発の雑誌『西洋雑誌』も所蔵されている。80年代の雑誌をめくると、「しあわせって何だっけ?」「なんである、アイデアル」などの広告コピーが時代を感じさせる。

「オープン当初は、一日の利用者は1人か2人。誰も来ない日もあったようです。収入の大半は、大宅さんと交友のあった人たちからの寄付。スタッフも、ほとんどが大宅さんの家の居候でした」

駅から黒塗りの車が列をなし……

大宅壮一氏が実際に使っていた木製の机。周囲には氏が使っていた資料がそのままに

大宅文庫が有名になったのは、74年にジャーナリストの立花隆氏が『田中角栄研究』を発表してからだ。立花氏は、当時の田中角栄首相の金脈問題を、緻密な調査で暴いた。

「立花さんは、ことあるごとにこう言ってくれました。『大宅文庫で過去の雑誌記事を閲覧し、価値ある文章が書けた。大宅文庫がなかったら、私の仕事のほとんどは実現不可能だった』と。それからです。マスコミを中心に、広く知られるようになったのは。田中角栄問題直後は、最寄りの八幡山駅(京王線)から大宅文庫まで、報道各社のハイヤーが記事検察のために社旗を立て列をなしたほどです」

最盛期には年間約2万8000人近くが来館。ファックスでの記事購入者は、一日100人を超えた。大宅文庫の資料では、98年の利益は1億2500万円を超える。

「マスコミ関係の方だけでなく、芸能人もお見えになりました。お笑いコンビ『爆笑問題』のお2人や水道橋博士も、有名になる前よくご利用になったようです。自分たちがどう雑誌に取り上げられているのか、いまでいうエゴサーチのようなものだったのかもしれません」

潮目が変わったのは、00年代の終わり。知りたい情報をネットやスマホで気軽に検索するのが一般的になり、雑誌記事の価値が相対的に低くなったのだ。09年からは8年連続で赤字。14年の経常収支は、4000万円以上のマイナスとなり経営危機に陥った。

「昨夏には、『大宅文庫パトロネージュ』という支援団体を立ち上げていただきました。代表は、大宅先生と対談して以来親交のあるデヴィ夫人です。おかげで1300万円ほどの寄付が集まりましたが、経営はいまだに苦しい。今年はコロナ禍の影響で、4~5月は休館を強いられました」

大宅文庫はネタの宝庫だ。故・樹木希林さんの語録集『一切なりゆき』は、担当編集者が約30年分の過去記事を読み返し出版。ベストセラーになった。

「雑誌の記事は、決して過去のモノではありません。現在起きていることの出発点なんです。スタートからの変遷がわかれば、未来も予測できるハズです。例えば新型コロナウイルス。明治期からの雑誌を振り返ると、われわれ日本人がどう感染症と戦ってきたかが理解できます。今後のヒントが隠されているんです」

多くの報道関係者に「なかったら仕事が成り立たない」と言わしめた大宅文庫。文化の一翼を担ってきたのは確かだろう。AIの導入やデータベース化など、存続へ向け新たな取り組みが模索されている。

明治期の雑誌は時代を感じさせない新鮮さ。編集者がこだわっていたのか紙質や装丁もモダンだ
前回の東京五輪前に作られた雑誌。完成前の国立競技場もさることながら周囲の風景にも当時の東京がしのばれる
36年前の『FRIDAY』創刊号も。目次には「三島由紀夫の割腹自殺」「巨人・吉村の恋人」など
依頼者に送る記事はすべて手作業。コピーしてから何十枚もファックスする
大宅壮一氏の遺影と資料。文庫内には氏をしのぶ遺品が数多くある
  • 撮影:会田 園

Photo Gallary7

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