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1.飼育の現状を見つめる
近年、海水魚の採集人口も増え、休日の海では採集家を数多く見掛けるようになりましたが採取した魚を持ち帰っても、その後の餌付けや飼育が思うようにいかないと思っている方や、
昨年は飼育が上手くいかなかったので今年は採取と飼育の再チャレンジに情熱を注ぎ込んでいるなど様々であると思います。
その海水魚の飼育については、飼育設備の内容や飼育者の能力によって生存率に明確な差が出てしまっているのが現状です。
毎年採取した魚を数多く持ち帰っても上手く飼育できていない方は、「所有している飼育設備や飼育能力の不充分さ」を理解できていないことが大きな原因になっているようです。
また、経験者においては「魚の死は魚の所為」と自らの飼育方法の欠落点を否定できずに肯定し続けてしまっている方もいらっしゃるように感じます。
但し、飼育設備の機能や適切な飼育方法を理解できれば、確実に飼育はできるようになるのです。
こちらでアドバイスをおこなった一年程度の経験が浅い方々であっても、採取魚の生存率(計測期間は採取シーズン開始から、翌年までの1年間とし、「生存維持数/持ち帰った採取魚」の割合)を90%以上維持するなど、短期間で確実な飼育技術を吸収しています。
思うように飼育が出来ていない方でも、今までの飼育設備の内容や飼育方法を見つめ直し、飼育についての考え方を改めるようにすれば、間違いなく長期飼育が可能になっていきますので頑張りましょう。
2.飼育環境についての考え方
「採取」とは、数多く魚を採れば良いというものではなく、アクアリウムを楽しむうえで生体を入手する為の方法手段であることをあることを認識して頂きたいと思います。
長期に亘り充分な飼育ができていない方々は、所有している飼育設備が不適切であったり、飼育許容量以上に採取魚を持ち帰っていることが失敗の原因と思われます。
採取した魚は採った分だけ持ち帰りたくなってしまいますが、飼育環境が整っていない水槽では、餌付けやその後の飼育が上手く出来ずに魚達を短命にさせてしまいます。
採取するうえでの基本マナーとして「採取魚を飼育する為の設備の確立」は勿論のこと、所有している飼育設備の飼育許容量を適切に遵守することが必要になります。
採取魚の飼育は餌付け作業から始まりますが、餌付け専用の水槽を設置せずに飼育水槽に隔離ケースをぶら下げているなど、採取魚の餌付けと飼育に不適切な設備でおこなっている場合が多いようです。
その様な飼育環境下では、濾過機能が追いつかないことは勿論のこと、そのような隔離ケースなど狭い単槽スペースでの複数飼育は必ず生体の優劣が発生し、弱者は採餌できずに体力の低下とともにやがて死んでしまいます。
また、「豆チョウは体力がないので、飼育が難しい。」と頻繁に聞くことがありますが、これは誤りであって豆チョウに適した飼育がなされていれば、決して難しくはないのです。
3.よくあるトラブル
本章では、採集後良く耳にするトラブルをあげてみたいと思います。
①イジメ
単槽水槽で複数の餌付けは前述の通り、必ず固体の優劣が起こってしまい、劣等者は威圧を受け水槽の角に追い遣られて採餌できずにやがて死に至ってしまいます。
直接的なイジメの行為が見受けられなくても、他魚から威圧を受けた弱者は、他魚を警戒し採餌行為を拒絶することも生じます。
②拒食症
拒食になってしまった固体は、前記①の状況に陥ってイジメや威圧によるストレスを相当に受けている状況であると判断しなければなりません。
対策方法として、採餌行為が見受けられない固体は、早急に単独隔離し単独採餌させる必要があります。
③白点病
採取直後の魚は白点病に掛かり易いと思った方も多いかと思います。
通常の魚はストレスを感じることなく遊泳していますが、狭いスペースでの複数餌付けでは他魚の存在に圧迫され劣等者は体調を崩したり、また餌付け作業は通常の飼育水槽よりも水が汚れ易い為、
濾過が不充分な水槽では水質悪化によって体調を崩してしまうことがよくあります。白点病はそもそも体調を崩した魚だけに発症するものであり、健全な水質であれば白点病は簡単に発症するものではありません。
