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戦国小町苦労譚 作者:夾竹桃

天正四年 隔世の感

182/182

千五百七十七年 四月上旬

天目山とは、現在の山梨県甲州市大和町木賊(とくさ)に存在する山である。かつて室町幕府に追われた武田氏13代当主である武田信満(のぶみつ)が自害しており、一度はここで武田氏が断絶していた。

その後再興された武田家最後の当主である勝頼が、天目山を決着の場として選んだのは運命のいたずらであったのだろうか。

比較的標高の低い天目山の山頂付近に張られた勝頼の陣は撤去され、下草を刈った上に地面を踏み固めたであろう見晴らしの良い広場が出来上がっている。

朝もやの立ち込めるなか、その広場の中央に床几(しょうぎ)(折り畳み式の腰かけ)に腕組みをして座る勝頼が待っていた。

そこに僅かな手勢のみを率いた信忠が山道を真っすぐに登ってくる。


「……来たか」


信忠の姿をみとめた勝頼が(つぶや)いた。勝頼は配下を遠く下がらせ、決戦場へは誰も近づかないよう厳命している。

勝頼はおもむろに立ち上がると、傍に立てかけてあった朱塗りの大身槍を手に取った。勝頼のいでたちは武田の誇る赤備(あかぞな)えを身に(まと)い、厳めしい面頬までも装着した完全防備である。

これに対して決戦場へと現れた信忠はこの時代の常識にそぐわない恰好をしていた。


「一騎打ちを申し込んだのはそちらのはず。勝敗に()らず自刃すると伝えたゆえ、侮ったか?」


勝頼の問いに対して見届け人である長可(ながよし)を除く配下を槍や刀が届かない位置にまで下がらせつつ応える。


「侮るならば一騎打ちなどせずに討ち取っておる。甲斐武田の武を継ぐ(おとこ)と認めたがゆえに、この場を設けたのだ。見たところ、気力も体力も充分なようだ」


「施しを受けたゆえでは無いが、本当にそのような恰好で良いのか?」


問われた信忠は確かに奇妙な格好をしていた。足元は織田軍標準の編み上げのブーツに現代のカーゴパンツのようなざっくりとした下履きの上から脛当(すねあて)を身に着けている。

胴体は流石に胴鎧を纏い、腰部をカバーする草摺(くさずり)は勝頼と変わらない。肩から肘までを覆うはずの大袖は取り外され、手首から肘までを覆う籠手がやや大型化していた。

頭部に至っては兜一式を一切身に着けていない無防備と言っても過言ではないいでたちであった。


「まさかこの()に及んで矢を射かけるような真似はせぬであろう? ならば経験で劣る側なりに工夫を凝らしたのだ」


信忠はそう言うと配下から自身の身長よりやや長い手槍を受け取ると下がらせた。長可は向かい合う二人の中ほどに立ち、邪魔にならぬよう後ろに下がって二人の動向を見守る。

当世具足の完全防備に長大な大身槍を得物とする勝頼に対し、間合いで劣る手槍の他には腰に太刀を()いているのが見える明らかに軽装の信忠は如何にも不利に見えた。

信忠の準備が整ったのを見た勝頼は手にした大身槍を頭上で大きく円を描くように回して見せると、脇に構えて信忠の方へ穂先を向けて口を開く。


「ならば最早何も言うまい。これより先は口先では無く己の武を以て意を示そう。いつでも掛かって参れ!」


勝頼はそういうと足を止めて信忠の出方を窺った。対する信忠は間合いで劣るため、迂闊(うかつ)に踏み込むこともできずすり足でじりじりと間合いを詰める。

後半歩で手槍が相手に届くというところで勝頼が動いた。脇に構えた大身槍を手の中で滑らせるようにして前方へ突き出し、予備動作が殆ど見えないと言うのに充分に威力の乗った突きを放つ。

相手の動きを注視していたはずの信忠だったが、半瞬反応が遅れたため回避が間に合わず大身槍の進路上に手槍を突き立てて穂先を逸らし、反動で逆方向へと体を逃がす。

勝頼の大身槍は穂先が一尺(約30センチメートル)以上もの長さがあり、その刀身とも呼ぶべき穂先が手槍の柄を削りながら突き込まれた。

本来であれば重量のある大身槍を扱うのは難しく、威力の乗った突きを(かわ)されれば大きな隙が生まれる筈であった。

しかし勝頼は側面に逸らされた力の流れに逆らわず、むしろ横向きの力に自身の力と更に体の捻りをも加えて体を折りたたむようにしてコンパクトに大身槍を回転させ、斜め上方から叩きつけるような一撃を放った。

