モモンガ冒険譚!!   作:ブンブーン

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誤字報告・感想など誠にありがとうございます。

今日は2話連続投稿する予定です

もう1話は20時に投稿します


第20話 モモンガvs用心棒

ーーーーーー

(なんという幸福…まさかガゼフとの再戦を前にこんな奴と戦える機会に恵まれるとはな)

 

 

洞窟内の薄暗く狭い通路にて青髪の男、ブレイン・アングラウスはそう思った。

 

ブレイン・アングラウスは元々は農夫だったにも関わらず剣の才能に溢れていた彼は腕試しの意味も含めて数年前に王国の御前試合に参加した。周りには自分の同じで各地から腕自慢達が集まっていた。決勝までは殆ど怪我も無く勝ち進むことは出来た。

 

そして、あの男…ガゼフ・ストロノーフと相対した。

 

今でも王国内で語り継がれるほどの大激戦の末、ブレインは敗れた。初めての敗北だった。

 

以降、彼は打倒ガゼフを胸に秘め、力を求めて武者修行に明け暮れる日々を送っていた。普通強さを求めるなら殆どの人が冒険者の道を選ぶのだが、彼はその道を選ばなかった。理由は至極単純、冒険者で積める実戦経験は対モンスターが大半だからだ。彼が求める強さはガゼフを超える強さ…つまり対人戦闘での経験である。

 

その為、人間を斬る機会の多い傭兵団や盗賊団の用心棒として入り、拠点を転々としている。この『死を撒く剣団』もその中の1つに過ぎない。ガゼフより強くなる為にした犯罪などに対する罪悪感などないし後悔もない。

 

 

(ガゼフを倒す為の強さを得るためだ。モモンガ…アンタはそのための礎になってもらう)

 

 

ブレインは刀を鞘へ納め、腰を落とすと柄に手を軽く掛け構えた。極限まで肩の力を抜き、何時でも最高の速度で刀を引き抜けるようにする。意識の全てを抜刀の一点に集中させる。

 

所謂『居合』という構えだ。

 

ブレインは歴戦の猛者すら怯ませる鋭い眼光をモモンガに向けるが、モモンガは微動だにせず右手に握る大剣を地面に向けて立ち尽くすだけだった。

 

 

(コイツ舐めてんのか…?)

 

 

彼はモモンガに対し僅かな苛立ちを覚えた。それと同時に先程から妙な違和感も感じていた。

 

間違い無く奴は強い…それは確かだ。一流ともなれば相手の動きひとつで腕が立つか否かを見極める事が出来るが、モモンガの動きは確かに強者のソレを感じさせる。だが、まだ途上者に良くある何処かぎこちない雰囲気もある。

 

強者の奢り…とはまだ少し違う雰囲気にブレインは困惑していた。説明が難しいが何処か矛盾している。

 

相手がモンスターであれば人間の肉体能力を遥かに超えている為、付け入る隙が生まれる。そこへ鋭い一撃を加えれば倒す事が出来る。ブレインは幾度もそうやって自身より強いモンスターを屠って来たのだ。

 

イマイチ底が見えない相手に警戒していると、モモンガが此方に歩み寄って来た。まるで普通に近づいて挨拶でも交わすかの如く、敵意が全く感じられない歩みだった。

 

自身の心の中にあった矛盾が徐々に消えていく。

あの態度こそ強者特有の奢りなのだと瞬時に理解した。今まで出会った事の無いタイプの相手が、自身の知り得る態度を見せてきた事で安堵と勝機が見えて来た。

 

 

「馬鹿が…!」

 

 

次の瞬間、ブレインは自身のオリジナル《武技》の1つを発動させる。半径3メートル以内にいる全ての気配の把握を可能とするもの。周囲の音、空気も全てを認識し知覚できる。言うなれば攻撃命中率と回避率を上昇させる《武技》だ。これに鍛え抜かれた自身の肉体が合わせる事で更に比類なきチカラを得る。

 

その名も《領域》

 

