FL Studioならではの機能を生かす
ダンス・ポップのミックス・プロセス
皆様こんにちは! 前回はボーカルの音作りを解説しましたが、今回は楽曲の最終的なミックスまでを追っていきます。この連載を通して作っていたダンス・ポップのデモ曲もとうとう完成し、本誌のSoundCloud(https://soundcloud.com/sound-7/sound-and-recording-mag-comp)にアップしましたので、それを聴きながら読み進めてもらえたらと思います。私の連載は今回で最終回ですが、ミックスの工程を含め、FL Studioの素晴らしい機能を見ていきましょう。
Gross Beatとオートメーションで“エディット感”のあるフィル・インを
本連載では楽曲の下書きに始まり、ドラムやベース、そしてボーカルの録音/編集と解説してきましたが、最終的なミックスにおいてもこれらが重要な要素となります。楽曲の全体像が見え仕上げに入ったら、ドラム/ベース/ボーカルの3要素の音量バランスを再度見直してみましょう。具体的には各パートのフェーダーを動かし、今一度最適なバランスを探ります。長い間作業していると特定のバランスに慣れてしまい、“気付いたらドラムが小さかった、ボーカルが大きかった”などということがよく起こります。特にドラムは他パートを重ねるにつれて埋もれがちなので、ミックスの最後の段階で音量を上げると良い感じになるケースが多いです。バランスが決まったらそれぞれのEQやコンプ、ステレオ感などを詰めます。
先の3要素に続いて、シンセ類や効果音も追い込みます。私はこの段階で、それぞれの音をエフェクトの効果込みでレンダリングしています。レンダリングすることでエフェクトのかけ忘れをなくしたり、リージョンの切り張りでフレーズを編集しやすいなどの利点が生まれます。
ミックスがほぼ出来上がってきた段階で、フィル・インを作ったり、ブレイクのフィルター・オートメーションなどを設定していきます。これらはつい楽曲制作の途中に手を付けがちですが、細かい作業になるのでどうしても時間を取られます。“木を見て森を見ず”にならないよう、まずは大枠を作り、細部は終盤に手を付けるのがよいでしょう。ここで効いてくるのが、先ほどの各チャンネルのレンダリングです。特にフィル・インなどは、波形の切り張りによって印象的なフレーズにすることができます。
フィル・インと言えば、その作成時に高い効果をもたらしてくれるのがGross Beatという標準搭載のプラグイン。音の再生位置(発音タイミング)や音量に細かい変化を加えられるエフェクトで、ターンテーブルでスクラッチしたような効果やスタッター的なサウンドを作り出すことができます。効果絶大なので多用しがちですが、ただインサートしただけでは“いかにもGross Beatをかけた”という感じが出てしまいます。そこで一手間加え、一歩踏み込んだ使い方をしてみましょう。
デモ曲の22秒辺りにGross Beatを使ったフィル・インがあります。マスターにかけるとザックリし過ぎてしまうので、ここではドラムとシンセ、ボーカルのそれぞれに別々の設定でインサートしています。画面の左側には、再生位置のプリセットのアマウントを調整できる“time”、音量変化のプリセットのアマウントを変えられる“volume”の2つのパラメーターがスタンバイ。これらをオートメーションで動かすと“切り張り感”を調整でき、有機的な音になります。またGross Beatで作ったフレーズを重ねることで、より印象的なフィル・インを作成可能。“フレーズ作成用プラグイン”としてGross Beatを使えば、偶発性を取り入れた曲作りが実現できます。
オートメーション信号を生成するFruity Peak Controller
次にブレイク後半のフィルター・オートメーションについて解説します。デモ曲の40秒から47秒くらいまでを聴いてみてください。ドラムとベースの低域を標準搭載のプラグインFruity Love Philterでフィルタリングしています。Fruity Love Philterは、効きが良くて大変高性能なフィルターです。ウェーブ・シェイピング機能が搭載されているので、エッジの立った荒々しい音も得意。シーケンスが組まれた面白い効果のプリセットも備わっているので、いろいろ試してみてください。
続いては、前回少しだけ触れたFruity Peak Controllerを紹介します。これも標準搭載のプラグインで、入力信号のボリューム・エンベロープに基づいてオートメーション信号を生成できるものです。例えば、特定の音をトリガーとして他パートの音量を下げる場合、サイド・チェイン・コンプを用いるのが一般的です。しかしFL StudioではFruity Peak Controllerに何らかの音を入力し、それによって生成されたオートメーション信号で任意のパラメーターを動かすことが可能。サイド・チェイン・コンプでの音量制御では、原音がコンプレッサーを通るためどうしても音がつぶれてしまいますが、Fruity Peak Controllerは原音のボリュームをオートメーションで動かすだけなので、音の透明感を保てるのが特徴です。
面白いのは、どんなパラメーターにもオートメーションを描ける点。例えばキックを入力し、ベースに挿したEQのローゲインへオートメーションをかければ、キックが鳴ったタイミングでベースの低域成分のみを下げたりできます。また最近の楽曲では、ボーカルやシンセ・リフの合間にロング・リバーブが鳴り、フレーズが始まるとリバーブの音量が下がるという演出が見られます。これに関しても、Fruity Peak Controllerにボーカルやシンセ・リフを入力し、リバーブ・センドをオートメーション制御すれば簡単に実現できますね。
Fruity Peak Controllerのほか、FL Studioにはさまざまなオートメーション生成プラグイン(コントローラーと呼ばれます)が標準搭載されています。いろいろなオートメーションで面白いサウンドを作ってみましょう。
4回にわたってFL Studioでの楽曲制作を解説してきました。メニュー内の“about”でスタッフ・ロールを見ると、“The fastest way from your brain to your speakers”と出てきます。FL Studioの何たるかを一番良く表している言葉だと思います。皆様もFL Studioで素晴らしい音楽を作ってください。それではまた!
FL Studio シリーズ・ラインナップ
FL Studio 12 All Plugins Bundle(99,990円)
FL Studio 12 Signature Bundle(パッケージ版のみの販売:31,000円)
FL Studio 12 Producer Edition(24,000円)
FL Studio 12 Fruity Edition(12,800円)
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