逃げたところへ叩きつけるように振り下ろされる一撃を見た信忠は、手槍で受けきることは不可能と断じるや体を投げて横っ飛びに回避する。


地面を転がりながら起き上がった信忠が目にしたのは、再び脇構えに大身槍を携えた隙の無い勝頼の姿であった。


(よもやこれほどまでとは、見誤ったわ)


この一騎打ちを打診する前から勝頼個人の武威については間者に探らせていた。しかし、部隊の指揮に秀でていると言う情報は得られども、勝頼本人が武芸に秀でているという情報はついぞ(もたら)されなかった。

名立たる武芸者が揃っている武田家に於いて、勝頼個人の強さはさほどでもないと信忠が判断したのも仕方ない面もあった。


「その鎧、見た目通りの重さではないな?」


「ただの一合でそこまで見抜くか。前評判などあてにならぬものよな、元よりこちらは挑む立場。織田勘九郎推して参る!」


勝頼の指摘は正しい。信忠の甲冑は全て特別製であり、尾張の最先端の技術が惜しげもなく注ぎ込まれた逸品である。

ただの布に見えるカーゴパンツも、溶かしたガラスが綿菓子を作る機械のようなもので吹き飛ばされ、遠心力を用いて細く細く引き伸ばされたガラス繊維を表側に編み込まれている。

当然そのままでは肌に触れれば細かい切り傷が出来てチクチクするため、裏側には通常の布地で裏当てが施されていると言う念の入れようだ。

これだけならば少し丈夫な燃えにくい布に過ぎないが、脛当や籠手部分に用いられている装甲版は更に一味違う。

尾張でしか造れない鋼を冷間(れいかん)線引き(せんび)と呼ばれる技法によって常温のまま細く引き伸ばす。

これは水車や畜力では到底生み出せない、蒸気機関による巨大な力を均一に加え続けられるようになって初めて実現できる技術であった。

これによりピアノ線程とはいかないまでも、針金というより細いタコ糸ぐらいの鋼線が造られる。

これをメッシュ状に編み込んだ上で赤樫の薄板に幾重にも張り付けられ、それらを樹脂で固めたものとなっている。

鉄板と変わらない程の強度を持ちながらも、重量は五分の一程という完全にオーバーテクノロジーの防具に仕上がっていた。


次は己が先手を取るべく信忠が駆けた。当世具足は矢を防ぐため、隙間を少なくする工夫が施されており、防御力が高い反面視界がどうしても狭くなる。

勝頼と向き合って左側に駆けることで視界から外れつつ、しかも利き手の裏側に回り込むことで追撃しにくい位置を取る作戦であった。

これに対する勝頼の応えは、信忠に完全に背を向けて屈みこむという奇妙なものであった。体を小さく丸め込む姿に、信忠は極限まで押し縮められた発条(ばね)の姿を幻視した。

背筋に()てつく氷柱(つらら)を突き込まれたような悪寒に、信忠は咄嗟にその場で飛びあがった。

果たして信忠の足元を閃光が走り抜けた。遅れて風切り音が聞こえるほどの鋭い斬撃が走り抜け、短く刈り揃えられた下草が更に短くなった。

どのような体勢からでも自由に槍を振るえる尋常ならざる体幹と、鋭い刺突及び斬撃を生み出す剛力。天下無双の侍大将と呼べる恐ろしいまでの腕の冴えであった。


「逃げてばかりでは勝負にならぬぞ!」


「流石に今のは胆が冷えたわ。甲斐の武士(もののふ)は皆これほどまでの力を持っておるというのか……」


中距離では勝負にならないと判断した信忠は、先ほどのように勝頼の攻撃が届きにくい方向へ駆けつつも距離を詰める。

大身槍のような長柄の武器は、密着間合いに入られてしまえばリーチが災いして攻撃が当たらなくなってしまう。

当然その程度のことは知悉(ちしつ)している勝頼は槍を支える左腕を内側に折り畳み、柄を押し出す右手を大きく外側に回すことでコンパクトな斬撃を放ってきた。

間一髪でこれを躱した信忠は、勝頼の目前にまで肉薄していた。大身槍の穂先は勝頼の遥か後方へと回っており、今が好機とばかりに信忠が大きく踏み込んだ。

バシン! という奇妙な音が響いて信忠が大きく後退した。信忠の胴は側面が歪み、よく見ると蜘蛛の巣状の亀裂が走っている。


「なんなのだそれは!? 岩でも叩いたかのようじゃ」


果たして勝頼が放ったのは、槍の石突による打突であった。横薙ぎの斬撃から直線の打突へと繋ぐ隙の無い連携に、信忠は虎の子の胴鎧を凹まされた上に、間合いの外へと弾き出されてしまった。