例え数え切れぬ程の矢が自身に降り注いだとしても彼はその全てを無傷で捌き斬る事が出来る。

 

更により疾く、より鋭く致命的な一撃を相手の急所目掛けて叩き込むもう一つのオリジナル《武技》……《瞬閃》。しかし、ブレインは血の滲む様な鍛錬の末、その《瞬閃》を更に向上進化させる事に成功した。相手に知覚させず、刀身に血の一滴すら残さない。神の如き速さを持つ一撃…《神閃》

 

《領域》と《神閃》。これら2つの《武技》を合わせ一撃はまさに無類の強さを誇る。回避など不可能な一撃必殺。

 

彼はこの技を『秘剣・虎落笛』と名付けている。

 

魔化されていない防具であればその鎧や盾ごと斬り裂く事も可能だが、ブレインはそんなことはしない。彼が求めるのは確実な一撃で相手を仕留める強よさ。

 

ブレインはモモンガを見据える。彼の様に全身を鎧兜で覆われた相手とは何度も戦ったことがある。一見全身守っている様だが当然の如く弱点はある。兜ならスリット、鎧と鎧の繋ぎ目、関節部位、そして…鎧と兜の間、つまり頚部だ。

 

ブレインの狙いはそこを狙った。

 

 

「その構えは知ってるぞ、確か…えっとー…あ、居合だったか?」

 

 

ブレインは少し目を開いて驚いた。

どうやら奴な刀使いと戦った経験があるようだ。ならばこの構えが如何に危険かは承知の上のはずなのに相手は構わず歩き続けた。思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

そして、モモンガはブレインの居合の間合いに入った。その刹那、ブレインは刀を引き抜きモモンガの頸目掛けて、まさに光の如き高速にして渾身の一閃を繰り出した。

 

 

「ちぃえい!!」

 

 

相手は頚部と胴体が分断される悲惨な姿へと変わり果てる…筈だった。

 

 

「あぶな」

 

 

信じられない出来事が今目の前で起きた。

モモンガは自身の頸に向かって来た刃をなんでもないかの様に軽々と摘んで止めたのだ。

 

自身が持つ最強最速の一閃を当然の様に指2本で止めれた事実にブレインはショックを隠せなかった。

 

 

「なっ……ば、ばかな!!?」

 

「これがこの世界の居合か……カウンターのスキルを使うまでもなかったな」

 

 

斬り上げた体勢から動けなかった。自然と呼吸が荒くなる。本能が目の前で起きた出来事を受け止めきれなかった。

 

 

(ど、どうやって…)

 

 

様々な疑問が湧き出てくるが答えが出てくる事はなかった。身体が驚愕のあまり震えているが彼は持ち前の精神力で何とか堪える。

 

ブレインは何とか摘まれた刀を引き抜こうと引っ張るがびくともしない。まるでとてつもない巨木に刀を挟まれたかのような膂力。

 

 

(引いてダメなら……押して突き刺してやる!)

 

 

ブレインは刀の持ち手を変えた。柄を利き手とは逆の手で掴み、利き手の掌底部を刀の頭金に当て力強く踏み込んだ。

 

 

「だぁりゃああ!!!」

 

 

少し地面が割れるほどの踏み込みと鍛え抜かれた強靭な体躯を存分に使った渾身の『突き』だ。

 

 

「嘘だろ……!」

 

 

しかし、それでも刀は微動だにしなかった。

 

モモンガは平然とした様子で刀を摘み続けている。蒼褪めながらもあの兜の中ではどんな顔で自分を見ているのだろう…思わずそんな事を考えてしまう。

 

 

「《武技》を使ってもこの程度か?まさかとは思うが今ので全力……なわけ無い、よな?」

 

「ッ!?」

 

 

呆れと疑問に満ちた声でブレインに問い掛ける。ブレインは何と答えれば良いのか分からなかった。

 

 

「やれやれ、これなら彼女の方がずっと強いな」

 

「か、かの…じょ…?おん、な…?」

 

 