④突然死
飼育者の中では「さっきまで普通に餌を食べていたのに突然死んでしまった。」という状況を「突然死」と呼んでいるようですが、現実的には突然死というものは存在しません。
これについては、日頃の観察が行き届いていないことが原因の全てであり、目認が出来ていない状況下で必ずイジメや威圧を受けているなどのトラブルが継続的に発生しています。
これを回避する為には日常的に水槽内の様子を良く観察し、不備と感じた時は速やかに隔離するなどの早期対策が必要です。
⑤激突死
「ツノダシなど回遊性の強い魚は激しく泳ぎ廻る為、水槽やライブロックに激突し、これが原因で死に至ってしまった。」という経験をされた方も多いかと思います。
これについては、驚き易い性格とか回遊性が強い為に激突死が起こるのではなく、水槽内に混泳しているメンバーの影響が大きく起因しています。
激突死と呼ばれる状況はツノダシの性格上、固体の大きな他魚の存在を警戒して激しく泳ぎ回ることによって、水槽やラブロックなどに激突してしまうものです。
この死因は激突によるものではなく、他魚から多大なストレスを受け、これが蓄積されたものと考えた方が適切であると思います。
これを回避する為には、ツノダシをボス的存在として大きめの飼育水槽で落ち着かせる環境を維持できればストレスによる死因は解消できます。
またツノダシの餌付けについても、上記の落ち着かせる環境下であれば、特別な餌付け作業を行わなくても、採取後1週間程度で自然に人工餌を食べるようになります。
4.飼育環境の整備
採取したチョウチョウウオを適切に飼育する為には、前述の内容を充分に把握した上で下記内容を遵守し、飼育施設を整備する必要があります。
①チョウチョウウオの仲間は同一種間では激しく喧嘩するので、一種一匹の飼育とする。
②餌付けでは個体毎に進捗の差が生じたり、喧嘩が発生した時など、状況に応じて魚達を落ち着かせる状態を維持させなければなりません。
その為にも区分可能な複数槽の餌付け水槽を確保する必要があります。
③餌付け水槽はオーバーフロー形状とし、一般飼育水槽よりも濾過容量を確保する。また物理濾過はドライ形状を維持し、食べ残しなどが濾過槽へ流れ込まないように完全に濾し取る形状とする。
④日常的に水槽内の状況を観察し、不備が生じた固体は速やかに隔離出来る様に予め空きスペースを確保しておく。
上記は採取したチョウチョウウオ飼育の基本となりますが、採ることが主体となって飼育環境面の確立が疎かになってはいけません。
餌付け水槽の設置や飼育環境の確立においては、設置スペースの確保のみならず、それなりの投資費用が必要となりますが、「飼育設備の確保」を先送りして度々採取に出掛け魚を持ち帰っても、同じ失敗を繰り返してしまうことになってしまいます。
採取を楽しみ確実な飼育をおこなう為には、採集家における最低限のマナーとしても飼育設備を確保するように心掛けてください。
5.餌付け作業
一般的に数多く採取できるチョウチョウウオの種類としては、ナミチョウ・フウライ・トゲ・アケボノ・チョウハン・セグロやハタタテダイが代表的なメンバーであり、餌付けも比較的簡単に人工餌への切り替えが可能です。
但し、この中でナミチョウとチョウハンは食の固定化が早い為、間違った餌付けをおこなってしまうと、いつになっても生餌しか採餌せず、人工餌への切り替えに失敗することがあります。
この2種類については一般的にアサリからの餌付けが基本ですが、アサリを与える期間が長すぎると、アサリだけを食すようになり、「アサリ+人工餌各50%」などの練り餌を与えても、アサリだけを選んで突付くようになってしまいます。
具体的な餌付けについては、当サイト「飼育雑記>餌付け作業」に詳しく記していますので参照して下さい。
当方の場合は、前記餌付け方法における各段階への移行は2日間のスパンとし、スムーズに餌付けを進展させるように心掛けています。
但し、この餌付け方法は区分けされた餌付け水槽で各生体が落ち着かせる環境の維持が前提となっていますので、確実に突付いていることを確認してから次のステップへと移行させてるようにして下さい。