「静子特製の甲冑よ! そう易々とは貫けぬと心得よ!」


そう()えると信忠は三度目の突撃を敢行した。互いの命を懸けた戦いという極度のストレス状況下では、予想以上に気力及び体力を消耗する。

有効打にはなっていないものの、手痛い一撃を食らった信忠よりも、都度カウンターを放って体力を温存しているように見えた勝頼の方が疲労していた。

視界の外からちくちくと厭らしい攻めをしてくる信忠の行動は、想像以上に勝頼の体力を削り取っていたのだ。勝頼の疲労は発汗を促し、吸水の限界を超えた汗の玉が片目を塞いだ。

その一瞬の隙とも言えない空隙が運命を分けた。大きく踏み込んだ信忠は手槍を勝頼の眼前の地面に突き立てると、腰の太刀を抜いて転がるように勝頼の脇の下を駆け抜けた。

手槍が邪魔となって槍を繰り出せなかった勝頼の右腕が宙を舞った。勝頼の右腕の付け根から鮮血が噴き出すが、構わず槍を捨てて左手で腰の太刀を抜かんと手を伸ばした。

再び背後からの斬撃が走り、今度は左腕の肘から先が斬り飛ばされた。両腕を失った勝頼は敗北を悟り、その場に膝を着くと背筋を伸ばして叫んだ。


「見事だ! この傷ではまもなく(それがし)の命も(つい)えよう。自刃しようにも腕がない。介錯(かいしゃく)を願えまいか?」


それに信忠が応えて叫ぶ。


「薄氷の勝利であった。及ばずながら介錯(つかまつ)る」


信忠はそう言うと、背筋を伸ばし首が見えるよう(こうべ)を垂れる勝頼の背後に立ち、高々と太刀を振りかぶった。


「やれい!」


勝頼の言葉と共に刃が振り下ろされ、一刀の下に勝頼の首が落とされた。遅れて体が前のめりに倒れ、武田家最後の当主は逝った。


「この鎧が無くば、泉下に向かうは己であったであろう。武田四郎、まことの武士(もののふ)であった」








武田勝頼の討ち死に、この一報は織田家の手によって広められ、瞬く間に日ノ本全土に伝わった。痩せても枯れても戦国最強と呼ばれた武田家の滅亡は、日ノ本中の国人を震撼させた。

これによって織田家が武家の頭領たる征夷大将軍となることに異を唱える者は居なくなった。厳密に言えば北条は認めないであろうが、事実上黙認するしかないというのが実情である。

不倶(ふぐ)戴天(たいてん)の仇とされた武田家の滅亡にも信長は一言「そうか」と応えたのみであった。

今まで打倒することに心血を注いできた武田家だが、いざ滅亡したと聞いて胸に去来したのは埋め難い空虚感であった。

利に聡く気の早い堺の商人たちは、後に信長に対して祝いを贈り、口々に武田家を貶して織田家を誉めそやした。そんな佞言(ねいげん)(おべっか等、媚びへつらう言葉)を吐く輩の(ことごと)くを無言で威圧した。

信長の放つ底冷えするような視線と、物理的圧力を伴うような沈黙に耐えられなくなった商人たちは早々にその場を辞すこととなった。


時は戻って信長と信忠軍、及び徳川・穴山連合軍が集結できる場所として新府城が選ばれ、関係者が揃って戦後処理を話し合うこととなった。

勝頼を討った信忠軍がまず入城して準備を整え、南部から進軍してきていた徳川・穴山連合軍が合流した。彼らは無血開城ではあったものの、略奪があったのか荒れ果てた城内を清掃し、表面を取り繕った。

そうした影働きの末、遅れて駆けつけてきた信長及び近衛前久を迎え入れることとなる。信長は到着するや否や、その場で論功行賞を行うと宣言し、関係者を集めた。


此度(こたび)の勝利は長きに(わた)って武田の侵攻に抗い続けた三河守(みかわのかみ)殿の奮闘あってのことである」


信長が第一功として賞したのは家康であった。彼が武田の侵攻に対して踏ん張ったからこそ今日(こんにち)の勝利があるという訳だ。

第二次東国征伐に於いては大きな戦功を立てていないが、過去分の成果を勘案しての評価であった。信長は家康に対し、駿河国(するがのくに)を与えている。

次に武田氏の本国でもある甲斐国(かいのくに)は、黒母衣(ほろ)衆筆頭であり東国征伐に於いて信忠に付き従った河尻(かわじり)秀隆(ひでたか)に与えられた。

次いで伊那国(いなのくに)は信忠の直臣である毛利(もうり)長秀(ながひで)に、上野国(こうずけのくに)信濃国(しなののくに)の一部は滝川一益に与えられることとなった。