モモンガの脳裏にはクレマンティーヌの姿が浮かんでいた。彼女の今のレベルは50。人化状態のモモンガはレベル91だが純粋な強さとは違う戦士としての経験を積むならコイツより断然彼女の方がずっと良い。悪気は一切無くそう呟いた。

 

興味が無くなったモモンガに対し、ブレインのプライドはズタズタに引き裂かれていた。ガゼフを超え、最強の剣士になる事を目標として続けてきた自分のたゆまぬ努力、鍛錬が無惨に否定されたのだ。

 

相手は自分に対し嘲笑するでもなく馬鹿にするでもない…純粋に興味を抱いていない。まるで道端にある小石程度の認識しか抱いていない。

 

 

「うぉぉおおおぉぉ!!!クソぉぉクソぉぉ!!」

 

 

ブレインは摘まれ微動だにしない刀を怒号を吐き散らしながら抜こうとする。しかし、やはり刀は動かない。剣士として闘うことも出来ない自分の無力さに屈辱を抱く。

 

目尻に涙を浮かべ悲鳴に近い声をあげながらブレインは、摘まれた刀を何とか離そうとモモンガに蹴りや殴打を繰り出し続けた。分かりきっている事だが相手の全身鎧が砕ける事は当然無く、代わりにブレインの手足が血だらけになるだけだ。

 

 

「俺はぁぁ!!努力して…!!努力して…!!強くなったんだ!!強くなったのに…こんな…こんなぁぁぁ!!!!!」

 

 

心からの叫びだった。無様に涙を流すがそんな事を気にかける余裕など既に無かった。口から声を出して…全てを否定したかった。

 

大の男が泣き散らす様は見ていてあまり良いものではない。なんとも微妙な…逆に申し訳ない気持ちになったモモンガは早急終わらせる為、右手に持つグレートソードを持ち上げた。

 

 

(負けて悔しいなんとやら……っにしても泣きすぎじゃないか?煩いし…まぁでも、少し気持ちは分かるかな)

 

 

強さを求めるのは男の浪漫。

彼は健御雷と似たようなタイプなのかも知れないな〜と思った。あの人もたっちさんとのPvPで負けるたびにログアウトして泣いてたって言ってたし…。

 

 

「日頃の行いを改める事だな。それから、その…なんだ…まぁがんばれ」

 

 

モモンガは大剣を振り下ろし、剣の腹部分をブレインの脳天に向け叩き付ける。彼は勢い良く地面にうつ伏せで激突し少し地面に人型の窪みが形成された。

 

 

パキン…!

 

「あ、やば。折れた」

 

 

叩き付けた拍子に摘んでいた彼の刀が見事に折れてしまった。モモンガは咄嗟に謝ろうとしたが、見事なタンコブを生やし気を失っているブレインに届く筈もなかった。

 

 

(さて、一応これはPvPみたいなものだし、彼の装備品類を貰う権利はあるとは思うのだが…)

 

 

モモンガはチラリと背後は目を向ける。

そこには呆然と立ち尽くしているイグヴァルジの姿が映っていた。

 

 

(周りの目があるからなぁー、下手に物色するのは泥棒っぽく見られるかも知れないし。それにー)

 

 

あんな風に泣きじゃる姿を見せられたら装備品を持っていくのはなんだか気が引けてならない。もし目が覚めた時に装備品が無くなってたらこの人はこの場で蹲って泣き続けるのではないだろうか?うん、やっぱりやめよう。

 

 

(でも、刀くらいは何とかしないとな……愛刀だろうし)

 

 

修復(リペア)》で直せる事は可能だが耐久値が大幅に下がるのが難点だ。刀系は耐久値が低い為、下手すると棒切れより脆くなる可能性もある。

 

 

(損傷具合によっては《上位修復(グレーター・リペア)》でも厳しいかもな)

 

 

モモンガは早速《上位修復》を発動させる。光が刀を包み込むと、折れた箇所が徐々に元に戻り始めた。これで修復そのものは出来た。問題は耐久値だ。

 

 

