家族が新型コロナウイルスに感染したために休む場合も、休業手当を受け取れますか?

パートで遭遇するさまざまなトラブル・・・。あなたの疑問に社労士がお答えします。

<質問>
夫が新型コロナウイルスに感染して、宿泊療養施設に入院しました。私は、PCR検査で「陰性」と診断されましたが、勤務先には「家族にウイルス感染者がいる者の出社を禁止する」という規則があるため、休むことになりました。

勤務先に問い合わせところ、「原則として年次有給休暇を使って休んでもらうが、休暇を使いたくない人や休暇が残っていない人は、欠勤扱いになる」と言われました。

年次有給休暇は使いたくないのですが、欠勤となって給料がもらえなくなってしまうのも困ります。こういう場合は、どうすればよいのでしょうか?

休業手当を受け取れます

<回答>
新型コロナウイルスに感染した家族を持つ従業員に対して、会社が就業しないように指示した場合、その従業員は平均賃金の60%以上の休業手当を受け取ることができます。

従業員が申請すれば、休業とはせずに年次有給休暇を取得して休むこともできますが、会社がそれを強制することはできません。ですから、今回のケースのように、「年次有給休暇を使って休むように」という会社の指示は、法的には認められません。

ご質問のケースでは、従業員から勤務先に休業手当の支払いを請求してみてください。

家族が感染したことにより休む場合も、休業手当を受け取ることができる

新型コロナウイルスの感染が広がっています。読者のまわりにもウイルスに感染した人がいらっしゃるかもしれません。

同居している家族が新型コロナウイルスに感染すると、濃厚接触者である家族に対してもPCR検査が実施されます。そして、PCR検査の結果が陰性だったとしても、原則として14日間は、保健所から自宅待機するように求められます。

ほとんどの会社は、保健所から自宅待機が指示された期間については、従業員の出社を禁止します。
そして、会社が出社を禁止した期間は、「働ける状態にある従業員の出社を禁止したのは、あくまでも会社の判断であるから、休んだ日は『使用者の責に帰すべき事由による休業』に該当し、会社は、労働基準法第26条に定める休業手当を従業員に支払わなければならない」とされています。

ご質問のケースについては、勤務先は、自宅待機の日を(欠勤ではなく)休業日として取り扱い、1日分の賃金の60%以上に相当する「休業手当」を支払わなければなりません。ですから、質問者は、「出社できなかった日については休業手当を支払ってください」と勤務先に請求してみてください。(なお、休業手当の請求は、正社員だけではなく、パートタイマーやアルバイトもできます。)

ちなみに、従業員自身が新型コロナウイルスに感染していることが判明した場合、その従業員は、法令により就業禁止となります。この場合、使用者の責による休業ではなくなるため、従業員は休業手当を受け取ることはできません。(この期間は、休業手当ではなく、健康保険から「傷病手当金」を受け取ることができます。)

年次有給休暇とする場合は、従業員本人から申請することが必要となる

平均賃金の60%に相当する休業手当が支払われるということは、裏を返せば「休業日は賃金の40%が減額される」ということになります。ですから、従業員の中には「休業ではなく、自分の年次有給休暇を使って休みたい」という人もいるでしょう。

このような年次有給休暇の取得は、従業員本人が申請したものであれば、原則として認められます。

ただし、会社が、休業する従業員に対して年次有給休暇を取得するように強制することは、法的には認められていません。したがって、会社から年次有給休暇を使って休むように指示されても、従業員は、それを拒否することができます。

逆の見方をすれば、休業日の年次有給休暇への振り替えは、会社が勝手に行うことができませんから、それを希望する従業員は、自分から会社に申請することが必要です。

家族が感染した場合は、勤務先に必ず届け出ること

家族が新型コロナウイルスに感染しても、「職場にばれると働けなくなってしまう」などの理由で、勤務先にはそのことを報告したくないという人がいるかもしれません。しかし、万が一、その勤務先で新型コロナウイルスの感染が広がった場合、家族の感染を報告しなかった従業員は、会社から厳しい処分を受けることになりかねません。

ですから、家族が感染した場合は、(自分が感染しているかどうかにかかわらず)勤務先に必ず届け出て、その指示に従うようにしましょう。

新型コロナウイルスの影響は、まだ続きそうです。
自分が感染したとき、家族が感染したとき、職場内で感染が広がっているときなど、様々な状況における対応を、日ごろから考えておくようにしてください。

なお、厚生労働省のホームページには、「新型コロナウイルスの感染が疑われる人がいる場合の家庭内での注意事項」が公開されています。家族が新型コロナウイルスに感染したときの対応は、ここに掲載されている情報も参考にしてください。

■新型コロナウイルスの感染が疑われる人がいる場合の家庭内での注意事項(日本環境感染学会とりまとめ)厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00009.html

社労士

深瀬勝範(ふかせ かつのり)

Fフロンティア株式会社代表取締役。社会保険労務士。1962年神奈川県生まれ。一橋大卒。大手電機メーカー、金融機関系コンサルティング会社、大手情報サービス会社を経て、独立。企業・公共団体の人事制度設計や事業計画の策定等のコンサルティング、人事労務専門誌などに寄稿も行っている。著書に「労政時報別冊 実践人事デ-タ活用術」(労務行政)。