滝川に与えられた領土には、かつての真田領も含まれていたが、当の真田昌幸は既に尾張に骨を埋めるつもりでいるため、特に口をはさむこともなかった。

そして武田氏が亡んだことで内戦状態に陥っている領土については、今回の東国征伐に於いて出色の手柄を立てた長可に与えられることとなる。

見るからに貧乏くじを引いた形となっている長可だが、信長は長可ならばそれらを鎮圧しつつ上手く治められると判断していた。

最後に第二次東国征伐の総大将であり、勝頼を直接討ち取った立役者でもある信忠に対しては何の褒章も与えられることが無かった。


「総大将でありながら言いつけに背き、軍全体を危険に晒す一騎打ちを行った罰だ!」


信長はそう吐き捨てるように言った。確かに織田家の嫡子でありながら、命の危険がある一騎打ちを行ったのは軽率であっただろう。

しかし東国征伐の半分を成し遂げた功績と相殺し得るものだろうかと皆が首を傾げるなか、信長が続けて言った。


「あ奴には武田の遺児である松姫を(めと)る許可を与えた。武田の復権は許さぬが、血の存続を許したことを以て褒美とする」


ここまで聞けば信長の裁定に口を挟むものはいなかった。

続いて信長は、最期まで勝頼に従って戦い抜いた忠臣五十余人に対し「敵ながら天晴(あっぱれ)」と評し、本人を含む一族郎党に咎を課さないことを確約し、生活を安堵させた。

逆に武田家が劣勢に追い込まれたのちに離反し、さりとて織田家に(くみ)しなかった者については、その優柔不断さを責めて厳罰に処している。

家の存続を求めての裏切りは戦国の習いであり、それだけを理由にお家断絶に追い込むような真似はしないが、虐殺を含む略奪を行ったものは斬首された。

その苛烈な対応を見た木曾義昌は、真っ先に寝返ったことを責められるかと恐怖したが、領地の加増及び安堵が言い渡されると腰が抜けそうになっていた。

逆に微妙な時期に寝返りを打診してきた穴山については扱いが難しい。既に徳川の臣下となっており、信長といえどその人事に口を出すことは出来ない。


「甲州には『泥かぶれ』なる病がある。穴山殿はこれに対する陣頭指揮を執っていただきたい。詳細については織田家相談役より追って知らせるゆえ、この病の根絶に向けて尽力されよ」


信長の言葉を耳にした穴山は安堵から胸を撫でおろした。『泥かぶれ』という死病に対し、一から指揮系統を構築しなおすよりも、地元の住民と繋がりがある領主を頭に据える方が効果的だと判断されたのだ。

これによって穴山の領土は安堵され、徳川家配下の臣として仕えつつ、甲州全域を(むしば)む死病と永い戦いを始めることになる。


「はっ! この穴山、己が一命を賭して取り組みまする」


信長の裁定とそれを受け入れた穴山を見て、家康もホッと一息ついた。南部から侵攻していた徳川軍は、甲府盆地付近の流行地にて『泥かぶれ』の罹患者を直接目にしていたからだ。

第二次東国征伐に於いて南部から北上するルートを取る徳川軍に対して、静子は家康に『泥かぶれ』の詳細を伝えていた。

水の中に棲む目に見えない虫が腹に巣くい、人を死に至らしめる等と言う当時からすれば荒唐(こうとう)無稽(むけい)な話も、他ならぬ静子からの情報であることと、詳細な病理について記された資料及び写真という説得力のある視覚情報が決定打となった。

そうした事もあってか、家康は穴山を受け入れた後に現地を案内させた。そこで彼は地獄絵図にある餓鬼のように腹を膨らませ、手足が棒のように痩せ細った住民を見ることになる。


そこから家康は『泥かぶれ』に対して万全の注意を払うこととなった。朝露を含んだ草から感染することを恐れ、静子から貸与された生石灰を撒いたり、防備を固めた兵に下草を刈らせたりなどして安全を確保しつつ進軍した。