(《上位道具鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム )》……あー、うん。これは…まぁ…ギリギリ…うん、ギリギリセーフだ)

 

 

ちょいと悲惨な耐久数値が出てきたがまだ許容範囲と言えるだろう。でも直した事に変わりはない。この先の人生彼がもっと良い刀に出会う事を祈るとしよう。それも彼が牢から出てからの話にはなると思うが…

 

 

「さてと、怪我はないですか?」

 

「お前……やっぱりとんでもねぇ奴だな」

 

 

イグヴァルジは驚愕とも恐れとも取れる顔でモモンガを見遣った。モモンガは何食わぬ顔をしているが、改めて彼が並々ならぬ実力者なのだと実感出来る。

 

 

(あの男…ブレイン・アングラウスって奴は決して弱くはなかった。寧ろ一国の一軍団にすら匹敵する強さを持っていた筈だ)

 

 

モモンガが規格外過ぎるのだ。

 

とりあえずあの男を縄で縛り上げなければならない為、外に出ていた筈の仲間へ連絡を取る事にした。

 

 

「そういやアイツら来んのが遅ぇな」

 

「あーそういえばそうですね」

 

 

その時、彼は首から掛けていた《伝言》のマジックアイテムが無くなっている事に気付いた。「あれ?」と足元を探すと地面に落ちているのを発見。いつ落ちたのかは不明だが気にはせず、落としたマジックアイテムを拾った。

 

 

《イグヴァルジ!!!イグヴァルジ聞こえるか!!》

 

 

彼がマジックアイテムを拾った途端、只ならぬ声が聞こえてきた。この声はイグヴァルジの仲間の1人からだ。だが、マジックアイテムの残りの一つは鉄級チームに渡している。

 

何故彼らがそれを持っているのかわからないが、イグヴァルジは応答に答えた。

 

 

「どうした?何があった?」

 

《鉄級チームは全滅だ!!まだ息はあるがとても戦える状態じゃない!!俺らも今襲われてる!!》

 

「は、はぁ!?どう言う事だ!?おい、何が起きてる!!」

 

《ば、バケモン…根っこのバケモー》

 

 

ズゥゥゥゥゥゥン!!

 

 

大きな地鳴りが洞窟全体を揺らすと《伝言》は途切れてしまった。

 

 

「お、おい!!おいどうした!!?」

 

 

これは明らかに異常事態だ。

分かっている事は鉄球チームが生きてはいるが全滅。恐らくイグヴァルジのチーム達も壊滅に近い状態だ。

 

血相を変えたイグヴァルジがモモンガに向けて叫んだ。

 

 

「行くぞ、モモンガ!!!」

 

「はい!!!」

 

 

2人は慌てて洞窟の外へと向かった。

ブレインは地面にめり込んだまま放置である。

 

 

 

 

ーーーーーー

2人が慌てて洞窟の外へ出ると真っ先に目に映ったのは巨大な3本の塔だった。何故こんな所に塔があるのか…来た時にはそんなものは無かったと考えはよぎるが、それが塔ではないことに直ぐに気付いた。

 

まるで生き物のように畝っている。

 

アレが鉄球チームとイグヴァルジの仲間達を襲った化け物なのだろう。

 

 

「な、何だよありゃ……!?」

 

 

蒼褪めて驚愕するイグヴァルジだが、モモンガはあの畝る物体に見覚えがあった。大きさこそ桁違いに向こうがデカいがアレはモモンガの拠点にある宝物庫を護る番人、長寿の魔樹(エルダー・トレント)が持つ根っこの触手に酷似している。

 

 

「…まさか魔樹(トレント)?」

 

「馬鹿野郎!!あんな馬鹿でかいトレントがいてたまるかよォ!!!」

 

「イグヴァルジ!!モモンガ!!」

 

 

そこへイグヴァルジの仲間が大慌てでやって来た。無事なようだが所々怪我もしている。更に彼らは動けなくなった鉄級チームを背に抱えていた。重傷なのは彼らだ。しかし、鉄級チームの紅一点であるブリタは大した怪我をしている様子ではなかった。

