日本人の強さの秘密「ファクターX」カギは“加湿”ともう2つ

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 新型コロナウイルスの国内感染者数が連日2000人を超えていて、過去最多を更新する都道府県も相次いでいる。コロナ禍のピンチは深刻さを増しているが、感染者数世界最多の米国などから見ると、ケタが2つ異なる。そんな中、マスクの効果が見直されるなど光が見えつつあるのも事実だ。新型コロナ第3波から身を守るべく、具体的な対策をまとめた。

 注目は、米疾病対策センター(CDC)の報告だ。ある美容室で2人の美容師が新型コロナの陽性と確認されるまでの数日間、合計139人を接客。客は2人と15分以上会話していて濃厚接触者と定義されたものの、感染者は1人もいなかった。美容師2人はもちろん、139人の客全員がマスクを着用していたという。


 そのことを重く見たCDCは報告書にこう書いている。新型コロナウイルスの感染拡大を遅らせる手段として、社会全体でマスクなどで顔を覆うことの重要性が強調される――。

 そんなマスクの効果を裏付けた研究が、東大医科研の河岡義裕教授(ウイルス学)らのグループによる実験だ。グループは、本物の新型コロナウイルスとマネキン2体を使って、マスクの種類によってウイルスの吸い込み量の違いをチェックしている。

■免疫学者がたどり着いた推論

 マスクは、医療現場で使われる「N95マスク」「不織布マスク」「布マスク」の3種類で、感染者に見立てたマネキンはウイルスを吐き出し、非感染者仕様のマネキンはウイルスを吸い込む設定だ。

 どちらか一方がマスクを着け、もう一方がマスクを着けずに実験したところ、感染者のマネキンがマスクを着けた場合、着けなかった場合と比較して、「N95マスク」だと非感染者の吸い込み量は100%抑えられた。「不織布マスク」か「布マスク」だと、60~80%カットされたという。

 非感染者がマスクを着けた場合は、着けなかった場合に比べて「布マスク」で60~80%、「不織布マスク」で50%、「N95マスク」で10~20%にまで抑えられた。

 両方が「布マスク」を着けると、着けない時に比べて30%程度、「不織布マスク」で20~30%程度だったという。「布マスク」同士で、両方着けなかった時に比べて吸い込むウイルス量が7割も抑えられるのは意外だろう。この結果を踏まえると、米国の美容室で感染者がゼロだったこともうなずける。

 東京医科歯科大名誉教授の藤田紘一郎氏(感染免疫学)が言う。

「これからの時季、マスクの効果として注目したいのは、飛沫の飛散や拡散の防止というだけでなく、喉の保湿です。マスクを着けることで、喉の乾燥を防ぐと、繊毛の働きでウイルスや細菌が排除されますから」

 藤田氏が着目するのが、米メリーランド大の研究グループの報告だ。グループは今年1~3月の間、世界50都市で新型コロナの拡大状況と季節性を分析。このうち感染が拡大した8つの都市では、2カ月の平均気温が5~11度で、かつ空気の乾燥を示す絶対湿度が4~7グラム/立方メートルで一致していたという。

 今の気象条件に当てはめると、東北や北陸の一部。東京や大阪の周辺は12月以降の状況だ。要は寒くて低湿度の状態がコロナ感染にとってもよくないということ。今後、日本列島は沖縄や伊豆諸島などを除いて、メリーランド大が突き止めた気象条件に広く覆われるだけに要注意だ。

 欧米の研究者は、3月から4月にかけて第1波が広がる中、日本の感染者数が突出していないことに触れ、「ファクターX(未知の何か)」に思いを巡らせた。当初、マスクについては世界的に半信半疑だったが、WHOは6月、「マスクは発症前の人から感染するリスクを減らす」と利点を強調している。

 藤田氏は「『ファクターX』をひもとくカギが、加湿ではないか」というのだ。どういうことか。厄介な冬を乗り切るヒントと併せて聞いた。

42度20分の入浴で免疫細胞が活性化する

 新型コロナが流行する前から、日本では、風邪やインフルが広がるとマスク姿が目立つ。

 冬にマスクをするのは今や当たり前だ。それで、喉の保湿ができるのは前述した通り。日本ならではの保湿事情がもう一つあるという。

「入浴です。世界的に毎日の入浴が定着しているのは日本くらいです。しっかりと体を温めることで保湿ができるのに加えて、外敵から身を守る免疫細胞の活性がアップします」

 免疫には、細菌やウイルスの“初期消火”に当たる自然免疫と自然免疫から漏れた特定の細胞を攻撃する獲得免疫に分かれる。入浴で体温を1度上げると、自然免疫の活性が3~5倍上昇するという。

「新型コロナに対応する免疫は、特に自然免疫が重要です。日本の入浴文化は、新型コロナ予防の点でも役立っています。41~42度のお湯に10~20分かけてじっくりと温まるのがベターです」

一汁三菜。ワカメや昆布などを

 食事の時には、水やコーヒーなどの飲み物のほか、汁物を取る。それはどこの国でもそうだろうが、とりわけ日本は汁物が充実していて、コロナ対策にもなっているという。

「和食の基本は一汁三菜で、ご飯と汁物に3つのおかずを組み合わせています。朝に晩に味噌汁を取ることは珍しくありません。それで、喉を保湿できる。味噌汁の味噌やご飯の供の納豆や漬物は発酵食品で、腸内細菌を善玉菌優位にしてくれます。さらには、海苔をはじめとする海藻を分解できる特別な腸内細菌の存在です。その腸内細菌は、免疫細胞が適正に働くという重要な役割を担っていることも分かりました。つまり、毎日ワカメの味噌汁やヒジキなどと一緒に朝食を取れば、喉を保湿しながら、免疫細胞にカツを入れられる可能性があるのです」

 汁物はどの国にもあるが、この働きは見逃せない。時間がない人もサンドイッチとコーヒーの欧米型の朝食より、牛丼チェーンなどで朝定食をチョイスするのが無難か。

 ストレートに室内を加湿する手もある。が、加湿し過ぎて窓に結露ができるほどだと、カビや細菌が増殖し、別の病気を招く恐れが高くなる。

「部屋に洗濯物やタオルを干したり、観葉植物を置いて水をやったりすれば十分保湿できます」

 3密対策や換気などはもちろん欠かせない。ほかに「ファクターX」の要因が、日本人の生活の中にあるとすれば、風呂と食事の可能性が大きいという。あなたの生活に「ファクターX」があるか。一度見直してみるといい。

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