その結果、進軍速度は大幅に落ちて新府城落城までに合流できなかったが、実際に防疫をしつつ進軍するという得難い経験を積むことが出来た。

この『泥かぶれ』が人から人へと伝染することはない。中間宿主であるミヤイリガイを経由しなければ、感染能力を持つセルカリアに成長できない為である。ただし、糞便や尿に含まれる虫卵が河川に流れ込み、ミヤイリガイを経由して間接的に感染することはある。

未知の恐ろしい死病の現状を知った家康は、穴山が『泥かぶれ』撲滅に注力することにもろ手を挙げて賛成した。


「これを以て論功行賞を終わりとする。わしはこれより安土へ戻るゆえ、子細については追って連絡があろう」


「お待ちくだされ、織田殿」


言うべきことを言い終えた信長は席を立ち、大股で室内から去ろうとしたところを家康が呼び止めた。信長が鋭い視線を投げかけるが、彼は柔和な笑みを浮かべて言葉を継いだ。


「何やら富士の山を見物されると耳にし申した。そうであるならば是非に我が領をお使いくだされ。富士の山を望む景勝地をご案内いたしましょうぞ」


「……確かに富士の山は難所と聞く。ならばお言葉に甘えるとしよう」


「お任せくだされ」


流石の信長も直接富士登山できるとは思っていなかった。精々が見晴らしの良い丘から日の出を反射して輝く富士を写真に収めて帰るつもりであった。

しかし、そうした景色を一望できる場所についての見当はついておらず、行き当たりばったりの感は否めない。

そこで家康の提案はまさに渡りに船であった。そしてここからが家康の腕の見せどころとなる。信長一行の案内を務めるという事は、その露払いをも含まれる。

つまり道中でならず者に遭遇するなどと言うハプニングが万に一つでも起こってはならないのだ。家康は家臣に指示を出し、信長一行が通行するルートを定めると、その整備を命じた。

道行(みちゆき)に山があれば山狩りを行い、増水して橋が落ちた川があれば突貫工事で再建させた。更に宿所となる寺社に関しては、先触れを出して総出で清掃を行わせ、金銀を寄進して宿坊はおろか、信長に従う兵士たちの寝床まで作り上げさせた。

そうして家康が張り切っているなか、信忠と長可は僅かな休息を満喫していた。


「此度のいくさは概ね落ち着くところへ落ち着きましたな」


「まあ総大将が功なしというケチはついたがな」


熱い茶をすすりながら混ぜっ返す信忠の様子に長可は意地の悪い笑みを浮かべる。


「そう言いながらちゃっかりと本命の婚姻を勝ち取っておられる辺りは、ぬかりありませぬな」


「武田の当主を討ち取ったという名声と、東国征伐を成功に導いたという実績。これが揃えば松を娶ることに異を唱えることは出来ぬよ」


「流石に勝手が過ぎると上様はおかんむりでしたぞ?」


「信賞必罰を徹底するため表面上は怒っているように見せておられるが、結局のところお咎めなしで赦されておる。終わり良ければ総て良しだ」


「あの怒気は本物に思えましたが、まあ良いでしょう。それよりも信勝は如何でした?」


「長じれば恐るべき使い手になったやも知れぬ」


勝頼が討ち死にした後、自刃して後を追うかと思われた信勝だが、予想に反して信忠に一騎打ちを申し込んだのだ。

元より父を打ち負かした信忠に勝てる道理は無いのだが、それでも座して死を待つよりは最期に一矢報いんと挑んだのであろう。

結果は、まともに打ち合うこともなく一刀の下に切り伏せられた。一騎打ちを前に信勝は家臣に後を追うことを禁じたため、彼らは武装を捨てて織田軍に下った。

見分が終わった勝頼の首と、信勝の遺体を返された北条夫人は、出家して終生彼らを弔って過ごすということだった。


「それよりも問題は『泥かぶれ』だな。何やら静子が計画を立てているらしいが、詳しいところはまだ上がってきていない。方針としては流行地から住民を隔離するところから始めると言っていたが」


「え!? 病魔に蝕まれた奴を動かしても大丈夫なのか?」


驚いたのか、咄嗟に元の口調に戻った長可が信忠に訊ねる。


「ああ、何でも腹の中に虫が溜まる病らしい。病人の腹に詰まっている虫は、滅多なことでは他の人間に悪さしないそうだ」


「ああ、写真で散々見せられたアレだな。小指の爪の先にも満たない大きさらしいが、そんな目に見えない虫がうじゃうじゃいるってのはゾっとする話だ」


「何でも寄生虫という生き物らしい。他人の生き血を吸って肥え太る蛭みたいな生き物だな」


「なるほどな。目に見えないというのは厄介だが、あの何とか言う貝を根絶やしにすれば良いんだろ?」


「ああ。しかし、それが途方もなく難しいと聞く。貝の数が途方もない上に、水場だけでなく陸にも居て、少しでも残せばあっと言う間に増えるらしい……」


『泥かぶれ』の根絶という壮大な難事の一端を垣間見た二人は、その穴の開いた柄杓で水を掬うが如き所業に暗澹(あんたん)たる気持ちになった。







『泥かぶれ』撲滅の第一歩は史実通り病理解剖で幕を明けた。いくら病理の機序を知っていても、実際に開腹して肝臓の状態を確認し、間違いなく『日本住血吸虫』の仕業であると確定せねばならない。