 

モモンガは急いで重傷な鉄級チームに下級治療薬を振りかけた。傷はみるみる治っていくがまだ意識まで回復していない。

 

 

「これで何とか…あとは彼らを安全な所へ」

 

 

イグヴァルジの仲間達は一先ず洞窟の中へブリタを除く鉄級チーム達を洞窟内へと連れて行った。

 

 

「ったく、ありゃ何なんだ?」

 

 

何かしてくる気配もなく畝るだけの巨大な触手を見上げながらイグヴァルジはブリタに問いた。

 

 

「わ、分かりません…私たちが外で待機している時に突然地面から襲いかかって来たんです。」

 

「…あんなのがいるなんて聞いてねぇぞ?」

 

 

その間、モモンガはあの触手の強さレベルなどを魔法で看破して調べ始めた。その時、驚くべき事が判明した。

 

 

(レベル61…!?)

 

 

この世界で今のところ一番高いレベルだ。それもレベル60以上となれば、モモンガが持つ常時発動型特殊技術(パッシブスキル)の1つ『上位物理無効化Ⅲ』を看破し確実にモモンガにダメージを与える事が出来る。

 

 

(名前は……『魔樹の竜王の触手A、B、C』?ユグドラシルには聞かない名前だな…。む?…状態異常?…《鈍足(スロー)》に《半睡眠(デミ・スリープ)》……なるほど、取り敢えずコイツらは今ー)

 

 

ーー寝惚けている状態だ。

 

この状態はユグドラシルのボスモンスターにもあった。遺跡型ダンジョンの最奥に出て来る、所謂『封印されていた』タイプのヤツだ。目覚めると戦闘開始から5〜10分間はあの触手みたいに《鈍足》《睡眠》《半睡眠》などの状態異常になっている場合が多い。

 

 

(アレも封印されていたタイプという事か?…なら本体がある筈だ。だが、それも見当たらない。触手がここまでデカいとなれば本体も相当なデカさの筈なんだが……)

 

 

周辺を見渡すがそれらしいモノは見当たらない。つまり本体はまた何処か別の所に居るか、もしくはまだ目覚めていないか…そのどちらかだ。

 

 

(個人的はなんとなく後者の気もするが…あ)

 

 

巨大な触手の一本がモモンガ達の居る場所目掛けて倒れてきた。

 

 

「逃げろ!!」

 

 

慌ててモモンガとイグヴァルジ、そしてブリタは左右へ別れ軌道上から逸れた。巨大な触手はまるでなぎ倒れる巨木の様にモモンガが達がいた方向へと倒れた。地面に激突し大きな土煙を巻き上げながら木々を押し潰し、大地を揺らした。

 

 

(アレはまだ寝ぼけてるな……)

 

 

冷静に分析するモモンガに対しブリタとイグヴァルジの焦りようは止まらない。

 

 

「や、ヤベェ!アイツらが…!」

 

 

触手はそのまま傭兵団の塒ごと巻き込んだ。慌ててイグヴァルジがマジックアイテム を使い中に入ったきりの仲間たちに声を掛ける。

 

 

《お、俺たちは何とか無事だ。あの出入り口は使えないだろうけどな…》

 

「そ、そうか…」

 

 

イグヴァルジは安堵の溜息を吐く。洞窟へ入る隠し通路はさっきのなぎ倒れで崩れてしまい使えない。

 

 

《でもこっちよりそっちはどうなんだ?…何とか逃げれそうか?》

 

「逃げるしかねぇけどよ」

 

「で、でも…逃げきれるんですか」

 

「馬鹿野郎、逃げる切るしかねぇだろ!」

 

 

涙目を浮かべるブリタに叱咤するイグヴァルジだがー

 

 

(あ、やばい)

 

 

モモンガだけは気付いた。

触手の状態異常が消えている。

 

 

(デスシーフ達は2人の護衛に付け)

 

((御意))

 

 

召喚者と従者の繋がりを使い彼らに指示を送る。

 