もし、突付いていない状態で無理に次のステップへ進めても採餌せずに痩せ細り、魚を落してしまう原因にもなりますので良く注意して観察することが大切です。
次に、同一スペースで複数の餌付けをおこなう場合ですが、複数であっても3匹程度に抑えるのが良いでしょう。
但し、3匹であっても必ず優劣ができてしまいます。性格の強い固体が劣等者を追い払いながら優先的に採餌してしまう為、劣等者は思うように採餌できない場合が多いので、
そのような時は、早めに劣等者を単独餌付けに移行すると良い結果を得る事ができます。
6.餌付け後の飼育
餌付けが完了した後、直ぐにメインの飼育水槽に移動させても、先住者と固体の大きさが異なる為、餌付いて間もない固体はストレスを受けたり、上手く採餌できずに短命にさせてしまう可能性がありますので、餌付け後はある程度成長を待ってから飼育水槽へ移す必要があります。
その為にも餌付けから本体水槽に移す途中段階として、一時的に飼育できる専用スペースがあると便利です。
採取魚の飼育は、状況毎且つ段階的に適合した飼育をおこなう必要がある為、必然的に複数の水槽設置が求められます。
その為、当然スペースの確保に悩まされがちですが、そもそも餌付け水槽と一時飼育水槽は大型水槽を必要としない(60~90cm程度)ので2段式に設置するなどの工夫をすることによって、
限られたスペースでも有効に活用することが可能になります。
飼育者の中では、工夫して40cm水槽を2段に複数設置されている方もいらっしゃいます。
また、区分けを前提としたシステムでない飼育水槽を無理にセパレーターで仕切っても、水槽内では適した水流にはならず、底面にゴミや食べ残しが溜まり易くなるなど、
発症を牽引させてしまう原因となる為、一般飼育水槽をセパレーターで仕切る行為は出来るだけ避けた方が無難です。
7.濾過槽の構築
前述では飼育の段階毎における飼育スペース確保の重要性とその考え方について記しましたが、同様に重要なのが濾過槽の確立です。
餌付け中の固体は小さめのサイズであるものの、餌付けは生餌からスタートが主体であり、また餌の食べ散らかしが多いなど、
餌付け行為そのものが一般飼育水槽よりも飼育水を汚しやすい状況にあるので通常の飼育よりも強力な濾過槽の設置が求められます。
その前提として濾過槽はウエット式とし、濾材量を水槽容量に対し30%以上を確保するなど濾材量を充分に確保する必要があります。(水質の浄化は、還元バクテリア量に比例する。)
また、濾過槽の形状は複数槽循環式として内部に強い水流を与え、腐敗物の堆積を軽減できる構造とします。
これによって飼育水が濾材に触れる表体面積も増えるなど、濾過効率の向上が期待できる理想的な濾過槽となります。
次に物理濾過はドライ形状を維持し、ウールマットを複数敷き詰めるなど、食べ残しなどが濾過槽内部に流れ込まないように物理濾過槽内で完全に濾し取る形状とすることが重要です。
この機能が維持されないと、腐敗物が濾過槽内に堆積することによって水質が悪化し、発症が起こり易くなってしまいます。
8.総括
当方では上記の内容で飼育をおこなっていますが、採取魚の生存率は毎年90%以上(計測期間は採取後から翌年の採取シーズンの一年間)を維持し、また白点病など発症することもなく、未発症・無投薬飼育を長期に亘り継続しています。
また、当方で飼育のアドバイスを受けた方々も、短い経験ながら同様な飼育を現実のものとしています。
海水魚は生物の飼育であるだけに、長期に亘って生存率を100%維持することはなかなか難しいことではありますが、正確な知識を持つことによって生存率は確実に向上していきます。
海水魚の飼育は、魚の性質と設備の機能性を充分に理解できれば、決して難しいものではありません。一般の飼育においても長期飼育に至らない場合は、どこかの部分が前述の内容とは異なり、間違った飼育をおこなっているものと思われますので、この記述がご自身の飼育方法を見つめ直す切欠になれば幸いです。
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