幸いにして戦時であったため、検体には事欠かなかった。戦死した遺体のうち、身長が低く痩せ細り、腹が膨らんでいる者を選んで腹を開いた。

従軍していた防疫部隊である金瘡(きんそう)医衆は、水を通さない樹脂製の手袋や前掛けに身を包み、遺体の腹を切り開いて肝臓を露出させ、その門脈に刃を入れた。

切開された門脈内部は虫卵が詰まって炎症を起こし、それを盛り上がった肉が包み込むという肉芽腫(にくがしゅ)を形成していた。ここで初めて『泥かぶれ』の病変とその原因が確認された。

これらの作業と並行して中間宿主であるミヤイリガイの回収、村人への聞き取り調査が行われ、急速に研究拠点が構築されていった。

『泥かぶれ』を究明する金瘡医衆たちは静子から史実通りの実験を行うよう指示されており、決められた手順に従って着々とデータを積み重ねている。

こうした研究体制が整うのを見届けた信長は、川沿いを避けて徳川軍と共に南下しつつ富士山を目指していた。


「これが日ノ本一と名高い霊峰、富士か!」


家康に案内された場所から眺める富士山はまさに絶景であった。折よく雲一つない青空は晴れ渡り、裾野から麓までを染め上げる緑が鮮やかに見え、途中から白く残雪の残った山頂部が輝くようであった。

絶景に見惚れていた信長は我に帰ると、即座に技術者たちへこの眺望を写真に収めるよう命じた。望遠レンズや高感度フィルムなど望めない中での撮影は難航したが、それでも何とか美しい富士山を閉じ込めた写真を残すことが出来た。

終始上機嫌の信長であったが、家康は水上の白鳥の如く優雅な笑みを浮かべつつも、水面下では必死の努力を続けていた。

無理を押してまで信長を招いて接待を続けている理由は、今後の織田家に対して徳川家が持ちうる影響力を示す必要があったからであった。

今までは武田の侵攻を阻む最前線としての存在価値が認められていた徳川家である。その武田家が亡んだ以上、今後はその利用価値の低下に伴って徳川家の地位が下落する恐れがあった。

北条を攻め滅ぼすに当たって是が非でも徳川家の協力が必要と楽観視できるような状況ではもはやない。今回の甲州征伐に於いて大活躍した長可の戦果を見るに、織田家のみでも充分攻略できると見る方が自然だ。


「かねてよりの約定から駿河を得たが、この先については見当がつかぬ」


現在の徳川家は三河、遠江(とおとうみ)、駿河の三か国を擁するが、このまま織田家が躍進を続けた場合に自主独立を貫けるかは疑わしい。少なくとも今後十年を見据えて行動を決定する必要があると家康は考えていた。

しかし勝ちいくさに湧きたつ徳川家に於いて、このひりつくような緊張感を抱いているのは家康のみであった。他の家臣たちは今日と変わらぬ明日が続くと信じて疑わない。

それでも同盟の重要人物である信長をもてなすことが国の行く末を左右しうる重大事であると言う認識は共通していた。そんな彼らに立ち塞がったのが天竜川の渡河であった。


「暴れ天竜(天竜川のこと)に橋を渡すなど古今(ここん)未曾有(みぞう)(古くから今まで一度もあったためしがない様)の大仕事ですぞ!」


「小天竜は渡せども、大天竜は叶いませぬ」


「ここは安全を取って船便で渡しましょうぞ」


現在の天竜川は流域が一本化されているが、この時代では東に一本、西に二本の川が流れていた。東を大天竜、西を小天竜と呼び、諏訪湖を水源地とした膨大な水量を誇る河川であった。

そのため、ひとたび大雨が降れば頻繁に洪水を起こすことから『暴れ天竜』とさえ呼ばれていた。記録によれば元禄から明治初期にかけての約百七十年間で、大小四十回の洪水が発生している。