その間にも倒れた触手がゆっくりと起き上がる。

 

 

「イグヴァルジさん、ブリタさん!!」

 

「分かってるって畜生!!」

 

「うううううう嘘でしょーーー!!!???」

 

 

ヤケクソに覚悟を決めるイグヴァルジに泣き散らすブリタ。モモンガは2人を守りながらあの触手のバケモノに勝たねばならなかった。

 

3本の触手の内2本が大きく振りかぶると3人目掛けて袈裟懸けに左右から振り下ろして来た。レベル61程度といえどあの巨軀で迫り来る光景は中々迫力がある。

 

地面へ激突すると最初の倒れるだけの攻撃とは比べるべくもない破壊力だった。地面は大きく抉れ周囲に瓦礫や木が散り散り吹き飛んでいく。

 

イグヴァルジはギリギリの身のこなしで何とか躱したがブリタは慌てて身を屈めていた。食らいはしなかったが衝撃により大きく吹き飛ばされてしまう。

 

 

「キャアアアアーーー!!!」

 

「ブリタ!!」

 

 

イグヴァルジが声を上げるが彼女を助けに向かう余裕は無かった。ブリタは地面へ転がりながら折れた木に激突した。かなりの衝撃だった。

 

 

「ブリタさん、無事ですか!?」

 

 

モモンガは慌てて彼女の元へ駆け寄った。周囲にデスシーフの姿は見当たらない。

実はあの一撃からブリタを守るため、デスシーフは身を呈して衝撃を和らげたのだ。だがそのおかげでデスシーフは消滅…ブリタは何とか生きていたが、鋭利と化した折れた木の一部が彼女の脇腹を貫通していたのだ。

 

 

「不味いな…」

 

 

モモンガは慌てて下級治療薬を取り出そうとするが、ブリタがその手を止めた。

 

 

「それは……貴方のために…取っておいて…くだ、さい…」

 

 

ブリタが苦し紛れにそう言葉を搾り出すと、大声を上げながら脇腹を貫いていた枝を引き抜いた。傷口からは止めどなく血が溢れ出てくるが、彼女は懐からモモンガのと同じ赤いポーションを取り出すと自身の傷口に掛けた。

 

風穴の空いた傷口がみるみる塞がっていく。

 

 

「ほら…ね?…貴方に救われました…ハハハ」

 

 

傷は治ったが顔色は悪い。体力の消耗も大きそうだ。これでは暫くマトモに動けそうにない。モモンガは羽織っていた真紅のマントを外しそれを彼女の体に掛けた。

 

 

「え?」

 

「そのマントはマジックアイテムです。多少の攻撃なら通しません…でも、アレが相手となると少々心許ないですが、無いよりはマシかと」

 

 

そう伝えるとモモンガは、ブリタに背を向けて2本のグレートソードを構えた。その背後姿のなんと頼もしい事か。さっきの言動も含めブリタは非常事態にも関わらず胸をときめかずにはいられなかった。

 

 

「え、あ、あのぉ…!コレがないと貴方が…!」

 

 

ブリタは我に返り、役立たずの自分よりもまだ戦える彼が持つべきだと訴えようとした。しかし、彼は此方に少し顔を向けるだけで答えた。

 

 

「私は大丈夫ですよ!」

 

 

それだけ伝えると彼はあの化け物触手達の元へと駆け出して行った。

 

 

「凄い……」

 

 

気が付けばそう呟いていた。アレこそが英雄譚に出てくる様な…理想的な英雄の姿なのだと思った。恐らく殆どの女性は彼の様な男を求めるのだろうが、自分みたいな田舎村出身で弱い女性に彼は惹かれないだろう。

 

それでも自分の中の『女』が彼に惹かれている。

 

 

(こんな時にこんな事を考えるなんて…私って馬鹿みたい)

 

 

ブリタは首を左右に振り自身の気持ちを落ち着かせる。そして、彼に掛けてもらった真紅のマントを握り締めながら彼の無事と勝利を祈った。

 




今年も残り僅か…早いもんですな

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