単純計算でも五年に一回は洪水が発生する計算となり、橋を架けるなど夢物語であり、架けたはしから流されるのが落ちだと考えられていた。

しかし、家康はその『暴れ天竜』を制して船を浮かべて連結し、その上に木板を渡した船橋を架けると言い出した。通常では出来ないことを為すから人は感動するのだと説き、どれ程資金が掛かろうとも成し遂げよと厳命した。

かくして信長一行がゆるりと歩みを進める裏で、周辺一帯から船を根こそぎかき集め、大工を誘拐まがいに連れてきて工事に従事させた。


こうした決死の努力が実り、信長が天竜川へと到着する頃には見事に一列に繋がった船橋が架かり、一行が渡り終えるまで崩れることもなかった。

突貫工事を行ったためか、船の大きさがまちまちであり、橋板がいたるところで傾いていたり、歩くのに難儀するほどの段差が生まれていたりもした。

しかし、信長はそれらを見ても何も言うことなく終始上機嫌で旅を楽しんだ。


「お帰りなさいませ」


そんなご機嫌な信長を待ち受けていたのは、未だかつて一度として目にしたことのない程の怒りを(たた)えた静子の姿であった。

普段温厚な人間であるほど、豹変した際の落差が大きいと言う。身を以てそれを知った信長は、己に降りかかる災厄を思って身震いするのであった。


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突然路上で通り魔に刺されて死んでしまった、37歳のナイスガイ。意識が戻って自分の身体を確かめたら、スライムになっていた! え?…え?何でスライムなんだよ!!!な//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全304部分)
  • 16494 user
  • 最終掲載日:2020/07/04 00:00
Knight's & Magic

メカヲタ社会人が異世界に転生。 その世界に存在する巨大な魔導兵器の乗り手となるべく、彼は情熱と怨念と執念で全力疾走を開始する……。 *お知らせ* ヒーロー文庫//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全177部分)
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  • 最終掲載日:2020/11/18 15:15
淡海乃海 水面が揺れる時

戦国時代、近江の国人領主家に男子が生まれた。名前は竹若丸。そして二歳で父を失う。その時から竹若丸の戦国サバイバルが始まった。竹若丸は生き残れるのか? 家を大きく//

  • 歴史〔文芸〕
  • 連載(全253部分)
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  • 最終掲載日:2020/03/15 19:39
公爵令嬢の嗜み

公爵令嬢に転生したものの、記憶を取り戻した時には既にエンディングを迎えてしまっていた…。私は婚約を破棄され、設定通りであれば教会に幽閉コース。私の明るい未来はど//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全265部分)
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  • 最終掲載日:2017/09/03 21:29
異世界食堂

しばらく不定期連載にします。活動自体は続ける予定です。 洋食のねこや。 オフィス街に程近いちんけな商店街の一角にある、雑居ビルの地下1階。 午前11時から15//

  • ローファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全124部分)
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  • 最終掲載日:2020/10/10 00:00
異世界居酒屋「のぶ」

古都の路地裏に一風変わった店がある。 居酒屋「のぶ」 これは、一軒の居酒屋を巡る、小さな物語である。

  • ローファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全231部分)
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  • 最終掲載日:2020/08/06 23:23
とんでもスキルで異世界放浪メシ

❖❖9月25日書籍9巻、本編コミック6巻、外伝4巻発売!❖❖ ◆オーバーラップノベルス様より書籍8巻まで発売中です。本編コミックは5巻まで、外伝コミック「スイの//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全547部分)
  • 16925 user
  • 最終掲載日:2020/11/30 22:17
おかしな転生

 貧しい領地の貧乏貴族の下に、一人の少年が生まれる。次期領主となるべきその少年の名はペイストリー。類まれな才能を持つペイストリーの前世は、将来を約束された菓子職//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全298部分)
  • 12966 user
  • 最終掲載日:2020/10/10 05:00
聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~

地球の運命神と異世界ガルダルディアの主神が、ある日、賭け事をした。 運命神は賭けに負け、十の凡庸な魂を見繕い、異世界ガルダルディアの主神へ渡した。 その凡庸な魂//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全383部分)
  • 10833 user
  • 最終掲載日:2020/12/05 20:00
無職転生 - 異世界行ったら本気だす -

34歳職歴無し住所不定無職童貞のニートは、ある日家を追い出され、人生を後悔している間にトラックに轢かれて死んでしまう。目覚めた時、彼は赤ん坊になっていた。どうや//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全286部分)
  • 12934 user
  • 最終掲載日:2015/04/03 23:00
異世界のんびり農家

●KADOKAWA/エンターブレイン様より書籍化されました。  【書籍九巻 2020/12/28 発売予定!】 ●コミックウォーカー様、ドラゴンエイジ様でコミカ//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全660部分)
  • 13907 user
  • 最終掲載日:2020/11/27 14:17
薬屋のひとりごと

薬草を取りに出かけたら、後宮の女官狩りに遭いました。 花街で薬師をやっていた猫猫は、そんなわけで雅なる場所で下女などやっている。現状に不満を抱きつつも、奉公が//

  • 推理〔文芸〕
  • 連載(全277部分)
  • 13999 user
  • 最終掲載日:2020/08/17 06:23
ありふれた職業で世界最強

クラスごと異世界に召喚され、他のクラスメイトがチートなスペックと“天職”を有する中、一人平凡を地で行く主人公南雲ハジメ。彼の“天職”は“錬成師”、言い換えればた//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全397部分)
  • 12323 user
  • 最終掲載日:2020/12/05 18:00
人狼への転生、魔王の副官

人狼の魔術師に転生した主人公ヴァイトは、魔王軍第三師団の副師団長。辺境の交易都市を占領し、支配と防衛を任されている。 元人間で今は魔物の彼には、人間の気持ちも魔//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全415部分)
  • 11941 user
  • 最終掲載日:2017/06/30 09:00
蜘蛛ですが、なにか?

勇者と魔王が争い続ける世界。勇者と魔王の壮絶な魔法は、世界を超えてとある高校の教室で爆発してしまう。その爆発で死んでしまった生徒たちは、異世界で転生することにな//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全555部分)
  • 15293 user
  • 最終掲載日:2018/11/25 01:03
本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~

 本が好きで、司書資格を取り、大学図書館への就職が決まっていたのに、大学卒業直後に死んでしまった麗乃。転生したのは、識字率が低くて本が少ない世界の兵士の娘。いく//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全677部分)
  • 15134 user
  • 最終掲載日:2017/03/12 12:18
神達に拾われた男(改訂版)

TVアニメ放送中です! さらに文化放送にて、『神達に拾われた男 田所あずさと桑原由気の異世界スローラジオ』も放送されています。 ●シリーズ累計200万部突破! //

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全239部分)
  • 11137 user
  • 最終掲載日:2020/11/10 16:00
生き残り錬金術師は街で静かに暮らしたい

☆★☆コミカライズ第2弾はじまります! B's-LOG COMIC Vol.91(2020年8月5日)より配信です☆★☆ エンダルジア王国は、「魔の森」のスタン//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全221部分)
  • 11806 user
  • 最終掲載日:2018/12/29 20:00
私、能力は平均値でって言ったよね!

アスカム子爵家長女、アデル・フォン・アスカムは、10歳になったある日、強烈な頭痛と共に全てを思い出した。  自分が以前、栗原海里(くりはらみさと)という名の18//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全496部分)
  • 14614 user
  • 最終掲載日:2020/12/01 00:00
転生して田舎でスローライフをおくりたい

働き過ぎて気付けばトラックにひかれてしまう主人公、伊中雄二。 「あー、こんなに働くんじゃなかった。次はのんびり田舎で暮らすんだ……」そんな雄二の願いが通じたのか//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全501部分)
  • 11292 user
  • 最終掲載日:2020/11/30 11:00
異世界薬局

研究一筋だった日本の若き薬学者は、過労死をして中世ヨーロッパ風異世界に転生してしまう。 高名な宮廷薬師を父に持つ十歳の薬師見習いの少年として転生した彼は、疾患透//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全113部分)
  • 11905 user
  • 最終掲載日:2019/09/16 14:33
フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~

 ゲームをしていたヘタレ男と美少女は、悪質なバグに引っかかって、無一文、鞄すらない初期装備の状態でゲームの世界に飛ばされてしまった。 「どうしよう……?」「ど//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全247部分)
  • 11050 user
  • 最終掲載日:2020/03/28 07:00
くまクマ熊ベアー

アニメ化決定しました。2020年10月放映予定。 クマの着ぐるみを着た女の子が異世界を冒険するお話です。 小説15巻、コミック4巻まで発売中。 学校に行くこ//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全642部分)
  • 10598 user
  • 最終掲載日:2020/12/06 00:00
八男って、それはないでしょう! 

平凡な若手商社員である一宮信吾二十五歳は、明日も仕事だと思いながらベッドに入る。だが、目が覚めるとそこは自宅マンションの寝室ではなくて……。僻地に領地を持つ貧乏//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全206部分)
  • 16074 user
  • 最終掲載日:2020/11/15 00:08